- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582835755
作品紹介・あらすじ
世に知られた恋の詩人は、なぜうたを捨てたのか-。一国民俗学確立のため、頑なに「私」を否定した柳田國男。だが、本人の決意とは裏腹に、詩人の感性は遺著『海上の道』にいたるまで確かに息づいていた。没後50年、封じられた青年期の恋物語を丹念に辿り直し、新事実の発見から柳田学の本質に肉迫する。
感想・レビュー・書評
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一国民俗学を確立した人物として著名な柳田國男だが、その背景には「恋の詩人」として生きた旧松岡姓時代の知られざる前史があった。柳田研究宿年の謎を解き明かす異色の評伝。
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うたて此世はをぐらきをと歌う若き新体詩人・松岡國男と、経世済民を掲げる民俗学の祖・柳田國男はどうして分裂し、後世詩人は否定されたのか。詩人としての本性と、民俗学の祖としての貌の二つの関係を取り上げた一冊。
「松岡國男の恋」「中川恭二郎という存在」「殺された詩人」「海上の道へ」の四章からなる。語り口はやわらかで読みやすい。淡い輪郭を持ち、余白部分が多いような印象であるのは、もはや死後五十年が経過し、柳田その人に触れることが猶以て難くなった故か。
「松岡國男の恋」では詩人・松岡國男の詩を多く引用し、青年だった彼の恋の顛末を扱う。
続く「中川恭二郎という存在」では、前章で扱われたいね子との恋の波乱に関係していたと考えられる中川恭二郎という人物について、扱う。関係者を訪ねて話を聞く部分が印象に残る。
「殺された詩人」では全くかけ離れた学者・柳田國男の中に潜んでいる詩人の部分に焦点を当て、数度本人や周囲を悩ませた神経衰弱的な賞状は学者・柳田國男の中で詩人・松岡國男が窒息しかかっていたことに起因するのではないかという仮説を提示し、「海上の道へ」では後年、詩人と学者の幸福な一致を見た例を掲げる。