エンディングドレス (ポプラ文庫 ひ 6-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591166963

作品紹介・あらすじ

人は生まれることも死ぬことも自分では選べないけれど
何を纏って生きるかは選択することができる――山本文緒(作家)

夫に先立たれた麻緒、32歳。
自らも死ぬ準備をするため“死に装束を縫う洋裁教室”に通い始める。

20歳の時に気に入っていた服、15歳の頃に憧れていた服、自己紹介代わりの服…。
ミステリアスな先生による課題をこなす中で、麻緒の記憶の引き出しが開かれていく。

洋裁を通じてバラバラだった心を手繰り寄せた先に待つものは? 
「本当の自分」と「これからの自分」を見つける、胸打つ傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 夫を亡くして生きる気力を失くした主婦の麻緒。心が「死」へと引っ張られていた彼女が出会った、死に装束を縫うための「終末の洋裁教室」。この世には未練がなかったはずの麻緒が、教室に通いながら自分を見つめ直し、少しずつ変わっていく…。
    短いあらすじではこのストーリーの魅力は伝えきれない。32歳という若さにして最愛の夫に先立たれた麻緒の苦しみが何とも重く、前向きになりかけては悲しみに押し潰され、どうなってしまうのかとハラハラする。そしてこの「終末の洋裁教室」が不思議な存在で、目的のエンディングドレス作りに至るまで、毎月課題が出される。訝しく思いながら通い始める麻緒と同じ気持ちで読み進めていくが、次第に洋裁の面白さに目覚めていく。
    課題をこなしながら過去と向き合う麻緒。時には生々しい傷の痛みを再確認しなければならず、読む側も辛くなる。それでも、悲しいのは自分だけじゃないという気付きが少しずつ麻緒を変えていく。一緒に教室に通う三人の老婆、ミステリアスな洋裁の先生のキャラも秀逸(彼女達それぞれの過去のエピソードもまた胸を締め付ける)。麻緒と彼女達が少しずつ距離を縮めていく過程がとても好きだ。
    何よりワクワクしたのは洋裁のシーン!洋服は大好きだがミシンが使えないド不器用な私。洋裁には憧れがあったものの、自分とは無縁な世界と思っていた。…が、無性に作ってみたい!と思わせるほど服作りの描写が楽しいのである。インド綿のセーラーカラーのブラウス、ひまわりのリバティワンピ、赤のマキシスカートを葡萄色に染め直しリメイクしたジャンパースカート…。どうしてその服を作るに至ったかの流れが毎回お見事で、着ることは生きることだと改めて思うのである。
    いくつか涙腺決壊シーンがあり、とりわけクライマックスへの展開は胸が締め付けられる。全体的には重いテーマを扱ってるかもしれないが、決して苦しくなりすぎず、ほのかに明るく優しい。どん底の心にそっと寄り添ってくれることのありがたさをものすごく感じた。今が辛い誰かの、間違いなく救いになる一冊だと思う。

  • 蛭田亜紗子『エンディングドレス』ポプラ文庫。

    以前読んだ『凛』がなかなか面白かったので、本作も読むことにした。

    人生に絶望し、死ぬことを決意した女性が少しずつ生きることの意義に目覚めていく過程を描いた小説である。前半は内容に深刻さを感じ、途中涙し、読後には爽快感があふれる物語であった。

    誰もが忘れたくない思い出と忘れたい過去を背負い生きている。全てを捨てて死に向かうよりも生きることの難しさ、生きることで新たに背負う様々なものがある。確かに生きにくい時代だ。社会が複雑になり、必要以上に精神的にも肉体的にも大きな負荷が掛かり、毎日毎日が闘いだ。しかし、疲れたら時にはゆっくり歩き、立ち止まり、心と身体を休めてから再び走り出せば良いのだ。誰もが人生を走り続けることは出来ない。

    32歳で夫に先立たれた真嶋麻緒は終活を始める。保険証の臓器提供意思表示欄を記入、自宅ドアに連絡先リストを貼り、SNSを退会、パソコンを破壊、預金を全額引き出し、所有物を処分、最後にロープを購入する。つまりは夫の後を追い、自ら命を絶とうとしているのだ。それだけ麻緒にとって夫は大切な存在だった。

    ロープを購入するために立ち寄ったホームセンターで偶然『終末の洋裁教室』の生徒募集のポスターを目にした麻緒は自分の死装束『エンディングドレス』を縫い上げるために洋裁教室に通い始める。『エンディングドレス』に取り掛かる前に教室の小針先生から奇妙な課題が出される……

    麻緒の作る『エンディングドレス』は……

    本体価格680円
    ★★★★★

  • はたちの時に出会った最愛の夫を亡くし、自らも死を選ぶべく身辺整理を始めていた麻緒。
    自殺用のロープを買いに訪れた手芸店で偶然目にした、“週末”ならぬ“終末”の洋裁教室のチラシ。

    「春ははじまりの季節。さあ、死に支度をはじめましょう。あなただけの死に装束を、手づくりで。」

    ふと心惹かれて教室に通うことになった麻緒は、3人の仲間たちと、講師の小針先生に出会う。


    ことぶきジローさんのレビューを読んで、手に取りました。
    ありがとうございました!

    正直、装う事にはそれほど興味がない方だけれど、ひととき素直に、愛する人を亡くした悲しみから、自分の人生を生きる力を取り戻してゆく麻緒を見守ることが出来たような。
    ほんの2時間ほどの間に、麻緒の絶望や後悔、ときめきや幸福感も、あっという間に追体験したような。
    こんなに読みやすくてよかったのかと思うほど、読後はとても爽やかでした。

    『生前葬』『生前整理』などの文字に反応してしまう今日この頃。
    誰にも迷惑をかけず、まぁ少しは悲しんで欲しいけれど、必要以上に誰かの未来に影を落とさずに消えてゆきたい…などと考えている私でも。
    何を着て、何を食べ、何を思うかをおろそかにしてはいけないな。

    しかし、弦一郎さん…いくら自分の余命がわずかだと悟っていても、麻緒の未来を思っての事だとしても、あれは無いわ…荒療治すぎるわ…


    さらに、たまたまこの一週間で読んだ本の順番というか…生きているだけで感謝だったり、後悔ありありでもしゃあないだったり、人生のスパイスを味わい尽くさなくてはだったり…
    アップダウン???が激しすぎて、ちと疲れたところに本作。
    ふれているテーマの重さのままの重厚な作品だったら…リタイアはしなかっただろうけれど、ずいぶん今の気分が違っていただろう。
    読みやすくて良かった。
    タイトルの重さに怯まず、愛らしい装丁に惹かれて、たくさんの人に読んでもらいたい。

  • 洋裁教室の仲間との距離感がとても良い。
    千代子さん、大好きです。

  • 学生時代に知り合って結婚した最愛の夫・弦一郎を病で亡くした32歳の麻緒(あさお)は、生きる希望を失い、自殺するつもりで身辺整理を始めるが、首吊りロープを買いに行った手芸店でふと目にした、死に装束を手作りする「終末の洋裁教室」に心を惹かれ、そこに通うようになる。麻緒以外は、92歳・戦争経験者の千代子さん、年齢不詳・わけありのしのぶさん、77歳・元ダンサーのおリュウさんらお年寄りばかり。主催者はいつも黒い服を着た小針先生。

    麻緒の思惑に反して、死に装束を縫うまでに課題がいくつもあり、その課題をこなし裁縫の腕をあげていきながら、裁縫教室の仲間たち、そして小針先生のそれぞれの辛い過去の経験を知り、家族や友人の優しさ、義家族と亡き夫の想いに触れた麻緒は次第に自殺願望を失っていき・・・。

    「エンディングドレス=死に装束」という言葉に惹かれて手に取りました。ずいぶん昔ですが『貝殻の標本』という死に装束の展覧会を見たことをふと思い出し…。今は映画館のみになってしまった文芸坐の地下に、昔あった小さな劇場ル・ピリエで、調べたら1996年(Wikiにも載っててびっくり、ja.wikipedia.org/wiki/貝殻の標本)白くてひらひらふわふわした繭のようなデザインの、ウエディングドレスほど華美ではないけれど、とても素敵な死のためのドレスがとても印象的だった。まあこれは余談。

    正直、ざっと導入のあらすじを読んだだけで、経過も結末もわかってしまうと思う。愛する人を失い死ぬつもりでいた女性が、さまざまな人生の先輩たちの経験談に触れ、家族や友人の愛情に気づき、さらに新しい命が生まれたり逆に亡くなったりして、結果前向きに立ち直る。しかもポプラ文庫だし。(先入観)

    ただそこに洋裁、というツールが持ち込まれ、細部をしっかり書き込まれることで、結末がわかっていても気持ちよく読めて気持ち良く感動できる。小針先生が出す課題、二十歳のときに気に入っていた服、15歳の頃に憧れていた服、思い出の服のリメイク等々は、洋裁はできずとも自分ならなんだろう、どうするだろうとつい想像してしまった。そうやって読者も一緒にリハビリしていく仕組み。よくできていると思う。

    初めて読む作家さんだけど、デビュー作は「女による女のためのR-18文学賞」受賞作なんですね。本書はポプラ文庫だし(こだわる)そういう描写は2行くらいしかなかったです(笑)

    いちばん共感したのは、「『神田川』って女のひとがさきに上がって待ってるけど、フツー、女性のほうが長湯だよね」というセリフでした。でもこういう細部は大事ですよね。上下巻で1000頁越えのインド文学を読んでちょっと消耗していたので、予備知識なしで2時間あれば読める現代日本文学は良い息抜きになりました。

  • 可愛らしい装丁とタイトルのアンマッチが気になり読みました。
    表紙のイメージで読むと、裏切られるようなスタートで、なにやら不穏な空気を感じます。
    年配の裁縫教室の人との交流や、裁縫独特の無心な作業が主人公の、心を溶かしていくようでした。
    途中切なく苦しくなりますが、そこがまたリアルで
    読みやすい文章のなかでも重みの感じる本だと感じました。

  • 死ぬための準備を進めていた主人公。
    "死に装束を縫う教室"に通ううちに、少しずつ気持ちに変化が現れて来ます。


    「最後に着たい服」って言われても、思いつかない。
    白装束で良いや(笑)

  • 主人公は少し苦手なタイプだったけれども、周囲の人たちがすごく魅力的だったし、死装束を繕うことで、生きることを考え直すことになるのだなとしみじみ。
    次々と出される『課題』に自分だったらどんな服と答えるだろうかと考えながら読み進めることもでき、なにかと学びの多い一冊。

    何より帯のコメントが山本文緒さんで『人は生まれることも死ぬことも自分では選べないけれど、何を纏って生きるかは選択することができる』
    この言葉がなによりも響いた。
    2020年の発売の文庫だから、彼女がその時どんな状況でなにを思いながらこの言葉を書いたのかはわからないけれど、今は亡き彼女のこの言葉がより一層刺さる。

    何を纏って生きて、そして何を纏って死んでいくか。
    これはわたしたち全員に与えられた『権利』なのだから、ちゃんと考えて毎日のお洋服を選ぼうと思ったし、この先のこともいろいろ考えるきっかけになる。

    たとえば故人が『これを着せてほしい』と遺志を残しているならば、その思いにちゃんと寄り添うべきだな、と。
    灰にしちゃうなんてもったいないとか、誰かに着てもらう方が喜ぶとかそんな勝手な思い込みを押し付けるんじゃなくて、最後の願いくらい誰もが叶えられるようになってほしい。

    わたしもお気に入りのリトルブラックドレスにマノロ履いて旅立ちたいものです。

  • 夫が闘病の末亡くなり、32歳で未亡人となった麻緒。
    深い悲しみと絶望のなか終活を始めるが、「終末の洋裁教室」に通ってみることに。

    私は洋裁と聞くだけで拒絶反応してしまうが、「終末の洋裁教室」とは面白い。
    ミシンが使えなくても大丈夫なら、覗いてみたい。

    教室で出会う、どこか不思議で落ち着いた先生、それぞれが人生の物語をもつ3人のおばあさん達。

    毎月の宿題で向き合う洋服と、それと切り離せない人生がなかなか面白い。
    年が違えば生きてきた時代も違い、物語も違う。
    涙ぐむような話から、応援したくなる話まで、人生って面白いなと思う。

    自分だけが不幸で苦しいように感じてしまったり、そればかりではないと分かってはいるけど他人のキラキラしたようなひとコマにため息をついたりすること。
    人生の苦味を感じている人、感じたことがある大人におすすめしたい。

    私はどんなエンディングドレスにしよう。
    しのぶさんのような真っ赤でキラキラのドレスにして、笑っているように見られるのもいいな。

    どう生きるか=どう死ぬかだというのが私が昔から思っていること。
    生き方を必死に模索したり、もがくのを止めてただ流されてみたりするのだから、何を着てどう死ぬかを考えるのも悪くない。

  • 映像化して欲しい
    洋裁の先生は 深津絵里さんで

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著者プロフィール

1979年北海道札幌市生まれ、在住。2008年第7回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、2010年『自縄自縛の私』(新潮社)を刊行しデビュー。そのほかの著書に、『凜』(講談社)『エンディングドレス』(ポプラ社)『共謀小説家』(双葉社)などがある。

「2023年 『窮屈で自由な私の容れもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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