一気に読める「戦争」の昭和史 (扶桑社新書)

著者 :
  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594079956

作品紹介・あらすじ

なぜ日本は大陸に進出したのか?
アメリカと戦争を始めたのはなぜか?
そして、どうして早期和平に踏み出さなかったのか?

本書の特徴
*昭和の戦争を大局的に捉え、一気によんでスッキリ理解できる。
*歴史の流れが頭に入りやすいよう、主な出来事、戦闘ごとに区切った記述をし、それが前の事件からどう?がり、次の事件にどう結びついてゆくのかを明確化……因果関係が解りやすい。
*日本側の動きだけを記さない。外国との相関関係を見えやすくし、当事国それぞれの内在的論理を浮かび上がらせた。
*「外交」と「軍事」の双方で、努めて戦略的な観点から分析~ひとつひとつの行動を戦略目標の視点から見ると、歴史が意味を持って浮かび上がってくる。
*今の時点から歴史を評価せず、当時の指導者の判断を嘲笑するような書き方は避ける~歴史を考えるときには、当事者になる想像力が必要。
*特定の歴史観に縛られない。

私たちは、どうしても「日本」というと今の日本列島を思うが、当時の「日本」は、韓国を併合し、満州に広大な属国を持ち、中国大陸で連戦連勝中である。もしドイツが賢明に立ち回ってソ連と対立せずにイギリスを倒し、日本が東南アジアを支配したら(これは日米開戦直後に実現した)、援?ルートも止まり、中国まで日本に帰属するに至ったであろう。こうして空前のアジアの大帝国が出現する可能性はあったのである。それだけの規模の帝国を長期間維持する能力は日本にはなかったとは言え、当時の大日本帝国が破竹の勢いで拡大し続けていたのは事実である。ソ連だろうとアメリカだろうと、巨大化し続けるマグマのような侍の国を強烈に抑え込もうとするのは、寧ろ当然だったろう。しかもその頃の日本は、軍と外交の意思が分裂していた。何をしでかすか分からないという事だ。更に言えば、日本民族そのものが、言語も歴史も孤立し、国際コミュニケーション能力も乏しい。列強諸国から恐怖と猜疑と嫌悪で見られていたのは間違いない。これは誰が戦争を仕掛けたかとか、仕掛けた側が良いか悪いかという話以前の当時の「光景」なのである

感想・レビュー・書評

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  • この歴史書は日本人であるなら一度は目を通しておくべき民族課題図書だと断言します。

    最後の9年間の戦争の歴史が簡潔にまとめられている点でも優れています。

    あの敗戦から学ぶことはなかったのか?

    もう一度、日本人として冷静に総括しておく必要はないのか?

    本当の歴史を知らずに、「戦争」を語っていないか?

    戦後の日本の教育は戦勝国から「日本はアジア諸国を侵略した悪い国だったから、原爆を落とされても文句を言えない」という一方的な価値観を押し付けられてきましたが、そろそろ自虐の呪縛から解放し、自ら考え、是々非々で議論すべき時だと思われます。

    その前提となる資料が本書です。

    海外の人たちの是非読んでほしい1冊ですので、英語版を含め多言語での翻訳を期待します。

    では、本書のエッセンスを少し。

    日本の外交政策を厳しく批判しています。
    「戦前には、強引・傲慢な対中姿勢、戦後になっては謝罪とODAによる卑屈なお詫び外交、一見正反対にみえますが、どちらも節度と戦略のない外交姿勢です」(P39)

    中国内で既に人気のない汪兆銘という傀儡政権を担ぎ出した点に触れ、「日本は、こういう時に原則に立ち返れません。状況に便乗します。手に入れたコマだから、とにかく使ってみようという、戦略性ゼロの発想です」(P107)

    「日独伊三国同盟には、大義名分も友情も共感も世界戦略の共有もない、互いに相手を頼む漠然たる打算でしかなかった」(P124)

    「戦前の日本の政治・軍事指導の重大な欠陥は、天皇崇拝が形骸化し、国歌の行く末や方針についての率直な議論が不可能になっていたことでしょう。政治・軍事指導者が、徹底的に戦略的でなければ、政治責任のない天皇の至尊性は守れません。ところが、戦前の指導者らは、言動の上で天皇を尊崇するのみで、政治責任を果たすことで天皇を守ろうとはしていません。(中略)シナ事変の拡大も、南部仏印進駐も、松岡外交も、すべて昭和天皇の意に反したものでした」(P183)

    「第一の戦略目標は南洋の資源確保です。第2は米国の戦意喪失ですが、それが不可能なら、終戦工作に全力を挙げる以外に手はありません。また東京空襲を避けるというのも重大な戦略目標です。そのためには、島の取り合いではなく、制空権の取り合いこそが太平洋戦線のあるべき本質でした」(P267)

    「敗因は、正確な情報の共有がないまま作戦を立案したこと、戦闘に敗北した根本的な原因をふさがないまま、対症療法に終始したという長期的な展望の欠如でした。(中略)米国は、勝てる場所(科学技術を駆使し戦闘以前に勝つ)を先に取ってしまうことに力を注ぎ、日本は戦いの現場で勝つことに集中しました。日米の発想法のこのギャップは今なお、外交、政治、技術競争などの全領域でほとんど埋まっていません」(P274)

    戦争は目先の手柄を誇るものではなく、手の内を見せないという大人の態度も重要です。
    「米国の暗号解読によって、山本五十六大将自ら前線に行く途中で撃墜されたことを、米国は暗号解読を隠すために公表しませんでした。草鹿参謀長は暗号解読を疑い、厳重調査を命じますが、乱数表の交換時期から考えて解読は不可能だったという結論をだし、これ以降、日本は暗号解読されていることに気づかず戦争を継続します」(P277)

    教科書にも出てこなかった日本の誇るべき功績。
    「肝心なことは、大東亜会議開催で宣言された理念に基づく解放を、わが国が自らの大敗と引き換えに実現し、アジア人たちが自分たちだけの手で自ら解放したという物語が誕生したことなのです」(P305)

    終戦工作をまじめに考えなかった軍指導部や政治家たち。
    「国家指導、作戦立案という側から見れば、本土空襲必至の情勢下、決戦場所を一歩一歩国土に近づけ、最後には本土そのもので決戦するなどいうロジックを作戦として策定する無責任さは言語に絶します。(中略)自存自衛から始まった戦争で、なぜ国を焦土にするまで戦う必然があったのでしょうか、米側に日本をそこまで叩きのめす理由があったのではなく、日本側指導部がいつになっても終戦に全力を投入しなかったからこうなったのです」(P334)

    「特攻の存在は、米国が本土に接近する上での大きな恐怖と足かせであり続けました。もし、特攻が無ければ、日本は丸腰の海軍と島に点在する陸軍しかありません。米国将兵たちの間に厭戦気分を蔓延させ、本土上陸を強くけん制しました」(P358)と特攻存在意義を解説しますが、だとしてもやってはいけない禁じ手でした。

    東京大空襲というホロコーストを指揮したルメイ少将は戦後、佐藤栄作政権下で議論沸騰の中「勲一等旭日大綬章」を叙勲されますが、慣行である天皇による勲章の手渡しを天皇は拒否し、会うこともありませんでしたが、昭和天皇の気骨を感じさせるエピソードです。

    「原爆の開発者とその投下を決断した政治・軍事指導者たち、また今なお、原爆投下があくまでも日本降伏に不可欠だったと発言する人たちは、良心の名のもとに裁かれるべきでしょう」(P399)

    あくまでも終戦の条件として天皇大権の保証を求める阿南陸相に対し「阿南、心配するな。朕には確証がある」と、自身の処刑は覚悟のうえで、ポツダム宣言受諾を軍部に説得したと推測せざるをえませんというエピソード(P410)も日本の戦後は昭和天皇が体を張った結果なのでしょう。

    米国からの容赦ないホロコースト(無差別大空襲、原爆投下)が戦後も何のお咎めもない一方で、日本の戦争責任(多くの過誤はあったものの最低限の人道上踏み外してはならない境界線を越えたことはありません)を今もなお内外から指弾されている現状に対して、正しく反応するためにも本書は有効です。

  • 8月に入ると、戦争について書かれた本を読みたくなるのだが、ガダルカナルやらインパールやらサイパン、レイテなど、個別の戦いの名称は知っていても、正直なところ、それらが頭の中で一本の線につながっていないことが気になっていた。

    つまり、どういう経緯で、なぜその場所で戦いに至ったのか、日本史における「戦争」全体の流れを、恥ずかしながら整理できていなかったのだ。

    そこで、思想の偏りなく、戦争史全体をざっと見通せる本はないものかと思っていたところに、昨年(2018)の夏、この本が出ていたのを見つけ、これぞまさしく私が求めていた本だと感動すらおぼえて購入した。

    まもなく読み始めたのだが、あまりに一所懸命に読みすぎたのか、気分が鬱々としてきてしまい、読むのを中断してしまった。
    その後結局1年経ってしまったが、今、やっと読了できてホッとしている。
    それも偶然終戦の日に読み終わるとはつくづく感慨深い。
    そして本当に読んで良かったと思っている。

    日本を守るために、食糧も武器もなく、過酷すぎる状況で戦っていた日本軍の兵士たちを思うと、涙が止まらない。

    また昭和天皇の苦悩が、胸を締め付けてやまない。
    これまた恥ずかしながら、終戦の詔書(玉音放送)の全文を、初めて読んだ。
    こんなに長かったんだ。

    最初から最後まで、真に日本を、日本国民を守ろうとしていたのは、昭和天皇だったのだ。

    先に書いたように、戦争の歴史の流れを知るための本には、できるだけ思想の偏りがあってはならないと思っていたが、本書は限りなく偏りはないと言っていいと思う。
    著者自身もまえがきでそう努めたと書いている。

    日本側の事情、諸外国側の事情、双方が書かれているし、当時の政治家や当事者たちの言葉が多数引用され、貴重な文書の内容も書かれていて、多くの資料(史料)に基づいていることがわかる。

    ただ、ページの都合なのか、けっこう大きな紛争でもいくつか割愛されているものがある。

    これからは、本書で書かれなかった事件も含め、ひとつひとつの戦いをさらに深く掘り下げた作品を、映像であれ本であれ鑑賞し、知識と理解を深めていきたい。

  • ずっとこんな本が読みたかった!
    通史として満州事変から終戦までの流れを追いながら、「その時、日本は中国は米国は…」が分かる本って案外無いので、大東亜戦争にいたる道程や連戦連勝からの転機、敗走へ追い込まれた訳を知りたかった。
    面白く、ホント面白く読ませていただきました。
    そんな時をおかずに何度か読みたいです。

  • 本書の全てが真実なのかどうかを確認する術はない。しかし、これまで学校やテレビ等で端的に得てきた知識と大きく乖離する戦争の経緯は、激しく頭と心を揺さぶられた。
    昭和天皇についても同様だが、他のいろいろな書物で「大東亜戦争」という悲劇を少しでも真実に近い形で自分の中に留めておきたいと感じた。

  • KKベストセラーズの書籍とあわせて3度目の「読了」です。
    新書は少々厚みがあって1,000円と、この部類の書籍としては高めですが、「戦争」の昭和史を最もフラットなスタンスで書かれている本だと思います。
    何度読んでも後半は・・・悲しく、情けなく、当時の方々の思いを受け取らざるを得ない気持ちにさせてくれます。
    私はどうしても「新撰組」を連想してしまい、一途で頑固なサムライ(あまり良い意味でない)心が悪い方向に向かってしまう不幸を否めませんでした。
    ・・・今だに引きずるWGIPの根深さを思い知らされます。

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著者プロフィール

文藝評論家。一般社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。専攻は音楽美学。論壇を代表するオピニオンリーダーの一人としてフジサンケイグループ主催第十八回正論新風賞受賞。アパグループ第一回日本再興大賞特別賞受賞。専門の音楽をテーマとした著作は本作が初となる。
著書に『約束の日 安倍晋三試論』『小林秀雄の後の二十一章』『戦争の昭和史』『平成記』ほか多数。

「2019年 『フルトヴェングラーとカラヤン クラシック音楽に未来はあるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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