- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591125403
作品紹介・あらすじ
「どう生きてゆこうか」と考えたり、「どう生きてゆくのが正しいのだろうか」と疑ったりするのは、人間が人間であるという証拠ともいえることなのです。
感想・レビュー・書評
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岩波文庫、ポプラポケット文庫、マンガなど、店頭にいくつかの種類が置いてあったなかで、わたしが手に取ったのはポプラポケット文庫版の「君たちはどう生きるか」でした。
すべての漢字にフリガナがふってあり、息子にも読んでもらえるかなと思ったことと、読みやすい文字の大きさと余白、そして堀川理万子(ほりかわりまこ)さんによる挿し絵にひかれたからです。
戦前、吉野源三郎氏によって書かれた「君たちはどう生きるか」ですが、その後2回手を入れられ、ポプラ社から1967年に出版されています。
小説なのに哲学書を読んでいる感じでしたが、それもそのはず、作者の吉野源三郎氏が「君たちはどう生きるか」を書かれたころ、哲学の勉強をしておられたそうです。
正解をあたえられることに慣れきってしまったわたしたちは、「人間として生きるために大事なこと」を、自分で考えることすら、しなくなっています。
ただ毎日をこなすだけになっている日々のなか、突然「あなたはどう生きるのか」と問いかけられ、オトナもこどももハッとしたが故に、この本を多くの人が手にしたのでしょう。
「生み出してくれる人がなかったら、それを味わったり楽しんだりして消費することはできやしない。生み出す働きこそ、人間を人間らしくしてくれるのだ。」(144ページ)
「君は、毎日の生活に必要な品物ということから考えると、たしかに消費ばかりしていて、何ひとつ生産していない。」(147ページ)
物語中盤で出てくる、生産と消費についての問題のなかで、コペル君のおじさんが書いたこの文章は、わたしの胸にもぐさっと刺さりました。
今のわたしも、生産と消費の考え方でいくと、消費ばかりしている側だと思ったからです。
なにも生み出していない自分が、この世の中にいる意味はなんなのだろうかと思いましたし、同時にわたしも人の役に立つことを生み出していきたい気持ちになりました。
しかし、その先にあった一文は、さらに衝撃的でした。
「しかし、それでいて、自分では気がつかないうちに、たったひとつ、ある大きなものを、日々生み出しているのだ。それは、いったい、なんだろう。ぼくは、わざとこの答えをいわないでおく。」(147ページ)
消費ばかりしているコペル君、そしてわたしが、日々生み出しているものがある、と、コペル君のおじさんは言うのです。
しかも「自分では気がつかないうちに」生み出していると…。
この文章を読んで、わたしはとても不思議な気持ちになりました。
そしてこの本を読み終えたあとも、自分が生み出しているものはなんなのだろうと、考え続けました。
わたしはやはり、労働社会においては、なにも生み出していません。
けれど、そこから少し離れたところで考えるならば、わたしは日々、「わたし」という人間を、生み出しているのではないかなと思いました。
毎日はおなじようでいて、おなじではありません。
生産はせずとも、日々の出来事を感じとり、自分の気持ちを感じたり、自分の考えを自分で知ることはできます。
その繰り返しが、「自分」を作っていき、自分の生き方を作っていく。
だから自分が感じたこと、考えたことを大切に、「自分の体験から出発して、正直に考えて」(60ページ)生きていくことが必要なのだ、と思いました。
この本が問いかける「人間として生きるために大事なこと」を考えることで、就活で陥る「自分がなんなのかわからない」現象は、おそらくなくなります。
自分の感じていること、考えていることを日々つかむことで、「自分」はつかむことができます。
自分は自分にしか作れません。
それは、ここに生きる自分にしかできない、大きな大きな仕事なのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
学生時代に何度か読もうと思ったが、結局読まずじまい。
その後、漫画化でヒットしたときに買って読んだのだが、そのときはあまり自分には刺さらなかった。
宮崎駿による映画の影響で、また取り上げられ始めたので、読んでみることにする。
岩波文庫は硬い感じがあり、少しハードルが高い気がするが、今回読んだポプラ社のやつは漢字にふりがなも振ってあり、子どもでも読むことができる気がする。
それにしても、自分はいい歳になったが、おじさんのような手紙でコペル君みたいな子を諭すことは到底できないなと思うとともに、今までの自分の人生が少し恥ずかしくなってしまいました(苦笑)。 -
これが戦争色が強くなる世間の子供達を心配して戦前に書かれた本なのが驚きです。
良心、道徳とは、人にこうだと教えられて知るものではない。自分で考えるものだ、というのが丁寧に書かれている。コペル君が友達との約束を守れなかった後悔と、それへの対処を諭すおじさんのシーン、本当にこんな風に真摯に子供に向き合う大人がいれば、子供はどれだけ幸せだろうと思う。コペル君のお母さんの、おばあさんの荷物を持とうと声をかけられなかった後悔の話も、とても胸にしみた。いくつものシーンで泣きそうになります。
良書とはこの本のためにある言葉だろう。 -
「人間らしく生きる」を考える本
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今の子供達には慣れない言葉が多くて読みたくないかも知れないけれど高学年か中学生くらいになったら読んで欲しい。
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1937年出版の、小説だか問答だかわかんない体裁の本がちょっと前に話題になって、そのときは天邪鬼だから読むもんかい!なんて思っていたけれど。ブームが去った頃合に読んでみると、80年たった今でも示唆に富む叔父さんの卓見たること!
コペル君の柔らかな木の芽みたいな自我を、自分はいつ失ったんだろうなんて思ってみたり。
だんだんと大人になる中学1年生の心の機微と、古き日本の都市風景、そして子どもを教え導くことの尊さを描いた物語は、戦時下だけでなく令和の混沌とした日本だからこそ読まれるべきものだと思った! -
2017年1月22日に開催されたビブリオバトルinいこまで発表された本です。テーマは「リョウ」。
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素晴らしい本です。
児童向けになっていたので、ちょっとハードルが低かったのもありますが、大人が読んでも十分充実感が得られます。
というか、この本は色々な経験を経てきた大人にこそ、深く胸に響くのかも知れないです。
絶対損はしないと思いますよ。