誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591154601

作品紹介・あらすじ

一歩踏み込んで何かをすることはとても勇気が必要だと思います。その一歩が目の前の子供を救うことになるかもしれないし、近くに居た親が『何か用ですか?』と怪訝そうにしてくるかもしれない。やはりその一歩は重いものです。そしてそれは遠い一歩です。(中略) 
つまり他人、子供への関心、注意を持っていなくては二歩も三歩も子供との距離があります。いや、子供の存在にさえ気付いていないかもしれません。だから、自分が取材を受ける理由は世の中に居る子供達への関心を一人でも多くの方に持っていただく為の機会作りのようなものです。
                                                        (「少年の手記」より)
2014年、埼玉県川口市で発生した凄惨な事件。少年はなぜ犯行に及んだのか? 誰にも止めることはできなかったのか? 事件を丹念に取材した記者がたどり着いた“真実”。少年犯罪の本質に深く切り込んだ渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 2014年3月、埼玉県川口市で発生した強盗殺人事件。
    70代の老夫婦が当時17歳の少年(孫)に殺された。
    殺害の動機は、金目当てだったと報じられた。

    日々目にする新聞には、切り取られた一部分しか掲載されてない。
    それ以前の少年の生い立ちやそのときの様子も詳しくは知らなかった。
    今回改めて少年犯罪の本質に迫るノンフィクションを読み、当時の毎日新聞には「居所不明児 無援の年月」という見出しで掲載されていたことを知った。

    ここ数年、居所不明児となる児童を聞くが、それは親が子どもを捨てたり、もともと戸籍がなかったり…だとばかり思っていたが、この件は母親と一緒に行動を共にしながら学校へも行かずに野宿したりホテルを転々としていたことだ。

    過酷な境遇で育った少年は、本来事件前に福祉行政が保護すべき「被害者」だった。
    誰もが気づかずに見過ごしていたが故に、じわじわと追い詰められ事件を起こし「加害者」となった。


    なぜ母親から離れなかったのだろうか。
    母親にコントロールされている部分が大きかったように感じるが、信頼できる大人と接する機会が極端に少ない気がした。
    社会的に孤立している状態である。

    どこにも居場所がない…そんな子どもが少しでも減ればと思う。



  • 同じ埼玉県内の事件だったのでよく覚えている。17歳の少年が金品
    目当てに祖父母を殺害した。事件発生当初は「また身内による殺人
    か」と思って気にも留めなかった。

    だが、事件の背景が報道されるにつれ、少年が送って来た過酷な生活
    を知り、「なんでこんなことになったのか」といたたまれない気持ち
    になった。

    少年はいわゆる居所不明児童だった。両親の離婚、浪費癖があり
    経済観念ゼロ、生活能力のない母と生活が徐々に少年を追い詰めて
    行く。

    学校に通ったのは小学校の5年生まで。その後は一時、生活保護を
    受けてフリースクールに通うようになるのだが、お金が必要である
    にも拘わらず「行政に監視されているようで嫌だ」という母の主張
    で用意された簡易宿泊所から突然姿を消してしまう。

    母、義父、義父との間に生まれた13歳離れた妹と一緒にホームレスの
    日々を送ることもあったし、義父の日雇い仕事を唯一の収入源として
    ラブホテルに泊まり続けたこともあった。

    生活を立て直す機会は何度かあった。ただ、この母親自体に精神的な
    欠陥があったのではないかと思う。生活が困窮しても働こうとする気
    は一向にない。一方で、少年に嘘を吐かせて親戚に金の無心をして
    いくばくかの現金を手にしてもパチンコやゲームセンターですぐに
    使い果たしてしまう。

    こんな生活で家族がうまく行くはずもなく、ある日、義父が行方を
    くらますと一家の生活は少年一人にのしかかって来た。

    少年は完全に母親のコントロール下に置かれていた。そして、少年も
    母親を唯一の拠り所としていた。極度の共依存が、悲しい事件の引き金
    になったではないだろうか。

    事件を起こすまで、少年の周りには救えたはずの人物もいた。どうにか
    見つけた勤め先には、少年を一人前にしようと考えていた人もいた。
    だが、すべては母親がぶち壊して行った。

    本書では少年の生い立ちや事件に至るまでの経過、その後の裁判の様子、
    この少年のような体験をしてきた子供たちを、どのようにすれば救う
    ことが出来るのかを記されている。

    祖父母を殺害した少年の罪は消えない。この点に関しては少年は明らか
    に加害者だ。しかし、加害者になる以前、少年はセーフティネットから
    こぼれ落ちた被害者でもあったのだ。

    「決して(あなたに対する)非難ではないのですが、誰か少年を助け
    られなかったのか。こんなになるまで放っておいて。これだけ大人た
    ちがそっていて」

    一審のさいたま地裁で裁判長が被害者遺族(少年の母の姉)に問うた
    言葉が胸に突き刺さる。親としての責任を放棄した母親から少年を
    引き離すことが出来ていたら、懲役15年という更なる日々の喪失も
    防げたのかもしれない。

    願わくばこの少年のような子供が増えませんように。そうして、出所後
    の少年が今度こそ、自分の居場所を確保できますように。

    尚、少年の供述では祖父母殺害は母親の指示だったそうだが、裁判では
    共謀は認められなかった。埼玉県警は共謀で起訴したかったらしい。

  • 以前ニュースで報道された時も、印象に残っていたが、
    去年の末頃にその背景を報道番組で特集されてて、
    少年の過酷だった17年という時間を知って強烈に衝撃的だった。

    こんな事ってあるんだ。こんな親がいるんだと。
    ただ救いなのは、この少年が妹を思いやれていた事。
    学校に通わなくなっていても、彼の私記はしっかりとしたまともな文章だ。
    のちに支援もしたいという声も多いという。
    彼のその先の人生が少しでも明るくなる事を願っていたい。

  • 埼玉県で起こった祖父母を殺害した孫の事件。
    事件を聞いたときは、家庭内暴力なのかなと勝手に想像していたのを思い出した。
    私自身は、特に事件の詳細を知らないまま、時が過ぎていった。

    他の方のブクログのレビューコメントをみて、孫の境遇や事件の複雑さを知った。

    幼少期から過酷な境遇にあり、自分を認められるという状況にない。母親は浪費癖だけがあり、働かず、家庭は壊れている。それでいて唯一の肉親である親に対する飢餓感はあり、愛をもとに脅迫してくる親の闇を感じる。

    戦争などでも、人として絶対に行ってはならないようなことが平然と行われている異常さがあるが、この事件にもそれと似たような感覚を受ける。

    何故、祖父母を殺さなければいけないのか、まったくロジカルには説明できない。人としてやってはいけない行為、それが判断つかなくなっている状況、実はそれは、マインドコントロールほどでもないとしても狭い社会、(この事件の場合は母親と息子という狭い人間関係)、そしてそれが異常なかけひき、人にたいする圧迫により、発生してしまっている。倫理観や並行感覚のある考えは、そんな中崩れ去っていた。

    冤罪事件などで、長い期間拘留され、刑事に脅され続け、嘘の自白をしてしまうのも、この種の問題と類似するのではないかと思う。

    また、パワハラに耐える社員、組織ぐるみの不正。
    家庭内暴力における家族の関係、アルコール依存症の家族に対するイネーブラーの補助による悪循環。

    "正常”な感覚では理解できないことが、極限状態の場、小さな世界での限界の中で容易に起こる。基本的に一人の人間の精神はもろく弱いものだと思う。

    そして、家族の中で、子供は一番弱い存在で、絶対に守られなければならないはずだが、犠牲になっている。
    本来守るべき親などが、自分自身もどうにもならない状況の時は、本来家族を引き離すのが一番良いのではないか。
    が、外から言うほど、問題は簡単ではないと思う。
    家族という複雑な関係、繋がり、尊重されるべき関係性、その関係がおかしくなっている場合、社会がどの程度介入できるのか、介入すべきなのか。課題は複雑で、深い。

    加害者が手記でいっているように、周りが、社会が、抑圧された子供たちに感心を持つこと、まずはここからだとは思う。

    孤立した人間に対して、周りがいかにサポートし、社会と関わり合いを持つようにできるか。

    この本は少年へのインタビューを基に構成されているので、当然少年の目線になっている。
    本当にかわいそうな状況だと思うし、空疎な存在となってしまった少年の悲劇を感じる。

    ただ、やはり主観的な印象は否めず、母親の視点、被害者の視点での深堀や、一人の加害者としての存在を少し多角的に記載してもらえると良かったと思う。

    犯した犯罪自体はやはり罪深く、償うべきものだから。

  • 2014年に埼玉県で起きた川口祖父母殺人事件 。
    17歳の少年が祖父母を殺害し、お金やキャッシュカードを奪って逮捕された。母に指示され、「母親と妹を生き延びさせるために必要な悪だ」と少年は殺害を正当化した。

    少年と母親が逮捕された後、母親の信じがたい浪費癖と虐待の事実がわかり、世間は少年に同情を寄せる。
    懲役15年の判決を受けた少年は「自分のような子どもをこれ以上生み出してはいけない」という内容のコメントを弁護士に託した。

    「こんな社会になってくれ」と望むだけで、行動しなければ意味がない。できる範囲で自身の理想の社会と似た行動をすればいい、と少年は手紙で記者の質問に答える。

    ”平等な社会を望むなら普段から平等に物事や人を扱ってください。
    差別のない社会を望むなら普段から差別をせず人を見つめてください。
    貧困のない社会を望むなら普段からそのような人を見つけたら助けてあげてください。
    そうすれば社会全体が理想に近づくのには時間がかかっても、自身の周囲だけは理想の社会になると思います。”(P189 少年の手記より引用)

    母親が懲役4年6ヶ月と短すぎる刑期であることには到底納得できないが、少年の手記には強く同意させられた。
    30代前半で出所した後、少年は社会で強く生きていけると思う。がんばってほしい。

  • 前半は読むのがとても苦しく、もう途中でやめてしまおうかと何度も思った。
    それでも読み進め、少年の手記の箇所に辿り着き、そのとき、この本を手にとって本当に良かったと思った。ただ暗い気持ちになって終わりではなく、読後悲しみややりきれなさのなかにも、なにか澄んだものが自分の中に残っているのがはっきりと分かった。

    憎しみや悲しみを投げやりにぶちまけることなく、(本当はそうしてほしいとも思う)、分解し、再構築できる透徹さ。その上で自分自身の悲しみもきちんと尊重し、譲らない部分は決して譲らないという矜持。
    言葉に言葉を重ねる慎重さ、滲み出る優しさ。

    振り返れば彼を救えたタイミングというのはいくつもあったであろうことがやりきれない。

    15年という月日はあまりにも長い。
    判決には納得できない。
    それでもこの聡明さがあればきっと大丈夫だと思うから、手に入れられなかったものや失われた年月を心に抱えながらもどうか生きていってほしいと勝手ながらも願ってしまう。
    そしてこの少年が何かを記しているのであれば、私はいつかそれを読んでみたいと思う。

  • どんなに同情したり、心を痛めたとしても、行動を伴わない「善意」には現実を変える力はなかったのだ。(頁224 筆者の言葉より)

  • ひどい話だが、記録を残しておかねばならない。比較する訳ではないが、きちんとした記録になっていると思うし、余計な考察やこじつけの結論をゴリ押ししない筆者の姿勢を評価したい。

  • 祖父母を殺した少年事件の話。記憶にあるような気がしていたけど、たぶん、ネット上で記事を見たのかもしれない。



    小学5年生から学校には通わず、ホームレースになり母と妹のために働いていた少年。
    お金を得るために祖父母を殺せと母親に言われて殺した。



    読めば読むほど、欝々としかしない。
    色んな虐待ものを読んだけど、最終的に『子供が死ぬ』パターン読んだことがあっても、『人を殺す』パターンは初めてだなと思った。
    でも、親子関係というのはある種の『強力なマインドコントロール』が出来てしまう関係だと思うので、なんでもできるんだなと思った。

    怖いのは、書いてある事がある程度事実だとすると、少年はかなり賢くて勤勉な人間だなと思える。
    この親の元に育たなければ、もっと有望な将来があっただろうにと思えるほどには、賢い。逆に書いてある事が全て少年の嘘だとしても、少年は賢い。
    相手がどう思うのかが分かっていないと、他人をだますことは出来ないのだから。



    事実か嘘かは、一旦脇に置く。



    少年は母親にこれでもかというほど、振り回されている。保護の手が差し伸べられても、唐突に引っ越しを決めふらりと家を出る母親について行く。暴言や暴力は当たり前で、性的虐待まである。
    そして、妹に対する『暴力の強要』までされている。



    これでもかというほどの、虐待のフルセットにお腹がいっぱいです。



    同時に、『どうやったら、そんな母親になるのか』の方が気になった。
    本に書いてあるのは、『母親には会えなかったので、どんな人物か分からない』という事だけ。

    周囲の話から、母親の親(祖父母)は「普通の人で、子供(母親の事)を可愛がっていた」という話だったということだけ。
    だったら、なにがどうしてこんな人間になれるのだろうか。



    子どもを働かせて、子供に対して『お前のせいで生活が苦しい』と責めたて、お金を用意させる。
    虐待としては、ありきたり……なのかもしれないが、親のその思考をどうにかしなければ、子供は救われない。

    少年はまだ若くやり直しの機会がいくらでもあるが、母親はまだ『妹』に接触する可能性があり、妹を風俗で働かせて少年の代わりをさせる可能性がある。
    少年の事件は人を殺して終わりになったけど、妹にはまだ終わらない悪夢が残っている可能性がある。
    次に死ぬのは、『妹』の可能性もあるわけで……そしてそれはきっと、『事件』にはならないかもしれない。



    少年の事件の話なので、『少年にたくさんの支援者がいる』という話で終わりになったが、私はそれより『妹』と『母親』が再び接触する可能性があると書いてある方が、ホラーだと思った。性風俗に沈められる娘は注目を浴びない。



    救われない。

    親の権利が強すぎて、子供は踏みつぶされるだけ。

  • 17歳の少年は、その日のお金を工面するためだけに祖父母を殺害。
    彼の生活は両親、妹と共に、学校に行けない、ホテルや野宿暮らしの生活を4年も続けていた。
    両親からの身体的、性的、心理的虐待の中、それでも母親に従うしかなかった彼への長期にわたる洗脳。
    殺害したのは彼かもしれないが、その環境から助けられなかった社会にも問題がある。
    自分の子どもには、何ができるか。
    子供のためにどんな社会を作りたいか、できることを始めたい。

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