- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582836844
感想・レビュー・書評
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説経節の本を何冊か読んできたが、分かりやすさという点で群を抜いている。
伊藤比呂美さんならハズレはないだろうと予測したが、その通りだったのがとても嬉しい。
表紙を開けるとすぐ、伊藤さんと思しき女性が番傘の下で「ささら」を鳴らしながら説経節を語っている絵が描かれている。そして周りには切なげに涙を流す人たちの姿も。
もうここだけでも「おお!」と声をあげて喜ぶワタクシ。
世が世であれば説経節の語り手となりたかったほどなので、西本願寺で今も教えているという情報に心が逸ったことこの上なし。
でも大勢の猫たちを置いてはいけないと泣く泣く諦め、この本のレビューを載せることで小さなけじめとしようかと。なんて、本音の部分では全然諦めたわけじゃないけど。
よく知られている「小栗判官」「しんとく丸」「山椒大夫」の3話が、伊藤さんの現代語訳で載っている。時の流れと共に「浄瑠璃」となり「歌舞伎」となった説経節だけに、原型は読み手の胸をかきくどくような節がある。
七五調で一句とし、これをひと声で節をつけて語るのだが、この詩人の文章でそれを更に読みやすいお話にしている。
ひと声のブロックが5つほど進んだところで合いの手の三味線(初期にはささら等)が入る。
ブロックとブロックの節目に繰り返し入る言葉は「あらあら、おめでとうございます」「何かにたとえようといっても それは無理な話でございます」「ああ、いたわしいことでございます」などがある。「いたわしい」などという言葉を、どれほど忘れていたことか。
もはや死語となってしまったかのような、中世の人々の「「いたわしい」を共感したくて繰り返し読む羽目となる。
すると既知の感情が呼び覚まされ、涙で文字が見えなくなってくる。
ひとが、現代よりもはるかに簡単に死んだ時代。
生きる苦しみは、今とは全然違ったものだったろう。
それでもなんでも、説教節の中に登場するひとたちは、絶えず何かをしようと前を向く。
それが解決への道かどうかは分からないけれど、嘆いてないでとにかく進もうとする。
とりわけ女性たちの頑張りようは見事と言うほかなく、そのけなげさはもう感涙もの。
運命に身をゆだね、神仏に頼り、過酷な人生を歯を食いしばって生きていく。
そういった主人公たちに心を寄せて「いたわしい」と共に泣いたいにしえの人々は、なんと純粋だったことだろう。
社会の底辺に生きる人々を支えた口承文芸である説経節。
これがもはや身近で聴けないということは、「いたわしさ」に共感する人も稀になったということなのだろうか。語るものがないまま、私はひっそりと三味線を奏でている。 -
原典を読みたくなったし、それ以上に聞きたくなった。
伊藤さんも書いておられるが、「山椒太夫」の最後、「しかたがないことと諦める」という解決法?が心に残った。ちょっと抵抗したい気持ちがあるが、運命を受け入れることは「せつない知恵」なのだろう。 -
オグリの舞台をみて、元の説経節が気になり読みました。
照手姫をはじめ、人物像がしっかり伝わってきました。
書き下ろしの「私の説経節」も逸品。 -
わりと原典のままに近代化。
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説経節という中世の語り芸のお話の現代語訳
小栗判官・しんとく丸・山椒大夫の3つのお話が入っています。
どれも聞いたことがあっても詳細には読んだことが
ない内容です。
ただ、山椒大夫はおぼろげに幼かったころ絵本みたいな
もので読んで、怖くて怖くてという思いは覚えていました。内容もやはりおぼろげには記憶に入っていました。
現代語訳ではありますが、流れるような語り口や
展開の早さ(急に・簡単に人が死んだりします)は
面白くすんなり読めます。
こういうものは、やはり日本人として、奥底で共鳴するものがあるような気がします。
古いレビューも見つけて下さり、感謝します。
ちょうど「読書会」...
古いレビューも見つけて下さり、感謝します。
ちょうど「読書会」の課題図書が「山椒大夫」でして。
ルーツを突き詰めていくと説経節になりますよね。
たまたま私は三味線弾きを生業としていますので、それで興味を惹かれました。
youtubeで動画を検索し、大まかな楽譜おこしをして、読書会の最後に語ってみました。
思ったよりも喜んでもらえました。
ただ、切なさはまるで滲み出ませんが。。
次なる演目にも挑戦中です。
そうですね、やはり本物の語りをこの耳で味わいたいです。
myjstyleさん、説経節の新しい資料・本等に出合いましたらまた教えてくださいね。
ありがとうございました。
おはようございます。
それではお言葉に甘えて1冊紹介させていただきますね。
説教節を読むきっかけになった本がもう一...
おはようございます。
それではお言葉に甘えて1冊紹介させていただきますね。
説教節を読むきっかけになった本がもう一冊ありまして、
それは、もうご存知かもしれませんが、
吉田修一の「アンジュと頭獅王」です。
説教節の語り口から後半はSFのように
物語は飛翔していきます。
気軽に読める一冊です。
さっそくお返事をくださって感謝します!
おお、吉田修一さんですか。とても好きな作家さんです。
...
さっそくお返事をくださって感謝します!
おお、吉田修一さんですか。とても好きな作家さんです。
シリアスな描写もエンタメも、しっかり読ませる方ですよね。
「アンジェと頭獅王」は、タイムラインでよく見るタイトルです。
ご紹介ありがとうございます。
小説はブクログには滅多に載せないので、読了後にこっそりお知らせするかもしれません。笑