憲法問題 (PHP新書 874)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569813318

作品紹介・あらすじ

自民党の憲法草案には96条や9条よりも根本的な問題を孕む改変がある。日本が立憲主義国でなくなる可能性を指摘、憲法の本質を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 憲法改正においては、立憲主義の立場を踏まえなければならない。すなわち憲法とは国民ではなく国家権力を縛るものであるから、国民への遵守条項は立憲主義に反する。近年の自民党による憲法改正案は、この立憲主義から大きく逸脱するため、筆者はそのような改正案を厳しく批判している。

    護憲派or改憲派の分け方はナンセンスで(この意味では筆者は改憲派になる)立憲主義に基づいた上で、憲法をどのように改善していくのか、維持していくのかを焦点にするべき。

    quote:
    憲法は私たち自身を幸せにするための道具です。ただ道具をうまく使いこなすためには、利用者である私たちが知識を持ち、技術を磨かなければなりません。憲法でいえば、その役割や目的を理解すること。それがあってはじめて私たちはすばらしい憲法を活かすことができます。

  • 護憲派と噂される著者が、2012年に自民党が発表した「日本国憲法改正草案」について批判的に分析した一冊です。読みやすく丁寧な文章で書かれており、改憲案の危険性や問題点が分かりやすくなっています。司法試験対策としての伊藤塾が人気な理由も分かった気がします。しかし、同時に少々行きすぎた内容、あるいは不足、更には誤解を招く表現も混じり、少し残念にも思いました。
    34ページに、「十七条の憲法は、六〇四年に聖徳太子(厩戸皇子)が制定したといわれる憲法です。(原文ママ)」とありますが、十七条の憲法は、名に「憲法」とは入っているものの、「近代憲法」ではありません。本書では、十七条の憲法に立憲主義的な考え方がみられると紹介していましたが、誤解を招きかねないので、表現を改めた方が良いかと思いました。また、この部分含め、所々に保守派への気遣いのような部分が見受けられます。著者自身、護憲派という世間のラベリングにより、バイアスのかかった読まれ方をされる恐れから表現に気を遣った結果かも知れませんが、個人的にはこの様な特定のイデオロギーに配慮した書き方には疑問でした。思想の土俵で論を闘わせていると著者自身認めている様なものです。そんな事せずに堂々と、但し書無しで論理で挑むべきと感じました。
    憲法改正における国民投票の法整備の問題点や、レファレンダムとプレビシットの違いについては、分かりやすく書かれていました。また、章を追うごとに、いかに自民党改憲案が、「国民の義務を増やす」改憲案であるかが論じられており、注意せねばと改めて思いました。ただ、細かいところですが、58ページに述べられている「平和的生存権」については、今の憲法学ではあまり説得力がありませんので留意すべきと感じました。また、改憲案において生存権規定の条文より先に家族の規定が書かれている事について著者は、自助・共助の原則を強調するためであるかの様な勘繰りをしてしまうという様に書いていますが、これは個人的には言い過ぎだと感じました。自民党がその様な思想を持っているという点についてはそうだと思いますが。
    押し付け憲法論について否定的に書かれているところですが、こちらについては、日本国憲法が押し付けならば大日本帝国憲法も押し付けであろうという視点も入れると良いかと思いました。また、憲法無効論についても、触れてほしかったと感じました。
    緊急事態については、現憲法下でどの様な対処が可能であるか、もう少し具体的に詳しく記述して欲しいと思いましたが、文量的に難しいですかね。改憲案の危険性ばかりが強調されて、現実的な議論にイマイチ誘引できていない印象です。
    最終章の立憲主義の歴史については、深い内容には入れずとも、参考になるのではないでしょうか。簡単に立憲主義をおさらいできます。
    最後に、全体を通してですが、所々に海外の憲法との比較がなされていますが、どうも取り上げられている国に偏りがあり、かつバラバラでしたので、これだけでは説得力に欠けるかなと感じました。勉強になる部分もありましたが。以上、長々と書いてきましたが、自民党改憲案の問題点をざっと調べるにはちょうど良い本だと思います。著者に抵抗のある方でも、一度読んでみても良いのではないでしょうか。もしかしたら、著者への見方が変わるかも知れません。そして何よりもやはり、説明が丁寧で分かりやすいです。その点は見習いたいと思いました。

  • 憲法を守るべきなのは国民ではなく国家
    憲法の本質は、人権を保障するために国家権力を縛るルール
    しかし改憲案は、全て国民はこの憲法を尊重しなければならない
    立憲主義は十七条の憲法にみてとれる
    公共の福祉が、公益及び公の秩序に変わっている
    自衛隊は実力行使であり武力行使ではない、だから憲法にも違反していない
    日本国憲法はマッカーサーの押し付けではない

  • 伊藤先生の講演も聞いたが、さすがに講師?をしているだけあって、話し方がとてもうまい。難解な事象もスッと頭に入ってくる。この前に読んだ「中高生のための…」と大筋はほとんど同じだと思うので、読むならどちらか一方で良いかと。(★×3+半分)

  • 多くの人に手に取ってほしい好著。
    自民党の改憲案を以って直ちに軍国主義復活とは思わないが、そのまま受け入れるにはやはり問題が多過ぎることが分かった。
    著者も言うように、立憲主義の原則に立ち戻り、時計の針を巻き戻すような事はやめてもらいたい。

  • 改憲論が出ているが、本書を読み、改憲に疑問を感じました。自分が、憲法や国政について、本当に貧弱な知識しかないことを知り、そして知らないまま物事が決められていく怖さを思いました。やはり、正しい知識、それを元に判断し意見を持つことが大事だと、改めて思いました。

  • 憲法は国民ではなく国家を縛るためのルール

    直接民主制の危うさ=レファレンダムとは提案内容について賛否を問うもの。プレビシットとは実質的に信任投票になっているもの。直接民主制にはプレビシットの危険性が絶えずつきまとう。

  • 法制実務の場で、いつも問題になることなのだが、ある理念や指針が「自明の理」である場合に、「わかりきっているから、あえて条文化する必要はない」という立場と、「念のため条文化しておいても問題はない」という主張が対立して、決め手を欠いたまま議論が堂々巡りを繰り返すことがある。うん、よくある。
    本書にも、このような議論が何度も出てくるわけだが、そういった場合の解決策のヒントとなりそうなことが、本書の冒頭に説かれている。
    つまり、「この法律(ここでは憲法)は何のために作られるのか、この法律の本質は何か」という議論に立ち返って、これをメルクマールとして規定の必要性を判断すべきということだ。
    実務の現場では、とかく細かい論点の整理に追われがちであるが、「木を見て森を見ず」の状態となってはいないか。自らへの戒めとしたい。

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著者プロフィール

弁護士

「2017年 『護憲派による「新九条」論争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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