兵站――重要なのに軽んじられる宿命

著者 :
  • 扶桑社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594085674

作品紹介・あらすじ

戦争の本質のひとつは「兵站をめぐる攻防」である。攻撃する側は「相手の策源地や兵站拠点を破壊し、兵站連絡線となるシーレーンや鉄道・道路(とくに橋梁)の切断を追求すること」に尽き、守る側は「相手の攻撃から策源地や兵站拠点を防御し、兵站連絡線となるシーレーンや鉄道・道路(とくに橋梁)の切断を阻止すること」に尽きる。また、兵站をめぐる攻防においては、戦う双方が「攻撃する側」にも「守る側」にもなっている。
戦史や戦争の分析を読むと、勝負を決した主原因としてよく挙げられるのが「兵站」――「へいたん」と読む――である。
しかしながら不可思議なのは、いにしえから「兵站」は重要視されてきたのに、実際の戦いではなぜか繰り返し軽んじられ、多くの兵士が尊い命を落としている……それはなぜなのか? 
本書ではまず兵站とはどういうことなのか、小学生の遠足と旧約聖書『出エジプト記』を例にわかりやすく解説する。その後本書を読み進めるうえでの羅針盤となる「カギ」を六つ――「兵站を心臓・血管・血液・細胞などの譬えで説明する」「内線作戦と外線作戦」「マハンのシーパワーの戦略理論と兵站」「ケネス・ボールディングの『力(戦力)の逓減理論』」「作戦正面の長さ・面積と兵站の関係」「地政学と兵站」――示して、各論へと進む。
各論で採りあげた戦役は北アフリカ戦線、バルバロッサ作戦、タンネンベルクの戦い、ミッドウェー海戦、ガダルカナル島の戦い、インパール作戦、日露戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争等である。
本書を読めば、「兵站」について、情報、作戦、実戦、それぞれの面できっちり理解できる。これまで「兵站」を主テーマにした一般書がなかったなか、決定版の登場である。

感想・レビュー・書評

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  • 元自衛隊の陸将である著者が書いた「兵站」に関する本ということで興味深く読ませていただいた。

    兵站とは、武器弾薬をはじめ、数々の戦争必需品等を補給する方法やその補給路を確保することである。

    さすが自衛官が書いた本ということで、現在の日本が世界的にどのような立ち位置にあるかということが如実に示されている書物であった。

    日本はアメリカにとっての「浮沈空母」であり、アメリカ軍が極東の中国、ロシア、北朝鮮に対応するための軍事基地(補給基地)であるということがよく示されている。

    また、ロシアにおけるシベリア鉄道は極東への補給路としての役割が第一であることなど、目から鱗落ちる思いであった。

    本書のなかでは過去の戦争もいくつか描かれているが、やはり、第二次世界大戦における旧日本軍の「兵站」を完全に無視し、いたずらに兵員を消耗させた戦略は批判の対象とされている。
    第二次大戦中の太平洋戦闘地区では日本軍は多くの犠牲をだしたが、それは現場における兵士に対して補給がほとんどなかったからである。旧日本軍の兵士たちは、敵に撃たれて死ぬのではなく、餓死したり、病死したりするほうが圧倒的に多かったのだ。

    一方、アメリカ軍は補給は万全で、餓死するなど考えもできないような環境で戦うことができた。
    この旧日本軍とアメリカ軍の状況の差をみるともはや戦争とも言えない状況である。

    非常に興味深い本書であったが、一つ気になったのは参考文献(というか本書が参照しているのは多くがネット情報)が非常に弱いことである。

    特に独ソ戦についての考察などは、ウィキペディアを参照するなど、このような書物としてはいかがなものか?
    独ソ戦については、大木毅先生の『独ソ戦』(岩波書店)などのような非常に学術的にも価値の高い日本語の書物があるのだから、こういった良書を参考文献として引用すべきであると思う。

  • 2022/04/01 amazon 600

  • 積読解消!
    軍事の話は槍の先(戦闘部隊)や頭(戦略・作戦司令部)が真っ先に思い浮かぶ。
    本書は戦闘部隊が戦闘を行う為に必要になる物資やその輸送の話だ。
    旧日本軍やアメリカ軍を例題にして兵站の重要性を説く。この縁の下の力持ちがいればこそ槍の先が動けるのだ。

  • 元陸将である著者が、過去の戦役を事例にあげながら、ランドパワー・シーパワーといった地政学的視点を交えつつ、兵站について論考する本。
    兵站という比較的ユニークなテーマを扱う入門書である。

    どういった部分に補給の無理が見られたか、どのように兵站を維持するのか、という戦争の事例研究としては面白かった。

    一方で文章としては読みやすいとは言えず、あまり粒度の揃っていない情報の羅列や、話の脱線、妙に多いカッコ書きの補足、wikipediaやweb記事からの引用など、データ的に裏が取られているのか疑問に思う点も多い。

  • 兵站について、これまでは後方支援能力と理解していたが、その実は地政学と深い関わりのあるものであることが新たな視点となった。

    以下、ポイントを記す。
    「日露戦争の勝利に関しては、日露戦争当時の陸軍参謀本部や海軍軍令部中枢の高級軍人たちは、情報と兵站の重要性を深く理解・認識していた点も注目に値する。」
    「兵站は戦勝にとって『必要条件』ではあるが、『十分条件』ではない」ということだ。即ち、「兵站が不十分な戦争は敗れる」が、「兵站が十分であれば必ず勝てる」というものではないのだ。
    もうひとつ重要な戦いの本質、それは意思決定の問題である。兵站上は「極めて困難・不可能」という常識レベルの評価があるにもがかかわらず、ブレーキがかからず無謀な戦争に突入する愚をなぜ犯すのかという疑問、その理由は~「優柔不断な八方美人が出世し、トップになるから」~。

  • 大上段に構えた割に兵站以外の話が思いの外多いな

  • テーマがテーマなので、ややマニアックな内容。基本的には終始、各戦役の詳述・分析。なかでも、太平洋戦争と日露戦争の章がほぼ半分を占めた。かなりその2つについては深く掘り下げているので、初めて知る内容も多く、教養として知れたことは良かった。兵站以外が勝敗を左右した場面もあったので、もう少し総括的な章があっても良かったと思う。

  • 兵站とはなんぞや、という問いに発して手にした書。古今東西の戦役の分析から、その問いへの解を得る。現代ビジネスへの応用に期待したが、そこまでは語られず、ある意味ストイックな領域に留まる内容。

  • 現代の日本の自衛隊ではそうでは無いと思いますが、太平洋戦争当時の軍隊では、補給(兵站)はそれほど重要視されていなかったようです。

    この本では元陸上自衛隊員である福山氏が、現代の戦争においてもいかに兵站が重要であるかを具体例を示して解説してくれています。戦争という国を挙げての一大イベントを成功するには、多くの重要な要素がバランスよく成り立つことが大切なのだということがこの本を通してわかりました。

    以下は気になったポイントです。

    ・ドイツからロシアへの鉄道輸送は、まず鉄道部隊により軌間変更作業から始めなければならなかった、加えて燃料となるロシア産石炭は粗悪でドイツ産の石炭かガソリンを天下しなければドイツの機関車には使用できなかった。(p49)

    ・スパイクスマンは、リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制するものは世界の運命を制する、とマッキンダーとは真逆の主張をした(p63)

    ・戦闘力は二乗に比例する、例えば英国戦闘機5機とドイツ戦闘機3機が空中戦をやれば、かつては英国の戦闘機は3機撃墜2機が残り、ドイツ戦闘機は絶滅すると考えられたが、統計では5の二乗25、3の二乗9で、その差は16、その平方根は4、従って英軍戦闘機は4機残り、ドイツは全滅となる(p80)

    ・御前会議の前で陸海軍、外務省の出身母体の意向に逆らってでも自己の信念を貫き通す人はいなかった、敗戦後、杉山元帥はじめ合計527名が自決したが、その覚悟と勇気をなぜ開戦前に示せなかったのか(p81)

    ・開戦時58万トン保有していたタンカーは終戦時には25万トン(可動6万トン程度)、外洋可能タンカーは1隻であった(p90)

    ・大型空母:7対27、小型空母:8対76、戦艦:2対8、太平洋戦争開戦以降の建造した比較はこうなる、この差は、部品を規格化して同タイプの艦船を大量生産する米国と、職人感覚で一隻ずつつくることにこだわる差である(p99)

    ・シーレーンを守るためには、制海権(海軍、空軍)、制空権(海軍、空軍)、基地(不沈空母)が不可欠である、制海権と制空権の機能を併せ持つ空母機動部隊を編成したのがアメリカである(p111)

    ・P51は零戦より傑作で史上最高のレシプロ機とされるが、多くの燃料が積めずサイパンからの出撃は不可能であったが、硫黄島からは可能であった。それまで丸腰であったB29艦隊は、日本の迎劇戦闘機に撃墜されたこともあったが、P51の登場により激減した(p116)

    ・インパール作戦に反対した、15軍参謀長の小畑少将(陸軍大学校卒業、兵站部門の輜重兵科出身)およびビルマ方面軍稲田参謀副長も更迭されていった(p126)

    ・日露戦争において陸軍第3軍は難攻不落の旅順攻略を陥落、これによりロシア太平洋艦隊を撃滅し日本海の制海権は日本のものとなり、次のバルチック艦隊との決戦も有利となった(p145)

    ・日露戦争の時に日本国内にまったく予備兵力がない状態だった、兵力増強のために徴兵令を改正し、服役期間を従来の5年から10年に延長した(p149)兵力も兵站もほぼ使い切って限界に近づいていた、ロシアはあと2−3年戦い続けられる余力を持っていた。ロシアを講和条約に引きずり出せたのは、日本海海戦の完全勝利と、明石大佐の謀略活動があったから(p208)

    ・朝鮮戦争では圧倒的な制空権のもと、板付、芦屋、築城(いずれも福岡)および岩国(山口)の米軍基地からの米海空海兵隊の出撃があった、広島型原爆の約54発分に相当する量であった(p220)北ベトナムの空爆量はその3倍(p260)

    ・湾岸戦争の米国防費の総額は610億ドルと言われるが、各国からの支援金は88%以上、サウジアラビアとクウェートを除けば日本の支払額は第一位だった(p284)湾岸戦争は、地政学的にみればスパイクマンの唱えるリムランドにおける戦争(p286)

    ・米軍はサウジアラビアに進駐できたので(予想外の出来事)確固たる足場を得ることができた、兵員・兵站を受け入れる港と空港が確保できたことになる(p296)

    2020年10月31日作成

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著者プロフィール

福山 隆(ふくやま・たかし)
陸上自衛隊元陸将。1947(昭和22)年、長崎県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。1990(平成2)年、外務省に出向。 その後、大韓民国防衛駐在官として朝鮮半島のインテリジェンスに関わる。1993年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦 を指揮。九州補給処処長時には九州の防衛を担当する西部方面隊の兵站を担った。その後、西部方面総監部幕僚長・陸将で2005 年に退官。ハーバード大学アジアセンター上級研究員を経て、現在は執筆・講演活動を続けている。著書に『防衛駐在官という任務』『米中経済戦争』(ともに、ワニブックス【PLUS】新書)『兵站』(扶桑社)など。

「2021年 『抑止――〝基本〟なのに理解されていない考え』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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