([お]13-1)クローバー・レイン (ポプラ文庫 お 13-1)
- ポプラ社 (2014年8月5日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591140987
感想・レビュー・書評
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出会った本たちと私との出会いはもしかしたら出会うべくして出会ったものなのかなぁと、でも…中にはもしかしたらものすごい奇跡によって出会えた本もあるかも知れない。そして、その偶然のためにたくさんの人たちが想いを胸に奔走し、作品の中にその想いを込めて、私との出会いの橋渡しをしてくれていだのではないか。だったら、単に読むんじゃなくて、作者の、作品としての想いを聴いて、観ないともったいないと思わせる物語であった。
一冊の本ができるまでの…と、いう点では「舟を編む」もそうであったが、辞書編纂との違いを改めて感じる。1冊の本が書店に並ぶまでに、作者、編集者、営業マン、販売員の想いを介していくのはわかっていたことであるが、『あぁ、この人たちは、こんな願いを持って私たちに本を届けているんだ』と1冊の本が持つ価値とその意味を考えた。
これと思う本が手に入らない時、私は表紙絵で選ぶ本を傾向がある。今まで、何となく読書行為という点で失礼ではないかと思っていた。その本の内容を無視して、表紙絵、挿絵が自分の好みかどうかでその本の好き嫌いを決めているような気にもなっていた。
その本のイラストレーターの方に対しても、が、表紙絵で選ぶことも編集者の想いが感じていることなんだと思えた。(ちなみに私が今まで読んだ本の中で好きなカバーは梨木香歩さんの「村田エフェンディ滞土録」の単行本表紙絵である。)
老舗にして大手の出版社である千石社に勤める工藤彰彦は、入社して7年目。書籍の文芸部門に異動して3年目の29歳。贈呈式のパーティ会場で久しぶりにベテラン作家の家永嘉人を見かけて、声をかける。酔っ払っていた家永を家まで送り届ける。そして一人住まいの家永の家で原稿を見つける。『シロツメクサの頃』…偶然読んでしまった原稿を彰彦は編集者として本にしたいと思う。しかし今の家永くらいの人気では千石社から本にすることは難しかった。
それでも心から感動する原稿に出会い、本にしたいと奮闘する情熱は、同じ編集部の先輩・赤崎恵理子、編集長・矢野、営業部の若王子を巻き込んで前進していく。その姿がとても真っ直ぐで心打たれる。
登場人物のそれぞれの個性も特徴的で、彰彦だけでなく、例えば、営業部の若王子やライバル会社の相馬出版の国木戸にしても人間味があって、個性的で芯が通った人間なんだろうということがわかる。決して悪役の立ち位置ではない。また、人と人との絡み、繋がりも丁寧に説明されている。
そして、登場人物だけでなく、状況描写や自然の描写、何と言っても雨だ。
タイトルにさりげなく「レイン」を入れている意味がところどころにでてくる雨の描写により、作者の「雨」に対する気持ちが心に響いてくるようだ。
とても素直な文章で美しい自然の描写。読んでいて心が澄んでいく、より理解が深まる感じがした。
「雨の降っている窓辺に、ガラスのコップが置いてあり、さりげなく野の花がさしてある。」と表紙絵について話をしている場面がある。まさにこれがタイトルのことなのかと、こんなところにまで伏線があったと思ってしまった。
そんな中で最後の展開は、私には少々意外に感じた。彰彦が家永の娘・冬実への想いを寄せているのだが、これについては、実を言うとなんとなくしっくりこなかった。おそらく流れから予想ができなかったからであろう。
初めて読んだ作家の作品であったが、結構ハマった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは…私が滅多なことでは思わない、映像化してほしいと思った作品。
読んでいるととても綺麗な情景が浮かび上がってくる。
そして登場人物はみんな美形。笑笑
登場人物はどうでも、とにかく美しい。
頭の中に浮かび上がる美しいものをこの目で見たいと思ってしまう。
でもって、作中に出てくる「しろつめくさの頃に」も是非別途本にして出版してほしい。読みたい。 -
小説を読みながら声を出して笑ったのはいつぶりだろう。
京都の古書堂で出会ってしまったので思わず購入。
本好きならおもしろく読めること間違いなし。
本が出来上がるまで、著者以外の人がどのように関わっているのか勉強になった。
単行本と文庫が同じ出版社から出せないことがあると知らなかった。
日頃の行いが評価されているからこそ、ここぞで応援してもらえる。
私もいつの間にか魅せられて、心の中で応援していた。
素直でまっすぐな彰彦から元気をもらった。
Can I be as a rain for someone? -
すごく良かった。
1冊の本が読者に届けられるまでの物語としても、愛あるお仕事小説としても、家族の物語としても。
大崎梢さんの小説がやっぱり好きだ。
幸せな気持ちになれる。
大崎さんの物語はうだうだ悩みながら生きている毎日を優しく包み込んでくれるように思う。
自分の気持ちに素直な登場人物達に共感し、走り回る彼らを夢中で応援しているうちに、いつのまにかたくさんの元気と勇気をもらっている。
本を閉じた時、読む前よりも心は元気になっている。
ドキドキ、ワクワクしている。
この瞬間から私はまた彼らのように走り回ることが出来るんじゃないかと感じている。
何度自信をなくして、くたびれても、どんな時でも私に力をくれる。
大崎さんの物語は私にとってそういう本だ。
今日もこの『クローバー・レイン』からたくさんの勇気をもらった。
また走り出したい。 -
いぃ!
大手出版社に勤める主人公 ふっとした出来事で出会った落ち目 作家の原稿に心奪われて出版に向けて奔走する。
今まで恵まれた環境にいた主人公が挫折し乗り越えまた、挫折する。
一見 お仕事小説かっと思いきや、主人公の抱えるちょっとしたトラウマ。担当作家とその娘の確執。幼なじみの過去。
どれも「あの人に届けたい」って思っているのに、伝えられないもどかしさ、平坦な文章なのに ぐいぐい引き込まれたのはそこに優しい愛があったからなんだなぁっと一気に読みでした。
誰かの太陽になりたい。って 思う人は多いけど、「あの人の雨になりたぃ」って……深い愛だなぁ。
とにかくいぃ作品でした♪
「シロツメクサの頃」読んでみたぃ。 -
『プリティが多すぎる』が面白く、同じ千石社が舞台になっている本ということで手に取りました。
こちらも面白い!文芸の編集者が作家とどう関わるのか、営業との違いなども分かって、本好きには嬉しい。
2022年に読んだ最後の一冊になりましたが、温かい気持ち、仕事を頑張ろうという気持ちになる良い一冊でした。 -
泣ける話に感動した話。実際のところ、本屋に並ぶPOPにはうんざりしている。
勿論、それなりの本読みとして出版界が不況なのもわかっているし、商売である以上売れなければ意味がない。
それを踏まえた上で、この本は考えることも多かったし、実りの多い充実した読書時間を得ることができた。
推理作家、大崎梢ではなく、小説家、大崎梢を読ませてもらったと私は思った。
できれば、こんな作品も多く手掛けてほしいけれど、やはり売れ筋のジャンルではないから難しいかな? -
最後がよかったー。完結した。
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20140913
本が世の中に出るまでに、どれだけの人が携わり、どのように選ばれ、作られるのかが丁寧にそしてリアルに綴られていた。
作家になりたいなんて考えていたけど、作家として売れることの大変さ、売れ続けることの難しさ、孤独感を改めて感じた。
作中に出てくる『シロツメクサの頃』を読みたくなった。