世界史のなかの昭和史

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582454529

感想・レビュー・書評

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  • ヒトラーという独裁者が生まれた背景を知ることができました。以下、第28代アメリカ大統領ウィルソン氏の言葉を記載します。著者の半藤氏が感銘を受けたそうですが、私も本書の中で一番心に響いた言葉でした。

    『勝者なき平和でなければならない。勝者も敗者もない平和だけが長続きするのだ。』

  • 自らを歴史探偵と称して、『昭和史』や『日本のいちばん長い日』などの日本の昭和史を中心に一般向けに魅力的な書籍を出し続けてきた著者が、日本の戦前期の昭和史を世界史の中で位置づけて見直したものである。

    日本で主に軍部が主導してこの時期に起こした重要な出来事として、満州事変、上海事変、国際連盟脱退、二・二六事件、日中戦争、ノモンハン事件、日独伊三国同盟締結、日ソ中立条約締結、南部インドネシア進駐、真珠湾奇襲攻撃、などが続いていく。そして同時期に、スターリンとヒトラーという歴史が生んでしまった二人の狂信的指導者による独ソの国としての動向がある。この国際情勢について知らなければこれらの出来事に当たっての日本の軍部や政府が下した判断に対する正確な評価は得られない。いずにれせよ、スターリン時代の始まりとヒトラーの全権掌握と昭和の幕開けが時を合わせているのは、歴史の皮肉だったと。ヒトラーが首相となり悪名高い全権委任法を通した1933年は、昭和8年に当たる。日本は彼らに振り回されたという感もあるが、一方で日本の戦略性のない対外交渉経緯が目に付く。

    例えば、1940年の日独伊三国同盟が最後の分かれ道になり、アメリカとの戦争が避けがたく、それは日本という国にとっては致命的なものとなったというのが半藤史観でもある。日本の一部では、これをソ連も加えた日独伊ソ四国協商まで広げるというのが政府の考えであったが、現実性が乏しく、ヒトラーのソ連への侵攻によって当初より可能性なきものであったことがわかった。それにも関わらず、日ソ不可侵条約をもとにして、終戦の判断間際まで第二次世界大戦終了の仲介をソ連に頼んでいたのも今から思えば、見たいようにしかものを見ない愚かな行動であった。
    また戦略の欠如という観点では、そもそもの日中戦争は日本にとってはしなくてもいい、起こってしまった以上は早期に停戦すべき、戦略的にはそう考えなければならない戦いであったとされる。それだけ戦略的意義のない戦いであったのだ。それが何を思ったか上海戦に勝利を収めてしまったことから、首都南京に攻め入ることを指示せざるを得ないことになった。首都を押さえれば日中戦争は日本側の勝利で終わるという誤解。南京侵攻の前に蒋介石と和平の可能性もあったとのこと、その後に起きたことを考えても残念な気持ちと、よくない意味での日本らしさが出ていた。

    また、そういった政府や軍部の行動に、新聞が大きな役割を担っていたことは忘れない方がいい。
    半藤さんは、国民とも言わず、民衆・大衆とも言わず、「民草」というのは「国」という枠に固められたものでもなく「衆」というような集まりではなく、弱々しくも流されやすい一人ひとりの人間を表すのに「民草」がもっともしっくりくるのだという。そういった「民草」をメディアは煽り、世間の空気を作り上げたのである。「バスに乗り遅れるな」と煽ったのは新聞であった。

    ところどころアントニー・ビーヴァーの『第二次世界大戦』の描写が引用されているが、これはいつか読みたい本。『ベルリン陥落1945』『スターリングラード』や『赤軍記者グロースマン―独ソ戦取材ノート』をかつて読んだが、丁寧な取材をもとにした記載にとても迫力があった。

    その前に『昭和史』を読まないといけないな、と思いAmazonにて購入。まずは知ることから始めないといけないのだ。


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    『日本のいちばん長い日』(半藤一利)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4167483157
    『十二月八日と八月十五日』(半藤一利)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4167903903
    『あの戦争と日本人』(半藤一利)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4167483211
    『昭和・戦争・失敗の本質』(半藤一利)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4860812964
    『21世紀の戦争論 昭和史から考える』(半藤一利)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4166610724

  • 歴史探偵半藤一利氏が、「なぜ日本は第二次世界大戦へと暴走したか」を、ヒトラー、スターリン等とからめて書き綴ります。

    日本人にとってはヒトラーの成功がパワーになったのですね。
    そして、ドイツ人はどうしてヒトラーについていったのか?
    それが長いこと疑問だったのですが、ここにはこう書かれています。

    〈ドイツ国内では、人びとはいつもと変わらない日々の仕事に精出していました。
    戦闘は開始されたが、敗北の恐れのほとんどない対ポーランドに限定された短期決戦と、ほとんどの人が思っていた。
    第一次世界大戦の記憶のあるごく一部の人のみが、これによって恐れていた資本主義列強との大戦争、それも長期になるかもしれない戦争は避けがたいものになったと、心から憂えた。
    この人たちの表情にのみ、不安や恐れ、そして一種の諦めの気持ちが表れていた、ということになっています。

    つまりその人たちにとっては、これは「ヒトラーの戦争」であったということです。
    ずっと定説としていわれてきたことですが、いや、かならずしもそう単純にきめるけつことはできない、という説を、最近は強く主張する研究者もいるようなのです。
    「大砲かバターか」ではなく、「大砲もバターも」というナチスの政策を熱烈に支持するドイツ国民がほとんどであった、というわけです。
    ナチス・ドイツの国民は、すなわちヒトラーは危機克服のために戦争を選ばなければならないところまで追いつめられているのだ、そう理解していた、というのです。〉

    そしてそんなドイツに引っ張られるかたちで、日本も暴走します。
    モスクワの敗北がもう少し早ければ避けられたのかもしれない?

    〈なるほど、国家はそれぞれがきまった運命をもっている、ということの合理的な証拠はありません。
    そうした運命論は無意味であるとの理性的は説も首肯できます。
    しかしながら、日米関係の、戦争か平和かの危機的な状況を世界史の上においてみると、理性の力より“天”の意志によって…と、悪いほうへ悪いほうへと引っぱりこまれていってしまう、といわざるを得ないのです。
    いっさいを呑みこむ歴史のうねりへの畏怖といったらいいでしょうか。
    それがこの長い長い探偵報告の結論である、とは、まことに情けないことながら、です〉

  • 独ソ戦逆転劇あたりを読んでると本当に歴史に「if」は有り得ないんだとため息が出ます。

  • 歴史探偵・半藤一利氏の労作『昭和史』三部作完結編となる本篇は、満州事変から大東亜戦争(太平洋戦争)の敗戦に至る「動乱の昭和」とナチス・ドイツ、ソ連邦との関わりを中心に、戦争と国家の命運について語られています。アメリカを戦争で全面的に屈服させることは不可能なため、早期に戦争終結(講和)を目論みます(南方資源の制圧、蒋介石の屈服、独ソ戦の勝利、独英戦の勝利、米国の戦意消失)が、人智では抗し難い力〝歴史のうねり(天の意志)〟が勝利の妄想にしがみついた日本を呑み込み、命運を決したと語っています。

  • 朝鮮情勢の命運に世界の注目が集まっているこのタイミングだったらこそ、昭和の戦争に向かっていったあの時代の世界と対比させて読むことができた。
    金正恩は現代のヒトラーなのか。少なくともヒトラーほどの野心はなさそうだだが今この時点ではなんとも言えない。だが金正恩を取り巻く世界情勢は80年前と変わらないようになってきたと思われる。経済発展を優先し、他国を顧みない現在は二度とあの大戦を起こさない方向に本当に進んでいるのであろうか。しばらくは朝鮮半島から目が離せない。
    これを読んでいるとif、if、ifとあの時にといったポイントがいくつもあり戦争を引き起こさなくても良かったのではないかと思えるが、それはやっぱり今だから言えることで、軍部が支配しているあの時代ではそれに対抗する力はなかったのだろう。戦争は不幸であるが、あの時代のifで日本が戦争を回避していたら現在の日本には戦争も辞さない軍隊があるわけで、今の世界情勢の中でその日本がどう立ち回っていけるのかと考えたりもしてしまう。
    とはいえ世界は第二次世界大戦を振り返って反省をしているはずで、それを信じて今の世界を見守りたいと思う。

  • 半藤昭和史三部作・完結編。昭和史を世界史のなかでどう位置付けるか。それは日本が第二次世界大戦・太平洋戦争を通して世界からどう見られていたかを考えると見えてくる。日独伊三国同盟を結ぶに至る経緯と、日ソ中立条約のソ連側からの急な破棄などの章を読むと世界史は一筋縄ではいかず各国の思惑が入り乱れ重層的な様相を呈す。日本はアメリカと同様にヨーロッパから見ると辺境の地、世界が欧州大戦に目が向いている間に中国に進出、領土を切り取って最初のうちは押せ押せでよかったがやがて泥沼の日中戦争に突入。英仏が常に気にしてるのはソ連とドイツの動きで、そのからみで日本が世界史の表舞台に出てくる。ドイツの考えではごく簡単にいえば日本と同盟を組んでソ連を西と東から挟み撃ちにする形にしたかったのだろう。しかしさしものドイツもナポレオン軍と同様、冬将軍には勝てなったようだ。詳細→
    https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou27607.html

  • 半藤さんの昭和通史三作目。少しずつこの時代が立体化してきました。ヒトラーとスターリンに転がされ続けた日本。それにしても松岡と近衛のトホホ振りには目を覆いたくなります。国際政治は冷徹。根拠なき自信や根性だけでは生き残れません。日米開戦後の国際情勢の把握、分析、諜報はどうなっていたんでしょうか?知りたいところです。

  • 2023.09.12読了

  • 2019I249 210.7/Ha
    配架場所:C3

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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