大黒屋光太夫 上

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620106656

作品紹介・あらすじ

若き水主・磯吉の人間臭さのにじみ出た生々しい陳述記録をもとに紡ぎだされた、まったく新しい光太夫たちの漂流譚。絶望的な状況下にも希望を捨てず、ひたむきに戦いつづけた男の感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 司馬遼太郎さんの「菜の花の沖」の後に読んだので、時代背景や船の用語がまだ頭に残っており、スムーズに読了。船の難破、水・食糧不足、たどり着いた島での見知らぬ種族との交渉、極寒のロシアでの長距離移動、、、あらゆる艱難辛苦に耐えながらも、光太夫らは望みを捨てず、日本への帰国を模索し続ける。一方ロシアは、日本との接触を目論み数年前から日本人漂流者を厚く保護し残留させようとする。光太夫らはどのように故郷を目指すのか。下巻が楽しみ。

  • 困った時の吉村先生。『漂流』『破船』に続き手に取った漂流物。教科書で名前は見た時ある大黒屋光太夫の漂流を題材にした小説。

    江戸時代後期、天明2年。伊勢国白子浦から江戸に向けて出帆した船が7ヶ月も流され、アリューシャン・オホーツク・イルクーツクに至るまでの上巻。

    海上遭難の絶望。食糧や水が乏しくなる地獄。想像しきれないほどの寒さ。死んだほうが幸福と思いたくなる状況に、船親父の三五郎と主人公である光太夫は責任感で仲間達を気遣う。並大抵の精神力ではない。

    ロシア人や現地住民の優しさや素朴さに胸が打たれる。

    読んでいる現在、ロシアがウクライナに侵攻し残虐非道な市民虐殺が行われている。一方でロシア国内でデモも行われたという(最近は聞かないが)
    個人としてのロシア人の優しさ・愛情・友好的な姿に光太夫達が助けられる一方、国益として利用とする姿がチラと覗く場面では、現在の状況と重なる部分がある。

    故郷に帰れる保証はなく、その地で愛する人ができてしまったら、自分はどうするだろうか?

  • いや、もう楽しくって。おろしや国酔夢譚も読んだね。

  • 船が難破したときに状況。土地に漂流してからの、その極寒の地の描写。仲間が次々死んでいく中で、光太夫が残って行くのは、精神力なのか。光太夫を日本に送り届けるロシアの思惑が幕末の動乱へと結びついていく後半は、桜田門外の変、生麦事件を読みたくさせるプロローグでもある。

  • 史実に忠実な冒険物語

  • 伊勢国白子浦(現・三重県鈴鹿市白子町)
    廻船「神昌丸」の沖船頭
    大黒屋光太夫(32)

    [1782.12.13]江戸へ向かう途中嵐に会い漂流
    [1783.7]水主・磯八(43)死
      アリューシャン列島のアムチトカ島に漂着。
      ※黒い鳥の皮衣、髪は両頬に長くたらす、鼻の両側&下唇から白い角が4本(装飾)
    [1783.8]船親父・三五郎(66)死、船表賄方・次郎兵衛死
    [1783.10]安五郎死、上乗り・作次郎死
    [1783.12]清七死、長次郎死
    [1784.9]藤助(25)死
      ロシアの商人(生活必需品)×島民(ラッコ毛皮)
    [1787.7~8]アムチトカ島→カムチャツカ島へ出発
      ※獣類を食べるのは鬼にも等しい!!牛の乳も同様
    [1788.4~5]与惣松死、勘太郎死、藤吉(24)死・・・歯茎がはれて黒ずんで血が出る
      ※バキリチイ、チェブチャ、鮭
    [1788.6]カムチャツカ西方海岸チギリへ出発
    [1788.8.1~8晦日]チギリ→オホーツクへ出発
    [1788.9.12~11.9]オホーツク→ヤクーツクへ出発
    [1788.12.13~1789.2.7]ヤクーツク→イルクーツクへ出発
      庄蔵、足を切断
      帰国の嘆願書をイルクーツク省長官へ提出

  • ロシアを横断した。

  • 仲々頼んだ本が回って来ないので図書館の書棚を見ていると背表紙に「大黒屋光太夫」の文字が。確か以前まろさんが、鈴鹿の偉人として紹介してくれた人の事だ、と思いだし、借り出して来た。こちらはまず上巻、此処の処、本を読むスピードも増して来たので、他のも多分読み切れるだろう。

  • 同じテーマで井上靖が『おろしや国酔夢譚』を書いている。覚えてくれていれば僕はかつて一度その紹介をしたことがある。十八世紀末の日本、紀州沖から出帆した商船が嵐に遭遇、マストと舵を失い漂流した船はアリューシャン列島へ。ロシア人に保護されシベリアへ。ひとりふたりと仲間を失いながらも船長光太夫の帰国への希望は絶えず、当時のロシア女帝エカテリーナに接見、その許可を貰い、ラクスマンと共に根室の地を踏んだとき十七人いた乗組員はわずか三人に、というのがそのあらすじ。当然同じ素材を使っているのだから、井上版との違いが気になるが、これについては毎日新聞に書評がある(http://www.mainichi.co.jp/life/dokusho/2003/0406/03.html)のでそちらを参照して欲しい。僕はどちらが好きかと言えば、はっきり井上版といえる。光太夫が井上版の方で一層学者、もっというと言語学者だからだ。吉村は光太夫が全く未知の言語、ロシア語をいかにして学ぶかというおおよそ言語を学ぶものなら誰にとっても興味深い局面をあっさりと書きながしてしまう。ラクスマンの父に協力して日本の植物についてのすべての知識をロシアに残す光太夫についてはいっさい触れない。情熱や人情という点で一歩も二歩も描写に欠ける吉村版光太夫、さらに知識への愛情も欠けていては勝ち目なし。これじゃ危機管理能力に長ける有能上司と同じじゃないか。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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