わたしたちの帽子

著者 :
  • フレーベル館
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784577031254

感想・レビュー・書評

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  • 家を改装する一か月の間だけ、仮に住むことになった物件は、味のあるレトロなビルの中にあり、その仮住まいのタンスの中にあった帽子から始まる、小学五年生の少女「サキ」の昔と今を繋ぐ、わくわくとぞくぞくの詰まった不思議で素敵な物語。

    サキの飼っている空色の鳥、チルルに導かれるようにして出会った、同じ帽子をかぶった同級生の「育ちゃん」に、謎めいた不思議な魅力を感じたサキは、彼女とすぐに意気投合し、ビルの中を冒険するのですが、このレトロなビルの描写がとにかく魅力的です。

    先の見えない曲がりくねった通路に、目が合いそうな雰囲気の手品師の絵、螺旋階段、地下トンネル、といった子供心に刺激される好奇心を、出久根さんの幻想的な味のある絵柄が更に増してくれます。

    そして、読んでいる間は、そうした冒険がメインの不思議な話で終わると思っていたのですが、それだけではなかったのです。

    「事実は小説より奇なり」、という言葉が浮かぶような(小説なんですけどね)、後半の、ミステリー色を覗かせながらも、祖母と孫の人生が思わぬ形で交差する展開には、とても爽やかな奇跡を感じましたし、そのきっかけがサキと育ちゃんの行動ならば、二人にとって、なおさら価値のある素敵な思い出になったと思います。

    時代によって、環境や価値観は変われど、少女時代の眩しくてキラキラした宝石箱のような思い出は、変わらないのかもしれない。

    そんなことを思わせてくれた作品でした。

  • 家の改装の1ヶ月間、古いビルで暮らすことになったサキ。
    階段の踊り場から、どこかへ伸びた廊下がうねるようにして暗やみのなかへ消えていったり、かと思うと、高いところの小さな窓から弱い光がふいにさしこんだり。ただ古いというだけではない不思議なビルの三階の部屋。
    部屋のクローゼットにぶら下がっていた子ども用の帽子に惹かれたサキは、同じ帽子をかぶった育ちゃんと出逢い、ビルの中の探検を始める。

    表紙の絵が印象的で手に取った本。
    繁華街の裏通りにひっそりと立つ古いビルに小学生の少女。大和和紀にもそんな話があったな、と懐かしく思い出しつつ。
    屋上の小さな花畑、モグラおじさんのおかしなダンス、猫の事務所、どこに続くのかわからない階段や廊下で出会う不思議。
    2人が登ったモグラトンネル。奥多摩の魚道のぐるぐる階段を思わせる。チビちゃんが気に入って何回も降りたなあ。あのときのちびちゃんの気持ちが少しわかった気がした。 

  • 人生でいちばん好きな本。

    私情です。
    小学生のとき、仲良い友達の悪ふざけで急にハブられた時にあんまり行かないけど暇だから…と図書室にいた。朝読書の本を選ぶためでもあった。入り口近くに配置されており表紙に惹かれて手に取ったが、何となくガラじゃないので持っているのがすごく恥ずかしくて隠すように教室に持ち帰った。
    その頃の私と、私をハブいた友達の様子を見ていた転校生。ピアノが上手くてくやしくて気に食わなかった転校生。でもその子はスッと横に来て何読んでるの?と話しかけてくれた。それが私と親友の出会いだった。この本が親友と結びつけてくれたし、お互いこの本が好きすぎて直ぐに書店で購入した。21歳になった今でもわたしたちはこの本が大好きだ。

    少女たちの見える世界を感じながら読むと、この本を手に取った当時を思い出し、いろんな感情が交差する。上京した時もこの本は持っていった。暇な時やつらいときも読んだ。いつでも当時の淡い記憶を思い出させてくれ、私を穏やかにしてくれる。

  • 小学生の女の子が、家の改築の間、一か月だけ住むことになった街のビルで不思議な女の子と仲良くなる。
    古いビルもまた風変わりで、隠し扉はあるわ螺旋階段の抜け道はあるわ、まるで物語の世界に迷い込んだかのよう。
    ファンタジーだかそうじゃないんだかわからないまま話は進む。

    新しく知り合った子と不思議な家の探検だなんて好みの真ん中だ。
    これ子供のころに出会ったらどはまりしただろうな。
    と思いながら読み始めたら、大人でも夢中になってしまった。
    不思議な世界をただのぞき見るだけじゃなくて、現実の今があって、未来につながっていく。
    それも元通りの現実に戻ってしまうのではなくて、同じだけど前よりきらきらして見える今につながる。

    「ルチアさん」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4577026368もそうだったけど、幸せの形がひとつじゃないのがいい。
    ここを知り続けるのも、いろんな場所を見て回るのも、どちらも素敵。
    違和感のある部分は、実はあえて違和感を感じさせる伏線で、気持よく騙された。
    タイトルも、はじめから意味が通じるけれど、読み終えたら意味が分かる。
    この本はすごくいい。


    育ちゃんが話すおはなし。
    「あめひめさま」は多分これ。http://booklog.jp/item/1/B000J8LURU
    「ねこの事務所」は宮沢賢治かな

  • 読みはじめてからずっと、銀座にあるビルを思い浮かべていました。
    画廊やアンティークショップのあるビルなのですが、不思議な造りで、階段を上っていろんな方向に部屋があり、
    古そうな美容院が入ったいたり、手動式の鉄柵のついたエレベーターがあったりと、
    大人になってから見つけたビルですが、すごくわくわくしました。
    このお話に出てくる建物とそっくりで、主人公と一緒にほんわかした不思議な気分をずっと味わっていました

  • 絵を描いた人の名前が、本の中の対役か主人公の名前でびっくりした。

  • 高楼方子さんのお話は、路地裏に雑貨屋に通学路のお屋敷に、遠くに見える景色に夢を膨らませ、空想していた幼い少女だった頃を思い出させてくれる時がある。

    今度のお話は、古いビル。
    あのビルの中はどうなっているのかしら?
    あそこに住むとしたら、どんなお部屋でどんな暮らしで、そこにはどんな人が住んでいる?
    自分と同じくらいの年頃の女の子はいる?
    その子はどんな子?
    きっとちょっと不思議な子で、一緒にいたら夢のように素敵な冒険をするにちがいない……。

    そんな空想を物語にしたような感じ。
    (もちろん、作者さんがそのように意図していたとはどこにも書いておらず、私個人の感想です)

    時のからくりを描く「トムは真夜中の庭で」みたいなオチかな?と最初考えてましたが、そんな私の貧弱な発想など追い付いてはいなかった、
    ちょっぴり不思議だけど温もりのある、素敵なお話でした。

  • 「5年生進級を前にした春休みのあいだだけ、古いビルで暮らすことになったサキ。階段や廊下が奇妙な具合につながっているそのビルでサキがであったのは…。さまざまなきれが縫い合わされた帽子が鍵となって、過去・現在・未来がとけあう物語がはじまります。小学校中学年から。]

  • 1ヶ月だけ住むことになった古いビルで、5年生のサキは不思議な同い年の女の子・育ちゃんと友達になり遊ぶようになる。古いビル、階段、屋上、帽子、おばあさん…。こういう時を超えた物語をかかせたら高楼さんはピカイチだ。女の子や昔女の子だった人がこれを好きにならずにいられるだろうか。偶然が偶然をよんだミラクルな物語だけれど、引き寄せあった結果であり必然だったのかなと思う。おばあちゃんたちも女の子たちも。いやあ素敵。

  • ファンタジーかと思いきや…
    まさかこんな展開になるとは…
    ビルでの日常が物語になっていく
    読み終えた後、ほっこりできる

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高楼方子の作品

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