なぜ日本だけが中国の呪縛から逃れられたのか 「脱中華」の日本思想史 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569837451

作品紹介・あらすじ

大和朝廷はなぜ儒教より仏教を重んじたか? 江戸の儒学者や国学者の到達点とは? 中国との対比で明らかになる日本人の知の営みの凄さ。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで『何故日本は儒教を取り入れなかったか?』なんて考えたこともなかった。中国以外で儒教を正式に取り入れた国は朝鮮とベトナムしかないのだから、世界的に普遍的な価値を持つ思想ではなかったという事なのだろう。古代~中世の日本の指導者たちがそれを選択しなかったのは、著者が指摘するような遠大な展望とか計算があった訳でなく、単に「性に合わなかった」というだけな気がする。そもそも儒教はたびたび王朝が民衆に倒されてきた歴史を説明するために考え出された易姓革命の概念が核心にある。いまだに市民革命の歴史がない日本の風土に合わないことは明白である。
    日本人は太古の昔から非常に柔軟に、悪く言えば無節操に外来の思想や文化を取り入れてきた。儒教もその良い所だけチョイスして都合よく取り入れてきたし、それはそれでうまくいったように思う。むしろイマドキの日本人はもっと儒教を学んだ方が良い。

  • 他の方も指摘されているように、タイトルと内容が少し違うかなと。内容は推古朝から明治に入るまでの壮大な日本思想史。思想という視点で日本史を見たことが無かったので、とても新鮮な驚きを持って、筆者の立論にうなずきながら読み進めた。具体的には中国にどうやって飲み込まれないかという観点で日本の過去の知的リーダー達がどのように思想と向き合ってきたかということについての論考。
     筆者は、最初に問を発する。何故、日本の思想家は江戸までは仏教家のみで、それ以降は儒学者なのかと。その問いに答える形で議論を展開。
     出発点は推古朝、聖徳太子の時代。当時は隋王朝による大陸統一で、西晋以来数百年ぶりに協力な統一王朝ができて高句麗侵略、新羅・百済の属国化という積極対外政策の時代。日本は、小野妹子の国書にもあるとおり、華夷秩序に対しての異議申し立てを明確にする。その思想的背景が、同時にもたらされた儒教と仏教の扱いの差、仏教の偏重、で明らかになっている。筆者はこれを華夷秩序のバックボーンの儒教では無く、インドからもたらされた世界宗教の仏教を軸に据えることで、儒教=中国の影響を相対化しつつ、富国強兵のため、制度面のみ中国に倣うという政策を取ったと喝破している。
     このため仏教が興隆するが、その日本的な受容のあり方について神道との関わり合いも含めて面白い分析をしている。一つは平安〜鎌倉時代にかけて、空海、最澄、法然、日蓮、親鸞と言った思想家による仏教の簡素化と念仏により万人を救済出来るという大衆化の流れ。もう一つは、神道は緻密な仏教理論に圧倒されつつも、本地垂迹説で神と仏が一体化し、しまいには神が優越しているという伊勢神道の理論構築もなされるようになり、神仏の共存が図られていく。
     戦国時代には、大衆化の結果、支配者は一向一揆に悩まされるようになる。家康の政策は二つ。一つは寺請制度。寺に檀家登録することにより、戸籍管理をさせて、民の移動を管理し、檀家からの寄付で寺も潤うようにして仏教を統治制度に組み込んでしまう。これにより、仏教はもはや統治と一体化し、思想を必要としなくなった(江戸以降、仏教家の思想家が出てこない理由)。もう一つは、儒教、とりわけ朱子学の奨励。実際に戦争が無くなったこともあり、朱子学の修身、斉家、治国、平天下という思想が武士のレゾンデートルとなり武士階級に受け入れられる。
     その一方で、山鹿素行、伊藤仁斎、荻生徂徠と言った民間レベルでの儒教内部からの朱子学の批判、さらに進んで賀茂馬淵、そして本居宣長により完成された国学(そもそも漢学による必要すらない)という形で在野レベルでは完全に中華思想からの独立を果たす。
     ここまでが筆者の確定的分析。明治以降は更に研究を要するとしつつも、イニシャルな思考の枠組みを示している。
     まず明治維新に至る過程で漢学への揺り戻しが起きる。尊王攘夷から明治維新を推進したのは武士であり、底流には朱子学あり。また、推古朝以来の海外からの脅威に対して日本というよりも東洋の伝統重視が言われるようになったのも朱子学の影響のためではないかと。
     この流れの真骨頂が教育勅語。筆者は、朱子学のの修身、斉家、治国、平天下の思想そのものとした上で、これまでの中国朝鮮や江戸時代にも見られない新たな点として、それが支配階級の理念ではなく国民全体の理念として推奨されたというもの。また、これが天皇の名の下に出されたことは、徳治主義を前提とする中国皇帝の役割を彷彿とさせ、その後の大東亜共栄圏も以下にも日本を中心とした華夷秩序のようで、この時代の日本が一番、日本らしさを失って中国皇帝・中華帝国に近づいた瞬間では無かったかと。この最後の分析は非常に面白く、続編に期待。
     

  • いつもの中国批判本ではない。国を統治するにあたり、仏教を取り入れた事が大きく影響している。

  • こうした本に出会うのが新書の面白さである。

    いかんせん、著者の日頃の中国嫌悪/日本賛美の傾向とそれが全面に出たタイトル及び帯が、読者の幅を狭めているのではないかと思う。私も中身を読んだ人に勧められなければ読まなかったであろう。

    しかし、中身は斬新な切り口から日本の思想史を見渡しており、特に前半は非常に興味深い内容であった。
    途中、江戸時代の朱子学批判以降が冗長になるが、前半の聖徳太子から奈良、平安、鎌倉時代への流れは、「なるほど、そういうことかもしれない」と思わせる説得力があった。

    おそらく、各時代、各分野について細かく研究している人にとっては、ツッコミどころや反論があるだろう。

    しかし、(哲学科出身とはいえ)狭義の専門家ではない著者による新たな視点での通史は、それまでとっつきにくく興味がなかった人に、その分野に目を向けさせる入口になることは確かである。
    また、単に事実を追うのではなく、その意義を考える上での一つの考え方を提供する点で非常に有意義であると考える。

    同様の書として思い浮かんだのが、渡部昇一氏の「ドイツ参謀本部」である。
    内容に関する論争を生んだ本ではあるが、我々にとって馴染みの薄いテーマについて、分かりやすくコンパクトに、かつ興味深く分析した点に意義があると思う。

    これらの新書は、よしこの分野をもっと学んでみよう!という気を起こさせる。
    だからこそ、この作品については、思想を打ち出しすぎたタイトルと帯が読者を狭めるだろう、とやや残念であった…


    メモ

    日本の独立をどう守るかを切実に追求し、中華秩序に下らなかった聖徳太子以後の大和政権、天皇
    →P54 普遍性のある仏教という世界宗教のなかに身を置くことによって、中国文明ならびに中華王朝の権威を相対化し、中国と対等な外交関係の確立を模索

    P70
    663年の白村江の戦いで唐・新羅の連合軍に敗れた日本は国家存亡の危機
    →国防体制強化のために律令制を整備

  • 石平の専攻は哲学であることはあまり知られていないのかもしれんが、日本の自称哲学者のほとんどが左翼であるが、共産党が右翼である中国では石平も左翼である。日本が中国の呪縛から逃れられたのは中華のプレゼンスを認めなかったからなのだが、中華を継承した中国共産党と対峙するのは日本の左翼ではなく、右翼なので、日本人としての石平は必然的に右翼のポジションに付くことになろう。

  • 中華を、こけにしているが、本論とは、ほぼ無関係。
    作者の日本宗教史私観ではないかと思う。
    しかし、なかなか面白い。
    こんな見方もあるかと、それなりに納得した。

  • 中華思想と日本思想(というべきか)がよくわかり、また、先人の知恵のすばらしさに感銘する。これまでの歴史があり、今の日本がある。少し方向がずれているのかも、であるが。次の刊行に期待する。

  • 日本の思想の変遷がとてもわかりやすく書いてあり、
    頭がすっきりしました。

  • 中華皇帝の「徳」を慕って「教化」を求める周辺国の中で
    唯一日本は推古天皇から隋の煬帝に対し、
    仏教を国の中心に据えることにより、
    中華文明より普遍的な価値にて中華帝国と対等な位置に立つ。

    中華「天命思想」
     易姓革命により王朝交代の悪循環
    日本「記紀」
     天照大神の子孫とし血統がつながっている。

    草木国土悉皆成仏
     日本古来のアニミズムの影響を受け、日本の仏教として存続






     

  • 著者は中国から帰化した日本人だが、日本の歴史、文化に対する理解の深さには目を見張るものがある。

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著者プロフィール

評論家。1962年、中国四川省成都市生まれ。1980年、北京大学哲学部に入学後、中国民主化運動に傾倒。1984年、同大学を卒業後、四川大学講師を経て、1988年に来日。1995年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程を修了し、民間研究機関に勤務。2002年より執筆活動に入り、2007年に日本国籍を取得。2014年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。近著に『漫画でわかった! 習近平と中国』(かや書房)、『世界史に記録される2020年の真実 内患外憂、四面楚歌の習近平独裁』(ビジネス社)、『中国五千年の虚言史』(徳間書店)、『日本共産党 暗黒の百年史』(飛鳥新社)などがある。

「2021年 『中国 vs. 世界 最終戦争論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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