敗者の生命史38億年

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569842790

作品紹介・あらすじ

逃げろ。

なぜ、弱くても生き残れたのか?
生物に学ぶ画期的な生き残り戦略。


敗者――。この言葉に、皆さんはどのような印象を持たれるであろうか。戦いに敗れた敗者は、弱い存在であり、みじめな存在であり、憐れむべき存在に見えるかも知れない。しかし、本当にそうだろうか。(中略)38億年に及ぶとされる悠久の生命の歴史の中では、最終的に生き残ったのは常に敗者の方であった。そして、その敗者たちによって、生命の歴史が作られてきたのである。じつに不思議なことに滅び去っていったのは強者である勝者たちだったのだ。私たちは、その進化の先にある末裔である。言わば敗者の中の敗者なのである。いかにして時代の敗者たちは生き残り、そして新しい時代を切り拓いていったのだろうか(本書より)。


(おもな目次)
プロローグ 敗者が紡いだ物語‒‒‒‒‒38億年前
競争から共生へ‒‒‒‒‒22億年前
単細胞のチーム・ビルディング‒‒‒‒‒10億~6億年前
動く必要がなければ動かない‒‒‒‒‒22億年前
破壊者か創造者か‒‒‒‒‒27億年前
死の発明‒‒‒‒‒10億年前
逆境の後の飛躍‒‒‒‒‒7億年前
捲土重来の大爆発‒‒‒‒‒5億5000年前
敗者たちの楽園‒‒‒‒‒4億年前
フロンティアへの進出‒‒‒‒‒5億年前
乾いた大地への挑戦‒‒‒‒‒5億年前
そして、恐竜は滅んだ‒‒‒‒‒1億4000万年前
恐竜を滅ぼした花‒‒‒‒‒2億年前
花と虫との共生関係の出現‒‒‒‒‒2億年前
古いタイプの生きる道‒‒‒‒‒1億年前
哺乳類のニッチ戦略‒‒‒‒‒1億年前
大空というニッチ‒‒‒‒‒2億年前
サルのはじまり‒‒‒‒‒2600万年前
逆境で進化した草‒‒‒‒‒600万年前
ホモ・サピエンスは弱かった‒‒‒‒‒400万年前
進化が導き出した答え
あとがき 結局、敗者が生き残る

ナンバーワンではなくオンリーワンを目指せ。

感想・レビュー・書評

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  • 生命の歴史、特に進化についてしっかりと解説されている入門書です。
    簡潔明瞭で大変わかりやすく、気持ち良く勉強できました。
    追い込まれた弱者こそが進化しなくてはならない、それは貧乏くじですが革命にもなり得るのですね。
    しかし、同じ大きさだったり同じ物を食べたり、同じニッチでの争いで負けることは絶滅を意味するようです。
    弱者であったために人類は進化し、ニッチが重なったために他のホモ属が絶滅したのかもしれません。
    サメのように進化を必要としない完成された生物、単細胞生物のように変化に伴いすぐに進化する生物、人類のように技術で補正する生物、多様化の素晴らしさと面白さに気付かされた一冊。

  • 随分前になるが、関根勉さんが「人(=自分)と同じ大きさになった生き物と戦う」話をしていた記憶がふと蘇った。
    アリvsヒト、カマキリvsヒト、インコvsヒト、ハリネズミvsヒト、などなど...
    どの相手も、とてもじゃないが勝てそうにない。こんな世界に放り込まれたら自分は敗者の中の敗者だ。
    死なないためには、まずは逃げきる。そして出会わないように隠れる。これがニッチの場所となる。
    そこは、おそらく厳しい環境だ。極寒、酷暑、悪臭、暗闇、など生き続けるには辛すぎる場所だろう。

    敗者が生き延びるためには変わらなくてはいけない。
    命のバトンをつなぐために生物が発明したのが新しいものを作る雌雄の「性」と古いものをなくしていく「死」。

    運よく生態系の上層部に生まれてきたものは危機感に乏しく変わるための要因が少ない。
    生態系の最下部に近いものほど、わずかな環境の変化にも敏感で、その時々の環境に適応することにコストをかけて生きている。

    自然環境が急激に変わる時代に遭遇すれば、日頃から対応準備をしてきたものが生き延びるのは当然だ。
    限られた環境下でぬくぬくと生きてきたものは、環境変化のスピードについていけない。

    このようなテーマでは動物の話が中心となりがちだが、稲垣さんならではの植物の立場での切り口も豊富で勉強になった。

  • 原始生命の誕生から生命の歴史を紐解き、現在に至るまでが描かれている。
    「敗者の生命史」という言葉の意味であるが、生命的弱者が常に進化の先端を走っており、現在の生き物の世界を形作っているということだ。

    例えば、サメという魚は太古から海の中では強者であり、進化的には完成されてしまっている。つまり、サメが住む世界ではサメが強者でありそれ以上身体を進化させる必要は無かったのだ。だからサメは大昔とほとんど姿が変わっていない。
    一方、サメから追われる立場の弱者である小魚たちはありとあらゆる方策を駆使して身体を進化させ、生き残りを目指した。ある者は身体を小さくし、ある者は海を捨て陸地に上がっていった。

    進化する際に重要なのは子孫を残す際にエラーをあえて発生させることだ。

    エラーという言葉を使うとなんだか悪いもののように感じるが、エラーを発生させるということは「突然変異を発生させる」ということであり、その環境にさらに適応できるような身体や能力を発生させることなのである。つまり、より強い者を出現させることができると言うことだ。もちろんその発生はランダムなので弱い者が発生することもあるが、弱い者はすぐに絶滅する。

    さらに、ある個体の寿命があまりに長すぎると突然変異の発生の頻度が落ちてしまうので個体の種全体として考えるとあまり効率的では無い。適度に短い寿命で多くの生死のサイクルを経験することが種の保存には重要なのだ。

    本書を読んで、生物の種がいかにしてこの過酷な地球環境(純粋に環境だけでは無く、捕食されたり、食べ物を探すといったことも含めて)を生き抜く為に努力してきたかが非常に良く理解できた。
    生命史の初学書としておすすめ。このような本の中で一番分かりやすかった。

  • 医学部分館2階書架:461/INA:https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410163251

  • 目新しい内容は少なかった。酸素が毒だった時代があったこと、ギカントピテクスなどの話は面白かった

  • (本から)
    「細胞内共生説」

    原核生物(バクテリア(細菌))から真核生物へ

    ミトコンドリアの祖先は、酸素呼吸を行う細菌

    細胞の中に取り込まれた葉緑体の生き物は、細胞の中で光合成を行うようになった。

    細胞は細胞核を作り、自らのDNAを格納した。

    生命は、過酷な逆境でこそ進化を遂げる

    アリストテレス
    「植物は、逆立ちした人間である」

    生物の生息地をニッチという
    ニッチを奪い合う進化の過程

    動物に対する対抗手段として効果的な毒成分はアルカロイドである。このアルカロイドは窒素化合物を原料とする。窒素は、植物が根から吸収するものであり、限りある資源である。窒素は、植物の体を構成するタンパク質の原料であり、成長に不可欠なものである。そのため、植物がアルカロイドなどの毒成分を生産しようとすれば、成長する分の窒素を削減しなければいけないのだ。
    (略)
    苦労して少しばかりの葉を守るよりも、他の植物に負けないように生い茂り、枝や葉をそれだけ増やした方が良いのである。

    出来る限り「戦わない」というのが、生物の戦略の一つになる。(略)
    生物は、自分のニッチを軸にして、近い環境や条件でナンバー1になる場所を探していく。つまり、「ずらす」のである。この「ずらす戦略」はニッチシフトと呼ばれている。

    進化が作り出した生物の世界は多様性に満ちている。あらゆるものが個性を持ちながらつながりを持っている複雑な世界である。人間の脳はこのところ複雑さが区別できないのだ。
    (略)
    自分に必要な情報のみを切り出して、単純化する能力を発達させてきたということなのだろう。

    自然界には境界はない。全てがつながっている。

  • 稲垣栄洋先生による、生命史をざっくりと、しかしご専門の植物についての記述はしっかりと語られている『生命の進化と営み』の本。別書籍『はずれ者が進化をつくる』が自己啓発本っぽい作りなのに対し、こちらはさらにもう少し踏みこんで、生物の進化の内容を記述している。要点を抑えて書いてあるので、全体的に捉えられられる。装丁もとても良い。

  • 農学部図書館のアルバイト学生の方に図書を推薦いただきました。テーマは「進化 : evolution」です。

    ☆推薦コメント☆
    時代の「強者」がどのように滅んでいったのか。
    また、「弱者」がいかに生き抜いてきたのか。

    地球上に生命が誕生した38億年前にさかのぼり、現在に至るまでの生命の歴史を紐解いていきます。著者は「面白くて眠れなくなる植物学」などで知られる、静岡大学農学部教授の稲垣栄洋先生。
    ぜひ、手に取ってみてください。

    ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB27860394

  • 生物の進化史において、なぜその種が優位になったのか、どうしてこっちの種は追いやられてしまったのか、わかりやすく概要をまとめたもの。読みやすい文章で全体が網羅されているので、生物史を概観するのに適している。興味を持ったポイントを、更に別の本で深堀りすると良いだろう。
    植物が専門のためか、植物に関して内容については話が小難しいところに入っているような気がした。
    あと、本文のトピックをまとめた年表みたいなものも付録についていると良かったと思う。

  • 生物の歴史がわかりやすく記されています。そしてその変遷がマーケティングにもなぞらえ、比較して説明されているのが、マーケターとして面白かったです。「ニッチ戦略」や生きていくにはフィールドを少し「ずらす」等は、既にものの本で書かれていることであり、それらの著者はもしかしてここからヒント得たかなあ?と思うくらい。あと、他の種類の生物と関わりを持った方が長く生き延びると言うのも。多様性あっての社会であり地球。人も昔は魚類であったり、はたまた草木に通ずるという。自然淘汰を繰り返して今に至ること。パンデミックに苦しむ今、長い歴史で見れば、これもままある自然界の出来事、となるのだろうか。

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著者プロフィール

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ):1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する記述や講演を行っている。著書に、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』(ちくま文庫)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』『ナマケモノは、なぜ怠けるのか』(ちくまプリマー新書)、『たたかう植物』(ちくま新書)など多数。

「2023年 『身近な植物の賢い生きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

稲垣栄洋の作品

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