塀の中の事情: 刑務所で何が起きているか (941;941) (平凡社新書 941)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582859416

作品紹介・あらすじ

増える一方の高齢受刑者、処遇困難者……。今、刑務所で何が起きているのか。罪の重い長期受刑者を収容するLB級刑務所、女子刑務所、医療刑務所など、塀の中の最新事情を探る。

感想・レビュー・書評

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  • テレビ朝日で20年以上にわたり、30箇所以上の刑務所や少年院を取材してきた著者が刑務所内の最新事情を綴ったルポルタージュ。
    新書にはしては、かなり分厚く、処遇困難者、高齢者への対応、塀のない開放的処遇施設、女子刑務所、医療刑務所、更生保護施設など、一般人が日頃知ることができない内部の様子や受刑者へのインタビューが満載されている。
    特に、これでもかというほど次から次へと出てくるインタビューの問答については、正直、少しうんざりしたが、それを「社会を写す鏡」としての刑務所問題としてまとめ上げる著者の力量に感心させられる。
    浮かび上がってきた最新事情、社会的課題について、自分なりに学んだ点を列挙しておく。
    ・三度の食事、布団で寝られる、社会に出て人間関係など我慢の生活を送るより受動的でいられる等の理由で、刑務所が居心地良く思われるということもあり、受刑者の再犯率は42%にも上る。
    ・刑務所でも高齢者が増え、老老介護や老人食、車椅子やシルバーカーなど、あたかも介護施設のよう。
    ・積極的な更生意欲があり、逃走の危険がない、対人関係に問題がないなどの項目を満たすものを収容する“塀のない刑務所”もある。今治市の大井造船作業場、網走刑務所の二見ケ岡農場、函館少年刑務所で漁業を目指す「船舶職員科」など。運転・機械操作など各種技能、国家資格の取得も可能。
    ・男性受刑者の数が減ってきている一方で薬物依存や窃盗などを繰り返す女性受刑者が増え、女子刑務所が飽和状態となる。これを受け、2017年、元男性用施設を移行して豊橋刑務支所ができた。
    ・かつては、一般医師との給与・待遇面での差、キャリアアップが難しい、兼業や研修ができないなどから医療刑務所の医師不足が課題であった。現在は兼業が認められ課題は解消の方向に進んでいる。
    ・北九州医療刑務所には心の成長不全による摂食障害の受刑者が多く集められている。逃げられない枠組みのある刑務所は年単位で治療できるという意味で一般病院では無理な治療が可能。
    ・服役を終え更生保護施設に入っても、そこでの人間関係や規律になじめず、指示にしたがっていればいいだけの刑務所生活の方が楽に感じ、再犯を繰り返す者も多い。女性の場合、窃盗と並び、再犯率が高いのが覚醒剤などの薬物事犯。

  • 1日だけの見学だけでなく、まとまった期間の、また直接聞いた受刑者の言葉は興味深い。そして、テレビ番組作ってきた人だからか、ドキュメンタリー見てるようで全体通じて読みやすいです。

    塀のない刑務所の存在は複数知っていたけれども、松山刑務所「大井造船作業場」、函館少年刑務所「船舶職員科」の話は面白く具体的でした。先輩受刑者が新入りの受刑者にほぼすべてを指導したり、仮釈放になる受刑者の”卒業式”での受刑者から受刑者へだとは思えないような送辞の言葉を送る様子など。
    富山刑務所の神輿づくりの話は、20年来神輿づくりを指導してきた成瀬刑務官、振り込め詐欺の主犯格受刑者へのインタビュー等々含み、なかなか得難い達成感のある刑務作業だろうと思いました。
    もう一つ、北九州医療刑務所での摂食障害の治療も興味深かったです。重度な摂食障害の受刑者が全国から集められて治療を受けているそうで、刑務所という逃げられない環境下、相当の治療期間を確保可能という物理的な枠組みにおいて、栄養をとり、寝て体力を温存するという生活をし続けるというのが、摂食障害の治療になくてはならないと、摂食障害の専門家だったという所長が語ります。グループミーティングや刑務官のカウンセリングもあり、受刑者の一人が、治療効果を実感していると述べていました。ポジティブという取材の方向性はあるのだろうけど、いったん強制的にでも良いサイクルがつくられるのは良いことだと思います。問題は、摂食障害に限らず、社会内でもそれを続けていける仕組みづくり。

    今回のコロナ禍で、刑務所内での生活・刑務作業等にもかなり影響は出ているのではないかと推察します。年に一度大声を出すことも許される運動会など心情の安定に資するような行事も例年通りにいかないだろうし、刑務作業の発注も相当減っているんではないだろうか(お祭りもできないし神輿の受注も難しいだろう)。
    不況の2年後に受刑者増の波が来るそう。この点につけても、早くこのコロナ禍が解消方向に向かってほしいと思います。

  • 刑務所の更生面にスポットを当てたルポ。塀のない刑務所、LB級施設、女子刑務所や医療刑務所といったようなタイプごとに各刑務所と囚人の様子を描き、ここ最近刑務所事情を知ることができる。興味深い一編。

  • テレビ関係者の取材記録。ライフワーク的な継続を元にしており興味深い。著者の主観も入るが、受刑者・刑務官・その他関係者の言葉を(恐らくは)そのまま改変せずに載せてくれている点は実感がこもる。個別の事例、全体的な傾向、特殊性など、様々な視点でも書かれている。犯罪者の減少、累犯者の激増、急激な高齢化、シャバへの復帰支援なども興味深く読んだ。

  • オウムの平田の話が出てきたのがちょっとびっくり。高齢化と女性が増えてるのはさもありなんだが、その結果女性の待遇が男性に比べてかなり問題ありそうなのは初めて知った。
    女性が取材したらどんな感じになったんだろう。

  • 東2法経図・6F開架:326.5A/Ki93h//K

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著者プロフィール

1967年群馬県生まれ。テレビ朝日報道局デスク。91年慶應義塾大学卒業後、テレビ朝日に入社。報道局社会部、ニュース番組「スーパーJチャンネル」「報道ステーション」で記者、ディレクターを務める。95年の地下鉄サリン事件発生時から20年以上にわたり一連のオウム真理教事件・裁判を取材するとともに、刑務所取材をライフワークとする。著書に『警察庁長官狙撃事件──真犯人“老スナイパー”の告白』(共著、平凡社新書)がある。

「2020年 『塀の中の事情 刑務所で何が起きているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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