日本兵を殺した父: ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち

  • 原書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562049257

作品紹介・あらすじ

第二次大戦時に米国軍海兵隊員だった父は、死の間際に「自分は沖縄戦に加わり、日本兵を殺した」と告白した。<br>作者は父と同じ部隊にいた元兵士たちを訪ねてインタビューし、沖縄へ飛び、戦争の凄惨な実像に迫っていく。

感想・レビュー・書評

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  • 衝撃的なのはタイトルだけではない。

    著者の父、スティーヴ・マハリッジは太平洋戦争で海兵隊に従軍し、グアムと沖縄で激戦を戦いました。
    戦後、復員して家族を設けますが、日常生活においても突如激しい怒りが爆発することがしばしばあったことを著者は振り返ります。
    戦争から半世紀以上が経ち、父の死を契機にして、著者は父がずっと仕事場に飾っていた戦友の写真を手掛かりに、当時同じ中隊に所属していた嘗ての兵士たちを探してコンタクトを取ることにより、沖縄で何が起こったのか、写真に映った戦友がどのように死んだのか、激烈な真相に迫っていくのです。

    12名の元海兵隊員へのインタビューを綴った章こそが本著のクライマックス。
    読んでいると、何だか重いものが胃のあたりに渦巻いてくる気分になります。
    20歳そこそこで生き地獄に身を置き、その場で生命を落としてもなんら不思議のない体験をしながら、その後60年以上も生きながらえた彼らの口から出てくる体験談のなんと重いこと。

    そしてまた驚くのは彼らが語る描写の精緻さ。
    半世紀以上前の出来事をここまで生々しく語ることができるのかと驚かされます。
    もちろん現在においてその信憑性を詳らかに検証する術はないのですが、戦後全く交流の無かった複数の人物が同じ内容を語り、また著者がその後沖縄を訪れて変わり果てた風景の中に幾つかの遺構を見つけることでその確かさが確認されるのです。
    彼らが被った身体と心の傷の深さがどれだけのものだったのか思い知らされます。
    そして彼らは例外なくその後遺症に一生付きまとわれることになりました。著者の父親がそうだったように。

    沖縄戦というのは人類が歴史上経験した殺し合いの中で最も苛烈なものの一つなのかもしれません。
    兵器や武器のレベルという点でも、夥しい数の市民が巻き込まれたという点でも。
    彼ら海兵隊員、また日本兵にしたって、職業軍人というよりも殆ど一般市民に近い存在だったわけで。

    これを読んで、やっぱり戦争なんて絶対やってはいけないものだなと改めて思うと同時に、限界を超えた状況において露わになる、人間という生き物が本来的に有している残酷さや生の儚さに思いを至らさざるを得なくなります。

  • 著者の父親は邦題の通り第2次世界大戦に海兵隊員として参戦し、日本兵と戦いました。
    この戦争において父親は戦争神経症、今で言うPTSDになり、戦後もその後遺症に苦しめられるだけでなく、著者を始めとする家族も父の影の部分の影響を強く受け続けました。
    この個人的経験が切っ掛けとなって執筆された本書は、これまで光が当てられる事が無かった(あるいは極端に少なかった)第2次世界大戦の復員兵が受けた心の傷、つまり脳の傷とその影響に焦点を当てており、平和しか知らない私たちに最前線の実態について教えてくれます。
    本書は4部構成となっており、第1部では著者の父親の思い出、第2部は第2次世界大戦の太平洋の戦況をアメリカ側から解説しており、第3部では父と同じ部隊にいた12人の人々へのインタビューが記載されています。
    そして最後の第4部では太平洋における日米の最大の激戦地となった沖縄への訪問記が記されています。
    なお、訳者の後書きによれば、沖縄訪問の様子は2011年6月にNHKスペシャル「昔 父は日本人を殺した~ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦~」として放送されたとの事で、ご存知の方もおられるかと思います。

    内容は率直なものとなっており、戦争がどの様なものであるかについて知りたければ、本書は最善の中の一冊といえるでしょう。
    ここで私がその内容について説明するよりも、一部抜粋したものを列記した方がより理解が深まると思いますので、以下に一部要約を抜粋します。

    ・著者の父親が著者に、『衛生兵(コーアマン)が「ジャップの腹を切り裂いて、やつらが何を食っているのかを調べるんだ」』と話した時、奇妙な笑顔を浮かべていた。
    ・同じ部隊の兵士ラフー、助からない戦友の自殺を手助けした後、奇妙な笑顔を浮かべる。
    これらの笑顔は自分の心を守るための笑顔。

    クレア・シスラー中佐の指示:「捕虜になるな、捕虜を取るな」

    クレア・シスラー中佐の「こいつを石打にしろ」との命令により、兵士たちは投石により捕虜殺害。
    この一件はうやむやにされ、シスラーは責任を問われず。

    陰部が切り取られた海兵隊員の死体の側にいた日本兵を捕え、その後シスラー中佐の許可のもと殺害。
    後に陰部は切り取られたのではなく、手りゅう弾で吹き飛ばされたものと判明。
    調査によりシスラーは降格。

    同じ部隊にいたケネディ(仮名)は沖縄で赤子も含めた民間人を殺害。
    また現地少女をレイプ。
    その責任を問われることを恐れ、自分で自分の足を撃って沖縄から負傷兵として脱出。
    なお、ケネディと一緒に罪を犯した米兵が自分の足を撃った時、失敗して骨を砕いてしまった。
    その際に上げた悲鳴により衛生兵が駆け付けたが、その時の衛生兵のセリフは「バカ野郎、ちゃんと撃て」だった。

    アメリカ兵を捕えた日本軍の陣地から一晩中悲鳴が聞こえた。
    捕えられたアメリカ兵は両手両足、両耳を切断され、目をえぐられ、内臓を引きずり出されていた。

    戦利品あさり:日本兵の遺体の歯を銃床でへし折り、金歯を採取。

    アメリカ兵:笑いながら若い女性の遺体の性器に棒を出し入れ。それにより女性の口から大量の蛆が這いだした。


    217ページより引用

    私は悟った。社会的、経済的に、そして知的レベルの面でも、自分はこの前線にいるべきなのだと。父や祖父もかつてそうだったように、この戦争が始まったときから、それが人生における自分の運命だった。
    自分たちは戦争で使い捨てにされる人間の列に過ぎない。
    大砲のえじき、餌になるべき人間なのだ。
    それは敵の側でも同じこと。
    負け犬同士が戦っているのだ。
    プロパガンダ映画にまんまとだまされて、戦争の栄光だとか、軍に必要とされていると信じこんだ。
    だけどいまは、身の丈以上の事だったと思っている。
    映画館では、鳥肌を立てながら戦争映画に興奮していた10代の自分はバカみたいだった。
    そういえば父は、あんなものはでっちあげだと言っていた。
    第一次世界大戦に従軍した父は戦争映画を見てもちっとも楽しくなさそうだった。
    いまは父の言葉が痛いほどわかる。
    でっちあげとは、戦争の現実を伝えていないと言う意味だった。



    本書によれば、前線で戦ったのは実際に動員された戦力の7,8%
    そして第2部によれば、元兵士たちの多くは高校中退や貧困、崩壊家庭の出身者です。
    そんな彼らが使い捨て部品として最前線に送り込まれました。
    インタビューの中に「けだもののように生きれば、けだものになるしかない」とありましたが、両軍ともに敵を人間として扱っていない例が報告されています。
    これは「捕虜になるな、捕虜を取るな」との命令に要約されており、少数の例外を除いては「自分が死ぬか、敵が死ぬか」の二つに一つしかなかったと言う事実を示しています。

    なお、著者の父親は戦後、必死に働き金儲けにまい進しました。
    その際、「金があれば銀行でもちゃんと扱ってくれる」との趣旨の発言を繰り返していたそうですが、これは戦場で消耗品として扱われた経験に根差した強い思いかも知れません。

    題名は忘れたが以前読んだ本によれば、旧ソ連のアフガン侵攻軍だったか、あるいはロシアのチェチェン派遣軍だったか、その前線兵士の多くは崩壊家庭出身者でした。

    前線に送られ使い捨てにされるのは社会的弱者。

    これは古今東西問わない、一種の法則めいた現実かも知れません。

    最近、特攻隊員が家族を守る為、家族への愛の為、自己を犠牲にしたと言うメッセージを持つ作品をちょくちょく見かけます。

    実際の特攻隊員の心情は計り知れません。
    しかし彼らはパイロット、選ばれた兵士。
    戦況悪化により、最後には使い捨てにされたものの、最初からその様な存在であった社会的弱者とは違います。

    現実の特攻隊員がどの様に生きたのか、その詳細は知りません。
    が、少なくとも捕虜の「両手両足、両耳を切断され、目をえぐられ、内臓を引きずり出す」様な真似をする状況には陥らなかったでしょう。

    また仮に特攻隊員が作品の通りの想いを抱きながら死んでいったとしても、彼らは今、社会から思い出されています。

    しかし、「けだもののように生きれば、けだものになるしかない」立場にいた人たちの存在は一体・・・

  • 父の死後、戦友と一緒に写っている写真を手ががりに、元ラブ中隊のメンバーあるいは遺族に接触を重ねる。
    父が行った戦争の実態を追い求める。
    2011.6にNHKスペシャル「昔 父は日本人を殺した」として放映。

  • 沖縄戦を戦った元米海兵隊員の父が戦後長きに渡って苦しめられた戦闘の実態を、同部隊にいた元海兵隊員とその家族、沖縄の人々による直接取材で紐解く。戦争責任の白黒を問う抽象論ではなく複数の生の体験、意見を拾いニュートラルに記している。取材後多くの元隊員が亡くなったことも合わせて記されているが現体験をした人々が減ってくるこれからの未来こそ生の戦争の情報が必要となるだろう。その意味で大変貴重な資料である。戦時下における、ある状況を明らかにする取材努力に敬服する。2011年に放送されたNHKスペシャル、また再放送しないかな。

  • 子供の頃、屋根裏で見つけた父の古いトランク。中には
    日本人のパスポートや日章旗が入っていた。そして、
    自宅に作った作業場のひと隅には父が戦友と共に写った
    写真が掲げられていた。

    父は第二次世界大戦の帰還兵だった。時折、怒りの発作
    を爆発させる父。その父は死の間際に沖縄戦で日本人を
    殺したと告白する。

    父の怒りの発作は戦争に由来するものではないのか。
    そして、父が亡くなるまで後悔していた戦友の死。
    著者は沖縄戦で父が何を体験したのかを追跡する
    旅に出る。

    2011年6月にNHKスペシャル「昔 父は日本人を殺し
    た」で追跡行の一部を観た。やっと作品として出版
    された。

    アメリカ海兵隊第六師団L中隊。通称ラブ中隊の生き残り
    の兵士たちを探すところから著者の旅は始まる。

    見つけ出した元兵士たちは、それぞれが人生の最晩年を
    迎えていた。これまで家族にも戦争体験を語ったことの
    なかった元兵士たちが、過酷であった沖縄戦での体験を
    語り、著者の父の体験を肉付けしていく。

    日本から、否、沖縄側からの視点でも地獄に等しい
    戦場は同じようにアメリカ側の視点から考えても過酷
    であり、地獄であった。

    日本人に恨みはない。彼らもやらなければやられる立場
    だったのがからと語る元兵士もいれば、今でも日本人が
    憎いと心情を吐露する元兵士もいる。

    そして、著者が訪ねた沖縄でもそれは同じだった。日本
    軍よりもアメリカ人に命を救われたと言う人もいれば、
    アメリカ人を憎み続ける人もいる。

    シュガーローフ・ヒルはそんな過酷な沖縄戦のなかでの
    戦場のひとつだが、あの戦場を体験した人たちは国の
    違いを問わずに心に、体に、大きな傷を抱えて生きて
    来たんだ。

    著者の父と一緒に写真に写っていたのは同じラブ中隊に
    所属したハーマン・ウォルター・マリガン。軍の公式
    記録でも彼の遺骨は行方不明とされている。

    著者は一縷の望みをかけて沖縄の地での遺骨発見に
    期待を寄せたのだが、それは叶わなかった。しかし、
    終焉の地と思われる場所で祈りを捧げることは出来た。

    アメリカが「良い戦争」と呼ぶ戦いは、決して良い戦争
    ではなかった。故国から遠く離れた場所で、父親たちの
    体験したことを追った良書だ。

    安全な場所から命令を出すばかりの偉い人たちには、
    前線の兵士の苦しみは分からない。そうして、日本でも
    アメリカでも貴重な体験を語れる人々が少なくなって
    来ている。

    やはり戦争に良いも悪いもないんだ。

  • ピュリッツァー賞作家の筆者が、父親の戦地での体験やその足跡をたどることを通じ、アメリカからみた第二次世界大戦を描く。
    戦争の悲惨さを再認識し、戦争の記憶を風化させてはならないと強く思った。

  • 戦争に良いも悪いもない。
    アメリカ兵から見た沖縄戦。

    生き残ってもPTSDに苦しむ。
    とてもせつなくなります。

  • 帯文:"父を壊したのは何だったのか?"

    目次:はじめに、第1部 父の戦後、第2部 場所と歴史―グアムと沖縄、第3部 12名の海兵隊員、第4部 亡霊の島―沖縄を訪ねて、あとがき、謝辞、訳者あとがき

  • 沖縄戦を闘った兵士と、日本人のレポート。
    極めて生々しい。大義とかなんも無く、第一線で起こったこと。
    そして、本としては何も起こらない。
    少々くどい。

  • 「アメリカ兵から見た沖縄戦の本」を探して。でもちょっと目的に合わなかった。

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