- Amazon.co.jp ・本 (556ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569678832
作品紹介・あらすじ
称徳帝が没し光仁天皇の御世になって8年、物語の舞台は陸奥に移る。平城の都で働く道嶋嶋足に対し、伊治鮮麻呂は陸奥の地で、蝦夷でありながら国府多賀城の役人として蝦夷の乱の鎮圧にあたっていた。祖国を戦場にしないため、朝廷と蝦夷の共存を目指し腐心してきた鮮麻呂だったが、8世紀半ばに発見された黄金を狙う陸奥守の横暴、背後で牙を剥く朝廷側の無理難題に我慢は限界に達していた。▼さらに、蝦夷の地である奥六郡に城を築く計画が着々と進み、また蝦夷を人と思わない帝の勅に、鮮麻呂はもはや戦を防ぐ手立てはないと決起を覚悟する。後事を託すのは胆沢の首長・阿久斗とその息子・阿弖流為(アテルイ)。狙うは陸奥守の首ひとつ。ついにその時はやって来た。▼北辺の部族の誇りをかけた闘いが、ここに幕を下ろす。「風の陣」シリーズ、感動の最終巻。『火怨』『炎立つ』へと連なる著者渾身の大河歴史ロマン、堂々完結! 解説はマンガ家の里中満智子氏。
感想・レビュー・書評
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鮮やかに描かれる「人として扱われない苦しみ、忌まわしさ」の受け手の感覚。
「蝦夷は人ではないこと」が普通になっている天皇を含めた大和の感覚に随分温度感があるように感じます。
ずっと堪えてきた蝦夷がついに決起。
やっぱりそうこなくっちゃ、と思いつつ、戦の時代に雪崩れ込む予感にゾクゾクします。
個人的には、前半主人公の嶋足が全く出てこないで終わったのが少し残念。。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「風の陣」シリーズ、5作目。完結編。
この巻だけ、主人公は鮮麻呂。それまで主人公がずっと嶋足だっただけに、嶋足に対して悪態さえつく鮮麻呂に前半は正直、感情移入し辛かった。しかしながら、いざ鮮麻呂が決起を決断したところからはグイグイと物語に入り込み、最後は結局泣いてしまった。「火怨」のストーリーともオーバーラップし、次代に繋ぐ重要な場面を読むことが出来て、感嘆たる思いに駆られた。この後の東北三部作に出てくるアテルイたちといい、蝦夷の男たちの、勝負に勝って死ぬ姿は皆、物凄く格好イイ。
惜しむらくは、最後だけでいいから嶋足が登場して欲しかったこと。嶋足側から見た鮮麻呂の決起を描いて欲しかった。確か「火怨」でもちゃんと描かれていなかったように思う。それが本書で読めると思っていただけに残念だった。 -
高橋克彦先生の歴史大河ロマン、『火怨』『炎立つ』につらなる蝦夷四部作の一作、『風の陣』がPHP文芸文庫で完結しました。以下は、高橋先生が本書について語られたものです(PHP研究所のWebサイトより」転載)。
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25年ほど前、あるテレビ番組で、伊治呰麻呂(これはるのあざまろ)の存在を知った。呰麻呂が、陸奥を支配する朝廷の役人のトップである按察使を殺した蝦夷であることを知り、衝撃を受けた。
ほとんどの日本人は呰麻呂が朝廷に叛旗を翻した逆賊だと思っているだろう。しかし東北出身の私は、その見方に憤りを感じ、呰麻呂に、火を熾す風のようなイメージを抱いた。東北の歴史が呰麻呂からスタートしているような気がして小説にしたいと思った。
「呰麻呂」ではイメージが悪いので、「鮮麻呂」という字をあてた。物語の前半をリードする人物を、官人として都で出世した蝦夷・丸子嶋足にしたのは、鮮麻呂をあえて脇に置いて都を書くことで、逆に鮮麻呂がいる陸奥を浮かび上がらせようとしたのである。
執筆開始は1993年なので、脱稿するまで17年間、嶋足や鮮麻呂と向き合っていたことになる。「完」と記したときは感無量で、涙が出た。終わったという安堵感と同時に、鮮麻呂の台詞をもう書けない寂しさを味わった。
「風の陣」シリーズは、私が取り組んだ蝦夷四部作のうちの第一作。この後に阿弖流為が主人公の『火怨』が続く。鮮麻呂同様、古代東北に旋風を巻き起こした男の話である。
このシリーズには、時間をかけた分だけ思い入れが強い。嶋足と鮮麻呂は、私の小説家人生の大半を共に歩いてきた、かけがえのない友のような気がするのである。
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蝦夷たちの熱き闘いを壮大なスケールで描く渾身の作品。ぜひ、ご一読ください。 -
最終巻は伊治鮮麻呂が主役。4巻までが嶋足・天鈴の京視点の蝦夷だったため、少し残念と思っていたが、最後まで読んでそもそも4巻までが鮮麻呂の物語の御膳立てだったのだと思い構成に舌を巻いた。
本巻は陸奥三部作に劣らない「熱」があった。内外両方から敵と見做されながら耐え続けてきた鮮麻呂の保っていた糸が切れた瞬間(天皇の勅令で蝦夷を獣と呼んだ場面)が鮮明な印象に残った。鮮麻呂は嶋足も同じ気持ちだったのかと思い耽る場面があるが、私はレベルが違うと思う。嶋足は重用はされずとも自ら蝦夷に手を下すことはなかったが、鮮麻呂は忠誠心を示すために仲間を殺さなければならなかった。最後に自死を選んだのはその贖罪もあるのだろうと思う。
鮮麻呂は風、阿弖流爲は炎。風が炎の勢いを強める。まさに言い当て妙。 -
風の陣最終刊。伊治鮮麻呂を中心に展開。蝦夷を狼とし、卑しい蝦夷を刈り取り滅ぼせ、との勅令についに、鮮麻呂は決起を決意する。
阿弖流為という次代のリーダーをみて、鮮麻呂は、
紀広純、道嶋大楯らの首をとり、蝦夷らを一つにするため、身を捨てる覚悟をする。
自分がかけた橋を阿弖流為らが渡っていくだろう。その先の大地は阿弖流為らが切り開く。たとえ、自分が見られなくても構わない。
素晴らしい、壮大な物語。 -
蝦夷の誇りを守るために生きる漢たちの話です。
命をどう使うのか?ということを考えさせられます。
この後、火怨に続きますが、この風の陣を読んでからが、絶対おすすめです。
火怨読んだばかりですが、もう一度読まずにはいられなくなりました。 -
各章のタイトルに必ず「風」の文字が入っており、タイトルが風の陣。読了して初めてその意味が分かりましたが、この結末を想定して構想していたとは流石です。
陸奥の未来のために自らの命を捧げる蝦夷の男たちの姿に、見果てぬ夢と知っているからこそ余計に心を打たれました。
この最終巻の清々しさに比べて、それまでの内裏での権謀術数三昧は何だったのか。4巻も費やす必要があったのかは疑問です。更にずっと主人公だった嶋足が何故蝦夷の決起という肝心の場面に顔すら見せないのか。
以上のもやもや感により、読後感は爽やかであるものの、全体の完成度としては些か疑問が残るシリーズでした。
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奈良時代、陸奥の鮮麻呂は、蝦夷の誇りを懸けてついに決起を覚悟する。朝廷と蝦夷の戦乱を描く歴史大河ロマン最終巻。
シリーズ最終巻の主人公は、今までの嶋足から鮮麻呂に引き継がれ、舞台は陸奥に移り、蝦夷がどれだけ朝廷からさげすまれていたのかが、描かれています。
これまでの嶋足や天鈴の権謀術数も通じず、戦いを避けては通れなくなった鮮麻呂の苦悩がとてもよく伝わってきました。
戦うことで蝦夷の思いを若い世代に伝えていこうとする鮮麻呂の生き方は、一人の人間として価値あるものだと感じました。
自分が子供たちや次の世代にどんなことを伝えていくことができるのかそんなことも考えさせられました。 -
シリーズ最終巻。
これまでの4巻が道嶋嶋足を主人公としていたのに対し、本巻の主人公は伊治鮮麻呂だった。
これにはちょっと驚いた。
舞台も京ではなく東北のみ。
鮮麻呂が陸奥守を殺めて蝦夷に新たな時代をもたらすところで終わっている。
結局最後まで嶋足は主人公らしいところなく終わってしまって、いやこれでは、これまでの巻はなんだったのかなあと思ってしまった。
これはなんというかちょっとダメだと思う。
だって、まず読んでて愉しくないもの。
蝦夷が虐げられている苦しさは、それが狙いだとしても、それなら最後に大きな解放がないといけないだろう。
確かに陸奥守を打ち倒すというハイライトはある。
でも、それは手放しの歓喜とはなっていない。
これではなあ。
それに、今までの主人公だった嶋足のその後を描かずに終わってしまったのも、もの足らない。
なぜ、嶋足がその後蝦夷の間で悪く言われるのかの経緯を明らかにせずに終わるとは、なんかこの物語を書いた意味が薄くなってしまった気がする。
そう言う意味では作者もこの物語の持って行き方を決めきれなかったのかもしれない。
そこが不満だ。
最後まで読んで満足できないのは、やっぱり残念に思う。 -
1立志篇 2大望篇 3天命篇 4風雲篇 5裂心篇
上記5巻からなる火怨の前篇となる時代の物語。
火怨の主人公であるアテルイの生まれる前から、青年期をを迎える749年から30年くらいの間の話である。
主人公は1~4までは道嶋嶋足で5で伊治鮮麻呂に移る。
嶋足と物部天鈴は京にて、蝦夷への不遇を避けるために
ありとあらゆる手段を用いて暗躍する。
1では橘奈良麻呂と藤原仲麿の権力争いに絡み、嶋足を出世させ発言力のある地位へ押し上げていく。
2では権力を握った仲麻呂をその座から落とすために活躍し、3で坊主の弓削道鏡を権力の座へつかす。
4でその道鏡を失墜させ、坂上田村麻呂の父、坂上苅田麻呂を国府多賀城の主とさせる為活躍。
5では一変、嶋足、天鈴の仲間である鮮麻呂を中心に、京ではなく蝦夷の暮らす東北が舞台となり、朝廷に蝦夷が挑んでいく先駆けとなる物語になる。
嶋足、天鈴が京で、朝廷と蝦夷の争いを防ごうと頑張るのだが、結局はそれは時間稼ぎでしかなく、どうしようもない流れに呑みこまれていく。
鮮麻呂はアテルイ達、次世代に全てを託し自分は風になる決断を下し去っていく。
出来れば、火怨を読む前にこちらを先に読みたかった気がする。
順序はどうであれ、完璧に面白く、中弛みもなく感動と、小説の面白さを堪能できた。