名もなき子

著者 :
  • ポプラ社
3.32
  • (4)
  • (19)
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本棚登録 : 202
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (353ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591173886

作品紹介・あらすじ

テレビ局に在籍し、ドキュメンタリー番組の制作を手がける美貴。ある日、高齢者施設で不審死が相次いでいるとの週刊誌の記事が目に留まる。その後、主要メディアや官邸に犯行声明が届く。書面には「何も生み出さない高齢者は『社会悪』だ」などと書かれていた。取材を進める美貴は、偶然の出来事から悟と名乗る青年とかかわるようになる。悟の生きてきた道程を知った美貴は、この国が抱える深い闇の存在に強い衝撃を受ける----。

感想・レビュー・書評

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  • テレビ局でドキュメンタリー番組の制作に携わる榊美貴は、高齢者施設で多発している不審死に疑問を感じる。

    ほどなくして、主要メディアや官邸に犯行声明が届く。
    何も生み出さない高齢者は、「社会悪」だ。と…
    寝たきりだと、病気だと、それだけで必要のない人間になるのか…

    取材を進めていく中、高熱で倒れている青年・小林悟を助ける。
    彼は、無戸籍だった。
    彼の生きてきた道程を知った美貴は、強い衝撃を受ける。
    そして、彼の周りを調べていくうちに高齢者施設での不審死にも繋がるものを探り出す。

    今現代において、高齢化する問題もあるが、生まれながらにして無戸籍で生きなければならない者たちの苦悩。
    それも鋭く書いている。

    孤独や悲しみ、諦念すら感じさせる。

    重いテーマではあるが、淡々と流れるように読み進められたのは、榊美貴の目線を軸にしているからだろうか。

    終章の誕生で母親の気持ちを知る。
    辛すぎて複雑である。

  • 現実が届く一冊。

    高齢者施設での不審死。その謎に迫る傍ら炙りだされていく幾つもの社会の現実。

    いきなり"価値のない命"の言葉が目にきつく飛び込む。

    そこから命のトリアージ、無戸籍児、AI、命の尊厳と、枝葉のように広げながらも丁寧に見せていくのが相変わらず巧い。

    その都度心に拾わざるを得ない。

    誰もが当たり前に生きる社会をうたう社会。

    その裏側に蔓延る壁。

    小さな埋もれそうな現実が苦しく届く。

    少しでも関心を、耳を心を傾ける必要性を痛感。

    子が当たり前の未来を得られない一因を垣間見た終章に最後まで著者の伝えたい思いを感じた。

  • 無国籍、児童虐待、命の価値、トリアージ、AI。現代における様々な問題が盛りだくさんだった。どれも重たい話なのだけれど、さらっと書かれているので読後ずっしり来るという感じではなかった。それぞれの問題についてもう少し掘り下げてほしかったけれど、これだけ詰め込むならこれくらいがちょうどいいような気もするし…なんだかモヤモヤ。

    命の価値は、正直どれだけ考えても答えが出ない問題だ。生産性のない人は生きている価値がないとまでは思っていないけれど、自分自身が生産性のない立場になったら、それは生きている価値がないと感じるだろうな、とは思った。

    それと、犯人の動機や母親の選択の理由がイマイチ理解できなかった。理解できないという言葉が正しいかは分からないのだけれど…なんだろう。腑に落ちない?

    他のかたの感想を読んで知ったのだけれど、どうやら前作があるらしい。今回あっさり書かれていた夫の死だとか、そのあたりの主人公の闇が見えそうなので前作も読んでみたい。

  •  高齢者施設での相次ぐ不審死を発端とし、自分で呼吸したり動くことができない老人の尊厳死、安楽死の問題から、AIの問題、浮浪者、無国籍児童など、多岐に渡る問題提示をしている。

    文章に、文学的な情緒、芸術的な要素は全くない。作者がジャーナリストだからか、前作と同様、問題提起をするために次から次へと事象を起こしているような忙しい文章だった。
    いっそルポにした方がいいのでは?と読みながら首を傾げる。

    主人公の美貴の、問題に対して抜け目なく動き回り、自信たっぷりの全能感に、こちらが疲れを感じる。
    息抜きに、子供の陸を妙に子供らしいいい子に表現しているのも気にかかる。昨今の親が演じている、こんな親子が素敵だと思ってます的なステレオタイプな幻想が描かれていて、何だかなぁともやもやする。

    問題としていること自体には興味を惹かれた。

    (抜粋)自力では呼吸ができず、医療の力を借りなければ生きていけない人たち。「そんな命には価値がない」という本音を、社会は覆い隠したまま、じわじわと追い詰めている。安楽死や尊厳死だって、治療効果のない人間に医療を施しても無益だ、と言う立派な「優生思想」だ。

    私自身、常にひどい倦怠感、全身痛があり、安楽死を受け入れてくれる世の中になって欲しいと常日頃から切願している。本当に辛い人にとって、いざという時に安楽死の道があるというのは、それまで頑張る原動力になるし、不安を解消してくれる。

    でも実際、どんな命でも生きていることは何より尊い、とにかく救いあげ死なさないことが大切だ、と、本気で思っている人もいる。熟考した上でその考えなのか、感覚的にそう思っているのか、社会や周囲にそう思わせられているのか謎だが…

    もう小説という形でこの作家さんの本を読むことはないと思うが、世に問題提起をしたいという意欲は伝わってきた。

  • 3.54/84
    『テレビ局に在籍し、ドキュメンタリー番組の制作を手がける美貴。ある日、高齢者施設で不審死が相次いでいるとの週刊誌の記事が目に留まる。その後、主要メディアや官邸に犯行声明が届く。書面には「何も生み出さない高齢者は『社会悪』だ」などと書かれていた。取材を進める美貴は、偶然の出来事から悟と名乗る青年とかかわるようになる。悟の生きてきた道程を知った美貴は、この国が抱える深い闇の存在に強い衝撃を受ける----。』
    (「ポプラ社」サイトより▽)
    https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008386.html

    冒頭
    『彼女は、こちらをじっと見つめていた。目に涙を浮かべて、ひたすらに一つのことだけを伝えようとしていた。体はもうほとんど動かない。自分で食べることも、飲むことも、本を読むこともできない。横たわったまま、一日中つけっぱなしのテレビを見ている。幾筋か白髪の交じり始めた髪は、つややかさを失って枕に広がっている。』

    『名もなき子』
    著者:水野 梓(みずの あずさ)
    出版社 ‏: ‎ポプラ社
    単行本 ‏: ‎353ページ
    発売日 ‏: ‎2022/5/18
    ISBN ‏: ‎9784591173886

  • 「蝶の眠る場所」榊美貴の続編。医療技術の発達した現代社会において、大きな課題となるであろう安楽死、尊厳死。数値を把握できない無戸籍問題、児童性虐待など現代日本が抱える社会の闇をこれでもかと見せつけられる。「無駄な命はこの世に一つとしてない」この言葉の持つ意味をただの綺麗事と思うか、当然と思えるか、現実として一人一人が直面する時代になってきている。「生きる資格」の意味を考えさせられる社会派小説。

  • うーん。
    面白くなかった。
    それぞれの事情があることは分かるけど、話が想像の範疇を超えててリアリティーを感じない。

  • 名もなき子
    水野梓さん

    デビュー作
    蝶の眠る場所の次作。

    興味深い内容だったけど、
    すこし、内容があっちこっちに、
    飛んでいるような気がして疲れた。

  • 「蝶の眠る場所」を未読で本作を読んだが、内容的には問題なかったようだ。淡々と物事は進み語られていくが、人間として生きるとは何かと常に揺さぶられ続けながら読み終えた。生まれながらの格差による不公平。生産性という尺度で測る選別。治療効果の薄い末期高齢者とその家族の抱える死生観。正義の名があれば他を排除することも正しいとされる社会。そんな様々なことが今を生きる自分たちの暮らしの中にあることを痛感させられる。終章を読み、改めて序章を読むとこの決断の是非は決して二項対立では判断できないと感じる。文中で出てくる「果てしなく続く灰色のグラデーション」はまさにそうであり、いっそ灰色の世界だから生き方を決めていいよと言われるほうが楽なのではないかとすら思ってしまった。

  • 老人の残った機能は出来るだけ使わせた方が良いが、面倒なのでついこちらがやってしまう、というのは考えさせられる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。早稲田大学第一文学部、オレゴン大学ジャーナリズム学部卒業。警視庁や皇室などを取材、原子力・社会部デスクを経て、中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、夕方のニュース番組のデスク、系列の新聞社で医療部・社会保障部・教育部の編集委員を歴任。

「2022年 『彼女たちのいる風景』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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