夏空白花

著者 :
  • ポプラ社
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591159521

作品紹介・あらすじ

高校野球100回大会の節目に、直木賞候補作家が魂を込めて書ききった、最高傑作にして到達点!

<内容紹介>
1945年夏、敗戦翌日。
昨日までの正義が否定され、誰もが呆然とする中、朝日新聞社に乗り込んできた男がいた。全てを失った今だからこそ、未来を担う若者の心のために、戦争で失われていた「高校野球大会」を復活させなければいけない、と言う。
ボールもない、球場もない、指導者もいない。それでも、もう一度甲子園で野球がしたい。己のために、戦争で亡くなった仲間のために、これからの日本に希望を見せるために。
「会社と自分の生き残り」という不純な動機で動いていた記者の神住は、人々の熱い想いと祈りに触れ、全国を奔走するが、そこに立ちふさがったのは、思惑を抱えた文部省の横やり、そして高校野球に理解を示さぬGHQの強固な拒絶だった……。

<プロフィール>
須賀しのぶ(すが・しのぶ)
1994年『惑星童話』でコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞しデビュー。2013年『芙蓉千里』三部作で第12回センスオブジェンダー賞大賞受賞。16年『革命前夜』で第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補。17年『また、桜の国で』で第156回直木賞候補、第4回高校生直木賞受賞。17年『夏の祈りは』で「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」1位、「2017オリジナル文庫大賞」受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。

    日本の夏といえば、甲子園。
    終戦直後の日本で、高校野球復活のために奮闘した新聞記者の姿を描いた小説。

    タイトルは「なつぞらはっか」と読む。
    夏空に白球が飛んでいく様を喩えたのか、と思ったら違う。夏空の下、グラウンドを走り回る白いユニホーム姿の選手のを譬えたのだという。

    敗戦の1年後に、焼け野原の中で、主要な球場を接収された中で、高校野球の全国大会が開催されたなんて、よく考えれば奇跡だ。そんな奇跡が目の前で繰り広げられれば、選手たちはまさしく希望の真っ白な花のように、観客の目には映っただろう。

    なぜ、日本において、こんなに野球が他のスポーツに比べて特別扱いされているのか?また、なぜ、日本にとってアメリカという国は特別なのか。
    この本を読んでよくわかった気がする。

    著者の須賀しのぶさんは、僕と同じ年代の方。
    そのせいか、野球というスポーツに対する距離感がとても似ているな、という印象を持った。
    野球への愛情を持ちながら、「野球道」からもアメリカン・ベースボールからも距離を置いた目。ただの感動物語でないところがさらに良い。

    本屋大賞2019 1次投票第17位

    • やまさん
      たけさん
      こんばんは。
      いいね!有難う御座います。
      やま

      【レビュー番外】
      続揺(ぞくよう) 禁裏付雅帳シリーズの9作目です。...
      たけさん
      こんばんは。
      いいね!有難う御座います。
      やま

      【レビュー番外】
      続揺(ぞくよう) 禁裏付雅帳シリーズの9作目です。
      上田秀人さんの本は、「勘定吟味役異聞」シリーズから読み始めたのかな?
      はっきりは覚えていませんが、旗本・水城聡四郎(本の主人公)が最初だったと思います。
      新刊が出たら読んでいますから、もう10年以上読んでいると思います。
      読んでいてあまり面白くないが、ついつい読んでいる、読める字の大きさの本は、ほぼ全て読んでいると思う。
      中でも好きなのは、「妾屋昼兵衛女帳面」シリーズと「百万石の留守居役」シリーズです。
      妾屋昼兵衛女帳面シリーズは、完結していますが。
      百万石の留守居役シリーズは、まだ続いています。
      上田秀人さんの本は、物語を楽しむというよりは、人の心の裏を見るよう本が多いです。
      この本は特に、人の心の動きを書いています。
      読後感が良いとは言えない本です。
      しかし、出版されるとすぐ読んでいます。変な作家です。
      2019/12/11
  • 野球について私は興味なかったけれど、凄く胸が熱くなる作品だった

    戦後の日本
    困窮が続く中で甲子園を再開するために尽力する
    甲子園の場面はほぼなく、甲子園を復活させるまでの物語
    そして甲子園を復活させるために尽力した男の物語
    米兵が統治する中、直談判に行き用具を集める
    並大抵の覚悟では出来ないことだろう
    甲子園という存在が朝日新聞のもと運営されているのは知らなかった
    それが今でも続いているのはとても凄い
    甲子園の存在は、過去の先人たちがどうにか若人の為に再開したいという熱い想いが今に続いているのかもしれない
    そんな昔から野球が、甲子園が行われていたのだと
    そういった歴史の中で培われてきたのだと
    物語が本当にあった事だとは限らないけれど、それでも戦後に復活させるのは本当に覚悟が必要だっただろうと思ってしまう
    過去の甲子園の夏空も、さぞ美しいものだっただろうな


    この物語とは関係ない話ではある
    正直、丁度戦争の別作品を読んでいる最中だった
    それは戦時中の特攻隊の物語
    それを読んでいる時にこの物語を読むと、日本はなんて呑気なんだろうと思ってしまう
    でもたぶん、実際に徴兵されない人々はこんなものなんだろうなって
    戦後、徴兵されたもの達が戻ってきたら食糧に困る
    その言葉が別作品を読んでいるからこそとてもとても苦しかった

  • 「夏空白花 」 須賀しのぶ(著)

    2018 7/24 第1刷 (株)ポプラ社
    2018 11/27 第5刷

    2020 4/13 読了

    命を懸けて感涙を流す。

    そんな物語は終戦を告げる
    玉音放送から始まります。

    暑い暑い夏に
    新たなそして熱い熱い思いを野球に賭ける男達。

    戦後の混乱期の中でも
    野球は日本において特別なスポーツでした。

    こんな熱い思いで生きる事は
    もう今後人類には訪れないのかも…

    こんな物語やこんな人達がいたって事は
    もう小説の中にしか存在しなくなるのかも…

    そんな気もする昨今です。

    史実に基づいた物語の最後は
    当然知っているわけですが

    涙は止まりませんよそりゃ。

  • 初めて読む作家さん。
    以前、某公共放送の歴史番組で、終戦わずか一年後に開かれた高校野球(当時は中等学校)の大会について視聴して驚いたことがあったが、この作品はその史実をさらに深掘りしてあって興味深く読んだ。
    主人公が夏の甲子園大会の主催者である朝日新聞の記者でありかつて甲子園でプレーした球児であるものの甲子園で苦い思いを残したままというキャラクターならではの視点、そしてGHQ側、つまりアメリカ側から見る日本の「野球」とアメリカの「ベースボール」との違い、更には戦時中難しい立場で生きてきた日系人、更には当時すでに甲子園があこがれであり目標でもあった球児たちや球児たちを取り巻く大人たち、それぞれの視点や言い分、胸に秘めた思いなどが公平に熱く語られていて、その点でも興味深く読めた。
    夏の大会再開に漕ぎ着けるまでの様々な苦労や交渉はもちろんだが、いろんな人々の葛藤も描いてあって良かった。

    終戦直後で誰もが生きていくのに必死だったとき、今日食べるものすら手に入るかどうかわからない、そんなときに野球大会を再開するなんてトンデモ話だと今でも思うが、それを一年で本当に開いてしまうのだからすごい。
    そして実際にこんな苦しい状況の中でも地区予選を勝ち抜いて全国大会にやってきた中等学校の球児たちの熱意、決して安くないチケットだったにもかかわらず満員の観客がいたということにも驚かされる。
    さらに言えば、当時はプロ野球より人気の高かった東京六大学野球や、職業野球と呼ばれていたプロ野球も再開していたことにも驚く。
    人が生きていくためには食料やお金だけではない、なにか熱中できるものが必要なんだと改めて思う。

    一方で現在でも大会が開催されるたびに巻き起こる議論、日本ならではの精神論や「野球道」についての厳しい指摘もあり、このあたりも考えさせられた。

    最後まで読み終えて、タイトルの意味がわかる。その情景を想像しただけでも感動する。

  • 毎年当たり前のように観ている"甲子園"。そこには敗戦の後、たった1年で復活させるのに幾多の苦労や苦難があったのだと、この作品を読んで思い知らされました。当時甲子園がアメリカ軍に接収されていたなんて初めて知りました。そんな当時の事実を背景に、実在した選手も絡め、フィクションの小説にしている須賀しのぶさんの作品は本当に面白い。以前読んだ「また、桜の国で」と同じように、海を越えて探している人がいて、そのオチが最高に面白かった!
    須賀さんの作品、他にも読んでみたいなって思いました。

  • 高校時代に野球部のマネージャーをしていた身としては野球の美しさと残酷さを痛いほど知っているので、描写がとても突き刺さった。
    正直主人公の神住があまり好きになれないまま終盤まで読み進めたけど、それを差し引いても戦後一年で高校野球を復活させるという物語は魅力的だった。どんなに辛い状況でも、それが心から楽しめないものだったとしても、甲子園がたった一年で復活したことには大きな意味があったと思う。
    沢村をはじめ、戦争に散っていった色んな選手のエピソードを知れたのもよかった。

  • 現代の高校球児、その時代は中等学校の球児だった朝日新聞の記者が、終戦直後に高校野球を再開させようと奮闘する。

    史実にもとずくフィクションは大好物です。
    初めは読みにくく、気づけば流し読みとなっていて、もしかして合わないかも?と残念に思っていましたが、ジョーの秘密に到り、ビビビと来てしまい、改めて初めから読み直しました。

    高校野球再開に奔走する神住の熱意が今ひとつつかみにくい感じでしたが、この時代にあれだけの行動力は熱意なくてはできないことかと、後に読み込みきれていなかったことに反省しました。

    高校野球、六大学野球、プロ野球の当時の立ち位置が、今とは少し違うようでとても興味深かったです。

    近いうちに「二つの祖国」を読む予定です。
    タイミングも良かったと思います。

  • 著者作品は3作目。
     ドイツが好きで、ヨーロッパの近現代史が得意分野と思っていたが、高校野球を題材にしたものもあるのも知っていた。その著者が、2018年夏、高校野球100回大会の節目に世に送り出したのが本書。

     大戦後1年で復活を果たした高校野球。その史実を基に、その復活までの尽力を、朝日新聞社運動部の一記者神住を軸に描く。
     舞台は、1945年夏の大阪、物語はあの玉音放送から始まる。それまでの正義、価値観がひっくり返り、食うや食わずの焼け野原の中、敗戦翌日からストーリーは動き出す。
     物質的な困難は容易に想像つくが、GHQの存在、文部省との綱引きなど、周辺には多くの障害があったことを、ひとつひとつ丹念に描いている。そのあたりは、さすが歴史もの作家という筆致だ。読みやすい。

     予想外だったのは、野球の普及には、当然、それを国技とするアメリカの強力な後押しがあったからと思っていたが、大リーガーに代表されるプロが魅せる“ベースボール”と、なぜか、当時は六大学に代表される学生のゲームが人気を博していた“野球”との違いに、アメリカ側=GHQが異を唱えていたという点。
     職業野球は読売グループが東京を中心に動いており、六大学野球もまた別の動きをしている中、関西では甲子園球場での高校野球の再開に向け、朝日新聞が奮闘する絵図が面白い。思いもよらない障害が、内外の要因で錯綜する。

     歴史的事実も実に興味深いのだが、そのような史実の後追いだけではないのが、この著者の巧いところ。主人公の神住を、かつて夢破れたの高校球児とし、さらには沢村栄治の同世代に設定した。熱狂する甲子園、それに翻弄される若者の夢、挫折の心情にも触れる。さらには戦争で徴兵される無念を沢村の人生に象徴させる。
     また記者の立場として、地方を巡り当時の日本の敗戦直後の実情を描き出し、同僚たちの会話から、記者魂の他、マスメディアのあるべき立場、世間に対する責任までを論じようとする、実に欲張りな内容になっている。戦中、“紙の爆弾”(=大政翼賛の新聞記事のことだ)を放ち続けた新聞、その中に居た人間たちの生身の苦悶が生々しく描かれている。
     史実部分より、実は、そうした同僚、先輩記者、カメラマンとの熱い会話が読み応えあったりする。さらには、妻美子が神住に放つ言葉は夢ばかり求めがちな男どもへの痛烈な警鐘に聞こえた。

    「あんな、動機なんてどうでもええねん。言うとくけどな、調子乗っっとった男は、なんやうまくいかへんなった途端に、すぐ行動理念やの何やのと目に見えんこと言い出すけどな、そうなったらまずろくなことにならへんからな。戦争がええ例や。あんたらすぐ、精神論に走って目的見失って迷走して取り返しのつかんへんことになるやんか」

     占領軍のアメリカ側とに芽生える不思議な友情も見ものだ。“キベイ”という存在も本書で初めて知った。「イッセイ」でも「ニセイ」でもない「キベイ」。多くの英語辞典に“kebei”という単語として掲載されている特別な意味をもった言葉。その運命を背負った一人の男が、学生野球の存在を良しとしないアメリカ側を説得する切り札として登場する意外性と、フィクション部分ではあろうが、アメリカ軍vs日本軍で合いまみえるテストマッチの清々しさ。 野球世代には響くものがある、実に読み応えがあった。なのに、平易な文章で読みやすいんだなぁ、これが。

     あと巧いと思ったのは、タバコの使い方。昭和の記者は、ぜったいヘビースモーカーだったろうなというのがよく分かる。時代感を出す小道具としてタバコが活きている。また「朝日」という銘柄のタバコがあったのを上手に使っている点にもニヤりとさせられる。
     細部にまで配慮の行き届いた、なかなかニクイ作品。

  • 毎年夏になると新聞もテレビもこぞって野球一色になる。
    ずっとマイナーなスポーツをしてきた身にとしては、ちょっとうらやましいようなねたましいような、そんな気持ちでいつも見ていた。
    それでも白い球を必死で追う姿に、そして勝っては泣き、負けてはなくその姿に、ついついもらい泣きするのも事実。
    もともとそれほど野球には詳しくないけれど、それでも沢村栄治やスタルヒンの名前は知っていたし、終戦の翌年にはやくも甲子園大会(場所もちがうし「高校生」でもないけれど)が開催されたことも知っていた。
    けれど、その「大会」の開催のためにどれほど多くの人の、どれほどの苦労があったか、ということは全く気にしたこともなかった。毎日の暮らしさえままならぬ日々の中で、道具も、場所もない中で、よく開催されたしみんな参加したよね、とそれくらいの認識だった。この本を読むまでは。
    なんていうのか。どのスポーツにもそれぞれに歴史があり、意義があり、歴史がある。だけど、この「終戦の翌年」に「学生の野球大会を開催する」ということには、この国が背負う未来への可能性の全てが込められていたのだろうと思う。
    主人公の記者が抱くさまざまな思い。それはあの時、この国に生きていたすべての人の中にあったものなのだ。
    価値観がひっくり返され、何を信じて、何を目指して生きていけばいいのかわからない光の見えない時代に、たった一つの白球でつながる未来はどれほどまぶしかったことだろう。なにかを信じて生きること、その意味と意義。
    そうだ、これは一つのスポーツの物語なんかじゃない。過去を、今を、そして未来を生きる、すべての人が心のどこかにいつもとどめておくべき矜持の物語なのだ。

  • 戦争による高校野球の中止。終戦後に再開させたくてもなかなか目処が立たないなかなんとしてもという決意のもと動き出す神住。野球に対する強い想いと元球児としての願い。GHQの壁。困難なことがたくさんある中で日本の復興のひとつのシンボルとして野球を、それも高校野球の復活。アメリカ側とのやりとりで見えてくる日本のこれまでとこれから。野球とベースボールの違い。戦争の悲惨さと立ち直ることの難しさ、全てを受け入れて進むこと。その大変さ、苦悩、悲しみがある。だけど野球に願いを乗せて、球児に未来を見て、そしてタイトルの意味がわかるラストにある希望。とても素晴らしい物語。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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