- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582859010
作品紹介・あらすじ
敗戦からの復興と公害問題、高度成長期の歪み、安保闘争、少年犯罪、貧困……。日本が時代ごとに抱えていた戦後から現在に至る社会問題を、ミステリー(探偵)小説を通じて浮き彫りにしていく。
感想・レビュー・書評
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国文学博士である著者が、戦後日本の社会や時代が抱えている掘り起こし、掘下げようとする推理小説に焦点をあて、ミステリ-でふりかえる歴史の新しい読み方を説いたガイドブック。 読食指をくすぐる未読作品は、二木悦子『猫は知っていた』、水上勉『海の牙』、檜山良昭『スタ-リン暗殺計画』、宮部みゆき『魔術はささやく』、奥田英朗『オリンピックの身代金』、佐々木譲『警官の血』・・・ 眩暈がするほど盛沢山で、死んでも死にきれない。
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目次に羅列されたミステリー小説の数々。
日本推理作家協会賞受賞作や江戸川乱歩省受賞作といった錚々たる作品ばかり。未読もあれば、既読もある。
ミステリーファンにとっては、どれも魅力的な作品であり、どんなことが綴られているのかとつい手が出てしまう。
古典文学研究者の著者は、年代別に各作品を取り上げ、社会歴史的にその要旨を論じる。
いずれの作品もその時代を反映し、社会や時代が抱えている問題を掘り起こしていると、論評する。
そして、ミステリーで戦後史を振り返る必要性を説く。
一方で、作品としての出来ばえとか、人間が描けているかどうかと、辛口のコメントも容赦ない。
ともかく、掲載されている各ミステリー、読んでいない作品は読みたくなるし、すでに読んだ小説も再度読みたくなる、そんな罪深い?思いを起こさせるミステリー解説書。 -
テーマ:推理
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『文学はなぜ必要か』からの課題を引き継いだ新書。
文学史に興味を持つ著者が、戦後社会をミステリによって読み解いていく。ネタバレ厳禁の分野ではあるが専門家的な作業はなく、むしろ平易なあらすじと整理で作品を概観できる。読書案内の位置づけも獲得しているのが楽しい。
時事は表現に影響を与えるので言語によって読むことができるミステリは、私たちが生きている歴史を異なる視座から見ることができるという方法が一貫している。この方法にともなって、ネタバレをせずに作品を物語のあらすじで捉えるため、むしろ作品の表層しか捉えられないのではと言いたい。ただしそこはミステリなので著者の配慮が妥当。
大切なのはミステリだけが戦後史を抱えているわけではないことかと思う。他分野もこの方法は可能であって、芸術や民俗ではどうだろうかと(あるかもしれないけれど)疑問が浮かぶ。たとえば別に建築だって可能なので、むしろミステリ、あるいは小説に限らないと新書の文量では済まないだろうと思う。〈了〉 -
古典文学研究者である筆者が戦後に発行された推理小説からミステリーは戦後社会をどうとらえてきたかを10年ごとに時代を振り返る内容で書いてあり、戦後社会についてミステリーから読み解くという内容が新鮮だった。
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敗戦後の復興の光と影のなかで、『点と線』『ゼロの焦点』が書かれ、爆発的な人気を博し、推理小説に社会派という新たな流れをつくり出す。さらに、高度成長期へと続く時代のなかで、『海の牙』や『人喰い』、騒音公害を告発する『動脈列島』などの作品が生み出されていく―。ミステリーは謎解きが終われば、それで一応の役目は終わりとなるが、歴史のなかに位置づけることで、時代が抱える問題が鮮明に浮かび上がる。はたして、ミステリーは戦後社会をどう捉えてきたか。まったく新しい読み方で、一〇年ごとに時代を振り返る。
ネタバレに注意。堂場瞬一の「雪虫」の記述には納得。 -
東2法経図・6F開架:910.264A/F93m//K