- Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
- / ISBN・EAN: 9784585290612
作品紹介・あらすじ
ヒト・モノ・情報の交通網が整備され、「知」をめぐる新たな局面が形成されつつあった近世日本。出版文化の隆盛とともに、それまで権威とされてきた「教養」が、さまざまな回路を通して庶民層へと「浸透」していった。和歌・漢詩文を中心として、歴史・思想・宗教・科学といった諸分野にまたがる基礎的知識が磁場としてきわめて強力に働き、日本の文化と文学の根幹が形作られたのである。「知」の形成と伝播は如何になされたのか。「図像化」「リストアップ」「解説」という三つの軸より、近世文学と文化の価値を捉え直す。
感想・レビュー・書評
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歴史
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教養の「図像化、リストアップ、解説」という3つの視点に基づき、様々な近世の出版文化を取り上げる論文集。ここで設定された3つの視点は、いずれも版本文化と強く結びついているように思う。挿絵と本文、本文と注釈が複雑に絡み合う版面は、活字では再現しにくそう。
気になったものだけメモ。
・田代一葉「古歌の図像化と画賛」:藤原定家「駒とめて~」の図像や画賛、さらに近世の歌人による自詠を加えたものなどを比較し、和歌と絵がどのような情報を伝え、再生産に繋がったかを考察。
・藤澤茜「古典文学と浮世絵」:和歌の世界を浮世絵に描く時、必ずしも歌が詠まれた当時の風俗でなく、あえて当世(=近世)の風俗で描いたり、詠み手の逸話を踏まえた作画がなされていた。
・勝又基「絵入り百科事典の工夫」:同じく漢籍『三才図会』に依拠しつつ、『訓蒙図彙』は積極的に日本の風俗を取り入れ、『和漢三才図会』は抽象的な事柄を取り入れて、ともに図像化をはかっている。
・壬生里巳「『江戸名所図会』にみる〈教養〉の伝達」:「『江戸名所図会』では、江戸という土地に伝統的な名所が比較的少ないため、名所たる根拠を付与し読者に伝える必要性があった。その点で、故事や説話を図像化することは、知識が限られている人たちにも、その内容を簡潔に伝える点で画期的な方法であった。「挿絵」は土地と読者を結びつける「回路」として機能したのである。」(p159 まとめ)
・宮本圭造「謡講釈の世界」:石門心学者は自らの思想の宣伝のため、謡を心学的立場から解釈する謡講釈を盛んにおこなった。
・鈴木俊幸「日用と教養」:出版部数、構成、内容、判型比較等さまざまな点から「年代記」が当時の人にとってどのようなものだったか考察する。文化9年『板木総目録株帳』に掲載された年代記で注記に「黄楊板」とあり、黄楊は桜に比べて耐久性が高く効果だったことから、摺刷を多く重ねて費用回収の見込みがある出版物だったとする指摘(p285)が興味深い。
・西田正宏「教養と秘伝と」:有賀長伯の歌学書『初学和歌式』を取り上げ、語義解釈にとどまらない初心者向けの歌学書が作られることによって、師に就かねば得られない秘伝の知識の権威がより強められたと指摘。 -
図書館本 910.25-Su96 (10013024100)
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江戸時代の出版と文学の関係について考察した論文集です。
応仁の乱で一旦、途絶えた古典的な伝統・文化を取り戻したいという動きが、江戸時代の出版文化とからんで発展して行く様子がとても面白かったです。
江戸の庶民のために、教養書として書かれた古典文学の紹介書が多数紹介されているので、古典文学の解釈や当時を理解する際にとても役立ちました。
漢文の読み方を習得するのにも役立ちました。オススメの本です。