オッペンハイマー 上 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇

  • PHP研究所
3.67
  • (6)
  • (3)
  • (11)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 101
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569692920

作品紹介・あらすじ

一人の天才物理学者の生涯から見えてくるアメリカという国家の光と影。ピュリッツァー賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 色んな意味で話題沸騰中の映画『オッペンハイマー』(日本未公開)の同名原作。
    先月は『ある晴れた夏の朝』を通して、アメリカの原爆肯定派と彼らの原爆観について触れた。今度は肯定派が今よりもずっとメジャーだった時代に遡り、開発者の足取りや思考を(上)(下)別で探っていく。
    無論自分は断固否定派だが、本作の何を米側は評価しているのかを単純に知りたかった。

    本書の原題は”American Prometheus”。
    ゼウスから火を盗み人類に与えた神 プロメテウスを「人類に原子の火を与えた」オッペンハイマーにそのまま当てはめている。おぞましい例えだし、捉え方次第では絶賛にも皮肉にも聞こえる。

    (上)で扱うのは生い立ちから1945年7月16日のトリニティ実験まで。
    1970年代から100人近い周辺人物にインタビューをとっており、調査資料は公文書やFBIの記録にまで及ぶ。理系アカデミックな話はさっぱり、邦訳はどこかぎこちないし、人間関係を把握するのにも難儀した。(情報過多なのは評伝あるあるだと覚悟していたが、理解しようと頑張るほど消費カロリーが凄まじい…汗)
    それでも彼の歩みや、その中でどのように人格形成されていったのかは何とかなぞれたと思う。

    「今や世界が彼を招いていた」

    1904年、オッペンハイマーはドイツからのユダヤ系移民である父とドイツ系アメリカ人の母との間に生を受ける。
    運動や人付き合いが大の苦手、内に籠りひたすら趣味に没頭する少年時代だったという。両親(特に父親)は息子が何かに興味を示せば必要なものを惜しみなく買い与えた。(成人してからもプレゼントや資金援助は絶えず)
    科学が得意で、成績は何度も飛び級するほどに優秀。学業面では年々頭角を表していくが、プライベートでは何かと情緒不安定で危なっかしい印象。一方で量子力学研究等関心事には物凄い熱量を発し、「激しい神経性」という名のエネルギーを内に抱えた核爆弾のようだった。

    彼がキャラ変し出したのは青年期になる。
    物理学界で中心的存在だったヨーロッパに留学し、共通の関心を持つ学友に恵まれた。無関心だった他人に意味を見出し、教授職に就いてからは学生やのちの仕事仲間から「オッピー」と慕われる。
    人への関心はやがて、彼にしかできないことで人間社会に貢献したいという熱意を生み出すこととなる。(本文中でも何度か強調されていた)アメリカへの「愛国心」が熱意の核として大きく働いていたんじゃないかな。

    「まだ大きくなっていないたくさんの子供たちの将来があるのは、これのおかげだろう」

    開発の裏側についても知らないことが少なからずあった。
    ドイツは2年先行して核実験プロジェクトを始めていた。アメリカが原爆の開発を急いだのはナチに先を越されないためだった。米側のプロジェクトに参加した科学者の多くはドイツからの亡命者だった。イギリスの科学者チームも開発に噛んでいた。etc…
    オッペンハイマーも日本の情勢や日本降伏に向けた水面下の動きを知らずにいたという。(下)で彼への見方も変わってくると思うけど、何が評価されているのかはここでは掴めなかった。

  • オッペンハイマーの人となり、また彼が如何に常人とかけ離れた天才であり同時に人間的に大変魅力的で周囲に影響を及ぼす人物であったかと言う事が良くわかる。
    また当時アメリカにおいて左派と言うのもだいぶ警戒されてたんだな。その辺がレッドパージに繋がるのでしょうけど。
    内容は大変興味深いのですが、人名がファーストネームだったりファミリーネームだったり、登場人物や専門用語が比較的多く、全く予備知識のない自分には大変読みにくい本であった。
    前半はトリニティ実験までで、終盤に至るまで日本の事は全く出てこない。どこかの段階で原爆投下は避けられたのではないかと言う思いは拭えないのだが、歴史的出来事と言うのは起こるべくして起こるのだと言う事も同時に感じた。

  • オッペンハイマーの伝記。上巻はトリニティの成功までを描く。

    オッペンハイマーの果たした科学的な役割や解説は少なく、
    またマンハッタン計画における科学的な進捗についても
    「原子爆弾の誕生」の詳細な記載には劣り、
    文書全体として人間関係の描写に重きを置いている。

    しかしオッペンハイマーを通して戦時アメリカの左派の活動や
    左派に対する軍部の姿勢を細かに説明しており
    その点では非常に興味をそそる。
    下巻ではさらにマッカーシーによる赤狩りの記載もあるようで、
    非常に楽しみだ。

  • アメリカの共産主義への病的に神経質な怯えが、言葉通り、世紀の茶番を現実のものにしてしまった。その模様が克明に描かれている。

    そしてその茶番劇が現在の核兵器が支配する世界に明確に繋がってしまった。

    日本人は核兵器の残酷さを他のどの国家よりも知っている。広島・長崎の悲惨さを見聞きする機会は、当たり前だがどこの国家より多い。だから原爆が戦争を終わらすための正義の鉄槌ではなかったことを知っている。

    他方、どういう理由で原爆が製造され、実際に日本に投下されるまでの過程を、原爆の悲惨さほど、知っているわけではない。

    原爆投下の理由のひとつとして挙げられる、科学者が発見してしまった新しい力を使わずにはいらなかったという考え方は、全てではないが誤りが多い。正確と思われる歴史的背景は、やはり、知っておくべきだ。

    本書はシリアスで込み入った話の連続だが、他方、ニースル=ボーアが核兵器の国際管理を求めてロスアラモスを訪問し、オッペンハイマーと会談する場面やオッペンハイマーがアインシュタインの誕生日に、クラシックの聴けるラジオをプレゼントする場面など、伝説の物理学者達の体温が伝わってくる交流の描写に触れると、何とも言えない優しい気分になれた。

  • 下巻もあります。上下あわせて1000頁くらいになる大作。しかも取材には25年(!)もかけているというだけあって、そのリアリティは半端じゃないです。
    本作は05年に出版された原版の邦訳版ですが、正直、訳者の力量不足なのか、おかしな凝り方をしたせいなのか、日本語としては読みにくい箇所がちょくちょく見受けられます。英語力があれば原版を読めば、ピューリッツァ賞受賞作、という本作の実力がわかるのでしょうけど・・・
    内容的には、それこそ「ゆりかごから墓場まで」の記録がキチンと残された人物は珍しいのではないか?と思うくらい、膨大な記録が残されている人、それがオッペンハイマーです。彼の生涯を辿ることにより、彼自身の歴史はもちろん、アメリカという超大国の歴史もにじみ出てきます。
    奇しくも、ドイツの天才物理学者ウェルナー・ハイゼンベルク同様、科学者が国家(政治)に翻弄された典型的な例ではないかと思いました。その状況はおそらく現在もいささかも変わっていないのではないでしょうか?とすれば、オッペンハイマーが自分の科学者としての生命を賭した行動・言動が活かされていないわけで、それは人がいかに愚かな生き物であるか、という証明にもなりそうです。

  • 原爆日本に落とすかどうか、おもろ

  • 前半は、彼の天才ぶりを示すエピソードが次々と。
    生い立ちを知ると、その後の彼の行動も多少理解できるような気がする。

全10件中 1 - 10件を表示

カイ・バードの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×