- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784585290773
作品紹介・あらすじ
日常には偶然が満ち満ちているが、小説における偶然は、すべて作者による虚構である。夏目漱石、森鴎外、横光利一、谷崎潤一郎、江戸川乱歩などの作品を素材に、仕組まれた偶然を考察、小説の面白さを再発見する!
感想・レビュー・書評
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本の本
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偶然
《名詞、形容動詞》何の因果関係もなく、予期しないことが起きること。また、そのさま。
《副詞》思いがけないことが起こるさま。たまたま。
小学館 大辞泉より
小説の中における「偶然」は筆者による必然である。
にも関わらず、なぜ人はそれを面白い、楽しいと感じるのか。
本書では主に昭和10年前後の文学を軸に「偶然」について述べている。
第一章から第六章までは初出が専門書での執筆だったためかやや難易度が高い。
しかしそれ以後は書き下ろし、投機、ギャンブル、犯罪を中心に据えて論じられるのでわかりやすいものとなっている。
とりわけ第九章では江戸川乱歩の登場により、ぐっと親しみが出てきており、しかも犯罪というまさに偶然と必然の間にあるような主題であるために、非常に理解しやすい章である。
「おわりに」で語られるのが虚構の世界の楽しみ方だ。
結論として著者は「読書の本来的な楽しみこそ、虚構世界への身の委ねに他ならないのである。」と語っている。
それが文学の意味であり使命なのだ。
今、実学がもてはやされている。
すぐに役立つことをなすべき、それ以外は無駄だから縮小せよ、と。
しかし、すぐ役立つことはすぐ役立たなくなる。
例えば、いかに今、iPhone6の操作がすべて完璧にできていたとしても5年、いや、1年たてばそんなことにほとんど意味はない。
荘子について思想を深めることは、文学を探求することは、ピラミッドを研究することは、無駄なのか?
そうではない。
様々な知識に触れ、感じ、考え、話し、記すことは明日役に立たなくても、10年後の自分を支え、その人によって社会が豊かになっているかもしれない。
それを「無駄」と切り捨てることは社会を破壊する行為だ。
だから私は読み続ける。
偶然出会った本たちを。