- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784562053834
作品紹介・あらすじ
「好き」「おいしい」を子供はいかに判断するのか? 困った食習慣は変えられない? 味覚の最新研究を平易に紹介しつつ、3人の子を育てた母としてわかった「食べる技術」「食べさせる知恵」の数々。日本食にも1章を割く。
感想・レビュー・書評
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食べ物の“好き嫌い”はどのように発現するのか。アンドレ・シモン賞特別賞やフードジャーナリスト・オブ・ザ・イヤーを受賞している著者が、人類の食習慣を探求している一冊。人類の食のシステム全体を見直すべき時期について考えさせられます。装丁デザインのコンセプトも参考になりました。
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配置場所:摂枚普通図書
請求記号:498.5||W
資料ID:95170524 -
人はこうして「食べる」を学ぶ ビー・ウィルソン著 好き嫌い 習慣は変えられる
2017/5/20付日本経済新聞 朝刊
食べることは生きるために必須の行為であるにも関わらず、食と良好な関係を築くことは難しい。世間にはダイエットや健康食の情報があふれているが、なかなか身につけられない。子供の食育にも頭を悩ませられる。本書は、食の悩みを抱える人たちに明るい指針を与えてくれる一冊だ。
意外なことに、研究者たちの間で「食習慣は学習の結果」という基本部分は共有しているという。食に関する遺伝子は存在するが、遺伝よりも環境が食習慣を形作るのに影響するとのことだ。例えば、特定の苦味の感じやすさには遺伝子が関わっているが、この遺伝子によって子供も大人も好き嫌いに差が出るわけではない。
なぜだろうか。一つには「単純接触効果」が関係する。よく知っていることが好意のきっかけになる効果だ。食べる経験が多いほど、その食物を好きになる傾向がある。つまり、学習の結果のほうが、遺伝よりも食習慣に影響しやすい。
食に関する数々の思い込みにも気づかされる。肉料理を男性に、サラダや甘い物を女性に結びつけるジェンダーによる固定観念は、英国だけでなく、フランス、そして日本でも認められる。性別に応じた食事を求める社会的プレッシャーは、個人の嗜好にも影響を及ぼすという研究結果もある。背景には、女性に対する痩せた体形へのプレッシャーがあり、これは摂食障害などの問題にも通じる。
日本は、先進国の中でも肥満率が極めて低く、野菜や魚中心の理想的な食生活をする国として挙げられている。思わず、ここに登場する健康的な良い食習慣を持っているだろうか、と反省してしまうが、心配することはない。日本が今の食生活をするようになったのは第2次大戦後であり、それまで段階的に変化していったという。日本が健康的な食習慣を身につけることができたように、個人の食習慣も変えることができる。
食習慣は学ぶことで変えられる、というのが本書に流れるメッセージだ。子供の食育だけでなく、大人にも役立つであろう。この考え方は摂食障害治療の現場でも使われており、一定の効果を上げている。多彩な話題を通じて示されるヒントは、食との関係をより親密にしてくれるはずだ。
原題=FIRST BITE
(堤理華訳、原書房・2800円)
▼著者は英国のフードジャーナリスト、歴史学博士。著書に『キッチンの歴史』など。
《評》サイエンスライター
内田 麻理香