世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか (PHP新書)
- PHP研究所 (2014年4月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569816203
作品紹介・あらすじ
世界に12億人存在する絶対貧困層と、約1900万人にのぼる日本の相対貧困層。その実態と差異について、鋭く切り込む渾身の一冊。
感想・レビュー・書評
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『絶対貧困』などの入門書や、『レンタルチャイルド』などのノンフィクションで、途上国の最貧困の実態を追ってきた石井光太。彼が初めて日本の貧困問題に本格的に取り組んだ本だ。
そのために選んだ切り口は、じつに石井光太らしいもの。最貧国における絶対的貧困と、日本の相対的貧困を比較対照することで、両者のどこが違い、どこが変わらないのかを浮き彫りにした本なのだ。
日本はいまや国民の6人の1人が「貧困層」であり、先進国でも指折りの「貧困国」になっている。
しかし、そう言われても多くの人はピンとこないだろう。ストリートチルドレンがいるわけではないし、道を歩いていて物乞いが群がってくるわけでもないし……。
だが、「日本は貧困国だ」という場合の「貧困」と、ストリートチルドレンを生むような途上国の貧困では、そもそも貧困の概念が違う。
前者は「相対的貧困」(所得が全人口の中央値の半分未満である人)の話であり、後者は「絶対的貧困」(1日1・25ドル以下のぎりぎりの暮らしをしている人)の話なのだ。
日本で「相対的貧困」に陥っている人(単身者の場合で、おおむね年収150万円以下)は約2000万人で、国民の約16%にのぼる。これが日本の「貧困層」であり、「相対的貧困層」の厚みにおいて、世界ワースト3位(1位イスラエル、2位米国)にランクされる。ただし、日本には絶対的貧困層はほとんどいない。
では、日本の貧困問題は、途上国の絶対的貧困に比べれば「まだまし」なのか? 本書を読むと、必ずしもそうとは言えないことがよくわかる。
各章は、「住居」「教育」「労働」「食事」「結婚」「病と死」などのテーマに分けられている。それぞれのテーマごとに、途上国の「絶対的貧困」と、日本の「相対的貧困」が比較されていくのだ。
より深刻で、命の危険にも直結しやすいのは、絶対的貧困のほうである。
しかし途上国の場合、貧困層が一つのエリアに固まって住むのが特徴だから、そこには相互扶助コミュニティがまだ息づいている。また、周囲みんなが同じように貧乏だから、貧困からくる屈辱感はあまり感じずに済む。
それに対して、日本の「相対的貧困」では、最低水準の住居や衣食は福祉によって確保されているものの、昔ながらの“長屋の助け合い”的コミュニティはほぼ崩壊しており、孤独の深刻化が貧困をいっそう悲惨なものにしている。
《日本の貧困の悲劇は、良くも悪くも人間どうしのつながりが切れ、制度に依存しているところから発生している。国全体が貧困から脱することができたはずなのに、皮肉にもそれがさらなる格差を生み、切り捨てられてしまった人間どうしのつながりが低所得者に苦痛を及ぼしているのだ。学歴格差、孤独死、希望のない仕事、独身者の増加、経済的理由による中絶……こうしたことは、まさにそのことを示しているといえるだろう。(「おわりに」)》
途上国の「絶対的貧困」と比較することで日本の貧困問題の特徴を浮き彫りにした、ありそうでなかった本。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昔は駅周辺は路上生活者だらけだった。駅周辺の開発や駅ビル自体の近代化・整備が進み、そういった人達を見る事が極端に減った様に感じる。これは日本が裕福な国になったからではなく、単にセーフティネットが充実してきたからだ。然し乍らそれからも漏れて未だ完全な解消には至っていない。勿論衣食住何一つ不自由なく暮らせる人々から見れば、極端な側にある貧困の現実だ。
本書は貧困を2種類に分ける。1つは絶対貧困、もう1つは相対貧困。前者は読んで字の如く、収入が1.25ドル/日以下の食うに困る状況を示し(2000年代の数値)、後者は先進国にありながら、物価の高さなどに比例して一定収入以下の人々を指す(収入150万以下/年、当時)。我が国は戦後奇跡的な復興を遂げ一時はアメリカをも凌ぐ勢いで先進国入りしたものの、相対貧困の率は先進国中、悪い方から3番目だそうだ(2位はアメリカ)。元々、一億総中流と言われたぐらい平均化された時代からずっと貧富の差は広がったと言われているため、更に富裕層と貧困層の格差が鮮明になっているかもしれない。
一方、SDGsでよく知られる様にはなったが、世界には細菌がいない綺麗な水すら飲めない絶対貧困の層に含まれる人々が6億人以上いる。その様な現状を見て、実際にインタビューした内容で構成される本書は、世界の厳しい現実と、自分が如何に恵まれた状況に置かれているか、乖離をまざまざと見せつける。
国内で生活保護を受ける人々の原因や置かれたリスクある状況も見えてくる。自分も仕事があるだけ未だマシか、と安心感を得て終わってはならない。
何故、日本から世界から貧困がなくならないのか、その真因を真剣に考え、今自分に何が出来るかを考えてこそ、筆者の伝えたかったメッセージなのだと思う。インタビューから得られる生の声、状況を受け入れざるを得ない社会の構造、究極的には限られた地球の総資源の奪い合いから敗者側に追いやられた人々。
最近のcmで「ご飯を最後の一粒まで残さない、ではなく最初の一粒すら食べることの出来ない人がいる」これと同じく、心に深く突き刺さる内容だ。 -
SDGs|目標1 貧困をなくそう|
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685606 -
開発目標1:貧困をなくそう
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99655674 -
僕は子どものころから貧困とは無縁だったので、定期的にこういった本を読まないと世界が狭くなってしまう。
世界と日本がそれぞれ別の問題を抱えていることがわかる良書。 -
「貧困」が日本の社会問題として取り上げられるようになって数年。なんとなく分かるような気分になっているものの、結局何も分かっていないので、なにかヒントがあればと手に取りました。
著者は、世界の貧困をその日の生きる糧すら入手できないレベルの「絶対的貧困」と、我が国の、福祉制度があるにも関わらず低所得から抜けられない「相対的貧困」の二つにカテゴライズし、なぜそれぞれの「貧困」状態になるのか、住居、路上生活、教育、労働、結婚、犯罪、食事、病と死、の項目で紹介しています。
貧困というのがどういう状態なのか、平易な言葉や表現と、著者が直接間接に取材した事例とで提示されていた点は、読みやすくてよかったと思います。
ただ、敢えて申し上げるなら、取り上げられている様々なことと、そこから著者が導き出す結論が、なんともあっさり、安直に片付けられている気がして、もっといろんな背景や事情があるはずなのに、そこに触れずに決めつけていいの?と、考察が物足りない気がしたのが正直なところ。
途中で読み止めるのもなんだかなぁと、低下するモチベーションをなんとか維持し、頑張って読了したからには、これを足がかりに、も少しきちんと思考を深めてくれる良書を探したい、と思いました。
とっかかりの一つとして、まぁよかったのかな。