父母(ちちはは)の記: 私的昭和の面影

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582837360

感想・レビュー・書評

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  • 自伝みたいな。つい70年前のこととは。

  • ぼくは渡辺さんの本は『逝きし世の面影』しか知らないが、すごい人だと思った。だから、どんな人か知りたくなり手に取ったのが本書である。「父母の記」は本書の3分の1の分量。これ以外にかれが出会った人々の思い出。とりわけ強い影響を受けた吉本隆明、橋川文三、「佐藤先生」というのは型破りのお坊さん、最後の熱田猛は早世した、すぐれた文学者へのいわば追悼の文である。渡辺さんは熊本の生まれで、旧制第5高等学校を出ているが、法政大学は結婚した相手の親の要望で行ったようなもので、のち『日本読書新聞』の編集者時代は東京暮らしだが、根っこはしっかり熊本にある。本書を読んで知ったが、渡辺さんは共産主義思想の影響を受け、戦前からお姉さんたち共々共産党に入っている。のち、そこから離れていくのは文学者としての自由を求めたためだったろうか。組織はどうしても人をしばる。それがゆえの組織だが、自由と人間性を重んじる文学者に組織は無理である。革命のためには暴力は必要だという「革命的粗暴さ」(p133)もついて行けなかった遠因だ。これもわかる。それにしても、昔はこんなに党が身近だったのか。それとも渡辺さんが特殊だったのか。渡辺さんは、党の影響もあるだろうが、水俣の問題やシベリアからの帰還者問題にもクビをつっこんでいる。石牟礼道子さんとも友だちだ。渡辺さんが師と仰ぐ人に二人いる。一人は吉本隆明、もう一人は白川静。もっとも、白川さんには会ったこともないという。白川さんと言うのはそれだけ魅力的な人なのだろう。ぼくもこの年になって、ようやくわかってきた。吉本隆明さんの思い出は面白い。返事をするのに「へい」と言ったり、またそのたたづまいにすっかり魅せられたとか。「人はことばによっても教えられるが、姿とたたづまいから教えられることはもっと大きい」(p157)とは味わい深いことばだ。さて「父母の記」でもっとも強烈なのは興行師であった父親の女狂いである。だから、父母の間にはいつもいさかいがたえなかった。にもかかわらず、両親のふとんを上げるとそこに鼻紙がいくつも転がっていたという。当時の渡辺青年にはそれがなにかわからなかったが、「母が父と睦みあう時があったと思うと、子たる私は心がなごむ」(p47)と述べる。父親は大連から引き上げたあと最後はよその女のところへ走ってしまう。父が死んだ後渡辺さんはその女のもとへ行くが、その女は男みたいで、父は面食いではなかったのかとつぶやく。こんな女になぜとは誰しも思うことだが、ここも味わい深い。父親もそうだが、渡辺さんも何度も結核を患っている。昔はこんなにふつうの病気だったのだ。そのこともあるのかもしれないが、渡辺さんは生涯在野の人だった(まだ存命だが)。

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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