ビザンツ皇妃列伝: 憧れの都に咲いた花 (白水Uブックス 1109)

著者 :
  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560721094

作品紹介・あらすじ

黄金の満ち溢れるきらびやかな文化、帝位をめぐる血なまぐさい陰謀…。古代ローマ帝国の東西分裂の後、5世紀から15世紀半ばまで、ビザンツ帝国一千年の興亡を、庶民から他国の王女まで8人の皇妃の伝記として描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 皇妃たちへ―ドラマチック・ビザンツ

    キリスト教を戴き東地中海世界に1000年もの長きにわたり君臨したビザンツ帝国。その建国から滅亡までの歴史のうちに華麗に咲いた8人の皇妃たちの物語。

     誰しも一度は目にしたことがあるであろう表紙のモザイク壁画。中央の女性が本書のヒロインの一人ユスティニアヌス一世の妃テオドラです。彼女はもともと熊の見世物を行っていた興行師の娘で、自身も怪しげな劇場でいかがわしいセクシーショーなどの舞台に立つ踊り子だったそうです。皇妃といっても初期のビザンツ帝国では外戚が力を持つことを煩わしく考えたことから家柄や血筋は求められず、場合によってはミス・コンテストなども行われて「昨日の踊り子今日の皇后」もありな国だったことがわかります。同時にひとたび夫・皇帝の失脚や暗殺があれば皇妃といえども一夜にしてただの人というその立場は多分に危ういものでした。

     それを知るだけに一介の踊り子から皇妃まで上りつめたテオドラは肝が据わっています。反乱軍に追い詰められ逃亡しようとする夫に向かい「ちょ~っと待った!!」とその首根っこをつかんで―かどうかはわかりませんが「あんたはそれでも皇帝なの?!せっかく運良く皇妃になれたっていうのに、また一般人に逆戻りなんて冗談じゃないわよっ!」とばかり『帝衣は最高の死装束である』と名演説をぶったそうです。

     その生涯を綴るについて、テオドラのように知名度も資料もそこそこある皇妃がいる一方で、その生涯を知る手がかりがほとんどない皇妃もいます。著者はそうした皇妃たちについても、当時の年代記、歴史書から各地の修道院に残る記録、諸外国によって著された書物から丹念にその断片を集めて、愛と著者いわくビザンツ名物!の陰謀に満ちた彼女たちの生涯を明らかにしてゆきます。

     例えば7人目にラインナップされているエイレーネー・ドゥーカイナがケカリトメネ修道院に残した家族追悼の規定について記した件です。著者は、その名簿の中で「私の舅ヨハネス」「私の母マリア」と皆名前が書かれているのに、夫の母だけは「私の姑」としか記されていないことを指摘し、そこに彼女の姑への複雑な思いを見ています。女として、否、嫁としてこの洞察にはもう恐れ入ったという他はありません。

     積み重ねられた繊細な作業によってここに著された皇妃たちの生涯は十分ドラマチックであり、それはある意味大好きだった少女漫画の世界を懐かしく思い起こさせるものでもありました。あとがきを読みそれがビザンツ帝国のエキスパートである著者ならではの皇妃たちへの愛着と深い共感が生み出した世界であることを知り胸が熱くなりました。

  • 8人の皇妃の生涯とその生きた時代を通して描くビザンツ帝国の歴史。彼女たちは出自も生き方もばらばらである――
    異教徒の出だったり、踊り子だったり、酒場の娘だったり、あるいは外国人だったり――おじの皇妃となってその精神的支柱になった人物、権力の魅力にとりつかれて自分の息子の目をくりぬき自ら即位した人物、稀代の悪女のイメージが根付いてしまった人物、政略結婚ながらやがては夫のやすらぎになった皇妃などなど――
    それは、その時代の象徴とも言える生涯だった。これまでよく見られた皇帝中心のビザンツ史とは違う皇妃を通して見る歴史は新鮮。
    可能な限り史料に基づきつつ、しかし、その史料には大幅に制約があるために、著者の想像を織り込みながら、皇妃たちの生涯を描いていくことになる。その説には無理があろうと思われる部分も見られるけれど、著者の人物に対するまなざしが暖かくて良い。

  • ビザンツ帝国の皇妃の中から8人をピックアップし、史料に基づく形で彼女らの人生を描く一冊。
    各時代を象徴する皇妃たちの生涯を追うことによって、1000年にわたるビザンツ帝国の歴史をも描きだしている。
    取り上げた皇妃の中には、多くの記録が残されていない人物も多いのだが、残されたわずかな史料に誠実にあたり、その人生を浮き彫りにしていこうとするところに魅力を感じた。
    ビザンツ帝国に関しては正直あまり知識がなかったのだが、大変楽しく読めた。ビザンツそのものについて、さらに詳しく知りたいと感じた。

  • 著者は歴史学者。
    わかってる。わかってるけどね、史料批判だけで皇妃の素顔を暴くってのはやっぱ厳しい。でも本人も「この本はただの歴史考証本ではない」って言ってて、限界を承知の上でやってるからそれは許せる。どのページか忘れたけど、急に整合性のない記述が出てきたところがあった。そこだけ残念。

    批判はあるけれど、今気軽に東ローマの歴史が知りたいって時に読める本って正直これくらいしかないと思うから、三点。

  • 本棚から読みかけを探した結果の本。
    コンスタンティノブールいきてぇ。

  • [ 内容 ]
    黄金の満ち溢れるきらびやかな文化、帝位をめぐる血なまぐさい陰謀…。
    古代ローマ帝国の東西分裂の後、5世紀から15世紀半ばまで、ビザンツ帝国一千年の興亡を、庶民から他国の王女まで8人の皇妃の伝記として描き出す。

    [ 目次 ]
    妃たちの生きた世界―ビザンツ帝国へのいざない
    1 アテナイス・エウドキア(四〇一~四六〇年)―ふたつの世界を生きた悲劇のシンデレラ
    2 テオドラ(四九七頃~五四八年)―「パンとサーカス」に咲き残った大輪の花
    3 マルティナ(六〇五?~六四一年以降)―近親相姦の罪に泣いた心優しい姪
    4 エイレーネー(七五二頃~八〇三年)―権力の魔性に溺れた聖なる母
    5 テオファノ(九四一頃~九七六年以降)―戦う男たちを飾る妖しい花
    6 エイレーネー・ドゥーカイナ(一〇六七~一一三三年?)―新しい時代を生きた名門貴族の令嬢
    7 アニェス・アンナ(一一七一/二~一二〇四年以降)―ふたつの祖国を喪ったフランス王女
    8 ヘレネ・パライオロギナ(?~一四五〇年)―謎に包まれた最後の皇帝の母

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著者プロフィール

大阪市立大学名誉教授、元佛教大学歴史学部教授。専門はビザンツ帝国史。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。

「2023年 『さまざまな国家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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