ひかり埃のきみ: 美術と回文

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 130
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582220230

感想・レビュー・書評

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  • 美術作品写真と回文詩集。本体カバーの白と凸凹の加工が涼やか。カバーをかけた状態だとほんのり優しいあたたかみがあって、珍しく外せないでいる。

    回文詩がとにかく美しいの一言。あまりの美しさに、触れている間はそれが回文であるということ自体、ほとんど意識の端にも上らない。上らないのだけど、ふと夢から浮上して距離を置くと、幻想性の自由が実は緻密に織り込まれた一音一音から組み立てられていて、精巧で端正な細工物が実は、その仕組みを超えた魂を内包していることが知れる。なんだかまるで奇跡のよう。絶品。
    ずっと眺めていたい大切な一冊になった。大事にしよう。

  • 直近1年で読んだもののなかでは一番よかった。

    美術家であり回文の作者でもある、著者の作品集として編まれた本作は、冒頭数ページが文字を題材にしたオブジェの写真、本文が回文の詩編となっており、最後にかんたんなエッセイとあとがきがついている、という構成になっている。美術家としての活動ももちろんしっかりとされているので、それによって作品数もあり質の高い物が揃っているのだろうが、注目すべきはなんといってもこの回文の詩そのものの質の高さである。回文というのはいわゆる「上から読んでも下から読んでも同じ文章」というもので、誰でも一度は目にしたことがあるのではないだろうか。そして、回文 というものに「ちょっと茶目っ気のある言葉遊び」くらいの印象をいだいているのではないだろうか。少なくとも、わたしはそうであった。しかしこの作者の手にかかると、神秘的な語彙選択や文章量も相まって、まるで祝詞のように読める部分がいくつかあるのである。というか、確実に「降りている」。何かが、降りているのだ。なんだこれは。AIが書いた詩というのはこういうものかもしれない、と思った。かろうじて日本語として読める程度のものだろう、とたかをくくって読み始めると首筋に鋭利な刃物をつきつけられることになる。

    日本の自由詩は、その昔、西欧から加工輸入したものである。フランスの詩には「ソネット」という形式があるが、日本にはこれがない。俳句や短歌といった七五調のものがソネットにあたるのかもしれないが、日本において詩と歌の世界は隔てられたまま成長してきた。それゆえ、よい詩ほど一般の人に「なぜこの書き方(言葉、順番)でないといけないのかわからない」と言われてしまう、という現象が起きる。この人は回文によってそこを突破してしまった。回文に詩情がある、というのは推敲を許さない完璧な作品の誕生ではないだろうかと思った。次回作が読みたい。この書き方で、どこまでゆくのか。それを見てみたい。と切に思った。

  • 美術と回文の作品集。
    私は回文と聞くと有名なたけやぶやけたくらいしか知らなかった。だから余計に感動し、また回文の新たな可能性を知り感銘を受けた。不思議な単語と文章に最初は狼狽えながら読んでいたが、読み進めるとこの世界観に引き込まれる。
    この回文を読むと叙情、叙景詩のように思える。それくらい単語同士が違和感のない繋がりだった。中には単語が羅列された文があったが、共通点のある単語で構成されており、読み返してみれば回文。読み初めと読み終わりでは捉え方や意味が異なり面白かった。
    この世界を作っている無数に飛び交う言葉達を順に集めて、最初と最後を出会わせる。そのようにして生まれた言葉の循環は文学とも詩とも芸術とも断言できない新しい分類のように思えた。こうして感想を書いているうちにまた読み直したくなる。月日が経ってもまた読み直したくなるときが来るのではないかと思わせるなんとも不思議で魅力ある本。
    この本に巡り会えたことを幸せに思いました。
    言葉が世界を飛び回るように、この本が誰かの手に届きますように。

  • 小説の文字一つ一つに刺繍した作品も凄いが、回文も完成度が高いのにちゃんと後ろから読んでも繋がるのが凄い。
    しんぶんし しか回文を知らなかった私にとっては未知の世界でした。

  • とても長く、美しい日本語の回文。とはいえ、少し暗い雰囲気がどうしても滲み出す

  • 回文とはなんなんだ……?と考えてしまう美しさ。いつまでも読んで眺めて手元に置きたい。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784582220230

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著者プロフィール

埼玉県浦和市(現さいたま市)生まれ。1992年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。1994年から2000年までアメリカ、ワシントン州に居住。本や文房具、郵便物など、言葉や文字との関わりをもち、しばしば自身の知覚や記憶を宿した私物に精緻で反復的な手作業をほどこした彫刻やオブジェ、コラージュを手がける。その制作手法は偶然や無意識の作用を介在させ、削る、折る、切り抜く、刺繍するといった行為がなかば衝動的に始められ、繰り返されることで、事物が変容し、異なる姿のもとに転生したものが作品として現れる。また、福田は美術の制作と並行して、始まりから読んでも終わりから読んでも同音となる、回文と呼ばれる文章を書き続けており、これまでに11冊の回文集を発表している。「世界は言葉でできている」*と考える作家にとって、美術と回文による言葉と世界をめぐるその探求は、根底において分ちがたく結びついている。

「2020年 『ふたつのまどか ―コレクション×5人の作家たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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