誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか (ポプラ文庫 や 4-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591166468

作品紹介・あらすじ

2014年、埼玉県川口市で当時17歳の少年が祖父母を殺害し金品を奪った凄惨な事件。少年はなぜ犯行に及んだのか? 誰にも止めることはできなかったのか? 事件を丹念に取材した記者がたどり着いた“真実”。少年犯罪の本質に深く切り込んだ渾身のノンフィクション。2020年夏公開予定の映画『MOTHER』(主演:長澤まさみ)原案。

感想・レビュー・書評

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  • 映画鑑賞してからの読書。
    映画は俳優さん達がみな素敵で、ただ話の中身がとても重く原案であるこちらの本も読んでみました。
    なんとも割り切れない気持ちになります。
    罪を犯した少年の持つ優しさや、逮捕後の彼の気持を知るにつれ被害者だった彼を加害者にする前にどうにか出来なかったのかと。
    ですが、彼は罪を犯してからようやく自分自身へ向き合う機会を持つことが出来るようになります。
    また自身の事だけではなく自分と同じ境遇にいる子供達のために発信もしています。
    彼を支援する側の気持ち、逮捕後の母親についても書かれています。
    沢山の人達に是非読んでほしいです。

  • 2014年、埼玉県川口市で当時17歳の少年が自分の祖父母を殺害し金品を奪った事件を取材したノンフィクション。

    いわゆる「川口市祖父母殺人事件」のルポルタージュです。
    当初は不良少年による遊ぶ金欲しさの犯行かと思われていた事件の裏にあった、根深い問題を描いています。
    金遣いの荒い母親、義父からの暴力、ラブホテルや野宿など、居場所を転々とする日々、働いて得た金銭は親に巻き上げられ、親戚や雇い主へ金の無心を繰り返しさせられ、そんな生活の中幼い妹の面倒も献身的にみていたという少年の姿。
    もちろん、犯してしまった罪は罪なのですが、少年自身も劣悪な環境で心を支配されてしまった被害者の一人でもあるのだと感じました。

    『誰もボクを見ていない』というタイトルですが、実際には少年を心配していた人は勤務していた会社の人間なり親戚なり宿泊していたモーテルの従業員なり、少なからず居たようです。けれど、自ら助けを求めない人間に対して踏み込んで手を差し伸べることはとても難しく、心配や関心はそこに確かにあったのに、それは少年には一切伝わらず、助けることもできないまま事件は起こってしまいました。
    作中で少年は、「できる範囲で自分の理想の社会と似た行動をしてほしい」と語っています。ニュースなどを見て動いた心を動かし続けて、自身が起こすべき行動を考えてほしい、と。
    今は社会情勢なども込み入っていて、自分のことで精一杯。人に無関心になりがちだと思いますが、この本を読んで感じたように、せめて自分の手の届く範囲では、人に対する「善意」をきちんと届かせたいものだと感じます。
    読んでる最中辛かったですが、読んでよかった一冊です。


    虐待による心の傷に向き合う子ども達と医師や里親のノンフィクションならこんな本も→
    『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』( 黒川祥子)

  • 2014年4月、川口市で祖父母を殺害した17歳の少年が逮捕された。お金目当ての殺害ということでニュースになった。
    世間では「遊ぶ金欲しさ」だろうという見方が強かったのだが、調べていくうちに少年の過酷な生い立ちやネグレクトが明らかになっていく…

    「川口市祖父母殺人事件」
    この本はこの事件を起こした少年の手記なども交えたルポタージュ。

    母親は金遣いが荒く、働くことをせず男に依存して生きている。少年の父親とは金遣いの荒さで離婚。事件を起こした少年は小学生の時からこの母親と母親の彼氏と共にラブホテルに宿泊したり、公園などで野宿などをしている。お金は全て知人からの借金や男が日雇いで働いたお金。少年は小学生の時に一度”捨てられ”ている。ネグレクトはエスカレートし、子供にお金の無心をさせるように。新しい男との間にできた赤ちゃんの世話は少年の役目だった。そんな母親の洗脳ともいえる心理支配でこの殺人事件を起こしてしまう。

    少年の手記や告白を読んでいると胸が苦しくなる
    毒母に支配され、ウソをつき、自分らしく生きることを全く許されなかった少年…
    そしてその少年を誰も助けることができなかったという哀しさ

    人と人の付き合いには必ず損得がある…
    としか考えられなくなってしまった少年の心

    「17歳という年齢から善悪は自分で判断できたはず」という心無い言葉…
    いや、子供の頃からネグレクトにあってたらそんな判断できるわきゃないよ!と声を大にして言いたい。

    というのは、一審のさいたま地裁の裁判官の判決内容
    もうね、ムカムカしてくる。
    「あなたはネグレクトされた子供のことなんて何も考えていない!あなたこそ少年の何も見ていない!」と言いたくなった。
    「この事件、誰が悪んだ?」なんて裁判官が聞くか~!?
    どうして裁判官みたいなエラい人って人の気持ちに寄り添えん人が多いんかな?勉強しすぎ?ネグレクトされてる子供が支配者にたてつくことなんてできないよ!
    父親にレイプされた少女の時だって「逃げようと思えば逃げられたのに逃げなかったのはあなたのせい」みたいなことを言った裁判官がいたよね~あ~ムカムカする。
    児童心理学とか習った方がいいよ。裁判官。

    で、上告。二審は東京高等裁判所。あ~なんかこの裁判官の言葉でなんか救われた気がする。少年も「ちゃんと見てくれている」…って思ったんじゃないかな。判決は変わらないけど内容的にはとても気持ちを汲み取ったものだと思った。

    少年は手記で「自分の事件が報道されることで、そういう子供を見かけた時に『もしかしたらあの事件のような背景があるのかもしれない』と気にかけて欲しい」と記している。

    生きなおし…
    少年の刑期は15年。
    罪を償って世間に出てもまだまだ人生は生きなおしできる。
    新しい人生を生きなおして欲しい…。

  • 映画の原案にもなった、
    いわゆる「川口高齢夫婦殺害事件」ルポ本の文庫版。
    著者は毎日新聞の記者で、事件当時さいたま支局に在籍し、
    行政担当から警察・裁判担当に配置換えとなって
    被告少年の裁判員裁判を傍聴して、
    取材・執筆へ――という流れになったとか。

    両親が離婚した後、共に暮らす母が再婚したものの、
    母にも継父にも基本的な生活上の能力や良識が欠けていて、
    少年は様々な形での虐待を受けていたという。
    少年は親の身勝手な振る舞いによって学校からも引き離され、
    いわゆる居所不明児童となっていた。

    2014年3月下旬、
    少年は母方の祖父母宅へ赴いて金の無心をし、
    断られたため両名を殺害してキャッシュカードを奪った
    とのことだが、直前に「殺してでも金を取ってこい」と
    母に威圧されたからだったと供述、
    しかし、母は殺人の教唆を否認。
    結果、成育歴には同情すべきだが、
    当時17歳で善悪の判断も出来たであろう年齢にもかかわらず、
    二人の命を奪ったのだから――と、判決は懲役15年。

    確かに殺人は
    あらゆる犯罪の中で最も悪質かつ重罪ではあり、
    犯人は厳罰に処せられるべきだが、
    このケースに関しては「ちょっと待った」と
    首を傾げざるを得ない。
    常に幼い妹(異父妹)を気にかけ、
    その安全を最優先していたかのような少年は、
    「殺してでも金を」と脅す母の傍にいる妹が、
    まるで人質に取られている風に感じられ、
    圧力に屈したのではなかろうか。
    だから、祖父母宅を訪問した時点で
    「母がとんでもないことを言っている」と訴えたり、
    第三者に助けを求めたり出来なかったのではないかと
    推測する。
    が、妹云々の前に、もっと引っ掛かる点がある。
    少年の母は自堕落で計画性がなく、
    生活費を手に入れても無駄な遊興で使い果たして、
    子供らに食事すら満足に与えていなかった……としたら、
    そもそも彼女のパーソナリティに
    著しい問題があったのではないか?
    それについては、
    少年を支援する専門家の指摘もあるようだ。
    「殺してでも金を」と言ったか/言わなかったか――
    で、少年と母、
    双方の量刑が変わってしまったことに胸が痛む。
    厳しく断罪されるべきは母親ではないのか、
    もし、当人が認めようとしない殺人教唆の証拠となる
    音声が録音されて残っていたら……と。

    事件の記録を読むと、どうも母親はEQが低い割に、
    傍に寄って来る異性の心を掴むのが異様に上手く、
    マインドコントロールとまでは呼べないにせよ、
    あらゆる場面で主導権を握って相手を操る術に長けている印象。
    少年は実の息子でありながら、
    彼女の「小さな恋人」役を
    担わされてしまったのかもしれない。

    何にせよ、社会全体が「不自然な子供」に関心を寄せ、
    必要なケアが出来る人・場所への
    橋渡しをしなければ駄目だと痛感。
    同様の惨劇を再現させないために。

  • 長澤まさみ主演の映画「Mother」を観て、この本を知りました。
    2014年、当時17歳の少年が埼玉県川口市に住む祖父母を殺害し、キャッシュカードなどを盗んだ。しかし、この殺害を指示したのは、実の母親だった。
    少年の生い立ち、社会の仕組み。居所不明児にならざるを得なかった背景と、その子どもたち、親たちへの対応の必要性。新聞記者が書いたノンフィクションでした。
    途中までは比較的淡々と、事件までの経過と事件後の流れが記されていますが、少年の手記を読んだとき、ものすごい衝撃が走りました。そして涙が止まりませんでした。深い、深い少年、でした。この手記をこの少年に書いてもらえた記者の方は一体どんな人なんだろう。

    誰もボクを見ていない

    そんな社会はどうしても嫌だと私が思うのなら、どうすればいいか。少年からの言葉をきちんと受け止められる人でありたい。そんな大人でありたい。

  • 映画を見て衝撃的過ぎて、調べると原作となった事件の取材記録が書籍化されているということです読んでみた。映画を見ていたので事件に至るまでの親子の環境については理解していたが、やはり壮絶。このような状況になるまでに本当に周囲の援助は得られなかったのかと思ってしまうが、少年の言葉でもあるように、助けてあげたい・こんな状況にならないような世の中にしたいと思ってくれる人たくさんいるだろうが、言葉だけでなく行動を起こしてほしいと。

  • すごく読みやすい書き方なので、事件のことがしっかりと心に入ってきた。ニュースでは見出しとちょっとした概要しか確認できてないので、どうしてこうなったしまったんだろう、というのがこの本でストンと心に落ち、とても辛かった。プライバシーの侵害や報復というのが怖くて、何か問題があるようなことへ手を差し伸べることに躊躇してしまう自分がいるが、この本を読んでもうちょっと踏み込んでみようという気持ちにもなった。いろんな人に是非とも読んで考えて欲しいと思った作品でした。

  • 映画『mother』を観てから読む。
    映画、結構変えてるな。。。
    母親に関する記述がほとんどないのでそこが少し残念かな。

    善意は働いても行動が伴わないということは、本当に良くある。
    理化学研究所の方の洞察は見事だね。でももし、性的違和感を伴っていなかったらとも思うとゾッとするところでもある。

  • 17歳の少年が祖父母を刺し殺してお金を盗んだ、6年前のこの事件のことは覚えている。
    最初の、「遊ぶお金が欲しくての犯行だろう、ひどい事をするもんだ」という程度の認識が事件の背景が報道されたとき、衝撃に変わった。
    小学五年生までしか学校に通わしてもらえず、その後は母親とその恋人と一緒にラブホテルで暮らしたり公園で野宿したりして生きていた少年。彼は祖父母や親せきに嘘をついてお金をもらい、そのお金を母親たちはパチンコなどにつぎ込む。想像の域を超えたその生い立ちに衝撃を感じた。でも、感じただけだった。
    6年後、文庫の形でこの事件と再会し詳細を読んで吐き気にも似た怒りがわく。
    なんなんだこの母親は!なんなんだこの義父は!ヒトの形はしていても中に血は通っていない。頭の中には、少し先のことさえ考えられない短絡的な脳みそ。そんな二人から受け続けた虐待。読んでいて苦しくなる。なぜそこまで…と。

    彼はなぜ祖父母を殺さなければならなかったのか。なぜ17歳という充分自活できる年齢にもかかわらず母親の元を去れなかったのか。本当の意味で加害者は誰なのか。
    読み終わった後も私はあくまでも部外者で傍観者で無関係な他人である。どこか遠くで起こった自分とは無縁の悲しい事件、という声が頭のどこかで聞こえる。けれどもしかするとすぐそばに同じような「彼」がいるかもしれない。搾取され虐げられ「助けて」という一言が出せない「彼」が包丁を手に握っているかもしれない。
    誰かのせいにするのは簡単だ。安全な場所から大声で「何かあったら声をかけて」というのも簡単だ。
    だけど「誰もボクを見ていな」かったからと超えてはいけない一歩を踏み出す前に、「見ているよ」「知っているよ」と発信することは難しい。そのあとの責任を考えると抱え込む自信がない。そんなたくさんの「私たち」や「社会」にこの本は覚悟を突きつける。
    あなたにできることはなんですか。と

    最後にそっと加えられた少年の持つもう一つの問題。彼の苦しみが消える日はくるのだろうか。

  • 辛く苦しい話だった。けれど充分に読む必要のある本のように思った。
    今もなおニュースで流れる「虐待/虐待死/貧困」問題はこの本が書かれてから何年か経ったが減る気配はなく、ただ毎回悲しい。悲しいけれど行動に移さないのなら永遠と負の連鎖が繰り返されるだけだ。私が何が出来るか、無理のない範囲で力になれるかを考えた結果としてオンラインでの署名をしてみた。これが良き結果になるかはまだわからない。けど、行動しなくてはと強く思った。

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