星野道夫 約束の川 (STANDARD BOOKS)

著者 :
  • 平凡社
4.28
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本棚登録 : 230
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582531770

作品紹介・あらすじ

知と文芸を横断する好評シリーズ、第4期刊行開始! 写真家・探検家としてだけでなく当代随一の文筆家としても知られた著者の、自然、動物、そして人への畏敬あふれる名篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 珍しいものを見て反射的にシャッターを向けるのは今に始まったことではない。だから、本の帯に書いてある「心のフィルムにだけ残しておけばいい風景が時にはある」を目にした一瞬ギクリとした。実際写真に関する記述が中盤までないものだから、著者が写真家であることを忘れてしまっていた。

    大自然を慈しむ眼差しや文章から、筆者の優しさが伝わってくる。ちょびっとだけディズニー映画の『ポカホンタス』を思い出した。
    遠いアラスカに思いを馳せ、ぬくぬくマイペースに読み耽るのもまた格別♪ 場所が極寒のアラスカでも著者の温かい心はひだまりを作っていたんだろうな。

    ポトラッチ(「インディアンの世界における御霊送りの祝宴」)は日本のお盆とは一線を画すレベルで、自然界・霊界との共存を深く意識しなければいけなかった。あの時ムースが現れたのも必然としか思えない。
    イヌイット語の豊富な雪の表現にも不思議な感覚を覚えた。日本語にも雪の表現は沢山あるが、イヌイットの方がより自然界・銀世界に溶け込んで聞こえる。それらは静かに、でも確実に、自分の記憶にも足跡を残してくれた。(著者の優しい詩的表現に影響されまくっている笑)

    死を覚悟するような言葉もところどころで顔を覗かせる。猛吹雪の中をテントと持ち堪えたり、グリズリーと対峙したり。ひだまりの時とはまるで正反対で、生きるイコール真剣勝負なんだと改めて身が引き締まった。

    「ひっそりと消えてゆこうとする人々」はもう本当にいないのか。虚しい気持ちで満たされる前に著者の言葉を書き残しておく。
    「1年に1度、名残惜しく過ぎゆくものに、この世で何度めぐり合えるのか。その回数を数えるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれない」

    そういうものにこそシャッターを向けるべきでは?って少し前なら思ったはず。「心のフィルム」に焼き付ける方が案外鮮明に残ってくれるものかもしれない。めぐり合うのが歳をとってからだったとしても。 

  • ヤマザキマリさんの『ムスコ物語』(幻冬舎)で、母から息子への「地球に受け入れられているという自覚だけ持って堂々と生きて欲しかった」という地球規模の想いに触れたせいか、無性に星野道夫の文章が読みたくなりました。

    アラスカの地でありのままの自然に抱かれていた写真家の言葉は、文字を読んでいるのに、彼の声を聴いているような気がしてきます。
    夜に焚き火にあたりながら聴く語りのように、しんしんと深く、心に沁み込んでくるのです。
    人間も、動物も、植物も、刻々と姿を変える地球というひとつの生命体の一部なのかもしれない。
    日本の忙しない日常がふっと遠ざかって、原始の命のうねりを手繰り寄せてくれるような読書体験でした。

    また、本書の中で紹介されていた、"Life is what happens to you are making other plans."という言葉も大切にしていきたいと思いました。
    思うようにいかないことがたくさんあるけれど、それこそが人生なんだ。
    前向きな覚悟がこめられた、かっこいい言葉。

  • 「未到の大自然・・・そう信じてきたこの土地の広がりが今は違って見えた。ひっそりと消えてゆこうとする人々を追いかけ、少し立ち止まってふり向いてもらい
    その声に耳を傾けていると、風景はこれまでとは違う何かを語りだそうとしていることが感じられるようになった。人間が足を踏み入れたことがないと畏敬をもって見おろしていた原野は、じつはたくさんの人々が通り過ぎ、さまざまな物語で満ちていた」

    星野さんは、アラスカの過酷な自然環境に生きる人々、先住民の懐に飛び込み、生活を共にし聞き取り、独特の世界観を構築されていった

    この本は、今まで出会われた実に魅力的な人たちとの関わりが次々と出てくる
    鳥類学者のディブ・スワンソン、アサバスカンインディアンのウォルター、グッチンインディアンのケニス・フランク・ブッシュパイロットのブルース・ハドソンとドン・ロス・・・

    星野さんの誠実でまっすぐな人柄が人々の心を開いていったのだろう

    そして、撮影された素晴らしい写真の数々もこの人たちの協力なくしてはできなかったことだろう

    今回3冊、星野道夫さんの本を読みながら、私自身が気づかされたことがある
    「死」についての考え方
    死とは、決して特別のものではない
    もちろん我々の生活の中にもあるのだが、どこか見えにくくなって、過度に恐れ、特別視している感が私の中にあった気がする
    大自然の中では日常的にいろんな死が生と隣り合わせに存在している
    厳しい大自然の中のごく当たり前の日常として、長い歴史の中のほんの一コマとして
    動物の死をいただいて、生きているのだから

    一頭のクジラを仕留めたら、余すところなく村人みんなで分け合い、頭骨だけをまた海に返す

    「目の前のスープをすすれば、極北の森に生きたムースの体は、ゆっくりと僕の中にしみ込んでゆく。その時、僕はムースになる。そして、ムースは人になる」
     
    死を必要以上に恐れるのでなく、軽く扱うのでもなく、
    「自然に還るという考え方」目から鱗だった

  • 昔、写真展や写真集をみた事があり、懐かしい思いで手にとりました。多分人によりけりかもしれませんが極北の風景が目に浮かんでき、また登場する方々の心情に思いをめぐらす事が出来ました。今の日常から離れたくなる危険な本かも笑

  • 写真家の星野さんが熊の被害に遭われたのは96年のとこ
    この本ではいきなり極北の空気に引き込まれる。
    自然の中で太陽と月を中心として生態系が広がる。

    クウェリ(木の枝に積もる雪)
    森の生態系についてはまるで理科の授業の様でありその表現力は確かな文才。

    クウェリの他にも、エスキモーの色々な雪の呼び方が書かれている。
    その雪の頃の出来事はメルヘンでありながら本の向こうに広がる雪が浮かぶよう。

    表現力、再現力
    心の中や出来事を極北に相応しい言葉でしっかり伝えてくる。

    星野道夫さんにしか出せない言葉の数々があった。
    着眼点も良いし、極北の自然の営みに、語彙力だけではない
    映像も混ぜ込んだ素晴らしい文章。

    すっかり魅了されてしまった。

  • とても澄んだ言葉で語られるので、星野道夫さんの体験や風景の感動が、ダイレクトに沁みてくる。何かを探しあぐね、見つけて、心のままに行動していくのは、森羅万象が摂理のまま生きているようで、憧れる。ワタリガラスや古代のトーテムポールやオーロラや動物に惹かれる部分を、私も少しでもいいから持ち合わせていたらいいなと思う。そうすると、たくさんの境目も超えた何かに触れることができる気がして、また、星野さんの言葉を読みたくなる。

  • とても読みやすい文章。
    平易ながら、情景がありありと浮かんでくる。
    そして、アラスカとそこに暮らす人への愛と熱が伝わってくる。それでいて軽やか。
    こんなに民俗学に近い視点であったことには驚いた。
    写真に目が行ってあまり文章に注目していなかったことに反省。

  • これほどまとまった作品集はないのではないか 星野道夫作品は色々と読んでいるけれど、一時代に偏らず良いバランス 初めて星野道夫作品を読む人にお勧めしたい 彼の作品を読んでいると人も自然の一部でムースやカリブーと並列なのだなと

    このStandard Booksの佇まいも良い コンパクトだけどしっかりしていて巻末の作者紹介やその他のブックガイドの充実ぶり 解説もまるで手紙のように挟まれている 気になって他の作家の作品も追加購入した

  • 久しぶりの星野道夫。
    雑誌等の特集などでときどきその文章、写真などには触れていたけど、まとまった本として読むのは、久しぶり。昔、読んだ覚えのある文章もチラホラとあり懐かしい。
    STANDARD BOOKSという平凡社が編んだ新たなエッセイ集だ。

    「老人がどこかで力を持つ社会とは、健康な世界かもしれないと思った。」

    これは、エスキモーの村でのクジラの解体作業を描写した記述だ。近頃、やれITだ、DXだと、もうロートルの知見では若手に太刀打ちできないことが多いのだけど、どちらがどうということではなく、旧い経験と新しい活力が、上手に力を合わせられる社会があるとしたら、それは健全な世界なのだと思う。

    長い撮影旅行から帰って来ると、翌朝必ず星野の家に「おかえり」と電話してくるアサバスカンインディアンの友人がいる。なにか霊的な不思議な話かと思ったら、

    「最近になりその理由がわかった。何てことはない。僕が帰って来そうな10日も前から毎日電話をしているのである。」

    と、なんとも気の抜けたオチ。いやいや、やれインターネットだスマホだSNSだと、いつどこでも連絡を取れる今と違い、なんとも、たおやかな時の流れがあるではないか。既読が付くとか、付いたけど返事がないとか、そんなつまらないことで気をもむ必要もない。安否確認なんて、これくらいの悠長なことでいいのかもしれないよ。

    「人間の歴史は、ブレーキのないまま、ゴールの見えない霧の中を走り続けている。」

    星野がこう記したのはもう30年近く前のこと。今、人間の歴史は、さらにそのスピードを上げている。星野が過ごしたころのアラスカの原風景に思いを馳せ、もう少し歩みの速度を落としてもいいんじゃないか、と考える。

    そんな、ゆったりとした時間を過ごせる珠玉のエッセイ集。

  • 星野さんの著書はすでに何冊か読んでいるから、「ん?既視感、、?」と思ったけど、寄せ集めだったのか。
    わたしのように、ほかにも星野さんの本を何冊か読んでる方にはおすすめしません。

    星野さんの文章自体は、心が洗われるような美しいもの。
    幸せってすごくシンプルなことなんだなって気づかせてくれる。

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著者プロフィール

写真家・探検家

「2021年 『星野道夫 約束の川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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