京都の壁 (京都しあわせ倶楽部)

著者 :
  • PHP研究所
3.07
  • (5)
  • (8)
  • (18)
  • (11)
  • (2)
本棚登録 : 222
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569838229

作品紹介・あらすじ

千年の都・京都にはいくつかの壁が存在する。京都らしさ、日本らしさを体現したこれらの壁の正体とは?10の視点から考察する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 養老孟司の文章は分かりにくい。
    話が飛ぶ。関連話、あるいは例として出てくるのだろうが、間にもう一つクッションがないと、つながりが分かりにくいのだ。自分の頭の中ではつながりの理屈がちゃんとあるのだろうけど。本当に適切な例なのかということもある。また、取り上げている他の人の言葉や本に一見賛成しているように見えて、実はそうではなく皮肉ではないかと思われることもある。結局、分かる奴だけ分かればいいということだね。
    今回は、気楽に書かれた京都論なので、すごく分かりにくいということはない。さて、わたしなりに内容をまとめよう。
    京都は都市化、合理化されているようでいて、古い共同体が残っていて、隙間がある。それがいい。グローバル化、情報化に置いて行かれる感覚的なもの、身体的なもの、地域の個性などを失くしてはいけない。それが、京都であり、方言であり、マンガであるという。
    漢字仮名混じり文、音訓読みといった日本独特の文字体系が完成した京都は、日本の伝統や特異性を表した街であり、言葉から感覚を取り戻すためのサブカルチャーとしてのマンガと通じるものがある。
    京都に都が移ったのは、水資源を確保するためであった。
    さて、詳しくは読んでのお楽しみ。

  • タイトルからして、京都の閉鎖性もしくは、まさに京都の「壁」を批判する本かと思いしや、極めて常識的な内容で、「バカの壁」で一世を風靡した著者の本とは思えない。
    「京都ぎらい」等の井上章一の執拗な、あくの強い文章を読んでいると、何と常識的な、平板な本のように感じてしまう。かなり期待を裏切られた本である。

    例えば、「京都の閉鎖性」については、「京都だけが特殊なわけではない。むしろ日本人特有の性質を、今も色濃く残しているのが京都ではないでしょうか」と、極めて遠慮がちに書いているというか、擁護している等々。

    鎌倉生まれの鎌倉育ちの関東人の著者が、たまたま「京都国際マンガミュージアム」の館長になったので、それを契機に書いた本なので、特に京都の知見があるとか、こだわりがある訳ではないので、致し方ないと思う。
    ただタイトルの「京都の壁」はいただけない。これは著者だけの責任ではなく出版社の意向もあるのだろう。

  • おおよそ一般的に知られる京都の特徴を著者が簡潔にまとめ、感想を述べたエッセイ集のような感じの新書。

  • 城郭が無いきだから、心に壁を作ったというのは面白い。ただ、心の壁はどの地方にもありそう。京都が人気があるから、周りのやっかみがあるんだろうな

  • 今から14年ほど前に、この本の著者である養老氏が書かれた「バカの壁」という本が、400万部を超えるベストセラーになり私も読んだ記憶があります。でもこの頃、レビュー書いていなかったので、記憶に残っている部分が無いのが残念です。

    そんな私ですが先週久しぶりにお気に入りの本屋さんに行ったときにこの本を見つけました。今回のテーマは「京都」です、養老氏が本の中で述べれられているように、鎌倉育ちで東京で学生・教授生活を送られた後に、京都にある「京都国際マンガミュージアム」の館長を10年近くされて最近退官された経歴をお持ちだそうです。養老氏がマンガに理解があるだけでなく、マンガの素晴らしさを説いているとは、驚きでした。

    我が家にも娘が二人おりますが、漫画が大好きです。私は子供の頃、漫画禁止という環境で育ったこともあり、読みたいのを我慢してきた私は、子供達には同じ思いをさせたくなく、ある程度許容してきました。この本によれば、漫画は、絵画と言葉の境界領域にある、図形で意味が理解できるアイコンのようなもので、耳の情報処理の世界である、音楽と言葉の境界領域である「詩」に相当するものだと述べています(p176)。

    私の印象に残った部分は、後半の「漫画」に関するものでしたが、前半部分では、養老氏が体験した、京都の素晴らしさ・特徴が詳しく書かれています。

    以下は気になったポイントです。

    ・城郭とは、本来は「結界=ここから先は別の世界である」と示す、自然の風景が目の前にあるのが当たり前の中で生きてきたので、その視界を遮ることはしなかった(p21)

    ・日本では城郭を造らなかったので、代わりにできた結界が、心の壁である。住んでいる場所でその意識が異なる(p22)


    ・京都は第二次世界大戦の被害は殆どなかったので、街の大半が焼失した、応仁の乱・蛤御門の変こそが、大戦ということになる(p29)
    ・京都の人の断り方は、「ほな、考えときまひょ」という、これは京都の人が何かを断るときの常套句です(p32)

    ・オーストラリアは流刑地なので、刑務所と同じで、先に入っている人が偉い(p36)

    ・長い目で見れば、「いちげんさんお断り」が一番確実な商売の方法、無理に増やして儲けようとしない(p42)

    ・多くの人の目に触れることで、外見への意識が変わる、女性がきれいになるためには人間関係が重要である(p44)距離の取り方を知っている人が「大人」であり、入り込みすぎないのが都会の人(p49)

    ・村の人間が関わりを持とうとしないものが2つある、駐在と税務署である。徴兵がなくなったので、その二つに村は関わりを持とうとしなくなり、犯罪に関しても、村のルールに反していなければイイということになった(p59)

    ・人間はやはり、社会性を持った動物である。人との関わりを持たずに生きていくことは難しい(p60)

    ・ニューヨークは人種のるつぼ、というけれど実はモザイク、細かく分かれているだけで混ざらない(p67)

    ・中国は発展途上国ではない、はるか昔から、農村と都市を分離してきた国。農村が食べれなくなると革命が起きる(p70)
    ・毒キノコは見分けられない、お湯が沸かせれば毒キノコなんてない、ただし茹でたお湯は捨てなければならない。毒は水に溶けるので(p71)
    ・人々が古都を好むのは、空間認識の基本になるところを持っているから。長い間かけて形づくってきたものなので、やっぱり壊さないほうがいい(p81)
    ・古都保存法に指定されているのは、奈良市・京都市・鎌倉市・大津市・天理市・橿原市・斑鳩町・明日香村など(p86)
    ・京都の人は信用が第一、二度と客が来なくなるような変な商売はしない(p113)
    ・日本の骨董組合のセリは、1)安すぎるのと高すぎるのを省く、2)値段の書かれた茶碗を投げて、最後前伏せてあるものが落札となる、3)どうしても欲しい場合は交渉ができる、という特徴がある(p134)

    ・京都賞は、先端技術・基礎科学・思想芸術部門の3つがある、このレベルが上がってきたので、ノーベル賞も先端技術にまで選考対象を広げてきた。田中耕一氏は京都賞をもらってからノーベル賞をもらった(p139)

    ・禅宗は、曹洞宗が一般民衆に広がり、同じ禅宗の臨済宗は、侍のための仏教として広がっていった(p141)

    ・遺伝子が使っているアルファベット(塩基)は、A,T,G,Cの4つある、0と1のコンピュータ方式より2つ余分、4種の塩基をもとに複雑な過程を経て遺伝子を複製しているので、進化が起きる。もしデジタルで完全にコピーできるならば、生物からはクローンしか生まれない、かなり確実にコピーできるけれど、ある程度不確定であることが正しい(p149)

    ・アルゴリズムと、0と1で書けてしまうものは、絶対にコンピュータのほうが有利。みんなが失職するのはこの分野(p149)

    ・人に伝達できない部分をどれくらい残すかということが、実は人生そのものになる(p153)

    ・大阪弁でしゃべっていれば、価値観が違うことを言葉ではっきり伝えられるから喧嘩にならない、標準語で話すから、きつく聞こえて喧嘩になる。言葉と価値観は密接な関係がある(p157)

    ・そもそも外国人は言葉が上手になってはいけない、下手だとわかると「下手だからああいうことを言うのだ」と思ってもらえるが、ペラペラだと怒らせてしまう(p159)

    ・日本語で音訓読みができたときから、マンガが発達する素地はできていた。平安時代に仮名ができて、漢字かな交じり文と音訓読みが成立したので(p179)

    ・音楽(耳)と絵画(目)が重なった領域が言葉になる。音楽と言葉の境界領域が「詩」であり、絵画と言葉の境界領域が「マンガ」である、歌詞は言葉ではない(p177)

    ・日本人は音の場合、虫の音を音楽として聴いている、でも英語圏では蝉の声はノイズである(p182)

    ・マンガは言葉から感覚を取り戻すための、恰好のサブカルチャーである、「マンガをもっと読みなさい」(p170、186)

    2017年6月19日作成

  • 京都の持つ他者を寄せ付けないあの雰囲気は,本来日本がどの地域でも持っていた地域共同体の排他性に他ならないと喝破する.つまり,京都の壁を異様に感じるということは,本来の日本文化が廃れ都会的均一性に精神肉体が染まっている証左であることになる.成る程.

  • 最近、京都に関する本が多く出ていて、養老先生の壁シリーズということもあり購入。
    京都の人たちが地域を大切にしていて、欲張らないで生きていることを日本人は見習うべき。
    漫画ミュージアムには1度訪れたいと思うほど漫画の素晴らしさも理解できた。
    自然がそばにある都というものを考えてほしい。

  • 京都ってどこか憧れとか非日常感とか色んな感情を抱かせてくれる土地であり良くも悪くも評価される。お高くとまってる、一見さんお断り、京ことば…。でも実は日本のどこにでもあることであり、それを凝集し上手にブランディングして、京都という土地での文化を守ろうとしている手段的なものであり、別に否定されるものではない。

    情報化社会で、感情的文化的なものを失いつつある現代。東京のような都会が全てというような価値観。世界基準。統一化。そんなものに振り回されて、時間が矢の如く過ぎていき、人が何のために生きているのか分からなくなってしまった今、日本の古都、京都から学ぶことは多くある気がした。正しいことは何なのか、それは正しいとされていること、ではない。物事の本質を見極める力は、都会の中では生まれない。自然に触れ文化に触れ、そして人に触れ、感情を揺らして生きることで、身につけ時代を切り拓くことができる。

    普段から思っているモヤモヤに対して、養老先生が語りかけてくれるような本で、楽しかった。
    また京都に行って、日本人の故郷を感じたい。

  • 母と同い年の著者によるベストセラー群、「壁」シリーズの京都版、か。
    壁シリーズは何冊か読んだし、夫婦そろって大の京都オタクでもあるので、さっそく読んでみた。
    うーん、期待したほどの面白さ、満足には届かなかったかな。
    著者が館長を務めていたマンガ博物館には何度か足を運び、大いに感銘を受けた。その館長経験が、著者と京都を最も関連付けた最大の由縁であるとの由。もしそうなら、此処まで「著者一人の視点から京都を論ずる本」を著すことそのものに、かなりの無理もあったようにも思うが、どうだろう。
    京都の空気や京都人の性格、傾向については、中には「なるほど」と頷ける分析や論考もあるにはあったが、さりとてそれほどの独創性や新規性も感じない。
    どうせなら、同じ古都でも、著者出生地にして今なお居住する鎌倉を題材に「鎌倉の壁」を書くべきだったのではないか。


全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

養老孟司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×