なでし子物語

著者 :
  • ポプラ社
4.13
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591131428

作品紹介・あらすじ

父を亡くし母に捨てられ、祖父に引き取られたものの、学校ではいじめに遭っている耀子。夫を若くして亡くした後、舅や息子と心が添わず、過去の思い出の中にだけ生きている照子。そして、照子の舅が愛人に生ませた男の子、立海。彼もまた、生い立ちゆえの重圧やいじめに苦しんでいる。時は一九八〇年、撫子の咲く地での三人の出会いが、それぞれの人生を少しずつ動かしはじめる-『四十九日のレシピ』の著者が放つ、あたたかな感動に満ちた物語。

感想・レビュー・書評

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  •  間宮耀子という、小学4年生の女の子。父親は物心がつくかつかないかの頃に亡くなり、母親はネグレクト。ずっと一人だったので勉強にもついて行けず、清潔にもしてこれなかったので、学校でも虐められていた。ある日、とうとう母親は帰ってこなくなり、親戚を通じて、静岡県の山地、峰生(みねお)という地域の有力者、遠藤家の大邸宅「常夏荘」に連れて来られた。耀子の父方の祖父、間宮勇吉が遠藤林業の山の管理者として働き、暮しているからである。
     常夏荘に降り立った時、突然「神様のような子供」が走っているのに出会う。それは遠藤家の当主、遠藤龍己と若い愛人との間に出来た子供、遠藤立海だった。立海は跡継ぎとして当主から期待されているお坊っちゃんではあるが、出自の良くない母親と引き離され、体が弱くてしょっちゅうゲロばかり吐いているので学校で虐められ、登校拒否になっていた。そんな立海は耀子のことを始めて見た時、「空から女の子が降ってきた」と思い、互いに二人は惹かれ合う。
     もう一人の重要人物は常夏荘を管理している、遠藤家の女主人、遠藤照子である。照子は京都の名流の家の出で、家柄を買われて遠藤家の長男、龍一郎の嫁となったが、実家からは「杣人(そまびと…木こりのこと)と結婚するのか」と言われ、愛していた夫は病弱だったため30代で亡くなり、その後、舅で当主の龍己とはそりが合わなくなり、大学生の息子とも上手くいかず、女性を軽視する遠藤家の中で、孤独であった。
     大人の勝手に振り回され、自分に自信を持てない二人の子供たち、身分が高くても男社会の中で疎外されている女性。そんな彼らが明治期に建てられた遠藤家の大邸宅で出会った昭和55年の物語である。
     遠藤家は明治期から峰生で林業と養蚕業で栄え、地域全体の経済を回してきたが、現在は本拠地を東京に移し、事業を広げ、どうやら事業に失敗して傾きかけているようである。何故か跡継ぎの男子はみんな体が弱く、照子の夫龍一郎もそのため早逝した。親戚同士でも表面上は格式ばった付き合いをしているが水面下では罵りあったりいている。立海やその母親のことを悪く言う者もいる。
     峰生でも虐めに合って、学校に行けない耀子と立海であったが、そんな二人を変えてくれる人たちとの出会いもまたあった。立海の家庭教師の青井先生は立海と耀子を一緒に勉強させ、「自立と自律」という言葉を教え、二人に自信を持たせてくれた。初めは二人を虐めていたクラスメイトの公一は二人にお詫びの贈り物を届け、奥峰生のログハウスでのクリスマス会に招待してくれ、彼の父が作ったハムやソーセージをごちそうしてくれた。耀子の祖父、勇吉は耀子が峰生に来るまで、お互い祖父の存在、孫の存在を知らない間柄であったが、峰生の人々から尊敬される存在であり、無愛想だが、耀子にそっと新しい服を送ってくれたり、父親の形見をくれたり、耀子に父親が亡くなって以来初めて肉親の温かさを教えてくれたのであった。
     初めは耀子や立海から距離を置いていた照子も、亡くなった夫龍一郎と息子、龍治と血のつながりがある立海を見て、夫の面影や息子の子供の頃の面影と重なり、愛情が湧いてくる。自分とある意味境遇が似ている耀子にも何とかしてあげたい気持ちが湧き、立海と耀子が仲良くしているのを見守ってあげたい気持ちになっていく。
     ファンタジーではないのだが、峰生という山奥の神が宿るような神聖な場所。「撫子」の花を家紋にしている資産家の明治に建てられた和洋折衷の大邸宅。古い因習も残るが、上品な伝統も重んじる昭和の名家の暮し。孤独な二人の子供たちは周りの温かい大人たちによって強くなり、二人の絆も強くなる。しかし彼らは「御曹司」と「使用人の孫」という身分の差。
     子供向けのお話だと思って読み始めたが、冒頭からこのような昭和の香り高い世界観にグイグイ引き込まれた。
    ドラマチックでそして作品全体を彩る撫子の花により絵画的。
     耀子たちのその後が気になる。続編が出ているということなので是非読みたい!

  • 2022年ラスト本!1980年浜松市にある遠藤家の別荘、常夏荘が舞台。父を亡くし二人暮らしだった母に突然捨てられた耀子(小4)は、祖父に引き取られる。燿子はいじめにあい目をつぶってやり過ごす。遠藤家の跡取息子の立海(小1)。彼もいじめに苦しむ。この二人が常夏荘で出会い、勉強を通して相手を労り、理解する。また、常夏荘での女性蔑視行動、家元の跡取婚姻問題、親戚同士の諍い、伊吹さんの本は簡単には終わらない。女性が社会的自立(堂々と生きる)と精神的自律(楽しく生きる)ためには「自覚」「教育」が必要だということ。⑤

  • 読みながら何度も表紙の絵を眺めました。出逢えて良かった、と思える作品でした。
    学校でいじめにあっている四年生の耀子と一年生の立海。友だちがいない二人は、お互い友だちになりたくてもうまく表現できなかったり、またいつもみたいに嫌われたらどうしよう‥‥と、もう一歩が踏み出せなかったり。その気持ちに読んでいて本当に胸が痛くなりました。
    立海の家庭教師の青井に耀子も勉強を教わるようになり影響を受けていく。

    自立、かおを上げて生きること。
    自律、うつくしく生きること、あたらしいじぶんをつくること。

    『どうして』と自分を責めずに『どうしたら』と前に進もうとする、世界中のみんなが自分を悪く言っても自分だけは自分を好きでいる、そうやって理不尽を乗り越えていくのだ、ということを教えられていく。
    やはり、子どもには導いてくれる大人が必要なんだ、と思いました。
    最後には思い切り泣けるようになった耀子。
    続編もぜひ読みたいと思います。

  • 家庭教師の青井先生が耀子にくれた、今を変える魔法の言葉。
    「どうして、って思いそうになったら、どうしたらって言い換えるの」

    入院の合間に幼稚園に行っても、いつもぽつんとひとりぼっちだった小さな私にも
    今、居場所がなくてつらい思いをしている子どもたちにも
    もちろん、子どもを守る世代となっても、
    やっぱり世の中の理不尽と戦わねばならない大人たちにも、
    この言葉をかけてあげられたら、と思いました。
    「どうして」と自分を責めることなく、「どうしたら」なりたい自分になれるのか
    未来を見つめ、必死でもがいて戦う。その凛々しさが胸を打つ物語です。

    母に捨てられたのは、頭のねじが取れていてグズだからだ、と自分を責める9歳の耀子。
    権力者の父と年若い愛人の間に生まれ、その母にも去られた病弱な少年、立海。
    最愛の夫を若くして亡くし、忘れ形見の息子とは心が通い合わず、諦めの中で生きる照子。
    血の繋がった家族とは哀しいほど縁の薄い3人が、峰生の山奥の常夏荘で
    おずおずと手を差し伸べあいながら繋がっていくのが、切なくて、そしてうれしくて。

    感動作でありながら、表紙のイメージから
    「きっと、昭和初期の少女ふたりを描いたノスタルジックな物語なのね」
    と抱いていた予想を、軽やかに裏切られて驚く本でもあります。
    まさかもう、80年代が郷愁を帯びた時代として描かれようとは。。。

    2本とも一気に食べると叱られたパピコとか
    教育上見せたくない番組の筆頭だったドリフとか
    ラジオから流れるオリビア・ニュートン・ジョンの『ザナドゥ』とか、
    確かに懐かしいのだけれど、あの頃がもう、昔の範疇に入ってしまったかと思うと
    急に自分がおばあさんになってしまったようで、なんだかちょっとせつないような。

    でも、大人の事情に振り回されながらも、ノートに
    「自立、かおをあげて生きること。
    自律、うつくしく生きること、あたらしいじぶんをつくること」
    と書きつけて生き抜こうとする耀子に、
    いやいや、老け込んではいられないわ! と、勇気をもらって。

    離れたくない!と一生懸命小さな手を伸ばし合う燿子と立海は
    なんだか性格を逆転させたハイジとクララのようで
    未亡人である照子の視点を交えた分、ほろ苦いエッセンスが加わった
    日本版『アルプスの少女ハイジ』とも言うべき名作です。

    • だいさん
      『ザナドゥ』
      私はこの理想郷を今でも追い求めています。
      (テッドネルソンやオーソンウェルズ)
      『ザナドゥ』
      私はこの理想郷を今でも追い求めています。
      (テッドネルソンやオーソンウェルズ)
      2013/03/30
    • まろんさん
      だいさん☆

      オーソンウェルズは、『市民ケーン』でしょうか?
      不勉強な私は、テッドネルソンを知らなかったので
      検索してみたところ、コンピュー...
      だいさん☆

      オーソンウェルズは、『市民ケーン』でしょうか?
      不勉強な私は、テッドネルソンを知らなかったので
      検索してみたところ、コンピュータネットワークについて
      なんと1960年代に、画期的な目標を掲げて
      それを「ザナドゥ計画」と名付けた方なんですね。
      こんな昔に!と感動しました。
      2013/03/31
  • 引き込まれる文章で最後まで読めた。
    面白かった。

    自己肯定感が低い主人公が、友や心ある大人によって、前向きに生きて行こうとするストーリーだ。

    ハイジ、赤毛のアンなどが思い浮かぶエピソード、設定もあり、オマージュ?なのかな?

    時代設定が1980年代だが、もっと昔のような感じがする。どうしてこの設定なんだろう?


  • 母親に疎まれ学校ではいじめられ自己肯定感が低い耀子が、祖父に引き取られ遠州峰生の名家・遠藤家の別邸、常夏荘で暮らし始める。
    その始まり、立海との出会いのシーンが幻想的で魅力的で、一気におはなしの世界に引き込まれた。

    耀子と立海が一緒に過ごした常夏荘の日々が輝いている。立海の可愛らしさといったらない、頬が緩む。
    耀子の世話をしてくれる祖父。
    『自立と自律』「どうして」ではなくて「どうしたら」を考えるのだと教えてくれた家庭教師の青井。心を配ってくれる常夏荘の人々。
    今まで与えられなかった愛情や物も戸惑いながら受け取り、耀子は変わっていく。
    いつもひとりぼっちだった耀子が人との繋がりによって救われ、顔をあげ前に踏み出していく姿が愛しくて胸がいっぱいになる。

    本文は、耀子が語る章と常夏荘の女主人照子が語る章が交互に書かれている。
    照子の章からは、常夏荘にかかわる一族の歴史や複雑な人間模様が徐々に明かされる。
    『星の天女』撫子の花にまつわる話が美しい。

    遠藤家の跡取り息子として何不自由なく天真爛漫に育ったかに見える立海の抱えた寂しさや渇望が、耀子の心と共鳴し惹き付けられる。
    ふたりはこれからどうなるのだろう、気になる。

  • 良き良きいーお話でした。

    記録のみ
    自作も読みたい
    やらまいか!
    自立と自律

  • 小泉今日子さんの『書評』で読みたくなった作品。

    耀子と立海──。
    どんな理不尽なことも、受け入れなければならない幼い子供。
    耀子の生い立ちが痛々しくて、読むのがつらかったです。
    また、ひ弱ですぐに倒れてしまい、周囲に迷惑をかけることを恐れる立海の気持ちもすごくわかりました。

    そして青井先生がとてもいい。 
    耀子が自分のことを「グズだから」と卑下したときに、「丁寧だから人よりゆっくりなのかもね」と言ってあげた場面が好きです。
    洗濯物の畳み方を例に出して「丁寧で慎重なのはとても良いことなのよ」と、
    一つ一つ勉強していけば無理なことなんてないのだと。

    「自律」とは自らを律すること。
    美しく生きるということ。新しい自分を作ること。
    「自立」とは、自分の力で立つということ。
    うつむかずに顔を上げて生きること。

    「やらまいか」すごくいいです。
    「どうして」ではなく「どうしたら」と考える。

    「あぁ、もう、どうしてこうなっちゃうんだろう…」
    と、すぐに弱音を吐いてしまう自分への教訓にしたい。

  • とてもよかったです!
    幼い子の孤独には胸が詰まりますが、しだいに機会を得て認められ、育っていく‥
    見守る大人達もまた、動かされていくのです。

    峰生の大地主の遠藤家。
    跡取りの長男は早世し、その嫁で未亡人となったテルコは一人息子に反発され、心もとない寂しさを抱えつつも、その地で暮らしていた。
    遠藤家の林業を支えて働いている祖父のもとへ、幼い孫の耀子が引き取られてくる。
    耀子は父に死なれ、母には育児放棄されて、自分をクズだと思い、学校でいじめられても蹲っているだけの子だった。

    遠藤家の御曹司の立海(リュウカ)が峰生にやってくる。
    立海は当主が愛人に生ませた次男で、病弱だった。
    一見恵まれた立場のようでも、若い母から引き離され、祖父のように年の差がある父親の意のままに動かされる立海。
    孤独な二人の子供が出会い、無邪気な友情をひたむきに育んでいきます。
    お館の当主の跡取りと、雇い人の孫娘という立場の違いにも、しだいに気づかされるのですが‥

    立海の家庭教師の青井先生が、最初のうちはどれぐらい関わってくるのかわからないのですが、彼女が素晴らしい先生なのです。
    自立と自律ということを教え、「どうして」と思ったら「どうしたらいいか」考えるように、と教える。
    子供たちの前途がただ幸福なだけではないとわかっても、ここでの思い出と学んだことは、この先をまったく違う光で照らし続けることでしょう。
    ひとかけらの胸の痛みと共に、ひとかけらの勇気を分けてくれる物語でした。

  • 境遇の違う子どもたちの成長物語。立海と曜子やりとりが微笑ましい。
    作者は違うが「そして、バトンは渡された」のようにまわりの大人次第で、子どもってこんなに成長できるのかと感じた。
    舞台は天竜川上流地域。自分が浜松市出身だけに、読んでいて一層懐かしい気持ちになった。

    それにしても、伊吹さんの作品はどれも読み終えたあとに何とも言えない温かみが残る。
    伏線未回収っぽいところも多く、決してすべてがきれいに片付いていないが、それもまた味。
    ドリフとか、時代のキーワードを盛り込む巧さは最新作「犬がいた季節」を彷彿とさせた。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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