10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582513356

感想・レビュー・書評

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  • 科学誌「ネイチャー」などが主催しているジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞した著者渾身の一冊です。タイトルの「10万個の子宮」には、日本だけで、毎年3000の命と1万の子宮が子宮頸がんにより失われており、ワクチン被害者の会による国家賠償請求訴訟が終わるまでに10年かかると言われていて、つまり、国賠が終わり子宮頸がんワクチンが最短で接種されるようになっても、それまでに10万個の子宮が失われるという意味でつけられたそうです。
    テレビや新聞などでよく見られた車椅子の少女たちの症状が子宮頸がんワクチン接種による被害というニュースは、全く科学的な根拠のない事だということが、本書を読むことでわかります。
    特に2章で読むことのできる信州大学の池田修一氏による子宮頸がんワクチンが脳に障害を与えているという捏造には、本当に呆れかえりました。終章の間違った治療法に翻弄された少女たちのインタビューでは、実態がよく分かり胸を突かれる思いがしました。
    この本がきっかけになって、日本の女性たちに明るい未来がくることを願っています。

  • 子宮頸がんワクチンは、原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぎ、子宮頸がんの発症を予防するワクチンである。日本では2009年に承認、以後、2010年から中学1年生から高校3年生相当の女子を対象に、接種の助成も行われてきた。
    ところが、2013年、歩行障害や著しい記憶障害といった重篤な副作用を訴える例が大きく取り上げられたため、積極的な接種の呼びかけが控えられることになった。
    2016年には子宮頸がんワクチンによる被害を訴えた国家賠償請求訴訟が起こされている。

    日本では、毎年、子宮頸がんによる死者は3000人、摘出される子宮は1万個という。
    子宮頸がんワクチンが有効であるならば、この数は0とはいかなくともかなりの減少を見せるはずである。
    一方で、日本では、国家賠償請求訴訟が終わるまでには10年を要すると言われる。おそらく、その間は、助成金を伴うワクチン接種が本格的に再開されることは困難だろう。
    年間1万個x10年、つまり10万個の子宮が、このために失われてしまうだろうというのがタイトルの主旨である。
    いささか扇情的な印象も受けるが、著者は「敢えて」そこを狙っているのかもしれない。

    Aが起きてBが起きる。時系列的にはそうであっても、それが即、Aが原因となってBが起こるという因果関係であることにはならない。そこを科学的に解明する際には、「エビデンス(証拠)」が必要となってくる。
    だが、子宮頸がんと重篤な副作用の間にはそのエビデンスが控えめに言っても十分ではないというのが著者の主張である。
    不幸にして、重篤な症状を示す少女たちは実際に出た。が、その原因が本当に子宮頸がんワクチンなのか。
    そうではないとするならば、この問題がこれほど大きくなった背景には何があるのか。

    著者は、このワクチンと副作用との因果関係に関して慎重に検討し、メディアを通じて発表してきた。
    2017年には、国際的なジョン・マドックス賞を受賞している。この賞は、長年、科学誌Natureの編集長を務めたジョン・マドックス(2009年物故)にちなんで2012年に創設されたもので、「公共の問題に関して、堅実な科学とエビデンスを広めた個人(an individual who has promoted sound science and evidence on a matter of public interest)」に与えられる。受賞者には代替医療や認知の歪みの問題と取り組んだジャーナリストや医師、研究者が並ぶ(2016年受賞者はエリザベス・ロフタス(『抑圧された記憶の神話』))。
    だが、これに先んじて、2016年にワクチン薬害を主張した医師の1人から、名誉毀損で裁判を起こされている。
    国家賠償訴訟の影響もあり、本書のもとになる記事の連載は打ち切られ、本書刊行までも多くの出版社が難色を示したという。

    本書では、子宮頸がんワクチン問題を整理し、データを科学的に検証し、ワクチン問題の社会学的側面を検討する。実際にワクチンを受け、重篤な障害を発症した少女本人にも取材している。
    少女たちが重篤な症状を起こしたのは痛ましいことだ。
    だが、それがワクチンのせいであるとする医師たちが行っている治療が、本当に妥当なものであるのか、という問題もある。

    反ワクチン運動はとかく激しくなりがちである。それが感情的なものを伴うのか、あるいは「科学」や「巨大製薬会社」というある種の「権威」に対する反発なのか、さまざま考えさせられる点は多い。
    この件には、報じられている以上に、大きな根深い問題が隠れているようにも思える。

  • ちょうど娘宛に市から
    「HPVワクチンのお知らせ」が届いたところ
    だったので気になり読んでみました。

    知識を得ることが、できよかった。
    やはりテレビで流されることだけが
    真実ではないし、鵜呑みにしないように。
    視聴者側にどう思ってほしいかなど
    何か意図があって作られていることも
    多いと思った。
    自分にとって大事なことは、
    きちんと自分で正しい情報を
    探っていくことが
    大切なんだと改めて感じた。

    多くの女性が読むべき本。
    ワクチンを受けることで
    悲しい思いをする人が今より
    減るのだから!

  • 子宮頸がんワクチンとその「副作用」に関する騒動はなんとなく知っていて、ワクチン接種と副作用とされる症状の間に因果関係を示す科学的な証拠が見つかっていないことも理解はしていた。
    モヤモヤしていたのは、証拠がないのになんでワクチンが原因という話になっているのかよくわからない上に、ワクチンの定期接種が止まっていると聞いたからだ。
    もちろん、因果関係を証明できない=因果関係がない、ではないから、ワクチン接種をためらう気持ちはわかる。であればなおさら、ワクチン有罪説の根拠が重要だし、根拠があるならその根拠が科学的に肯定/否定できない理由がわからない。

    というわけで、この件で知りたかったことが2つ。
    その1。そもそもいろいろな症状がワクチン接種の副作用だ、という話がいったいどこから出てきたのか。その根拠はなんなのか。
    その2。なぜ統計解析を行わないのだろうか? ワクチン接種群と非接種群で「副作用」の発現頻度を確認したら、ワクチンのせいかどうかすぐわかるだろうに。

    読んでびっくりしたのだが、「その2」についてはすでに名古屋市の調査結果が出ているという。結果はシロ。つまり「副作用」の発現頻度にワクチン接種との相関関係が認められない。
    「その1」については残念ながら本書ではよくわからない。ワクチンは無関係という立場で書かれている本だから当然なのかもしれないが、そこを知りたかったのだけれどな。ちょっと検索してみたらワクチン有罪説の本が相当あるみたいなので、そっちを読んでみよう。
    ちなみに、ワクチン有罪説を唱える池田教授の論文には問題があると著者が指摘したので、両者の間で訴訟に発展しているそうだ。当事者には面倒なことだと思うが、白黒つけるのは良いことだ。ただ、ちょっと気になる点がなくもない。法廷というのは論文の科学的な評価にまで踏み込むんだろうか? 論文は正しいか間違っているかちょっとわかんないけど、悪口言ったのは確かだからアウト、みたいなことにならないだろうか?

    ワクチン有罪説の根拠がわからないので結論は保留するが、本書を読んだ限りではワクチン有罪説は分が悪そうだな。
    というわけで、科学と理屈で決着がつけばすっきりするわけだが、そうはいかないのがこの件の気持ち悪いところだ。
    名古屋市の統計調査の結果は一度公開されたあと、うやむやのうちに非表示になってしまったそうだし、本書の出版もかなりもめたらしい。理屈はともあれ、ワクチン怖いという人が多いなら定期接種の停止はやむを得ないとは思うが、客観的な調査結果や、科学的な裏付けのある主張を隠蔽する動きというのはアホかいとしか思えない。
    なお子宮頸がんワクチンは当事者が望めば打てるらしい。ちょっとホッとした。

  • 490

  • 詐病ならいいけれど,患者さんが原因を偽ることで本当にすべき治療が遅れるのならそれはこわいことだと感じていました.でも事態はもっとひどいことだったのですね.朝日新聞を取るのをやめようかとも思いました.マスコミは本当に信用ならない.もっとこの本が読まれることを祈ってます.

  • 色々と騒がれていた中、イギリスで賞をとったとのニュースを聞きました。
    子宮頸癌ワクチンの問題は、医療の問題ではなく日本社会の縮図であるという著者の考えに賛同できます。
    年ごろのお子さんをお持ちの方には、ぜひ読んでいただきたい一冊。そして、お子さんのためにご家族で考えて見る必要がある課題だと思いました。

  • 子宮頚がんワクチンに薬害があるとする主張に対して、この本は色々な観点から科学的、医療的な観点から丁寧に反証していきつつ、薬害問題が起きる社会的な背景を鋭く指摘している。
    世のニュースやらsnsやらで薬害を主張する人は須らく陰謀論的で大雑把であることと比べると、筆者はとても誠実で公正である。
    自分は医療について専門知識を持っていないので、やはり誠実で公正な人の主張が正しいのだろうなと思ったりした。

    あとがきで、子宮頚がんワクチンの問題は医療問題では無く社会問題であると書かれていた。政治家や政治的な活動をしている人のごく一部には、お金のため、もしくはやりがいとか趣味という意味のライフワークとして社会問題を生活の糧として必要としている人がいる。
    思春期の女の子で色々な理由で体調を崩して苦しんでいる人が、そういう人たちの食い物にされているというのは義憤に堪えない状況で、そういう状況を良くするために、あらゆる障害に負けず、長年に渡って地道な取材を続けている筆者には尊敬の念以外は抱きようが無い。

    とにかくとても良い本でした。子宮頚がんワクチンの問題のみならず、日本社会、もしくは人間社会全般を考えるヒントにもなった。

  • ワクチンの副作用も一部にあるけど、全体では益がある、という話かと思ってたら、ワクチンなくても発生する症状がワクチンのせいにされている、というもっと深刻な話だった。著者はややエキセントリックな方なのかと遠巻きに見ていたが、これはやむを得ないと思った。官も学もメディアもなかなか強くポジションを取らない状況を声の大きい活動家が悪用する。どうすれば防げるのだろうか…

  • 本作は、医師兼ジャーナリストの村中璃子氏による、いわゆる「子宮頸がんワクチン」問題に鋭く切り込む作品です。その趣旨は、「子宮頸がんワクチン副作用」は言わば「つくられた」ものだ、というものです。ちなみに、2012年から開始された、ジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞。

    ・・・
    本作クライマックスは、元信州大学医学部池田教授による、子宮頸がんワクチンの副作用によって脳障害(HANS)が起こると主張した実験データについて。これを捏造であったと結論づけるところでしょうか。

    統計的手続きの詳細は理解できませんが、実験が再現できず、かつマウス実験で脳障害を起こした個体が僅か一つ、さらにその症例も起こすべくして起こした実験といえるデザインであったことが暴露されています。この実験に携わったとされるA教授は池田教授の指示に従っただけと述べ、池田元教授は逆に、実験はすべてA教授に任せたので詳細は分からない、とお互い責任のなすりつけあいにも少し驚きました。

    村中氏はさらに踏み込みます。
    子宮頸がんワクチンの副作用を主張する池田教授という方が、どうやら野心家であり、学部長選挙やひいては学長選挙への当選を狙うために手柄を必要とし、不正に及んだと類推しています。
    このあたりはちょっと下衆の勘繰りチックかもですね。ただ私も思いましたが、国立大の医学部でしかも学部長、学長選挙は敗れた模様ですが最後は副学長まで上り詰めたエリート。仮に自分が間違っていたとしてもそれを認めることは大変に難しいかもしれませんね。出世街道のクライマックスですし。

    最終的には池田元教授に研究を依頼した厚労省も実験結果が正しくないことを認めた模様ですが、所属元の信州大、子宮頸がんワクチンに副作用は認められないと暗示する統計を出した名古屋市も最後はだんまりを決めます。厚労省は、池田元教授の実験は拙かったものの、実験そのものに不正はないと玉虫色の幕引きを狙い、本作筆者の村中医師も名誉棄損で池田氏から訴えられ敗訴。泥仕合的結末になった模様。

    ・・・
    こうした内容を読んでいると、凡人の一般市民たる私は何をどう信じればよいのか、と考えてしまいます。

    想起するのは、内海聡医師の「ワクチン不要論」です。ワクチン製剤の作成原料を詳らかにしつつ、ワクチンビジネスの規模の大きさから、陰謀論的殺人をも匂わせていたものです。トンデモ本に近いものがありますが、私が当該作品を読んだときは丁度コロナが大流行し、かつ緊急避難的にワクチン接種が行われたため、内海氏の作品に大いに影響されました(わりに3回きちんと打ちましたが)。

    実は内海氏の作品と村中氏の作品には共通したトピックを取り扱っています。不正な薬害データを作成したとして医師免許をもはく奪された、ウエイクフィールド医師の事件についてです。

    村中氏は、子宮頸がんワクチンの副作用を主張し実験データを捏造した池田氏をウェイクフィールド氏になぞらえる一方、内海氏の作品では、ウェイクフィールド氏は真実を唱えたため医薬業界から抹殺されたとし、ウェイクフィールド氏を追い込んだブライアン・ディア記者(やそれを取り巻く医師も)が英国製薬業協会から資金援助を受けていたことを暴露しています。また日本にもディア記者のような(製薬業界からの金を受け取る?)医師が多くいる、とほのめかしています。

    うーむ。どっちが正しいのか?一般市民は何を信じればよいのでしょうか?
    私個人が現在下した判断は、日本人が一生を通じて多くの宗教行事を祝うかのように、好きな時に好きなものを信じればよいのかな、とちょっとシニカルに思いました。だってもう、分かんないんだもん。

    人間の体のメカニズムがそもそも複雑極まるなか、ワクチンの作用の複雑さは一般の理解を越えます(基本的な原理はジェンナーのおかげでよく分かりますが)。全般的にはワクチンの有効性は信じたいと思います。ただし、内海氏のような医師も(一人ではなく)出てくることを鑑みるならば、製薬会社だって清廉潔白なだけでは済まない、人に害のならない程度に「まぜもの」でもしているかもしれない、と勘繰るところです(製薬関連の方、大変申し訳ないです。超個人的な思い込みです)。だから、真に必要ではないクスリ・ワクチンはなるべく受けさせたくない。

    分からないものは調べる・学ぶ、というのが私の基本スタンスですが、当該分野はあまりに深く広く、調べ切ることが難しいところです。それゆえ、生半可の調査ののち、「信じる」というアクションしか今のところ私はとれていません。

    ・・・
    ということで、村中氏のノンフィクション作品でありました。

    誤解を恐れずに言えば、私は、大人がワクチンを打とうが打つまいがどっちでもいいと思っています。私も数十年後には既に死んでいましょうし。

    でも、これからの社会を築いてゆく将来のある子どもたちに、万が一でも害があるとすれば、それは親には耐えがたいことです。

    統計学的とはいえ、一部に(例外的に)重篤な副作用があるというのはクスリの世界ではよくあることかもしれません。例外というのはどの世界にでもある話でしょう。ただそれが自分の子だったとしたら、当然の事ながら親は許容できかねるわけです。

    本作では内容を読む限りでは池田元教授の杜撰さが明らかで、子宮頸がんワクチンは大切だという気持ちになります。他方で、確率論を越えた親心をサポートしワクチン接種により病菌の蔓延をを防ぐためには、薬害発生時の一層の手厚いサポートやそうした情報・制度の流布が必要なのかなと思いました。

    本作、子を持つ親御さん(特に女の子、でも子宮頸がんワクチンは男性にも効果あるそうですよ)、薬害に興味があるかた、医薬関連トピックに興味がある方、ジャーナリズムに興味があるかたにはお勧めできる作品です。

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著者プロフィール

医師、ジャーナリスト。一橋大学社会学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了後、北海道大学医学部卒業。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局の新興・再興感染症チームなどを経て、現在、現役の医師として活躍するとともに、医療問題を中心に幅広く執筆中。京都大学大学院医学研究科講師として、サイエンスジャーナリズムの講義も担当している。2014年に流行したエボラ出血熱に関する記事は、読売新聞「回顧論壇2014」で政治学者・遠藤乾氏による論考三選の一本に選ばれた。2017年、子宮頸がんワクチン問題に関する一連の著作活動により、科学雑誌「ネイチャー」などが共催するジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞。本書が初の著書となる。

「2018年 『10万個の子宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村中璃子の作品

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