なんといふ空

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569819693

作品紹介・あらすじ

最相葉月の原点と言える初エッセイ集の復刊。

感想・レビュー・書評

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  • 種田山頭火の句から拝借したという、この「なんといふ空」というタイトルがたまらなく好きだ。その響きに惹かれてずっと読みたいなと思っていながら、十年以上経過してしまった。先日、図書館の棚に並ぶ二冊の「なんといふ空」を見かけた。古びて黄ばんだものと、ピカピカでちょっと厚めのものと。新しい方は、単行本未収録エッセイを加えて復刊されたもののようだった。ならばこれを機に今度こそ読もう、せっかくだからお得な復刊版で。ただ、90年代に描かれたエッセイの古さが気になってしまうかな…と懸念したのだけれど、むしろ懐かしく読めました。
    若かりし頃の思い出。社会人駆け出しのエピソード。友との出会い、別れ。父や祖父について。とりとめのない雑感のひとつひとつが何だか心に引っかかり、作家とは違う、ノンフィクションライターのエッセイだなぁと感じさせられる。時間の、場面の、切り取り方が独特だなと。今の最相さんに比べると粗削りではあるけれど、そのまっすぐさが、不思議と懐かしく感じられる。そんなに最相さんの本を読んできていないのにもかかわらず…この本に流れる90年代の空気感が、自分の思い出とリンクし、あの頃の風景が目の前に見えるような気がしたのだ。
    そして、彼女の著作の裏話エピソードも興味深く読んだ。中でも印象的だったのは、「絶対音感で出会った音楽家たち」の佐渡裕氏の言葉だ。
    「いろんなことに敏感な人は、常に自分が自分を教育していくのです。たとえば人に出会ったとき、その人の考えていることがおもしろいと感じられれば、そこから何かがひらめくこともある。ほかのジャンルの音楽や絵、本の世界が自分の中に広がって思いをめぐらすこともできる。
    感受性が豊かということは、一生自分を教育できることだと思うのです。想像力ってそういうことではないでしょうか」
    脳がビリビリと痺れた。本当に、この言葉のようでありたいと心から思った。
    シンプルなのに、さり気なく印象に残る一冊。復刊ありがとうと言いたい。

  • もともとは2001年発行のエッセイに、未収録エッセイを加えたもの。
    以前読んだ『仕事の手帳』が面白く
    目についたので借りてみた。
    単独のエッセイなので読みやすく、
    穏やかな気持ちになる文章が多く
    気分転換に役立った。
    他の専門的な取材に基づいた本は、
    これから機会があれば読んでいくつもり。

  • 『仕事の手帳』に次ぐ、最相葉月2冊目。10年以上前に出版されたものに、これまで未収録のエッセイを入れて再編。真摯で真面目、誠実な人柄が垣間見え、「仕事の手帳」と同様、背をただしたくなる。

    ちょっと意外だったのが『心の時間軸』。突然セーターの袖口にクギが現れたとか、実家の時計がおかしな動きをしだしたとか、ある教祖の力が伝わるというシールを額に貼って寝たら幽体離脱したとかの「不思議な出来事」が起こる。著者は「またか」と思いつつも、そのときの心の状態、仕事の状態に思いを馳せ、「まあ、こういう心理状態・体調のときは、そんなこともあるでしょう」と分析する。そして、『心が弱っていてすべての時間軸がマイナス方向に向いているときというのは、冷静に客観的に物を考えることができない。弱った心が妄想や絶望や悪意を招く』と書く。ノンフィクションの作家が、そんな現象をオカルトチックにとらえそうになるところが意外で興味深い。そして、こう結ぶ。『そういう妄想を抱く私という人間の意識や存在そのもののほうが、ずっと不可解』と。
    論理的かつ冷静な唯物論者(かどうかは知らないけれどたぶん)の著者でも、こんなことがあるのだから、いわんや私においてをや。

    次は「東京大学応援部物語」を読んでみたい。

  • 過不足なくまとめられている。だけど個人的にはもう少し毒のあるもののほうが好き。

  • 『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞(1997年)、『星新一1001話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞(2007年)を受賞している作家、最相葉月の初のエッセイ集。2001年に刊行されたものに、その後未発表のいくつかのエッセイを加えて2014年に復刊された。
    映画『ココニイルコト』の原作となった『わが心の町 大阪君のこと』(私はこの本を読むまで映画のことを知りませんでした)をはじめ、何気ない日常生活を切り取ったショートエッセイの粒々が、様々な色と強さで光を放っている。
    中でも、復刊版に新たに加えられた『東京大学応援部物語』(2003年刊行)の後日談には泣けた。
    著者の正直さ、真面目さ、(不器用さも?)が随所に滲み出ていて、こんな著者だから、多くの人への取材を必要とするノンフィクションの優れた作品を次々と生み出せるのだと思った。
    (2014年10月了)

  • 体で覚えられない料理は二度とできなくていいというくだりと、パン屋のアルバイトの制服がフェミニンすぎてきつかったというくだりに共感しすぎておもしろかった。復刊してくれてありがとう。

  • 同著者の『セラピスト』をきっかけに読んだが、できれば先に読んでおきたい内容だった。著者の祖父の祖父が前島密であるとか、父親は20代を松竹撮影所に費やした熱い人であるとか、いずれ掘り下げてもらいたいエピソードもちらほら。
    書き手はもちろん、読み手も点と点の繋がりが至福の瞬間。

  • 2001年発行の単行本に未収録原稿を加えたものであり、時折10年前のエッセイという感じを抱かせるが、一つ一つに物語がしっかりあり、珠玉のエッセイである。競輪の話、今は亡き後輩の話、それぞれに愛情ある文章で心が暖まる。

  • ☆☆ふたつ

    『絶対音感』と『星新一 一〇〇一話をつくった人』は読んだ。星新一はともかく絶対音感の方はほとんど何も覚えていないことに気づいた。 という具合に最相せんせえの書き方で初めて見るw

    ともかくとにかく初出が古いくせに、いつの作品、ということが文章の身近に書かれていないので、つい、なんのこっちゃ?と思うてしまうのだ。そおしたら再発行らしい。最近売れてんのね、かっこいいね。

    そして、せんせえの苗字「最相」は、づっと「さそう」と読むのだと思っていた。すまぬ。

    他人からのお便りの紹介だとわいいながら、自分のことを先生、先生と平気で書きまくるそのしたたかな根性にカンペイw!

    女性でこれだけ徹底的に「である調」でしか書かない人も・・・まっ、いっか。「あった。かった。である。」まあ、ほとんどは「た。」で終わっとるな。好きではないです。ではなく、好きではない。である!

    面白い本と作者であることは間違いないですが、どうもわたしはこの作者が嫌いなようです。だれか『星新一 一〇〇一話をつくった人』いりますかぁ? すまぬ・・・だ。

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著者プロフィール

1963年、東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業。科学技術と人間の関係性、スポーツ、精神医療、信仰などをテーマに執筆活動を展開。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』(大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞ほか)、『青いバラ』『セラピスト』『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』『証し 日本のキリスト者』『中井久夫 人と仕事』ほか、エッセイ集に『なんといふ空』『最相葉月のさいとび』『最相葉月 仕事の手帳』など多数。ミシマ社では『辛口サイショーの人生案内』『辛口サイショーの人生案内DX』『未来への周遊券』(瀬名秀明との共著)『胎児のはなし』(増﨑英明との共著)を刊行。

「2024年 『母の最終講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

最相葉月の作品

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