菊燈台 ホラー・ドラコニア少女小説集成

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582831948

感想・レビュー・書評

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  • 自分のことを言って申し訳ないが、澁澤龍彦は寺山修司と並んで18歳のころの私のアイドルであった。
    知った時には亡くなってから1年ほどたっており、かっこいいポートレイトを眺めては、若いままの姿を永遠に留める彼への憧れをますますつのらせた。
    当時は彼の著作が文庫のような手に取りやすい媒体となって数多く出版され、それらが多くの書店に並んでいた時期でもあった。(今では多くが電子書籍化されている)
    そんな私にとっては澁澤龍彦とは書棚のマストアイテムであるのだが、こんにちではどうであろう。

    出版界の重要コンテンツであることは揺るぎないかもしれないが、いささか時代がかってきた感もあるのではないか。
    そんな事態に一石を投じるべく刊行された(と推測する)このシリーズ「ホラードラコニア少女小説集成」。
    その巻の2であります。

    巻の1はサドの抄訳で刊行されたが、本巻は澁澤の創作短編。
    シリーズの眼目、小説とコラボレーションした現代作家は大人気絵師・山口晃!
    日本画の御用絵師のごとく練り上げられた描写力と端整な描線が特徴的。しかしコミック雑誌にまぎれて載っていても違和感のない洒脱さ軽やかさもある。フランスの絵画的漫画のバンドデシネのタッチを思い出すところもある。

    そんな山口の挿し絵がカラーの見開きで2〜6ページごとに入る豪華仕様!
    端整な画面に、ときにユーモアをはさみ、ときにシニカルなひねりをこめつつ、澁澤の書いた物語にあたらしい視線を置いてゆく。
    そしてもちろん、美しい者たちの端麗なさまは見事である。
    もとより山口晃は美形をひんぱんに描く画家ではない。(淡々と男、淡々と女…という感じがする)なので、こんなふうに真っ向勝負の美形を描いた耽美な絵を見られること自体が貴重だと思う。

    物語は「山椒大夫」のような悪辣地主の手に落ちた美少年・菊麻呂の登場から始まる。
    記憶を失った菊麻呂が唯一覚えているのは、ある妖しい女とのいきさつだけ。
    菊麻呂の美しさに助平心を起こした男、同じく心うばわれた地主の娘が彼の運命に絡まりもつれて終幕へと転がってゆく。
    美少年・菊麻呂の艱難辛苦と数奇な運命がメインに語られているのだが、彼が抗いがたく吸い寄せられていく美しい者たちの魔力に、肌があわだつような怖さを感じた。
    そしてまた魔力を持った者たちをとりこにする美少年のありさまに、奇妙な気持ちにさせられる。

    山口が挿し絵で示したように、美少年の両性具有的あり方もまた「少女」であると思う。
    あとがきとして同時収録されている「少女コレクション序説」から、そのように理解できる。

    「小鳥も、犬も、猫も、少女も、みずからは語り出さない受身の存在であればこそ、私たち男にとって限りなくエロティックなのである。」

    この「少女コレクション」の定義がまた素晴らしい。それはこの「ホラードラコニア少女小説集成」の定義にも重なる。

    「誤解を避けるために一言しておくが、私はべつに、少女の剥製、少女の標本をつくることを読者諸子に教唆煽動しているわけではない。
    (中略)
    現代はいわゆるウーマン・リブの時代であり、女権拡張の時代であり、知性においても体力においても、男の独占権を脅しかねない積極的な若いお嬢さんが、ぞくぞく世に現われてきているのは事実でもあろう。しかしそれだけに、男たちの反時代的な夢は、純粋客体としての古典的な少女のイメージをなつかしく追い求めるのである。それは男の生理の必然であって、べつだん、その男が封建的な思想の持主だからではない。神話の時代から現代にいたるまで、そのような夢は男たちにおいて普遍的であった。」

    彼にとっての「少女」とは何か、男が生来ぬぐいがたく抱く少女への思慕。
    澁澤美学のプリズムを通して見る世界の歪みに酔いつつ、明快な語り口に快感を覚える。
    だから何度でも、彼の言葉を聞きに訪れたくなるのである。

  • あらすじを申せば本文末尾より。
    「土佐の伝説に宇賀の長者というのがある。むかし土佐の国の長浜村に、宇賀の長者という豪族があり、その屋敷の豪壮なことは目を驚かすばかりであった。あるとき長者は思い至って伊勢参宮に赴いたが、外宮内宮の建物の意外なほど質素なのを見るにおよび、「お伊勢さまというから、どおんな立派なものかと思ったら、なんだ、おれの家の厩ほどもないではないか」と悪態をついた。すると神罰てきめん、長者の屋敷は留守中に火事をおこし、烏有に帰してしまったという。」
    ……間違ってはいない。けして間違ってはいない。あらすじだとこうなる。これがめくるめく澁澤ワールドだとどう窯変するか。素敵な山口晃の絵と装丁とで読むのが楽しい一冊。

    人魚スキーと河童スキーは読んで損無しか。

  • 『うつろ舟』の中の白眉とも言える「菊燈台」が山口晃さんの描き下ろし挿絵(これ大事)で読めるこの贅沢感。別の感想にも書いた気がしますが、ホラー・ドラコニア少女小説集成がたまらないのは、その絶妙な値段設定と本としての圧倒的な完成度にあると思っています。ついつい手を伸ばしたくなる魅力的な一冊でした。

  • 『うつろ舟』に収録されていた短編を山口晃の挿画で!個人的に山口晃というと昔の絵巻物みたいな鳥瞰図の絵を描く人という印象であまり人物画のイメージがなかったのだけど、本書では鳥瞰図的な構図もありつつ、人物のなまめかしさが素晴らしい。

    とくに好きなのは人魚が捕獲されるとこと、その人魚が薬屋で解体されて売られてる挿画。薬屋のほうはとくに物語上重要ではないというか直接関係ない場面なのに細かく書き込まれていてとてもいい。

    巻末に『少女コレクション序説』からの抜粋エッセイも収録。

  • 大好きな山口晃さんの挿絵なので借りてみました。
    単行本だけど、字が大きく、挿絵も多いので小一時間で読めます。
    澁澤 龍彦は初めて読みましたが、なんかなにげに好きでした。
    なんちゅうかエロティックっちゅうか、なんちゅうか。
    巻末で心理学的なことにもちょい触れてくれてるのでそういうの好きな人にはおススメどす。

  • 全5巻シリーズ。澁澤達彦の文に山口晃や会田誠など現代アートで活躍してる人たちが絵をつけてます。
    シリーズの中ではこの一冊が好き。
    山口晃だけ2冊の絵を手がけてるんだよねー。

  • 物語の方は既読だけど、山口氏の挿絵の為に買った

  • 山口晃氏の描かれる女性がとてもうつくしい。

  • 澁澤ファンにもよいかもしれぬが山口晃の絵が存分に楽しめて良いですよこれは。「うつろ舟」収載の一編「菊燈台」に山口晃が絵をつけた逸品。

  • 鳥肌が立つ程に素晴らしい組み合わせ。堪らなく好きな一冊。

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著者プロフィール

1928年、東京に生まれる。東京大学フランス文学科を卒業後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介。また「石の夢」「A・キルヒャーと遊戯機械の発明」「姉の力」などのエッセイで、キルヒャーの不可思議な世界にいち早く注目。その数多くの著作は『澁澤龍彦集成』『澁澤龍彦コレクション』(河出文庫)を中心にまとめられている。1987年没。

「2023年 『キルヒャーの世界図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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