次の東京オリンピックが来てしまう前に

著者 :
  • 平凡社
4.31
  • (6)
  • (9)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 126
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582838589

作品紹介・あらすじ

東京オリンピック、インバウンド、ドナルド・トランプ。そして新型コロナ……。「2020年」に向けて、加速してきた東京にむけて、?街遊びの達人

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 音楽家にして文筆家で、誕生日がトランプ元大統領やチェ・ゲバラ、山縣有朋、川端康成、大塚寧々と同じな菊地成孔さんの2017年4月〜2020年7月のウェブマガジン連載を単行本化したエッセイ集。

    このご時世にタイトルだけ聞くと、社会派エッセイ期待するのだけど、内容はぶっ壊れたおじさんの雑文集(笑)
    いいですよ。情報量多くて、でも頭使わなくてよくて、なんていうかフィジカルで。

    菊地成孔さんは、僕が鼻垂れ坊主の時に、キラキラ輝いた大人だった人たち。少し上を見上げると眩しかったバブルのお兄さん。
    怖いもの知らずで、かっこよかった。
    そんな憧れを思い出した。

    …とまあ、時に笑いを抑えられないところもありつつ、楽しく読んでたのですが、終盤になるにつれて、この本とんでもない本だと気付きました。

    「コスパは突き詰めれば自殺」、「トランプは非戦派大統領」など、なかなか人が認めたがらない真実をズバリと言ったり、2019年の年末に「来年は嫌煙権から派生的に嫌咳権が生じ、あっという間に強い具体性を帯びる」とまるでコロナ流行を予言してみたり…

    だんだん恐ろしくなってたら、あとがきで最強と評価していた星野源がガッキーと結婚したり…

    背筋がぞぉーっとしました。

    そして、東京オリンピックは負ける賭けだという。
    ロクなことにならない、と。

    でも、東京はまだオリンピックやるつもりなんだよな、たしか。

    この本読んで、5月26日の朝日新聞社説は断固支持したい、と思った。

  • いまエッセイを書くこと——菊地成孔『次の東京オリンピックが来てしまう前に』発売記念インタビュー|ヒルズライフ HILLS LIFE
    https://hillslife.jp/culture/2021/01/15/city-of-amorphous-special/

    book - naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME
    https://www.kikuchinaruyoshi.net/book/

    次の東京オリンピックが来てしまう前に - 平凡社
    https://www.heibonsha.co.jp/book/b548820.html

  • 筆者はエッセイストとして面白いことを書くという動機と「仇敵は似る」ということを述べるために、レトリックを使ってトランプを支持している。

    ただそれを理解するリテラシーは一般には持ち合わせていないだろう。
    「冗談」は通じないし「冗談」に付き合っている暇はないのだという人が多いのではないか。(現在の状況はファシズムや戦争に近づいている証拠なのかもしれない)

    実際、自分も筆者の思想に対してどういう態度を取れば良いのかリテラシーが無いのでわからなくなっている。(過去の著作は好きなので)

    川島小鳥さんの表紙写真はめっちゃ、良い
    あと星野源を聴きたくなる

  • 《1984年、小林信彦は、自著『道化師のためのレッスン』(白夜書房)の冒頭に、糸井重里との対談を設置した。初出は、筆者の記憶では写真雑誌だったような気がするのだが、それはどうでも良い。どうでも良くないのはそのタイトルである。
     それは「不易と流行」というもので、1984年当時の両名の、時代との関わり合いの形、発言者としての強度と意味、を、なるべく適切に考慮に入れれば入れるほど、その鋭敏さが理解できるのだが、本来は俳諧の用語である「不易流行」の間に「と」を入れる事で、本来の俳諧の用語としての意味を換骨奪胎し、現代語的に言い直すと「ハイプとスタンダード」という事になろう。その視点から展開される、冒頭の〈萩本欽一論〉、その快刀乱麻を断つ斬れ味は、21歳の筆者を感嘆に至らせ、それは現在読み直しても全く色あせていない。
     今、我々に、全方向的に問われているのがこのテーマであることは、読者諸氏をして概ね御首肯頂けると思う。コロナはハイプかスタンダードか? それによって巻き起こったあらゆる変化はハイプかスタンダードか? そして、「2度目の東京オリンピック」はハイプかスタンダードか? 「近代オリンピック」自体がハイプかスタンダードか? 流行語としての「経済効果」はハイプかスタンダードか? あらゆる死はハイプかスタンダードか?》(p.303-304)

    《僕は、13年前に恋い焦がれたのだ。そして手に入れたのだ。そしてすぐに失ったのだ。そして寝食も忘れて探しまくったのだ。そして、とうとう諦めたのだ。わかるかねSNS社会に住むルーディ。このむせかえるようなロマンティシズムが。間違い電話や、たずね人や、猫探しのイラストが電柱に貼ってあったのだ。犬は電柱に尿をかけた。そもそも電柱だ。電柱が社会構造に組み込まれていたのだ。昭和という時代は。》(p.48)

    《しかし、トリキの中で、筆者は退行のパターンを、たったひとつしか見たことがない。
     それは、「楽しく享楽的にはしゃぎ、大声で笑う」というパターンである。》(p.232)

  • 2017年〜2020年7月までのWeb連載エッセイ(非公開のものも含む)氏の文化・芸術・ファッション・料理・政治などジャンルを横断した刺激的な言論が満載されている。特にコロナで亡くなられた志村けん氏への追悼(小池百合子への怒り含めて)はシンパシーを感じた。"粋な夜電波"のようなエピソードも面白い。

  • 2023/2/28購入

  • 菊地さんのものの書き方が好きだった

  • 真・女神転生をやったことのある人はご存知かもしれないが
    退行というものには二種類あって
    すなわち、カオスへの退行と、秩序への退行である

    東京オリンピック招致を決定したとき
    石原慎太郎はこんなことを言った
    「歌舞伎町を浄化する」
    「あんな三国人だらけの街」
    「世界じゅうのお客様に見せられますか」
    そこから菊地成孔さんの退行が
    限定的・抑制的にせよ、開始されたのかもしれない
    歌舞伎町在住で、歌舞伎町をこよなく愛する彼が
    いくら菊地秀行の弟だからって
    「魔界都市じゃねんだぞ」
    なんてことはさすがに言わないだろうけど
    おそらくはその退行により
    オリンピックがロクなことにならない未来を幻視した

    それから10年ほどあって
    アメリカでトランプが大統領に就任したころ
    ここに収められたエッセイの連載が始められた
    ちょっとプロレスに詳しい人なら
    「ヒールは善人」という定理に思い至るだろうが
    その意味で、信用できると言わないまでも
    トランプがまっとうな人物であるという直感めいたものは
    僕の中にもあった
    そしてそれ故に躓くのであろうという直感も
    しかしとりあえずそんなことには関係なく
    菊地さんのエッセイは表面上、都会的な洒脱さを装いつつ
    文体も内容も、カオスの度合を深めていた
    だが新型コロナの蔓延にともない
    東京オリンピックの延期が危ぶまれるに至って
    二面性に綻びが生じる
    過酷すぎる状況がかえってオリンピック成功のハードルを下げる一方
    逆に最悪の事態が笑い事ですまなくなってしまった
    笑い事ですまないということがカオスを抑圧し
    SNS社会を退行的秩序に誘う
    その頃の菊地さんの文体は、やたら感傷的だったり
    妙に下品で攻撃的だったり
    クールを保ちきれない印象が強かった

    ところで
    石原慎太郎を嫌悪し、トランプを擁護する菊地さんにとって
    両者の違いはなんであろうか
    ドメスティックな主張など、一見して非常に似ているし
    勇ましいことを言いながら、結局戦争はできないというところで
    やはり同じエンターテイナー出身を思わせるものの
    その資質に、性格の二面性を感じさせるか否かが分かれ目ではなかろうか
    僕が考えるに
    バカバカしい存在としてふるまうことを
    美徳と信じるかのごときトランプの有り様は
    三島由紀夫が選びえたもうひとつの可能性だったかもしれない

  • 東京オリンピック開催前の4年間「ヒルズライフデイリー」に掲載された時事評論。菊地さん節炸裂w

  • あれー。主張があれすぎてあんまり楽しく読めなかった。
    うーん。まあ、あれだ。自分は普通のつまんない大人になって、それはそれで悪くないな、と思ってるんだけど、その結果、以前は面白がれていたけど、今はそうじゃなくなったものもある、てことかな

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ジャズ・ミュージシャン/文筆業。

「2016年 『ロバート・グラスパーをきっかけに考える、“今ジャズ”の構造分析と批評(への批評)とディスクガイド(仮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

菊地成孔の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×