大川周明 アジア独立の夢 (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582856514

作品紹介・あらすじ

昭和十三年、東京西郊に、ある"私塾"がつくられた。思想家・大川周明を所長とする東亜経済調査局附属研究所。外務省、陸軍、満鉄が出資し、日本の南方進出に貢献する人材を育てることが目的とされた。二年間の修学の後、卒業生は東南アジア各地に渡り、戦争の裏面や独立運動の進展に関わることになる。卒業生への聞き取りと資料をもとに"知られざる教育機関"の実態を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • ノンフィクション
    歴史
    政治

  • 「大川塾」の実態というよりも卒業生の南方での活動が中心。アジア主義を教え込まれた塾生達はその後様々な活動に従事するわけだが、軍の意向に翻弄されながらアジア主義の実践に向けて「正直と親切」を貫き通せたのか否か。取材に応じた人々は過去を肯定的に考えているし、著者の記述内容もそのスタンスになっている点には留意すべきだろう。もう少し客観的な史料に基づく、実証主義的観点から分析された著作の出版に期待したい。

  • 新書文庫

  • 外務省、陸軍、満鉄が出資し、日本の南方進出に貢献する人材を育てることを目的に、設立された東亜経済調査局附属研究所。思想家でもある大川周明(1886-1957)を所長として、1938年(昭和13年)に設立された。通称「大川塾」と呼ばれる人材育成機関には、2年間語学を中心に徹底的に学び、アジア各地へ派遣され

  • 大川周明の見方が変わりました

  • 大川が所長を務めた東亜経済調査局附属研究所(通称「大川塾」)。本書はその卒業生を取材し、戦前戦中昭和の東南アジアとの関わりを描き出す。理念と現実の格闘、善意と押し付けの間で揺れる人々の軌跡を活写する。

    吉野作造関係で(大川の学位取得に吉野は奔走)手に取った。大川はイスラム学の先駆者として有名だが、予想以上に東南アジアに対する知見が深かったことに驚く。「アジア解放」を謳う大川の眼差しはアジア全体に注がれていたことが理解できる。

    さて、大川塾は軍事・外交の手先として利用され「スパイ養成機関」との通評は否定できない。ただ卒業生の声に耳を傾けると、そう単純でもない。そこで学んだ人間たちには「アジア独立」を純粋に信じていたのは事実である(だから現実の壁も存在する)。

    大川は「諸君の一番大事な事は正直と親切です。これが一切の根本です」と語ったという。「正直と親切のアジア主義」の理想を懐く塾生たちは現実に直面する。現地の軍部によって裏切られていくからだ。本書は日本の矛盾に嫌悪すら懐く事例を数多く紹介する。

    彼らの善意に耳を傾けず、頭ごなしに否定することは無意味だが、実際の歴史の経過を無批判に礼讃することもできない。論争の喧噪を超え、歴史の両義性をどううけとめるのか、考えさせる一冊というのが正直な感想。単純な評価で目を閉ざさない矜持が必要か、了。

    余談ですが、先に吉野作造と大川周明の関係に言及しましたが、通評の右でいえば、大川だけでなく、吉野は、笹川良一とも会っているし、徳富蘇峰も利用するし、上杉慎吉とは親しい付き合いもある。と同時に、大杉栄との交流もある。ここに(この言葉は苦手ですが)「人間主義」を考えるヒントがある。

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著者プロフィール

玉居子精宏
1976年神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。埼玉県立川越高校を経て、早稲田大学第一文学部卒業。2004年から戦争の時代をテーマに取材を開始。05年ベトナム・ホーチミン市に移住。07年に帰国後も執筆活動を続ける。著書に『大川周明 アジア独立の夢──志を継いだ青年たちの物語』(平凡社新書)、『戦争小説家 古山高麗雄伝』(平凡社)がある。

「2023年 『忘れられたBC級戦犯 ランソン事件秘録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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