ウォ-タ-シップ・ダウンのウサギたち (上) (ファンタジー・クラシックス)
- 評論社 (2006年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
- / ISBN・EAN: 9784566015005
作品紹介・あらすじ
「すごく恐ろしいことだ!近づいてくる。ぐんぐんやって来る」。予知能力のあるファイバーの言葉を信じて、十一匹のウサギが旅に出た。いったいどこに平和な土地があるのか!?小さなウサギたちの大きな冒険…世界中をとりこにした名作が、今、改訳新版でよみがえる。
感想・レビュー・書評
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「ウサギ好きなブク友さんへ」
お勧めされてから何年経ったことやら。
さすがの名作で、400頁超を休む間もなく読み終えた。
危機察知能力のある仲間の予言によって、故郷・サンドルフォードを離れて旅立つ11名。
安住の地を求めて進む姿に、私までどきどきドキドキ。
不安や恐怖と闘っていくみんなの胸の鼓動が聞こえてきそうだった。
まるでドラクエのパーティよろしく、それぞれの優れた特性を生かし合い旅の中で絆が深まっていく。読みどころはそこだが、イソップのような寓話的なものはない。
ウサギさんの習性や身体能力も解説され、その生態を元にしているのが新鮮。
更に高い精神性を持ち、すぐれた知性と文化も併せ持っているのが非常に魅力的だ。
かれらの生きる世界のことわざや教訓、信仰の対象なども生き生きと語られる。
戦士の「ヘイズル」。その弟である「ファイバー」が危険を察知する能力を持つ。
勇者の「ビグウィグ」は群れのリーダー的存在。
「ブラックベリ」は賢者。危機にあっても知恵で潜り抜ける術を知っている。
話し上手な「ダンディライアン」は語り部としてしばしば皆を励まし慰める。彼は遊び人かな。その語りも、お話の中で登場する。
そして、一番小さくて臆病な「ピプキン」。
サンドルフォードでリーダー的存在だった「シルバー」。
話を牽引していくのは主にこの7名だが、みな大変なイケウサギさん。
死語かもしれないが、胸がすくような男気にあふれている。
仲間を見捨てず、時には身を捨てて助け、ゆきずりの野ネズミや怪我で動けないユリカモメまで力を合わせて助ける。
相次ぐ困難を乗り越え、ついにウォーター・シップ・ダウンまでたどり着くが、群れの存続のためには牝ウサギを連れてこなくてはならない。11名は全員牡なのだ。
ユリカモメが牝の棲息しそうな箇所を偵察してくれるがどうにも上手く事が運ばない。
さて、下巻ではどのように展開していくのか。
神宮輝夫さんの訳はとても読みやすく、児童小説の域を超えて訴えるものがある。
と言うより、大人にこそお勧めの書だ。
ウサギさんたちの話だということを忘れてしまうほどの臨場感にあふれ、どうする?どうなる?と先へ先へと読まずにいられない。
ありふれた表現だが「忘れていたものを思い出す」物語である。
イギリス生まれのリチャード・アダムズの処女作で、本書でカーネギー賞とガーディアン章をダブル受賞している。児童文学はやはり英国だわ。民話も昔話も、ついでに怪談話も。
ポール・ギャリコの「さすらいのジェニー」の中で主人公の男の子が、この本さえあれば何もいらないという場面があったのを思い出した。
読んでみるとそれがとても良くわかる。
子どもの時に読んだら、あまりの面白さにきっと眠れなかったろう。 -
未来を予言することができるウサギの言葉によって、村を離れ安住の地を求めて冒険に出た若いウサギたちの物語。
たった11匹、雄ばかりの群れは、予言された新しい住みかを目指して、今まで踏み出したことのない世界へと旅立ちます。
本書の魅力的なところは、単にウサギを擬人化したのではなく、ウサギの生態を下敷きにして描いているところ。
主役の動物目線で進む物語は『冒険者たち』(斉藤惇夫/著、岩波書店)を思い出させます。
ウサギの世界独特の風習や信仰などがあって、その世界観にわくわくさせられます。
太陽をフリス様と崇めたり、死ぬことを"走ることを止める"と表現したり。
ウサギの世界のことわざなどもいろいろ出てきて、本当にウサギたちがこんなやりとりをしているような気がしてきます。 -
2023年は卯年。という訳で先日、東京FMラジオ「山下達郎のサンデー•ソングブック」にて"ウサギに纏わる曲"の特集があった。そこでかかった一曲がアート•ガーファンクルのBright eyes。1980年公開のアニメーション映画「ウォーターシップダウンのウサギたち」のオープニング曲だ。この曲、アート•ガーファンクルのオリジナルアルバム"Fate for breakfast"に入っているのだが、映画でかかるものとはバージョンが違う。放送ではサントラバージョンがかかり、「これほしいんだよなぁ」と思いながら配信アプリを検索したら、…ある!
…いい時代になったと、つくづく思いましたよ。40年以上前の、しかも、あまり有名とは言えない外国アニメのサントラが手に入るなんて。
肝心の曲は、詞が素晴らしい。この物語の作品世界に合致した死生観が反映されている。それがあのアート•ガーファンクルのエンジェルボイスで歌われる浮遊感は、えもいわれぬ唯一無二の感覚になれてお薦めです。 -
中高生くらいで読んで、再読。
大人が読んでも非常におもしろい。
住処にしている草原が人間に開拓されることになったため、新天地を求めて旅立つうさぎたちの冒険物語。
物語のうさぎたちは先祖代々の習慣や風習や神話を持ち、言葉やふれあいでコミュニケーションを取り、一族は身分制度で統制されている。
うさぎ語は、敵の動物を「エリル」、時間の概念が自然と直結しているので月の出の後として「フ・インレ」、ショックを受けて自室茫然となることをわからない「サーン状態」、エンジンの付いた人間の車を「フルドド」、人間の毒ガスは「白い煙」、うさぎが死ぬことを「走るのを止める」などと表現する。
うさぎ神話によると、この世の創造神は太陽であるフリスで、伝説のうさぎの王はエル・アライラー(千の敵を持つ王)だ。この二人は知恵比べをしている。
エル・アライラーの忠臣ラブスカトル、エル・アライラーと勢力争いを行う虹の王子、死の運ぶインレの黒うさぎの話は、うさぎ一族の語り部たちにより語り継がれている。
そのような話を先祖代々語り部うさぎが語り継いでゆく。
物語はイギリスの田舎の野原に住んでいるうさぎたちの群れで始まる。
うさぎの群れは、一族の長のスリアラー(ナナカマドの頭領、という意味)で、その直下の強い上士うさぎたちがパトロールをしたり群れのうさぎたちを取りまとめ、まだ若いうさぎたちは人生を学び、巣穴を掘るのはこどものいるめすだった。
そんな野原の一族で若いヘイズル(ハシバミ)は、予知能力を持つ弟ファイバー(5番目以降に産まれた、という名前)の予言、「おそろしいことが近づいてくる!野原は血の海だ。ここを立ち去らなければいけない」という言葉を信じ…たわけではないのだが、弟を一人にしないために、他のうさぎたちに声をかけて野原を出ることにする。
最初に長のスリアラーに言ったが、いままで危機を乗り越えときには冷酷な決断もした彼は「はっきりしないことで群れのみんなを説得し当てのない放浪に出るなら、ここで守りを固めるべきだ」ということで警告を無視された。
ヘイズルとファイバーとともに平原を出たのは9匹のうさぎたち。
ビグヴィクは頭の毛が分厚いので「鬘・毛皮頭」を意味する人間語では「ピグヴィク」、うさぎ語では「スライリー」という名前を持つ。力が強いが直情的なところもある。
ダンディライオンは、足が強くて語り部。
ブラックベリは頭がよく、情報分析に優れ、今まで思いも寄らなかったアイデアを出し、決断を下す。
シルバーはビグヴィクの同僚の若く逞しい上士うさぎ。長のスリアラーの甥で灰色の毛並みを持つ。
バックソーンは、まだ若いうさぎだが将来上士入りを期待される力強いうさぎ。
ピプキン(草の梅雨の貯まるくぼみ。うさぎ語名では「フラオ・ルー」)は、幼く小さく弱々しいうさぎ。まだ自分が何をすべきかもわからないが、自分はヘイゼルのそばにいれば安全だと思い着いてきた。
ホークビットは体の重く頭の回転もそんなに良くはないヤツ、スピードウェルとエイコンはまだ若いうさぎで、彼らは群れにいても将来を見込めずヘイゼルについて行くことにした。
うさぎの一行は森を抜け川を渡り、初めて見るアナグマやカラスの目を逃れ、まったく未知の世界へと旅立った。
目的地はファイバーが夢見た小高い丘の上で安全な穴が掘れる場所、それは遥か遠くだ。
しばらく進むとあまりにも平和なうさぎの村に着いた。そこは人間たちがうさぎの敵を殺してくれてたまに餌も撒いてくれる。うさぎたちは太り戦いを忘れ、巣穴を広げたり道具を使ったりしている。彼らはヘイゼルたちの一行に、この村にずっといれば良いという。ヘイゼルは村の平穏さに喜びつつ、違和感を拭いきれない。
やがて恐るべき真相が見える。
この一体は人間がうさぎが住みやすくしてうさぎたちを太らせ、肉が欲しくなったら罠を仕掛けるといういわばうさぎ牧場だった。そこのうさぎたちは、敵もいない食料も豊富という安定と、いつ自分が罠で殺されるかわからない恐怖とのバランスを保つために独自の生活や歌を編み出していたのだ。
ヘイゼルたちの一行は危ういところを抜け出し、自分たちが住む場所を探しに村を逃げ出した。
この出来事は、成り行きで放浪うさぎの頭領となったヘイゼルの指導力、ファイバーの予知力、ブラックベリの知恵を確かなものとして一行に再認知され、直情的だったビグヴィクも考えることの大切さを思い知らしめ、目的地の見えない旅に疑問を持ち始めたうさぎたちの心を改めて一つにさせたのだった。
そして村からはストローベリーといううさぎが「一緒に連れて行ってくれ!」と仲間に加わった。
こうして一行はウォーターシップ・ダウンに着いた。
この丘の上こそが自分たちの住処に相応しい。彼らはうさぎ農場村で見た巣穴を参考に、初めてのオスうさぎによる初めての巣穴堀りを行った。
自分たちの生まれ故郷では巣穴はすでに先祖たちが掘っていたし、新たに作るのは子育てが必要なメスうさぎだった。だが自分たちは未知の世界に出て自分たちで新たなことを始めるのだ。
そんなある晩、ヘイゼルたちのいた草原から命からがら逃げ出した上士うさぎで実直なホーリーと、冗談ばっかり言っているブルーベルが、ヘイゼルたちを追ってくる。
ホーリーの話は恐ろしいものだった。ヘイゼルたちが元いた草原は人間により開墾され、うさぎたちは巣穴に毒を入れられみんなが死んだ。なんとか逃げ出した数匹のうち、やっとヘイゼルたちに追いついたのがこの二匹だけだったのだ。
こうしてうさぎたちは14匹となった。
ウォーターシップ・ダウンで暮らし始めたヘイゼルは鷹に狙われたネズミ、そして怪我をしたユリカモメのキハール(波の音を名前にした)を助ける。
多種との協力は珍しいのだが、ヘイゼルには初めての土地なのだから違う特技を持つ生物と協力体制を作りたいという思惑があった。
そしてヘイゼルが一番心配していたのは、この地で群れを作るには、子供を産んでくれるメスが不可欠だということだった。
空を飛べるキハールの協力で、近隣の農場に籠に入れられたうさぎが、そしてうさぎの足で3日ほどの行程の草原にうさぎの群れがいる情報を得た。
そこで草原のうさぎの群れに、「余っているメスがいたらうちの群れにいただきたい」と使いを出すことにした。(作者から、「人間の男女とうさぎの雄雌の感情は違うのだから、ヘイゼルたちがメスを子供を生むものとしか考えていなくてもしかたないことなんですよ」と一言お断りがありました)
使いに出たのはホリーたち4匹のうさぎたち。
その留守中に、自分も何かをしたくなったヘイゼルは、数匹の仲間を連れて農場のうさぎを脱走させて群れにつれてこようとする。
ヘイゼルの危険を予言するファイバーの言葉を聞かずにでかけたヘイゼルたちは、農場からオスメス三匹のうさぎを連れ出した。しかしヘイゼルは農場主に鉄砲で撃たれて怪我をする。
遠征していたホリーたちは怪我をして戻ってきた。
草原にいるのは、ウーンドウォート将軍が群れのうさぎたちを完全に支配するエフラファ一族だった。
めすは余っていたが、とても交渉のできる相手ではなかった。
ウーンドウォート将軍は厳しい統制を引き、脱走しようとするうさぎには制裁を加え、群れうさぎたちはただ命令に従い罰を免れることにいっぱいいっぱいで自分では物事を考えられなくなっていた。
怪我から癒えたヘイゼルは、今度はファイバーの明るい見立てもあり、改めてエフラファ一族のめすを連れ出す計画を立てる。
下巻に続く。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4566015017 -
数十年ぶりに再読。とはいっても、私が最初に読んだのは1975年の翻訳。今回は新装版で活字も訳文もずいぶん読みやすくなっていた。
ファイバーの不吉な予言を信じて命がけで村を脱出したヘイズルたち。新天地を求める旅の途中、立派な毛並みのうさぎたちと出会い、彼らの村に招かれるが・・・。
うさぎたちの旅立ちと苦難の旅、そして求めていた新天地に新しい巣穴を作るまでの前編、若きリーダー、ヘイズルの成長を眩しく感じながら読み進むことができた。誇り高き戦士のビグウィグ、天性の語り部ダンディライアンなど、どのうさぎたちも魅力的でいとおしい。新しい巣穴「ハチの巣」には、どうしても牝うさぎが必要。偶然助けたユリカモメのキハールの協力を得ながら、ヘイズルは無謀ともいえる作戦に出る。
10代のうちに出会っておいて本当に良かったと思える不朽の名作。 -
1972年に発表され、イギリスの児童文学賞(カーネギ-賞とガ-ディアン賞)を同時受賞した《読み聞かせの名作》。予知能力をもつウサギ(ファイバ-)の言葉を信じて、棲家を捨て旅に出た11匹のウサギたちの物語です。ウサギ社会が擬人化されており、ウサギ語(ラパイン)でコミニケ-ションしながら、新天地を求める旅路が描かれていきます。彼らの最大の敵(エリル)は、シロイタチと鉄砲撃ちの人間ですが、傷ついたカモメ(キリ-ル)を助けたり、繁殖のため飼育ウサギを解放し牝ウサギを仲間にしたりと、生存のための苦闘の旅が続きます
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リーダー、預言者、戦士に軍師、詩人に道化に元・敵将。わかりやすいロールを与えられたキャラクターたち。そこに『ウサギ』という属性が付加されて、これはもうとっても素敵なファンタジーだ。「ニ=フリス」とか「シルフレイ」なんかの独自の用語が出てくるのも個人的には超高ポイントだったりするし、エル=アライラーの神話もかっこいい。異文化との衝突、仲間内での力関係や信頼関係、異種族との友情、謀略と暴力。これでもかって密度のストーリー展開に、毎章わくわくさせられた。いや、素敵だ。
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私が読んだのは1975年度版の方なのですが、ブクログさんが「そっちは画像がないよ!」って言うのでこちらにレビュー。
(ちなみに1975年度の方は、リアルうさぎのアップが表紙になってます)
穏やかで安定した生活を送っていたうさぎ一族
しかしチビですこし変わり者のファイバーが、間近に迫る危険を予感し、若衆組と呼ばれる一年児のうさぎたちはそれを長うさぎに申告する。
その申告を真面目に受け取ってもらえなかったヘイズル以下の若いうさぎたちは、自分たちだけでも新しい土地を探しに旅立つことに。
そこに待ち受ける苦難・苦難・苦難。
しかし「それを乗り越えた先に、待っているものが必ずある」と固く信じるうさぎたち。
彼らの旅路の行く末は・・・!
いやぁ、うさぎって、かわいいだけじゃないのね。
みんな必死に生きてるのだなぁ(しみじみ)
ヘイズルやブラックベリ、ビグウィグなどのうさぎそれぞれの性格分けがはっきりされているので、読んでて楽しいし、感情移入もしちゃいます。
上士(アウスラ)制度や油断しなければそんなに敵にやられないことや(猫と闘って勝っちゃうのよー)巣穴についてのあれこれや。
野うさぎについての生態も面白く学べるので、子供にも読ませたいなーと思いました。
いや、大人が読んでも楽しいのよ? -
懐かしくなって読んでみた。実に素敵で現実的な本。ブラックベリが好き。
これはすずめさんにお勧めされたものです。
下巻のレビューでコメントした際[この夏ぜひとも]と言われたのに時間ばかり過ぎました...
これはすずめさんにお勧めされたものです。
下巻のレビューでコメントした際[この夏ぜひとも]と言われたのに時間ばかり過ぎました。
さらりと感想を載せられる方で、お勧めはほとんどされないので印象に残っています。
先日すずめさんのお名前をタイムラインで見て、急激に「読まねば!」と思いまして。
ああ、ピプキンは下巻でたくましくなりましたよ!
私もアニメ版が見たいです♪
これはとても懐かしい本です。もう自宅にも残っていないので、はるか昔に読んだ記憶がよみがえりました。なぜか ”ヘイズル...
これはとても懐かしい本です。もう自宅にも残っていないので、はるか昔に読んだ記憶がよみがえりました。なぜか ”ヘイズル・ラー”の言葉が記憶にあるのですが。あと、後ろ足で地面をタンタンとたたくのは、仲間への合図でしたっけ?
とても嬉しいです♪
しかし、元の本が手元になくともそんなに良く覚えてらして素晴らしいです。
...
とても嬉しいです♪
しかし、元の本が手元になくともそんなに良く覚えてらして素晴らしいです。
表紙が地味なせいか、今一つ読まれなくて残念な本なんですよね。
こんなに、こんなに面白いのに。
8minaさんとの距離は、モニターを通している限り殆ど感じません(*'▽')
コロナ禍は一向に衰えを見せず、日本は1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)に緊急宣言が出されたばかりです。
そちらはいかがでしょうか。
どうぞ十分に気をつけてお過ごしください・