11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

  • ハーパーコリンズ・ ジャパン
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596541222

感想・レビュー・書評

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  • フランク・ギドリーはニュー・オリンズを牛耳るマフィアのボス、カルロス・マルチェロの組織の幹部。一九六三年、カルロス・マルチェロとくれば、ケネディ暗殺事件がからんでくる。ジェイムズ・エルロイの「アンダーワールドU.S.Aシリーズ」でお馴染みの名前だ。オズワルドではない真の狙撃手の逃走用の車、スカイブルーのキャデラック・エルドラドをダラスの現場近くまで運んだのがギドリーだった。

    暗殺事件が起きるまで、ギドリーは何も知らされていなかった。関係者が次々と殺される中、ギドリーは自分も消されようとしていることに気づく。ダラスでエルドラドを始末したその足でバスに乗り、行方をくらます。車を手に入れ、ラスヴェガスの犯罪組織のボス、ビッグ・エド・ツィンゲルを頼って西に向かう。テキサス州グッドナイトでカルロスの息がかかった保安官に逮捕されるが、持ち前の機転を利かして辛くも難を逃れる。 

    同じ頃、オクラホマのシャーロットは<Don't think twice, it's all right>の歌に誘われるように子ども二人を連れて家を出ようとしていた。酒飲みの亭主との生活に疲れ、自分と二人の娘の新しい生活を夢見ていた。夫が飲みに出かけたすきに荷物をまとめ、ロサンジェルスの叔母を頼って車で出かける。途中で事故を起こして車を修理中、モーテルでフランクと出会う。ギドリーは、自分の情報がばら撒かれていると知り、シャーロットに近づき、家族連れを装うことに成功する。

    カルロスに雇われ、フランクを追う殺し屋がポール・バローネ。ケネディ暗殺の秘密を知る者を次々と手にかけてゆくが、手に深手を負う。傷口を縫ったメキシコ人医者のせいで感染症に罹り、ハンドルが握れないバローネは街角で拾った黒人の少年に車を運転させる。高熱で気絶したバローネのために医者を呼ぶのもセオドアだ。非情の殺し屋とぶっきら棒な黒人少年の取り合わせが、いい味を出している。

    逃げる者と追う者、巻き込まれる女、三者三様の思惑が縒りあわされるように一つの物語を構成している。クライム・ノヴェルとしては、二人の腹の探り合い、相手を如何に出し抜き先手を取るか、という暗闘が見せ場。直接対決は最後にあるが、意外な幕切れに終わる。それよりも、この手の小説には珍しく、恋愛に重点が置かれていることだ。女など何人も相手にしてきた暗黒街の男がオクラホマから出てきた主婦にここまで入れあげるとは。

    鍵は二人の交わす会話にある。夫の前では自分を見失っていたシャーロットが、フランク相手だと実に生き生きと会話をこなす。フランクは外見より、この当意即妙の会話に引きつけられているふしがある。それに、ジョアンとローズマリー姉妹の存在が大きい。フランクには、少年時代、父親の暴力から生き延びるために、仲のよかった妹を見捨てて家を出た過去があった。フランクにとって二人は妹の替わりだ。彼は姉妹をグランド・キャニオンに連れてゆく。

    いくら豪華な家に住み、金と女に不自由しない暮らしをしていても所詮は裏稼業。頭が切れ、人扱いに優れていても、ボスがマフィアでは禄でもない仕事を回される。しかもこの世界に裏切りはつきもので、一数先は闇。作中、ダンテの『神曲』と聖書の引用がやたらと出てくるが、これはフランクの日常が地獄めぐりであることの隠喩である。運命的に出会ったシャーロットこそはフランクのベアトリーチェなのだ。

    シャーロットは、前夫の悔悛の電話や、叔母の迷惑そうな口調に心揺れるが、その都度前を向いて進む道をとる。彼女の視点でこの小説を読めば、狭い田舎で若くして身ごもり、世間の口を怖れて結婚生活に逃げ込んだ女が、自分のアイデンティティを取り戻すための戦いを記すストーリーなのだ。シャーロットにべた惚れのフランクは、エドが手配してくれたヴェトナム行きにシャーロットと娘たちを誘う。シャーロットの心は揺れる。

    バローネという刺客が担当するパートが最もノワール色が濃い。人を殺すことなど何とも思っていない。手で触れたものが金になる王のように、この男の手にかかると人は死体に変わる。バローネに人間らしさを感じさせるのが、黒人の少年セオドアとのやり取り。その間だけ人間的に見える。もう一つ死神が人間らしさを感じさせるのが感染症による高熱との戦い。立っているのが不思議なくらいの状態でじりじりと相手を追い詰めていく、その凄み。

    それぞれの世界で自分の生き方を貫こうとして必死に生きる三人の姿が鮮烈に目を射る。フランクは無事アメリカを脱出できるのか。バローネがその前にフランクを仕留めるのか。シャーロットは本当にフランクと生きるのか。最後の最後まで事態はもつれにもつれる。まるでメロドラマのような展開にハラハラドキドキさせられること請け合い。

    原題は<November Road>。異なる世界に生きる男と女が、それぞれの理由で今いる世界から逃げ出す。その路上で偶然に邂逅し、行動をともにするうちに、まるで運命のように恋に落ちる。その恋の顛末を描く、ラブ・ストーリーであり、追う者と追われる者の相剋を描いたクライム・ノヴェルであり、歴としたロード・ノヴェルでもある。『11月に去りし者』という表題は、この小説には寂しすぎる。『十一月の道』ではいけなかったのだろうか。

  • 「ガットショット・ストレート」を
    読んでからの二作目
    直前に読んだ「キャサリン・ダンス」にも出てきた「雨が降れば、土砂降り」と言う言葉がこちらの話にも出てきた…謎

    舞台は1963年
    ボスのある秘密に気づき追われる身となった
    マフィアの幹部ギドリー

    それを追う同じマフィアの幹部(殺し屋)バローネ

    そして、全く関係のない。ダメな夫に別れを告げ、子供二人と犬をつれて新しい生活探しの旅をする主婦シャーロット

    三者が交差する。

    前作にもあった「追う」「追われる」の読み合いの面白さアリ
    他のマフィアのボスや殺し屋と行動を共にすることになる黒人の少年とのやり取りとか、会話が楽しい。

    表紙は読んだ私は納得できるのだけれど、全体的に暗くタイトルもあってか読む前の印象は暗い話なのかと思っていた。
    そんなことはなく、前向きな変化に向かって人生を転がそうとしてる人物達が生き生きとしていてよかった。見た目で損してる気がする。

    なんとか私も、11月中に読めた…

  • ミステリだけど、ちょっと変わった筋立てで展開も意外でおもしろかった。こういうのあんまり読んだことないかも!、と思いながら読んだ。

    ケネディ大統領の暗殺に知らず加担していたマフィア幹部ギドリーが、知りすぎた自分は殺されると気づいて逃亡する途中に、新しい人生をはじめようと幼い娘たちを連れて家出したシャーロットに出会って、っていう話だけど、そこからふたりが恋に落ちて急にロマンスものみたいになるし、ラストで意外な人が意外な行動に出て驚いたし、結末も最初に予想したような感じにはならないし、すべてが意外。先が気になるし、テンポがよくて、なんだかあったいう間に読めた感じなんだけど、もっと細々長々読みたかったっていう気がする。ギドリーの育ちから生き別れた妹の話とか、シャーロットの思いとか、少年少女を家に住まわせているマフィアのエド、運転手のレオとかとか、登場人物ひとりひとりもっと深く書いててくれてもすごくおもしろそうだったのに、と。
    エピローグがとてもよかった。(だけに、やっぱりもっともっとたくさん読みたかったな、と。)(しつこい)

  • 面白かった。
    歴史的大事件との関係や家族との交わりがどうなっていくのか、二人の結末はどうなるのか。
    飽きさせない文章でスムースに読めた。

  • ギドリーはマフィアの幹部、ケネディ暗殺の実行犯に逃走用の車を、それと知らずに用意した。
    口封じを恐れての逃避行。
    追う殺し屋、途中で一緒になる女性と、その娘達。
    次々と読者の思いを裏切る展開、読み出すと止まらない。

    シャーロットの決断は見事。
    殺し屋は、とりあえず結果的に仕事を達成出来た。
    ギドリー、あれしか選択肢は無かったのか?

    どうせ死ぬなら、カルロスとセラフィーヌを撃ち殺すとかすれば良いのに。

  • 海外小説数々読んできましたが、この手のストーリーは初めてかも。ケネディ暗殺が土台、そこから一気に惹きつけられました。女性と幼い娘二人との逃避行、実に絵になります。映画で見たくなるほどで、配役すら想像しました。百戦錬磨そうなのに、フランクあっけなくのめり込みすぎ、とは思いましたが、シャーロットの魅力が光りました。冷酷な殺し屋バローネ、フランク以上に印象に残ったかも。ラストは切ないですね。マディソン郡の橋を思い出しちゃってきゅーんとしました。

  • どストライクですわ。

  • 犯罪組織の幹部のギドリーが、ケネディ暗殺に関わる仕事をしたことを悟り、追っ手から逃れる途中で、二人の女の子を連れた訳あり女性シャーロットと出会って・・というあらすじです。物語が展開していくにつれて、徐々に変化していくギドリー、シャーロットの心境は、それぞれの人生を大きく変えるのか、あるいは、といった点が印象に残りました。また、ストーリーは意外性があって面白く、ハラハラドキドキしながら読んでいました。読後感は色々な意味で切なかったです。

  • 1963年ケネディ大統領暗殺に知らないうちに関わっていたことに気づいたギドリーの逃走劇と夫から逃げるシャーロットとその娘2人。そしてギドリーを追う殺し屋。シャーロットたちとの出会い。犯罪組織で生きてきたギドリーが触れる優しさや温かみ。そこから生じる変化。一緒に進むのか離れるのか。それぞれの感情ひとつひとつがとてもいい。不器用で、でも子供たちに見せる顔は穏やかで優しい。とても好みの作品。

  • 殺し屋に追われる悪党ギドリーと家族を連れ戻そうと酒癖の悪い夫から逃げ出した母シャーロットとの逃走シーンがこの小説の展開の面白いところだ。双方に身元を明かさずいるが暫くすると悪党に情が芽生え、家族を母親を守ろうと動き始める。その逃走の中での言葉「これから出会うのは新しいことばかりだ。ここからずっと、どこへ行っても。新しいものは古いものよりずっといいかもしれない。その時になるまでわからないんだ」それは、新しいものが必ずしても良いとは限らない、だが経験しないことには誰にもそれを判断できない、と言うことだ。力強い母の情熱と新たな挑戦は子供二人の将来を見通し人生を賭けたのだ。

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