奇跡の社会科学 現代の問題を解決しうる名著の知恵 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569852621

作品紹介・あらすじ

社会科学とは社会について研究する学問であり、政治学、経済学、社会学、人類学、国際関係論などが含まれる。その古典を読み返したところで、当時とは時代が違うのだから役に立つことはないと思われるかもしれない。
ところが驚くべきことに、現代を理解するためにはこれらの古典の知見について知る必要があり、さらに言えば現代で起こる様々な失敗は、古典の知恵を知らないために起こったものが多い。組織が官僚化することによる停滞、「抜本的な改革」に潜む罠、株式市場を活性化させることの危険性……。「教養にして実用」である社会科学の知見を明快に解説。
【本書で取り上げる社会科学の古典】
●マックス・ウェーバー「官僚制的支配の本質、諸前提および展開」
●エドマンド・バーク『フランス革命の省察』
●アレクシス・ド・トクヴィル『アメリカの民主政治』
●カール・ポランニー『大転換』
●エミール・デュルケーム『自殺論』
●E・H・カー『危機の二十年』
●ニコロ・マキアヴェッリ『ディスコルシ』
●J・M・ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』

感想・レビュー・書評

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  • 1990年代初頭の日本のバブル崩壊に始まる失われた30年。第二次安倍政権が声高く叫んだデフレ脱却のための3本の矢も、蓋を開ければ異次元の金融緩和による、金余りから端を発する株価上昇と輸出企業の円安メリット享受くらいだろうか。
    冴えない日本経済と言う印象を持つなか、何気に取った本書は、眼から鱗が落ちるものだった。

    馴染みのない社会科学と言う標題だが、副題の「組織改革の失敗」「自殺」「戦争」は、どれも現在世界や日本における問題であり、興味のあるテーマ。
    中身は、古典比較的最近の経済学者の主張を、現代の問題点と結びつけて解説してくれている。

    マックス・ウェーバー
    なぜ組織改革は失敗するのか
    効率性の追及が非効率を生む
    数値だけで測定できない価値

    エドマンド・バーク
    急がば回れ
    漸変主義こそ、実は近道

    アクレシス・ド・トクヴィル
    民主主義の怖さ
    平等が進むほど全体主義化する
    人々の絆が社会を豊かにする

    カール・ポランニー
    新しい資本主義
    新自由主義と「社会防衛の原理」

    エミール・デュルケーム
    自殺はどうすれば防げるのか
    突然の社会変化が自殺を減らす

    E・H・カー
    どうして戦争は起こるのか
    ロシアがウクライナを侵攻したわけ
    「軍事力」「経済力」「意見を支配する力」

    ニコロ・マキアヴェッリ
    どうして臨機応変に行動できないのか
    人はどのようにして必然的に破滅するのか

    ジョン・メイナード・ケインズ
    世の中、何が起きるか分からないから
    いったい経済学はどうなってしまったのか?

    社会古典は活きている

    特に現在当然のように言われている新自由主義経済の弊害は、納得がいく説明だった。
    古典経済学者の先見性に驚いてしまう。

    1980年代以降、アメリカ、イギリスそして日本は、自由市場に任せれば豊かになるという信念の下、規制緩和、自由化、民営化、「小さな政府」への行政改革、さらにはグローバリゼーションを進めてきた。このような信念が「新自由主義」と呼ばれる。
    新自由主義がはらむ最大の問題は、全体主義を呼び込んでしまうという点にある。
    新自由主義を信じる日本の改革論者は、労働組合や農業協同組合といった団体組織を「既得権益」「抵抗勢力」呼ばわりして排除し、政府の市場に対する規制を有害無益だと主張してきた。組合組織や政府による規制は、まさに市場が人間や自然を「商品」化するのを防ぐ「社会防衛」のため、市場原理を理想とする新自由主義者にとっては、それが邪魔で仕方がないのだ。
    新自由主義が支配的な経済思想となったのは、冷戦が終結し、社会主義の敗北が決定的になった1990年代頃から。マスメディアでは「小さな政府」「規制緩和」「自由化」
    「グローバル化」の大合唱だった。
    この1990年代に、20歳から30歳であった若者たちは、時代の空気を吸って成長し、新自由主義という思想に染まっていく。
    そして、「新自由主義が教えるような理想的な世の中へと日本を変えたい」などという志を抱き、政治家や官僚あるいは経済学者への道を歩んでいく。
    世界は20年前とは大きく異なり、すでに金融市場の不安定化や格差の拡大といった新自由主義の弊害が顕著に現れている。それにもかかわらず、その現実が見えずに、新自由主義という20年前の古い思想を今さら持ち出してしまったのだ。
    だからケインズは「危険なものは、既得権益ではなくて思想である」と言った。

  • 著者はウェーバーやトクヴィルなどの社会科学の古典に書かれた内容が、現代の社会問題にも通用する鋭い分析でありながら、あまり顧みられていない現状を憂いています。新自由主義、グローバリズム、構造改革、ウクライナ戦争などなど、現代の諸問題に対する答えがすでに社会科学の古典の中にあるというのは、面白いと思うと同時に、なぜそれが顧みられないのかすごく不思議になります。

    大勢の人間が集まってるくる「社会」はあまりに複雑で、自然科学のようにある程度正確に現象を計測したり、一般的なモデルを構築するのが難しいからでしょうか。複雑すぎる故に、社会について語る人の立場によっていろんなもっともらしい論を展開できてしまう。それが古典の上に新しい理論を積み上げていくような自然科学の手法が機能しないのかもしれません。だから古典がいつまでも価値を持つのでは。

    社会科学の中でも、特に数学的に厳密そうに見える経済学も、その大前提にしている市場原理があまりに現実を単純化しているためにやはり同じような問題を孕んでいるといのが面白いです。

    個人的に面白かったのが保守主義の話です。複雑な社会はモデル化、予測が難しいのだから、ドラスティックな構造改革をしてはいけないというのは良い教訓です。社会全体に広げなくても、たとえば企業ひとつとっても、中では人やシステムの複雑な相互作用があるのであり、簡単に改革なんて考えてはいけないということですね。

    さらにケインズの章で出てくる「危険なのは既得権益よりも思想」というのが目から鱗でした。自分の損得を考えて既得権益を守ろうとするようなわかりやすい悪ではなく、実際は新自由主義などの特定の「思想」を信じることの方が社会に害があるという視点で見れば、ニュースなどの見え方も変わってきます。

  • ここで紹介されている社会科学の巨人たちの原書を読むのはなかなか難しいけど、易しく解説してくれてるのがありがたい。チクリと自民党政治の失われた30年を刺しつつも。
    優秀な国民が愚鈍な代表者を選ぶわけがない、はずだから、判断できる力を養いたいところ。
    多くの人に読んでもらいたい1冊。

  • 中野氏の本は好きで読んでいる。本著は社会科学について分かりやすく解説した本。現代の日本政治においてどのように社会科学を活かせばいいのか?また組織形成においても参考になる本だった。
    ただ、深く理解するには再読の必要があるかも。

  • 本書は、新自由主義に対して警鐘を鳴らす。
    日本における'失われた三十年'を、社会科学の視点から解きほぐし本質的要因に迫りあぶり出す。
    新自由主義の基本原理'市場原理により需給はバランスする'という経済思想は、不確実性を軽視し楽観的な思い込みにより誘導される。古典的な社会科学には、現代の混迷を紐解く数々のヒントがあり、それを紹介しながら、行き詰まった現況への指針を示している。組織改革が思うように進まない理由、効率性がかえって非効率化を生み出すというジレンマ、ドラスティックな改革や民主主義は多数者の専制を生み、全体主義に陥るリスクがあることを歴史から明らかにする。不確実な未来は予測できない、ことを受け入れながら進める、無矛盾性の排除が重要であるということだろう。

  •  本書を読めば近年の日本凋落の原因が単なる「不勉強」にあることが分かって愕然とする。
     解説されている古典のうち「君主論」と「フランス革命の省察」は読んだことがあったが、本物の研究者にエッセンスをまとめてもらい、理解度が全く変わったように思う。
     あとがきにあるとおり「(中野氏の)考え方やものの見方の種明かし」であり、中野氏の論評に共感する方は是非読むべきである。

  • 表紙に書いてある「教養にして実用」。まさにその言葉通り、古典がいかに現代社会にも通用するかが分かりやすくかつ詳しく書かれている。
    過去の偉大な巨人たちの凄さもさることながら、その巨人たちの著書の要点を、私のような教養のない人間にも分かりやすく解説してくださる中野先生の凄さにも感服した。

  • 231124-1-1

  • *****
     人間は,社会的な環境の中に生まれて,社会的な環境と関係しながら成長することで,宗教的,道徳的,あるいは政治的な信念を身につけて,大人の文明人となっていきます。
     このように,大人の文明人が活動する目的,生きる目的である宗教的,道徳的,政治的信念は,社会によって形成されたものなのです。言ってみれば,個人の中に社会が入っているわけです。(p.128)

  • 自分としても合理主義を徹底していくことに少し違和感があったためフィットする内容が多かった。
    合理主義とは反対にある「合理主義を突き詰めると非合理になる」、「全体主義化しないために共同体への帰属」などは、行きすぎた現在の潮流へ一石を投じる内容に思う。

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著者プロフィール

中野剛志(なかの・たけし)
一九七一年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。九六年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。二〇〇〇年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。〇一年に同大学院にて優等修士号、〇五年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(ベストセラーズ)など多数。

「2021年 『あした、この国は崩壊する ポストコロナとMMT』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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