- Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591162651
作品紹介・あらすじ
一日百円で何でも預かります。東京の下町でひっそりと営業する「あずかりや」。13年前に封筒を預けた老女の真実、鳴かず飛ばずの中年作家はなぜか渾身の一作を預けようとし、
半年分の料金を払って手紙を預けた少女と店主が交わした約束とは……。ベストセラー待
望の第三弾。
感想・レビュー・書評
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「あずかりやさん 」シリーズ第3作。
1日100円で物をあずかってくれるお店、あずかりやさんのお話。あずかりやさんの店主は、盲目の青年・桐島である。
図書館には単行本のみの蔵書にて、単行本で読了。
現代は忙しい。
常になにかに追い立てられ、判断を迫られ、搾取され、期待され失望され、正しくあることを求められ、とにかくしんどく生きにくい。
でもこの本を読んでいると、そんな日々の時間がふと歩みをゆるめたような、そんな気持ちになれる。
本書には5本の連作短編が収録されている。
単独のお話としてももちろんおもしろいのだけれど、読み進めるほどに前の短編の端々の謎がつながっていくところもまた、おもしろい。
このシリーズでは、しばしば人間ではないものたちがナレーションをつとめている。
最初のお話「ねこふんじゃった」もまた、人間ではないものがナレーションをしている。
人間ではないことは冒頭でわかったものの、「なにが」ナレーションをしているのかはわからず…
でも店主の店には居るものなんだな…なんだろう…??とおもっていたら、まさかのノミでびっくり!
ノミ視点の語りが読めるのは、古今東西この物語だけではなかろうか?!
そしてこの「ねこふんじゃった」の内容は、第2作からつながる内容も入っているし、本書最後の短編「彼女の犯行」にも、ちらっとつながっている。
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第2作「桐島くんの青春」には、唯一、店主・桐島自身の一人称で進むお話がある。
しかしそれ以外のお話は今のところ、動物や物や他の人の視点でお話が展開されている。
桐島は主人公なのに、桐島視点のお話がほぼないところもまた、このシリーズのよさなのではないだろうか?
「あずかりやには商品がない、ということを長年わたしは気にしていた。でも最近、ここにも商品があると気づいた。それは『時』なのではないか。」
「あずかりやは世の中的にはささやかな存在である。しかしこういう余白があることで、救われるのではないだろうか。客も、ものも。」
(224ページ)
世の中は、結構かなりだいぶしんどい。
しかもそのしんどさの半分以上は、かなしいけれど人が作り出したものだ。
現実を見るたび、人が作り出したしんどさ、権力のある人が押し付けてくるしんどさに、どうしようもない生き苦しさを覚える。
でも、この本を読んでいる間は、ささやかなしあわせが、目の前にある。
しんどさをすこしの間、わすれることができる。
その間は、自分のなかに余白ができている。
あずかりやさんはきっと現実にはいない。
けれどこの本のなかでわたしは、たしかにあずかりやさんに「時」を商品としてもらっているようだ。
現実逃避と言われればそれまでだ。
逃避せずに生きられたらどんなにいいだろう。
その世界には本はあるのだろうか?
逃避せずともよく、そして本もある世界に生きられたらいいなとおもう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一日百円で何でも預かる<あずかり屋>なる不思議な商いをしている店を舞台にした連作集。
店主が盲目なので語り手は店主ではなく店主の周囲にいるモノ。
このモノの設定がなかなか面白い。
『社長』という名の、店で飼われている白猫に住んでいるノミであったり、預けられそうになっている原稿であったり、長年店に鎮座していた長時計であったり、店を見下ろすルリビタキであったり。
客の場合もあるけれどその客の語りが何とも心もとなくて訳あり気であったり。
モノから見る人間たちのドラマは何とも物悲しくて切なくて、それでいて温かい。
目が見えない店主だからこそ余計な視覚に振り回されず、物事や人間の本質を見つめられるのかも知れない。
逆にだからこそトラブルに巻き込まれることもあるのだけど。
生活感や感情の揺れがない穏やかで不思議な店主と、騒がしい点字ボランティアの相沢さんのコンビが楽しい。
またモノを預けては引き取りに来たことのない不思議な客の顛末も興味深かった。
店主の盲目という個性を上手く利用して、店主と客との程よい距離感を築いているのが良い。
遠すぎず近すぎず、客とバッサリ切り捨てるのではなく深入れもし過ぎず。
非現実的なようで日常の隙間に起こりそうで、寓話のようでリアルなドラマの部分もあり。こういうバランスは大山さんならではで面白い。
知らずに第三作の方を先に読んでしまったが、第二作では店主の話がメインらしいので、ぜひそちらも読んでみたい。 -
今回も心が温まるお話で、穏やかな気持ちで読み進めました。語り手が「ノミ」であるのには驚き、最後はホロッとさえした筆致に、著者の表現力の高さを感じました。
あずかりやさんシリーズ、やっぱりとてもよい作品ですね。どれも、忘れていた何かを思い出させてくれるようなお話でした。
第4弾も出ますよう、是非願っています! -
「あずかりやさん」シリーズ第三弾!続編が出ただけでも十分に嬉しかったのに、また「あずかりやさん」ワールドを堪能できるなんて心弾みます。
一日百円で何でも預かる、ちょっと不思議な商売。店主である盲目の青年・桐島君の佇まいが前から好きで、相手に踏み込み過ぎない程よい距離の取り方が心地よい。登場するキャラクターが、桐島君のことが本当に好きなんだな~ということが端々から伝わってきて、微笑ましいのだ。そんなところも、「あずかりやさん」に惹かれる理由かな。
一章ごとに語り手が異なり、それは預けられる物や周辺の動物だったりして、意外な語り手視点から物語を俯瞰することができるのもこのシリーズの醍醐味だよなと思っている。今回も、さーて誰(何)が語ってくれるのかなとわくわくしながらページを捲った。「え、あなた!?」とびっくりさせられるのが楽しいのであえてここでは触れないが、今回もやられたなぁ~。
ほろ苦く時に甘く、穏やかで優しいかと思いきやなかなかにシビアだったり、緩急の付け方が見事なストーリー展開。今回の個人的お気に入りは、「スーパーボール」「かちかちかっちゃん」だ。章タイトルでどんな話だかさっぱり想像もつかなかったが、どちらも人生の悲哀とその向こうに見える光の美しさを感じさせるストーリーで、沁みました。
また、既刊本を読み返したくなったなぁ。 -
シリーズ続いてたことを知り
図書館でまとめ借り。
素敵だなー。
ノミの視点!斬新!
前のお話からだいぶ時間が空いてしまったので
忘れていたことが多々あり。
覚えていたら、ハッとする場面もたくさんあったんだろうな。
ほっこりじんわり進んでいく。
こういうお話大好物だ。 -
盲目の青年が営むあずかり屋シリーズ 3作目。語り手は店に住んでいる白猫"社長"に取り付いているノミだったり、店の向井側のハナミズキに留まって鳴いているルリビタキだたり、古くから店の歴史を知る置時計だったり。
店を訪れる客は様々なれど、目が不自由なため余計な情報を入れない店主が、程よい距離感で接するところが心地よい。
買い物は百均店で一日3つまでと決めていた女性が、つい買いすぎたものを預ける為に訪れた"あずかり屋"で途切れていた記憶を呼び戻される「スーパーボール」
三十年間パッとしないままの作家が、雨宿りの為に入った店で店主と語るうちに心意気を変化させていく「かちかちかっちゃん」の2作が特に好み。 -
「あずかりやさん」の3作目。
壊されなければ永遠に近い命を持つこともできる『モノ』。
彼らの視点ならば、人間を見送る立場。
それは切ないことでもある。
今回は、小さな命、限りあるものがせいいっぱい輝くお話に、しみじみとした幸せを感じる。
店主にも、目が見えないという"限り"があるので、思いを分かち合えるところもあるのだろう。
と同時に、そういえばなぜか今まで無縁だった「俗世間のちょっとした悪意」に、あずかりやさんが巻き込まれる。
別世界が、細い路地でかすかに現実世界とつながったような感覚だ。
実際には刺されたくないし目にしたくないが…
ノミが健気過ぎてうるうるしてしまった。
『ねこふんじゃった』
くたびれたキリンのぬいぐるみを預けに来た親子。
代価におはじきを置いて行く。
あずかりやはごっこじゃないぞ!とノミは義憤に駆られる。
『スーパーボール』
奔放な姉と、両親自慢の出来の良い妹。
歳月を経て、彼女らの関係はどうなったか。
『青い鳥』
青くて美しい鳥。
短いとき、美しい歌声を響かせることが幸せである。
『かちかちかっちゃん』
"泣ける話"という陳腐な言い回しは極力避けたいけれど…
これはホンモノの、そういう話。
『彼女の犯行』
人と人との関係は…どちらにも物が転がらない水平な状態がいいのではないか。
長らくこの店で時を刻んできた古時計は、物を売る商売でない「あずかりや」の商いに疑問を感じていたが、あることに気づく。 -
1日100円で何でも預かるあずかりや。店主は目が見えない。社長という名前の白い猫が飼われている。あずかりやにはぬいぐるみ、スーパーボール、小説や手紙なんかがいろんな思いで預けられる。店主は理由も聞かず名前と預かる日数を聞き日数分のお金を貰う。