拾った女 (扶桑社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594075071

作品紹介・あらすじ

幻の傑作ノワール、登場
ローレンス・ブロック絶賛!

哀しみ色の街で
破滅へとひた走る愛――。

「直球ど真ん中のノワールと見せかけて、
実は読者の手元で変化する曲球」――若島正

「チャールズ・ウィルフォードより優れた
クライム・ノヴェルなんて誰にも書けない」
――エルモア・レナード

「ディヴィッド・グーディスのロマンティシズム、
ホレス・マッコイの手になる疎外された除け者たちの肖像、
チャールズ・ジャクソンが「失われた週末」で描きだした
酒浸りの人生。本書はその鮮やかな融合だ」
――ウディ・ハウト (『Pulp Culture』『Neon Noir』著者)



サンフランシスコ、夜。小柄でブロンドの
美しい女がカフェに入ってきた。コーヒー
を飲んだあと、自分は文無しのうえハンド
バッグをどこかでなくしたという。店で働
くハリーは、ヘレンと名乗る酔いどれの女
を連れ出し、街のホテルに泊まらせてやる。
翌日、金を返しにやって来たヘレンと再会
したハリーは、衝動的に仕事をやめヘレン
と夜の街へ。そのまま同棲を始めた二人だ
ったが、彼らの胸中に常につきまとってい
たのは、死への抗いがたい誘いだった。巨
匠初期の傑作遂に登場!〈解説・杉江松恋〉

感想・レビュー・書評

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  • 最後まで読んで驚き、思い返すとなるほど!と思える箇所がいくつか出てくるのですが…初めから読み返す…ことはしていません

  • 米国のクライム・ノヴェル界の大家ウィルフォードが著したノワール文学の傑作で、舞台は1950年代のサンフランシスコ。時代を感じさせない雰囲気で実に読みやすい。ストーリーはいたって単純。その日暮らしの男性と依存症の女性が、ぐだぐだな日々を過ごすというもの。女性は寝てるか酩酊してるかのどちらかで、そんな彼女のために男性は日雇いで酒代を稼ぐ。どうしようもない自堕落な生活が描かれるが、どういうわけだかこれが面白くて仕方がない。破滅に向かっているのに、軽いノリで流れていくから悲壮感がまるでないのだ。ここまでの展開はミステリではない。なのにミステリ小説を読んでるのと同じ感覚の面白さと吸引力。

    中盤で一気に転調し、ストーリーは思わぬ方向に転がり出す。ここでまず意見が分かれそうな感じだが、私はウェルカムでした。後半にちょいちょい違和感を感じ、終盤で一瞬ダレるも、ラスト二行で背筋が伸びた。予想外の曲球をまともに受けて、しばし事態がのみこめない。これは再読したくなる。違和感の原因がわかってスッキリするもあまり喜べない。なぜならここから本当の物語が始まったからだ。救いようのない悲恋、絶望的な男女の心の闇──これはやっぱりノワールだわ。正直、最後の二行は目にしたくなかったかも。

    余談だが、読書中何度も空腹感に襲われ、当時の通貨価値がわからないので何かにつけ「安すぎる…」と唖然としてしまった。

  •  この物語は、著者がある仕掛けを施している。最後の2行で頭がグランとする。でも、それはいわゆるどんでん返しというほどのあからさまな仕掛けではなく、読み手にもう一つ傷跡を残すというか、物語をさらに切なく、そして深いものに変える役割を担っている。まあ、再読したくなるのは間違いないと思う。
     あるカフェで働くハリーの物語。日銭を稼いではアルコールで消えてしまう、その日暮らしのような生活を送っているハリーの元に、目を見張るような美女ヘレンが訪れる。そこから物語が始まります。
     ヘレンと暮らすことになったハリー。ハリーもそうだが、ヘレンはさらに輪をかけてのアル中で、ヘレンが持っていた200ドルもあっという間に底をついてしまう。そんな2人はいつしか死への渇望をするようになっていき・・・。というような話なのだが、不器用にもヘレンへの愛を全うするハリーがいたたまれなくない。
     それにしても、著者はズルいなあと思った。最後の2行は効果的だったが、それに対してのヒントというか、表現は本来ならもっとあるべき筈なのに、完全に意図して消されていたなあと思えた。

  • 思い掛けなく翻訳された1954年発表作。各誌の年間ベストにも選出され、概ね好評を得ていた。ウィルフォードは、80年代に始まったマイアミ・ポリス/部長刑事ホウク・モウズリーシリーズで著名なのだか、どちらかといえば玄人好みのマイナーな存在という印象を持っていた。いかにもアメリカ的な気風に満ちた〝粋の良さ〟は、エルモア・レナードのスタイルにも通じている。ただ、本作を読む限りでは、創作初期には意外と文学志向が強い作家だったようだ。

    舞台はサンフランシスコ。30歳過ぎの男ハリー・ジョーダンが働くカフェに、客としてふらりとやってきたブロンドの美しい女、ヘレン・メレディス。一目惚れした〝俺〟は女を口説き、同居生活を始める。女は既婚者だったが、反りが合わない夫の元を離れ、実家も飛び出し、この街へ来たという。俺はヘレンを愛し、ヘレンも俺を愛した。仕事を辞めた俺にカネは無く、女が持参していたカネも底をついた。職を転々とし、酒に溺れた。ヘレンは重度のアル中だった。怠惰な日々にも、いよいよ限界がきた。俺とヘレンは、或る決意を固め実行する。

    物語の起伏は緩やかで、鬱屈した虚無感が漂う。ファム・ファタル的な犯罪小説ではあるが、全体のトーンやストーリーの流れ方は独特で、正直なところ何を描こうとしているのか掴みきれない部分もあった。〝話題〟となったラスト数行で、ようやく物語は〝修正〟された上で、作者の本意が明確となるものの、改めて読み返すほどのインパクトは無かった(終盤での主人公と精神科医の会話の中に強めの伏線が張られている)。主人公の内面描写は繊細だが捉えどころがなく、画家志望であったという過去も、真に重みを増すのは、読み終えてのちのこととなる。いわば本作は、米国が今現在も抱えている根深い問題へのウィルフォードなりのアプローチだった、と深読みすることも出来るのだが、結末はいかにもミステリ的とはいえ、何ひとつ答えを見出せていないもどかしさが残る。このテーマを生かすのであれば、やはり冒頭からストレートに物語を動かして欲しかったと感じた。ハリーとヘレンが表象するのは、現状に対する憤りを抱えながらも、あるがままに受け容れざるを得ない〝敗残者〟の弱さだ。硬い表現だが、1950年代のアメリカ社会に生きる実存的不安を抱えた人間の内省を描いたものだ、と勝手に解釈している。

    また、本作の惹句には「傑作ノワール」とあるが、ごく〝普通〟の男である主人公も含めて悪漢は登場せず、違和感を覚えた。或る種の「破滅」を描いてはいるものの、肌触りが違うのである。綺麗にまとまり過ぎている、とでもいえばいいだろうか。何にせよ、最近は〝ノワール〟の呼称を乱雑に使う(私自身も含めて)傾向にあるのだが、定義付けが曖昧なままブームが先行した余波なのかもしれない。


    余談だが、本作のような渋い作品を発掘し、きちんと出版してくれる扶桑社の〝ハードボイルド〟な姿勢には頭が下がる。扶桑社ミステリー文庫(旧サンケイ文庫時代も含める)のラインナップは結構〝宝の山〟で、日本では無名の作家を数多く紹介してきたという功績も大きい。同時期に冒険/スパイ小説ファンをザワつかせた気合いの入りまくった二見書房も同様。翻訳ミステリ隆盛期に新規参入した出版社のリストは、その殆どが絶版とはなってはいるものの、今でも飽きもせずに眺め、チェックした本を入手する日を夢見ている。

  • アル中の女性と出会い、自堕落な生活を描写する前半、人生に絶望しつながらの獄中生活を描く後半とも普通に読ませるよい小説だが、物語のフレームワークを根本から揺さぶる本当の衝撃は最後の最後に待っている。2019年の今読んでも凄いし、実際に訳出は 2016年だが、執筆は戦後間もない 1955年だというのだから、当時の読者の衝撃はまったく想像できない。

  • うーん、あまり楽しめなかったかな。
    アル中の男と女の堕落した恋愛おままごとの悲劇。

    どんでん返しといえばどんでん返しだが、根底をくつがえすほどのものでもなく、そこまでに至るだらだらと進む物語にリーダビリティがない分、インパクトが弱い。

    海外版イニシエーション・ラブ。

  • なんだかとっても悲しい話。最後の「背の高い孤独な黒んぼただひとり」は驚いた。

  • 想像していた軽いノリでない雰囲気だと感じ始めたのは三分の一くらい読んだあたりか。破綻しそうでしないプロットを読み進めていくのがフラついているような感覚で、必ずしも心地よいとは言えないが、最後の2行で絶句。この作品は単純なノワールではない。

  • バーで拾った小柄なブロンド女と堕ちる話、で男も女もめんどくさいし、やりきれないちっとも楽しくない話なんだけど、これが読ませる。陳腐な展開かと思いきや、ちょいちょい予想を裏切ってきて、微妙にジャンルが変わっていく感じがおもしろい。なんといってもラスト二行の衝撃!なのだけれど、これだって、無くても話はキレイに完結してるわけで、凝ってるなあと唸った。

  • このミスで4位に評価されている本書を読んでみると、これがミステリー?と疑問符一つ。帯に書かれた惹句にはノワールと書かれている。これがノワール?疑問符二つ目。

    カフェにブロンドの美しい女がふらりと入ってくる。酔っぱらった女はハンドバッグをどこかに置き忘れており、バスターミナルのロッカーの鍵以外何も持っていない。カフェで働くハリーはその美しい女をホテルに泊まらせ、別れる。
    翌日から、2人の生活が始まる。お互いの純粋な愛に支えられた2人の生活は、酒と無収入の上に立っているため、どこかままごとのような危うさが伴う。その危うさは物語の転換に現れる。意外な結末に物語は盛り上がるのではなく、フェイドアウトする。

    ただし、本作の初出は1955年だ。女はブロンドで美しい。時代背景を考えると、ハリーの出自が明かされる最後2行で全体の印象が、がらりと変わる。

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著者プロフィール

Charles Willefordチャールズ・ウィルフォード1919年アーカンソー州生まれ。幼くして孤児となり、流浪の青年時代を送ったのち、年齢を偽って陸軍に入り、めざましい戦果をあげる。53年に長編デビュー。長く不遇だったが、80年代に再評価され、カルト的な人気を得た。88年に死去。主な作品に『拾った女』『炎に消えた名画』『マイアミ・ブルース』『危険なやつら』(すべて扶桑社ミステリー)など。

「2020年 『コックファイター』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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