- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569851853
作品紹介・あらすじ
「ロシア人は森が大好き」「うっかり散歩に出ると遭難、凍死する?」「男性の不倫は当たり前」。知られざる隣国の秘密の数々を暴露。
感想・レビュー・書評
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ロシアがウクライナに軍事侵攻し、この時代に無差別攻撃を行っているという現実。
いったいロシアって国は、どういう国でどういう人たちなのか…
政治的な話題よりも人の個性や住まい、食など柔らかいところから入ってみると読み易い。
賄賂が当たり前。
ルールを破るのは普通。
労働者は、給料分しか働かない。
加点主義であり、合理的。
一部を抜粋してみても、同感するところがない。
まぁ、どの国も日本を見ると驚くこともあるのだろうが…。
世界を見ないとわからないことは、まだまだ多くある。
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【感想】
あまり意識されていないが、ロシアは日本のお隣の国である。
東の果てにあるウラジオストクは北朝鮮との国境沿いにあり、東京からは2時間半ほどでアクセス可能だ。一方で、西の果てにあるモスクワからは、2時間半あればヘルシンキやキーウまで行くことができる。
ロシアはとにかく大きいのだ。東アジアから中央アジアを突っ切って、バルト海に面する超巨大国家。ユーラシア半島の3分の2を横断するその国は、東アジア、中央アジア、東ヨーロッパ、北欧の文化と接しており、その影響で多数の民族と宗教を抱えた複雑な国家となっている。
そんな巨大なロシアを、「そこに住む市民」の目線で紹介するのが本書である。帯には「なぜ西側の世界と相容れないのか?」と書いてあるが、メインは国際関係ではない。住まい、食、国民性、街並みといった文化的要素に重点を置きつつ、本の後半で国際関係や政治などの複雑な部分に踏み込んでいる。
ソ連が崩壊してから30年経ち、いくらか西側の影響を受けるようになったが、ロシアの文化には未だ共産主義時代の名残が残っているものが少なくない。
例えば、ロシア人は見知らぬ人をとにかく警戒し、身内以外を信頼しないのだが、一番信頼していないのは同胞のロシア人のことだという。ソ連時代の「大粛清」の後遺症かもしれない。そのため、一度身内認定をしてしまえばとことん親切になる。それは異邦人である筆者に対しても同様で、おせっかいすぎて身が縮こまる思いも何度かしたようだった。
そうした「身内びいき」が行き過ぎた結果、賄賂や腐敗が横行している。コネ入社は勿論、公務員に対する賄賂も半ば公然の秘密である。例えば、ロシアでは金を払えば救急隊員を自宅にチャーターすることも可能だ。自宅で急に具合が悪くなった、病院の待ち時間が煩わしいといったときは、金を払えばファストパスを使うことができ、これが一種のビジネスと化しているという。ほかにも警察の取り締まりや運転免許発効といった公的手続きにも賄賂が噛んでいる。金の流れが黒くなると当然、富裕層が国の金を独占するようになり、その結果ロシアでは相当な格差社会が生まれているとのことだ。
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読んだ感想だが、欲を言うと、ロシア人自身が考えるロシアの政治的状況と、プーチンに対する所感について知りたかったところだ。ただ、あとがきでも述べているとおり、戦争によってロシアに入れなくなった以上、「ロシアの今」について語るのは非常に難しい。両者の落としどころとしてロシアの基礎的な知識と空気感を綴っているのが、本書の立ち位置ということだ。まずロシアがどんな国であるのかを理解するための足掛かりの書、として活用するのがよいかもしれない。
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【まとめ】
1 ロシア人の性質
・ロシアは多民族国家。多数を占めるのは白人の正教徒だが、次に多いのはタタール人(イスラム教徒)。ほか、アジア系や少数民族も住んでいる。多民族国家であるため、民族としてのロシア人であることとロシア国民であることはイコールではない。
・ロシアは他者に対する不信と信頼が同居している。ロシア人は見知らぬ人をとにかく警戒し、身内以外の人を信用しない。ただ、ロシア人は特にロシア人を信用していない。その代わり、一度身内扱いになるとどこまでも親切にしてくれる。
そうした身内びいきは、容易に腐敗につながる。政府高官の息子が若くして国営企業の重役に収まっているとか、誰それはコネでおいしい仕事を独占できている、という話はロシアでは事欠かない。これに加えて、ロシア人が公的な制度をあまり信用していない、という問題もある。そのためロシア人は余計に身内を頼る。結果として賄賂が蔓延し、公務員に対する賄賂が半ばビジネス化している。
では身内以外の関係は冷たいのかといえば、そうではない。相手を「保護の対象」とみなしたとき、ロシア人はとても親切にする。
・男女観は非常に保守的。男はマッチョに、女は美しくきらびやかにが良しとされる。
・格差が激しい。エリートは徹底的に英才教育を受けており、その能力は日本のエリートをはるかに凌ぐ。ただし、一般の労働者のレベルは圧倒的に日本のほうが高い。
2 ロシアの住まい
・ゴミ問題が深刻。ロシアにはゴミを分別するという習慣がない。ロシアのごみ排出量は年間7,000万トンにも及ぶが、ちゃんと処理されているのは1割ぐらいだという。
・ロシア人は森が大好き。生活が豊かでない人も郊外に別荘(ダーチャ)を持っており、週末をそこで過ごすことが多い。
3 ロシアの街並み
・モスクワ市街は一つの区画が非常に広く、日本の1ブロックの10倍ぐらいあるイメージ。道路も片側四車線が当たり前で、道路を横断するにも大変な時間がかかる。また、モスクワでは寒さ対策もかねて、地下歩道が発達している。
・ここ十年ぐらいで、モスクワはかなり変わった。街並みが綺麗になり、公共交通も使いやすくなった。
・店構えは、窓がなく、ドアも分厚い木の扉でしっかり閉められている(現在はガラス窓のお店も増えている)。これは寒さ対策のため。
・ロシア人は花好き。夫婦の間では何かと花を送らないと奥さんの機嫌が悪くなる。そのため、花屋は24時間営業。
・ロシア人は日本がそこそこ好き。日本製品の質が高く評価されており、これが全体としていいイメージに繋がっている。日本車、おむつ、生理用品、衛生用品、食品などが人気だ。
日本食を含め、アジアの食生活には「健康的」というイメージがある。プーチン大統領も教書演説で日本と韓国を「健康先進国」と呼び、「日本や韓国のような健康寿命が長い国になろう」と呼びかけたことがある。
4 ロシアの食
・ロシアの料理は基本薄味。
・ロシアにはユーラシアの料理が集まっている。ジョージア料理、朝鮮料理、中華料理、日本料理、中央アジア料理など多種多彩である。
・とにかく酒を飲む。ただし、アルコール消費量が最近は急激に減少している。2016年のロシア人アルコール摂取量は2003年と比較して40%も減った。
・ロシア人は30歳を超えると樽になると言われてきた。脂肪が多く、生鮮食品は乏しいというのがロシアの伝統的な食生活だったので、ロシア人は年齢を重ねるとどうしても太ってしまう。
ただし、最近では事情が変わってきた。食糧事情が豊かになってきたからだ。特に女性は、食生活に気を使う人が非常に増えてきている。少なくとも都市部ではヘルシーな食生活を送ることは十分可能である。
5 国際関係
・国力は低いが、軍隊と核兵器の力である程度の影響力を保っているのがロシア。
・プーチンの世界観では、独自の核戦力を持って非同盟を貫ける「大国」だけが主権国家である。言い換えれば、同盟は「支配の道具」ということだ。
そのため、プーチンは日本にも「主権国家でない(アメリカに主権を制限されている)」という認識を持っている。実際、プーチンは2019年に開催された経済団体との非公開会合で「日本が平和条約を締結したければ日米安保を脱退する必要がある(=アメリカとの関係を切って主権を回復しなければ和平に臨めない)」と述べたと報じられており、安倍政権で国家安保局長を務めた谷内正太郎氏は、ロシア側から「日本からの外国軍隊(=在日米軍)撤退」に関する要求があったことを退任後に明らかにしている。
・ロシアは近年、中国との関係性を深めている。ただ、分野によっては利害対立も抱えている。同盟というより「協商」の関係が近い。
・ロシアはインドとの関係も深い。インドはプーチンの考える「本当の主権国家」である。インド自身も独立した国家でいたいという考えのため、アメリカとの協力関係を維持しながらロシア製の兵器を購入しているなど、双方に対してバランスを取っている。
6 プーチンの思惑
ロシアの情勢が揺らぐ中で、プーチンは「戒厳司令官」として自らを規定したのだというのが筆者の考えである。非常事態において戒厳令が敷かれると、一時的に平時の法律は停止され、私有財産が接収されたり、外出禁止令が出されたりするが、こういう方法でプーチンはロシアを立て直そうとしたのではないか。
問題は、この戒厳令がずっと解除されず、弾圧、腐敗が野放しになっていることだ。
加えて、プーチンは市民社会に深い不信を抱いている。自発的な意思を持った市民という存在には非常に懐疑的であり、むしろ「大国」による認識操作の対象だと見ている。プーチンは自らの権力の虜になっているのではないか。
プーチンは軍事的に独立していない国家を「半主権国家」扱いするが、現実の国際政治はもちろん力の論理だけで動いているわけではない。むしろ、経済力、科学技術力、ソフトパワーといった非軍事的な要素の重要性は高まるばかりだし、環境とか人権とか、力の論理とは大きく異なる論理も無視できない。
さらにいえば、アイデンティティの持つ力というものに、プーチンは非常に鈍感であるように見える。ベラルーシ人やウクライナ人がいくら文化・言語・宗教などの共通性を持っているといっても、だからロシアとの統一を望むとは限らない。あるいは旧ソ連諸国が貧しいとか軍事力が弱いからといって、モスクワのいうことをなんでも聞くわけでもない。ある民族がひとたび独立の地位を手に入れたらそれを守り通そうとするのは当然であって、弱いなら弱いなりに有形無形の力を駆使し、時には「大国」の間でコウモリ外交を行ってなんとか立ち回るものである。
ウクライナ戦争は、プーチンの今後をさらに難しくしている。ロシア軍の圧勝ということになれば、その成果を手土産にして2024年の大統領選に打って出るというシナリオが描けただろうし、実際にプーチンが期待していたのもこれだったと思われる。しかし、現実はそうなっていない。今までプーチン政権を支えてきたオリガルヒの中からも今回の戦争を疑問視する声が出ている。
となれば、プーチンはなりふり構わずにこの難局を打開しようとするはずだ。場合によっては大量破壊兵器の使用に及ぶかもしれないし、リベラル派の弾圧や2024年の大統領選挙を行わないという可能性さえ考えられる。ロシアは今、大きな岐路に立っている。 -
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◆日常にのぞく国民性を知る
[評]浜田敬子(ジャーナリスト)
<書評>『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』小泉悠 著:東京新聞...◆日常にのぞく国民性を知る
[評]浜田敬子(ジャーナリスト)
<書評>『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』小泉悠 著:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/182845?rct=shohyo2022/06/12
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ウクライナ侵攻からよく見かけるようになった小泉悠さん。
ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする軍事評論家。
元々「軍事オタク」だったようで、
そういう人が、今みたいな時に活躍できるんだなあと思う。
(余談ですが、カジノの専門研究者木曽崇さんという方も
最近たびたび見かけて、こういった(阿武町)事件が起きると脚光を浴びる
事件がなければ一生日の目を見ない
でも本人は楽しく研究を続けている
そういうオタクが世の中にはたくさんいるんだろうなあと思いました)
小泉さんの肩書は堅いし、テレビで語る姿もすっごく真面目そうですが、この本の四分の三は柔らかい、普通のロシアの生活。
でもこんな穏やかなフリして、ロシアで生活しながら
冷静に観察して分析しているんでしょうね、きっと。
さて私は残りの四分の一「「大国」ロシアと国際関係編」「権力編」がめちゃ面白かったです。
〈ロシアを「大国」たらしめているのは意志の力、
つまり自国を「大国」であると強く信じ、
周囲にもそれを認めさせようとするところにあるといえるでしょう〉
〈西側とは和解したいが、西側中心の秩序にただ従うのはどうにもおもしろくない。
特に旧ソ連諸国はロシア帝国時代から苦労して築き上げてきた勢力圏であって、その内部ではロシアがリーダーでなければならない。
あるいはソ連時代から友好的な関係にあった体制が民主化によって崩壊していくのは見ていられないという感覚です〉
昨日の朝日新聞digitalに
〈フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相が28日、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。ウクライナへの軍事侵攻について仏独の首脳は、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重したうえ、交渉で解決策を見つけねばならないと訴えた。また、プーチン氏にウクライナのゼレンスキー大統領との直接対話をすみやかに受け入れるよう呼びかけた。〉
とあり、本当に交渉で早く解決できないものかと思いました。 -
著者はロシアの軍事・安全保障政策の研究者。
本書はがっつり専門について述べているというより、もう少し気楽に読める読み物である。2022年の5月に出たばかり、つまり、ロシアのウクライナ侵攻後に書かれている。
「はじめに」でこの本を出すことになった理由について触れられる。侵攻はもちろん、国際的に批判も受けているわけで、ロシアに憤りを抱く人も、ロシアとどう付き合えばよいのか困惑している人も多いだろう。一朝一夕で解決策が見つかるものではないが、だからといってロシアを否定・拒絶するのもどうなのか。ロシア人の生き方や考え方に触れ、それらを理解しようとすることは、巡り巡って将来的にロシアとうまく付き合っていくことにもつながるのではないか。
この本はそんなことを狙いにした、いわば「補助線」的な本である。
大半(第一章から第五章)は、ロシアの衣食住事情や、ロシアの人々の特徴。長年ロシアに暮らし、ロシア人を妻に持つ著者によるロシア評である。なかなか濃い。
終盤(第六章・第七章)でロシア政治に触れる。さすが専門家の面目躍如といったところ。
ロシア人気質というのはなかなかおもしろくて、まず人々は容易によそ者に心を開かない。その代わりひとたび「身内」と判断されるとこれでもかというほど世話を焼く。「身内」といっても血縁のあるなしではない。赤の他人でも、一旦その人が仲間だと認めれば、もう身内も同然ということである。親切にはしてくれるが、当然、向こうも同様に親切にされることを望んでいるわけで、痛しかゆしである。仲間うちのつながりが強い、ということは当然汚職にもつながるわけである。何かにつけ、コネと賄賂が横行する。
専制的な政治体制が続いてきたこともあるのか、ロシア人には「へそまがり」が多い。ルールと言われると破りたくなる人が多いのだ。
例えばロシアには徴兵制があるが、ウクライナ紛争の前からこれは不人気だった。軍では新兵いじめが横行していたり、麻薬汚染が広がっていたりと散々な状況なのは誰しも知っていた。そんなところに行きたい人はいない。で、徴兵逃れとなるわけだが、医者に賄賂を払って偽の診断書を書いてもらうのが常套手段だったという。著者の知人のロシア人も徴兵逃れを目論んで医者に行ったところ、「お前さんは視力が低すぎるから、普通に徴兵検査を受ければ落ちるよ」と言われた。だが、検査の会場でへそまがり気質が頭をもたげる。「前のやつが『上』とか『右』とかいうのを覚えておけば合格するんじゃ・・・?」 彼は頭がよかったので、この手で見事に合格! ・・・いや、そもそも合格したくなかったんじゃ!?という冗談のような話。ルールがあれば破りたくなるのがロシア人気質のようである。
クセがあるが、ひとたびつき合うとクセになりそうな、アクの強さである。
その他、ロシア人の夏の別荘(ダーチャ)の話やロシアの食事情の話などもおもしろい。
後半は一転、今回の侵攻の背景にもつながる、プーチンの政治観。
ロシアは大国といえば大国だが、国力が大きいかというとそうとは言えない。人口もさほど多くはない(1億4400万人)し、経済力もそうは強くない。GDPは日本の三分の一以下という。
しかし、ロシアは「大国」として振る舞っている。その源は何かといえば、国連安保理常任理事国であること、国土の広さ、そして軍事力行使を躊躇わないこと。核戦力は世界最大級である。ロシアが断固として軍事力を行使してきたら、これに真っ向から対抗すれば世界戦争となる。
プーチンの世界観の中での「大国」というのは、同盟状態にならずに自国の安全保障ができる国である。どれだけ経済力が高くても、自国の軍事力だけで戦えないのであれば、それは本当の意味での主権国家ではない、というのだ。
だが、その調子で西側との軋轢が強まったとき、たどり着く先はどこなのか。
今現在も侵攻を巡る状況は刻々と変化し、いまだ着地点は見えてこない。
本書を読んで、ロシアに興味を抱いても、自由に訪れることが可能になるのはまだまだ先のことだろう。
一刻も早く侵攻が終わるよう、最悪の結果にならないよう、願うばかり。
読み終えても少々複雑な気分である。 -
最初は小泉先生の語りを文字起こしして本にしようとされてたみたい。道理で先生の口調が脳内再生されるわけですね。
でも面白かった。
ロシアの人々の暮らしからプーチンや国としての立ち位置、周辺国の思惑などがわかりやすく記載されていた。
ロシア人のひととの距離感、不信感とものすごい近さというのは私も実際感じた。
サンクトペテルブルクに向かう空路で隣になったロシア人から、奥さんに浮気されて離婚して浮気相手が医者の卵で20歳くらい若くて、みたいな話を延々聞かされたことがあった。なぜそんなプライベートを見ず知らずの私に?と思ったけど、近しい人判定されたのだろうか。ロシア人の知人によると、昔から鉄道旅行がメインで、知らない人と相席になることも多く、自分のプライベートをそういったところで吐き出すことが多いらしい。
その他参考になったこと
・ロシア人は加点主義、合理的に物事考える
・重厚な店構えは、寒いから 眼鏡屋もいかつい門構え
・花屋は24時間営業
・愛国者公園に行ってみたい
・プーチンの世界観では、「主権国家」とは、独自の核戦力をもって非同盟を貫ける大国であり、インドや中国がそれにあたる 同盟は「支配の道具」である 本当の主権国家は数少ない
・戒厳司令官としてプーチンは自身を規定した。そこからずっと抜け出せていない
・市民の声、市民社会に対するプーチンの深い不信感
・大統領引退後の行く末をカザフスタンの前大統領の失脚劇で見てしまった -
何だかんだ何だか惹かれるロシア。その魅力が垣間見える本。独特の怖さ・冷たさと温かさ・ユニークさを味わいたい気持ちがより高まる。
著書の「『帝国』ロシアの地政学」も読んでいるが、本書でもロシア政治視点からの見方や基準と正義が、終始一貫してブレてないことが分かる。(同意と納得は別) -
大変楽しく読めるエッセイ。小泉悠さんの文章は本当に読みやすい。ロシアという国、旧ソ連地域の日常を知ることが出来る本を、この状況下書いて下さった事に感謝。
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ロシア人とはいかなる人々でどんな生活が営まれているか。なぜ今このような悲劇を目の当たりにしているのか、それを理解するため、止めさせるため、繰り返さないため、その補助線になれば、との思いで書いた。
衣、食、住、気質、など著者がモスクワに住んだ2009年から2011年の間に実際に出会った人々のエピソードや2019年11月のコロナ前に訪れた時までに感じた事を記す。最後にはプーチンの世界観を見る。「空気感」を伝えたいとあったが、住んだ人ならではの様々な事柄がわかった。
<寒い、ここらへんでいいかという合理性>
生活全般に、やはりものすごく寒いのだ、というのを感じた。寒さへの万全の対策。ソ連時代の集合住宅には地区発電所からの温水が供給されていた、など。またそれゆえに物事は時間通り思い通りには進まなくて、一応ここらへんでいいか、と「60点でよし」とする。そこには一見いい加減なようでも、そこには一応の合理性がある。
<有事に強い国民性? そのわけは>
基本、庶民は親切であり、教育は優秀な人を見つけ最高に伸ばす方針。なのでトップはかなり優秀だが中間層は弱い。電車の少々の遅れなど気にしてどうするんだ? 生活ってのはこんなもんだろ、テロはあるし寒いし不穏な空気もあたりまえ、なので平時の社会が完璧でなくてもそんなに問題視しない。逆に有事でも「しれっ」と生活してしまう。う~ん、経済制裁しても、打たれづよいのかも。
<プーチンが気づいていないこと>
アイデンティティの持つ力に非常に鈍感である。ある民族がひとたび独立の地位を手に入れたらそれを守り通そうとするのは当然だ。小国なりに手を尽くす。ここが「大国」を中心とするブロックを単位に国際政治を理解しようとするプーチンの大きな盲点ではないか。
その他メモ
<ポスト・ポスト冷戦時代でのロシア>
今回のウクライナ侵攻では、プーチンの直接の目的はウクライナの政権を打倒してロシアに都合のいい政治体制へと差し替えること。再びソ連時代のようにロシアの影響下に置きたい。
さらには、欧州の、世界全体の秩序を置き換えたい。西側中心のポスト冷戦秩序を終わらせ、ロシアを含めた非西側諸国がより大きな発言力を持つ「ポスト・ポスト冷戦秩序」のようなもの~多極世界~を作りたいのではないか。
この多極世界を1990年代から追求してきたが、西側からはほとんど顧みられなかった。それを剥き出しの力で作りだそうとしたのが今回の戦争だ。
<プーチンの国家観>
自力で自国を守れない国は主権国家ではない。独自の核戦力を持って非同盟を貫ける「大国」が主権国家。中国とインドである。
<日本は?>
アメリカ頼みの日本は半主権国家ということになる。北方領土交渉も本気でするはずがなかった。平和条約を結びたいなら日米安保を脱退する必要がある(2019経済団体との非公式会合)
<中国は?>
国家間の関係性は、NATOとか日米同盟のようなカチッとしたものはむしろ少数で、場面場面で対応という変幻自在の関係の方が多い。互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからない恐怖感を持っているからこそ、相手を完全に怒らせないよう気を使う。・・こういう関係を結べる相手が「大国」としてのリスペクトの対象となる。
<インドは?>
さまざまな「大国」ががくっついたり反目したり、をうまく利用し取り込まれないようにして、独立独歩の地位を守る。
<油断ならない隣人トルコ>
権威主義的な政治手法はロシア的で、西側の非難。だが自国の売れ筋商品のドローンにウクライナ製エンジンを搭載することを持ちかけた。またウクライナ正教会の独立をコンスタンティノープル総主教が認めた。結果モスクワとトルコの正教会は断交。
<プーチンの世界観>
市民は信用できない。自身の政策に対するデモなどは西側が操っている。市民は上から統治するものだ。尊敬する人物がピョートル大帝と帝政時代の首相ストルイピン。両人とも「ロシアのためになること」に逆らう者には容赦なく弾圧した。
<びっくり健在、宇宙飛行士>
○あの、ヴァレンティナ・テレシコワ 議員(1937- 85歳)は2020年の憲法改正案で大統領2期を、「これまでの任期をカウントしない」ことにしてはと提案し、通った。事前に根回しをしていた。
<賄賂>
「ロシアには賄賂などない。あるのは良好な人間関係だけだ」という最近の諺。
<住宅>
複数階の共同住宅。建てた時代・人によってネーミング、豪華なスターリンカ、富裕層しか入れない。次のフルシチョカは風呂台所は共同、1人当たりの居住面積を8㎡に割り当てた窮屈な住まい。だが大量供給されたためソ連崩壊後の大混乱期にもホームレスをあまり出さずに済んだ。老朽化もあり姿をけしつつある。○国後島や択捉島の軍人用官舎はこのフルシチョフカ。次のプーチンカ。2000年代以降に作られ、高層もあり中間階級のあこがれとなっている。
<検閲>
KGBなど監視社会であるが、監視していることを隠さない。1970年代になるとソ連の若者の間でビートルズやピンク・フロイド、ブラック・サバスなどが流行るようになった。メドベージェフ前大統領はピンク・フロイドが好きで地下室をディスコに改造していた。レントゲン写真にレコードのように溝を掘り、これを「医学用資料」として持ち込んでいた。その溝に「シッテイルゾ」などという声が吹きこんであったとか。
<ゴミ>
住んでわかったが、分別すると言う発想がない。モスクワ郊外のゴミ捨て場に積み上げていた。が、近年は問題化されている。
3.25付けであとがき。
2022.5.2第1版第1刷 5.30第3刷 図書館 -
Twitterで以前からフォローしていた小泉悠氏。昨今のウクライナ情勢でTVでもよく拝見している。著書を読むのは初めて。とても読みやすい文章で、スルスルと読み終わった。あとがきによると元々語り下ろしの形式だったものを書き直したらしいがそれが大正解と思う。ロシア人の個性というか考え方の特徴がわかってたいへん面白く読んだ。印象に残ったのは、ロシア人は見知らぬ人をとにかく警戒する。赤ちゃんを覗き込んだりすると思い切り嫌がる。その一方で子供を薄着させていると通りがかりのおばさんに「もっと着せなきゃだめよ!」と怒られるというエピソード。