世界史の構造的理解 現代の「見えない皇帝」と日本の武器

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569852256

作品紹介・あらすじ

「勢力均衡」と「世界統合」のせめぎ合いを経て、「新しい皇帝」が統治する現代の大問題とは? 天才肌の物理学者が示す新たな歴史観。

感想・レビュー・書評

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  • 物理数学、経済学に対して「直観的方法」のシリーズ
    今回はなんと世界史

    一応お伝えしますと、長沼氏は物理学者である
    さらに補足しますと、世界史における構造的な理解なので歴史書ではない

    相変わらずの考察力の凄さに舌を巻いてしまうのであるが、面白ネタが尽きないので
    うまくまとめられそうもない

    興味深かったもののみ

    ■凄かった日本(理数系武士団について)

    幕末や戦国時代の日本の国難において「理数系武士団」というべき集団がまとまって
    出現し、大きな力を与えた
    これこそが日本最大の武器
    狭い理系の専門分野から脱し、国が進むべき戦略などに関して、これまでの文系的な
    一般常識を超えた独創的なビジョンを生み出すことで、国を先導する役割を果たした
    例)大村益次郎…蘭学者で医者 かつ長州藩の参謀
    (そしてこういう方々は国のお抱えではないところがポイント)

    日本の近代の数学・物理教育のルーツは長崎の海軍伝習所にある


    ■形のない皇帝

    始皇帝の中国統一は歴史の特異点であり、巨大なマイナス効果という
    管理社会のなかの沈滞した精神が国全体を覆っている
    これか現代のグローバリゼーションと似ているとのこと
    今の経済、メディア、抽象的・無形的なグローバル化が中国の専制体制に似てきてい
    る(世界全体で価値観や社会制度、生活習慣などが同じものになっていく)
    政府の権力が及ばない巨大企業(GAFA)、経済、メディアなど形のない力が世界を動
    かす主力となっている(これぞ形のない皇帝)
    さらに資本主義は短期的願望(目先の欲)がこれに拍車をかけ、抑制が効かない(確かに止められない)

    もはや恐れられるべき権力は独裁者などではなく、「資本主義」が富を生み出すメカ
    ニズムと不可欠に結びついたパワーが主力となっている


    ■イスラムの影響力

    メッカは世界の通商路であり、巨大な富が流れてくる
    経済メカニズムの点から軍隊維持は難しく社会の退廃を食い止めるのに(おそらく抑制という意味で)イスラム教が効果的であったという

    ~ここからは脱線して気になる微積分との関わり~
    イスラム法学者は「ウラマー」という国に属さない知識人たちがいた
    ウラマーの存在意義を称えながらも、彼らの中で微積分が発達しなかったため世界か
    ら出遅れたと指摘している

    この辺りの真実は誰がどう判断するのかによるのでは?と思いつつも興味深いものが
    ある


    ■今後について

    資本主義や民主主義がどれほどの問題を抱えていようともこれにとって代わる制度は
    ない
    メディアとマーケットのなかに発生して短期的願望を世界に広める「仮想的な巨大権
    力」が皇帝のように君臨する一種の帝政にある
    宗教や政治的圧力、科学など短期的な処方では変えられない

    フランスの政治家トクヴィル(渡米し、民主主義の本質を見抜いた)
    「表面的なお題目よりも手法や習慣の面で長期的な世界に属するものに囲まれてい
    く」ことが必要
    それによって人間が次第に「不滅性」ということに価値を置くようになって、最終的
    に一種の宗教のように自然に引き込まれていく…
    これが理想とする(抽象的なのでわかるようなわからないような…)

    著者の意見は「歴史に参加する」とのこと
    時に巨万の富の誘惑を凌ぐことができる
    ただし恒常的に頼ることはできない

    いずれにしても大きな課題であり、今後向き合い続けるべき問題だ
    このままいくとどうなるか
    世界は骨抜きにされ、極端な格差社会になるだろう
    恐ろしいなぁ



    環境問題だけで滅びた文明はない
    快楽カプセル ディストピアの例…
    あげればキリがない独創的な解釈があり、面白い

    中には疑問を感じる部分もあるが、とにかくとことん考え抜かれているところが気持
    ち良い!
    頭の良い方の着目点や構想、歴史から何をどう学ぶか…
    この角度を知るだけでも読む価値が十分ある

    地政学、宗教学、物理、天体、地理、歴史、哲学、古典…
    あらゆる知識をふんだんにしみこませた本書

    クセになるなぁ

  • 本書には「思想の古典」と「物理の視点」で読み解いた世界史、近未来の予想図が示されている。アプローチは斬新だが、導き出された内容には「漠然と感じていたことが見事に言語化されている」と唸らされた。イスラムに関する考察なども目から鱗であった。
    著者は在野の研究者のようだが、間違いなく天才だ。次の著作を楽しみに待ちたい。

  • 長沼氏の本は自分が日ごろ使っていない脳の部分を叩き起こしてくれる感覚があり、はまるとクセになる。今回は私の好きな歴史をテーマにしているので構えながら読んだが、私の先入観を裸にしてくれる感覚で期待以上だった。

    この本のキーワードである理数系武士団と縮退化は覚えておきたい。人口が減り続ける日本にもチャンスはありそう。一方で人口減に入り潜在成長率が下がり始めている中国、およびインドをどう位置付けるのか著者の考えを知りたかった。もちろんこの構造的理解の枠組みを自分なりに駆使して思考実験しても楽しいのだが。

  •  僕もブクログ利用者の御多分に洩れず本屋が好きだが、ここ何年かは書店閉鎖の報に接して悲しい気持ちになることが多い。一体東京の山手線の内側に、専門書も一般書も取り揃えた大きな書店はいくつ残っているのだろう。東京ですらこうなら衰退の進む地方は果たしてどうなっているのか。
     書籍のWebへのリプレースを必然とみる向きもあろう。しかしYoutubeで手軽に得た大量の知識は、やはりものの見事に同じ手軽さで脳から消し飛んでいく。情報摂取手段としては効率が悪くとも、お金を払って書籍を買って、よく分からず何度も前に戻って読み返し、別の本を読んでみてやっとわかったような気持ちになったと思えば、しばらくして完全に忘れてまた一からやり直し、ということを繰り返していくうちに底溜まりのように蓄積していくもの、そういうものが真に貴重なものではないか。
     このまま物量と手軽さばかりを優先していくと、獲得に時間のかかる知識はどんどん脇に追いやられ、世界は広大で美しいが薄っぺらいシーツのようなものになってしまうのでは…そのような問題意識を共有する人がいたら、ぜひこの本を読んでもらいたいと思う。本書では「コラプサーへの落ち込み」として扱われる論点だが、著者の持つ驚くべき「アナロジー力」によって見事な現代文明批判に昇華されている。

     著者の本はこれが4冊目。ブルーバックスの「経済数学の直観的方法・マクロ経済学編/確率・統計編」の2冊と、「現在経済学の直観的方法」を読んで一気にファンになった。何が気に入ったかと言って、それはひとえに著者のアナロジーの適用力の確かさに尽きる。著者の方法論は、まず現代経済/社会で問題になっている人文的テーマを取り上げ、人類の科学的パラダイムの膨大な集積の中からその構造が一致するものを探してきて、それを用いて問題の核心を明快に炙り出して解決策を提示するのである。単に人文・科学両分野の知識が豊富、というだけではもちろんそのような作業は不可能であり、「アナロジー力」、すなわち問題の核心を別の問題とつなぎ合わせて考えることのできる科学者としての著者のセンスが際立っているからこそ可能な離れ業というべきだと思う。

     そのアナロジーの適用対象として、本書で著者が選んだのは「世界史」。全著「現代経済学〜」とオーバーラップする部分が多いが、基本的にはコロナ禍を機に炙り出された日本の後進性に強く危機感を抱いたことが、本書執筆の契機となっているようだ。
     本書の副題にある「見えない皇帝」とは、現代アメリカをはじめ西洋文明に蔓延る「短期的願望」優先思考の増殖により、世界に君臨することになるであろうと著者が想定する非人格的権力だ。先述した現代文明の「コラプサー化」は、人々が短期的願望を追求するあまり局所均衡的なカオス状態に落ち込み、一切のエネルギーがそこから取り出せなくなるというディストピアへの移行を表している。著者はトクヴィルを引く形で、このコラプサー化は「部分の総和は全体に一致する」というデカルト以来の西洋科学の図式を現実社会に安直に当てはめたことの帰結だと警告している。
     そしてその「見えない皇帝」を駆逐するために、やはり著者はトクヴィルを再度引用し、「長期的願望」を短期的願望の上位に置くような価値観を社会に据え置くこと、それには著者が「理数系武士団」とよぶ下級エリート層の「歴史(という大きな物語)への参加」が重要だと説く。この著者の論理をエリーティズムと批判することは容易だが、日本の若き研究者たちが、衆愚に陥らんばかりの現代日本を尻目に、著者のように文系と理系をアナロジーの力で架橋する「伝道者」に触発され、世界的なルール制定における主導権(知的制海権)を獲得すべく奮起することを期待したいと思う。

  • この人の本が面白い。
    文章がわかりやすい。

    理系武士団がまた登場するけどから、また!?って感じる人もいるかもだけど、本を超えた一貫性が感じられて、私は好きかな。

  • 物理学とのアナロジーで歴史と今後の日本のあり方を考える本。アナロジーは強力な武器だけど、強引な当てはめと思えるところや、主張を支える理由や事実の説明が足りない(個人的感想と思える)箇所が多くあった。正しいかどうかはわからないけど、新しい仮説の提示として読めば面白い。ただ、理系の方が新しいビジョンを提示できるというのは本当なのだろうか?とても重要な主張だが、その主張を支えるエビデンスの提示が少なく説得されない。

  • 前回の経済学が良すぎた。今回は自分の求めているものではなかった。世界史を構造的に理解するという目的だったが、「日本はまだまだこれからやれる」ということの証明するために世界史の都合の良いところを引用した印象。
    歴史換算年齢や地政学と権力の移り変わり、一般意志と全体意志、形のない皇帝の話やコラプサー化等面白い話も多かったが世界史を構造的に理解するには至らなかった。

  • 知的制海権、ルールを制定する力、人類全体に影響する原理。ブルーウォーターネービー、予備戦力、国家に依存しない、理数系武士団、歴史に参加する
    などの新しい概念が提供される。
    歴史を俯瞰している点で、福沢諭吉の「文明論の概略」のアップデート版とも言える。トクヴィル第二巻を読め。
    【考察】
    ベーコン、デカルトを読むと、現象や物体を分析するのに、仮説を作り、解析できるまで分解して、理解して、統合し直す、とある。その過程で、盲点がある。長期と短期で、多様な視点で、盲点を探す。
    陰陽、陽があれば、その裏に陰があり、陰が成長を阻害する。そこに、中米の弱点があると思う。

  • 長沼節が心地よい、日本に対する警句と進言といったところでしょうか。

    「現代経済学の直観的方法」では、経済の根本的な理解を明瞭かつある意味突飛な思考的発展によって助長してくれる名著であったので、世界史に対する同じテイストかなと思ったけれど、こちらはどちらかというと著者の意見を世界史からくみ取って提示するといった様相。

    理数系武士団や安楽カプセル(本書の正確な表現じゃないかも)といった急進的な表現を使用しながらも、短期的願望と長期的願望の論理はさすがといった納得感。コラプラー化という短期的欲望がはびこっている社会での閉塞感というか、これじゃないんだなー感は各個人うすうす感じてるんだろうけど、宗教に頼るでもなく格差階級を復興するでもない第三の道を模索していく必要があるんだなー。ど文系の私ですが、理数系のお力と協力ができる度量の広い人間になりたい、そう思う。

    途中のなぜ欧米が知的制海権をもっているかの論理は非常に納得のいくしある程度回答が出ているかと思うが、さて日本が今後具体的にどのようにしていけばいいのか、理数系武士団の登場を待ち望むしかないのかといったところが曖昧かなと感じる。これは著者ほどの論者でも間違いないといった回答がひねり出せないほどの難題なのだなと理解する。主張は、理数系の人たち表舞台に出てこいというメッセージはくみ取れたけども。

  • いろいろ面白いのだが、ちょっとトンデモ感がぬぐい切れない… 戦国時代に「文系」「理系」とか無理ないか?! イスラムは女性に支持されて、のくだりも、ではなぜ現在ああなってるのかわからない。ただ、昔の人の年齢の1.5倍掛けとか、理由はわからないけど確かに実感にあうものもあったりするので、あんまり生真面目にとらえずに自由な発想の例みたいにして参考にするのがいいと思います。面白いのは面白かった。

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著者プロフィール

パスファインダー物理学チーム代表

「2022年 『世界史の構造的理解』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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