キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集 不機嫌な女たち (エクス・リブリス・クラシックス)

  • 白水社
4.08
  • (7)
  • (12)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 190
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560099100

作品紹介・あらすじ

V・ウルフも嫉妬した短篇の名手の傑作13篇
 初めて夫に欲望を感じた直後に、妻が夫の本心を知る「幸福」。不慣れな外国で家庭教師が出会った親切な老人との楽しい午後はやがて……「小さな家庭教師」。不穏なお迎えが来て老女を怯えさせる「まちがえられた家」。裕福な女が、施しを与えた貧しい女に対し、夫の何気ない一言から嫉妬の炎を燃やす「一杯のお茶」。夫の友人の熱情を弄ぶ人妻を描く「燃え立つ炎」。小さな幸せを、思わぬ言葉で粉々に打ち砕かれる独身女性「ミス・ブリル」。大人社会そっくりの歪んだ人間関係にからめとられた少女たちの「人形の家」……。女たちはいつだって、喜びと哀しみ、期待と落胆、安堵と不安の間を揺れている。
 「外科医のメスの繊細さ」で「些細な出来事によって人生の重大事に迫る」と評される短篇の名手、キャサリン・マンスフィールド。交流のあったヴァージニア・ウルフも「私のライバル」と最大級の賛辞を贈っている。
 本書は日常に潜む皮肉を鋭く抉り出す鮮烈な13篇を厳選した日本オリジナル短篇集。2012年にロンドン大学で新たに発見され、自伝的要素が濃いとされる未発表原稿「ささやかな過去」も収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 先日、白水社さんのツイートで知って、
    発売される日を心待ちにしていた!

    さてさて、大好きなマンスフィールド、
    若くして亡くなっているため、
    おのずと作品数は少ないわけで、
    その為、今回も読んだことあるお話がほとんど。

    でも訳文も読みやすくとても楽しめた。

    難を言えば、題名の「不機嫌な女たち」の
    『不機嫌』がなんだか納得できないと思うのと、
    帯の「いつだってちやほやされたいの」と言う文に
    マンスフィールドの作品が全くそぐわない、と思った。

    確かにでてくる皆さまご機嫌は芳しくはないけれど
    日本語で言う「不機嫌」とはちょっと違う気がするんだよね…。
    不機嫌ってさ、
    「さぁ…(シーン)、…知りませんけど…(ツーン)」
    って感じじゃない?
    やっぱりなんか、違うなあ。

    ちやほや…、うーん、違うなあ。

    今回の感想は、
    私、「船の旅」と言う話が好きだな。

    母親が亡くなって
    祖父母の家にひきとられることになった
    小さな女の子のお話。

    おじいちゃんもおばあちゃんも優しくて、
    おばあちゃんが亡くなったその子のお母さんの事も
    好きだったと言う事を思わせるエピソードが良いな。

    よく小説の世界ではひきとられた先で意地悪にあう、
    と言うのが定番で、もちろん本当にそういう目に合って
    苦しんでいる子もたくさんいるだろうけれど、
    そればっかりじゃないと思うんだよね。

    私は物心ついたときからおじいちゃんはいないから
    おじいちゃんのことはわからないけれど、
    おばあちゃんはどっちのおばあちゃんも
    とても優しくしてくれたし、
    おじさんおばさんもみんな親切だから、
    小説の中のひきとられた先の環境が意地悪、と言う
    「小説の中の常識」に
    傷ついている人たちも
    たくさんおられるのではないかな?
    (もちろん、実際ひきとられたとしたら、
    わかりませんけれど)

    また、外国へ家庭教師に行く若い娘さんのお話、
    「小さな家庭教師」、
    これは本当にこういう事は星の数ほどあるから
    若い娘さんは注意して!

    どんなに「おじいちゃん」でも油断しないで!

    ところで、マンスフィールドと言えば、
    この本には入っていない
    「湾の一日」(新潮文庫版、岩波版では「入り海」)
    が私は最高に大好きなの。

    これは自分が肉体のない魂だった時を
    しっかり思い出せる素晴らしい作品。

    ほんと、幽霊になって
    あちこち訪ねてまわった時の感覚が
    はっきりと甦ってきてとても楽しいから、
    未読の方は是非。

  • 新潮文庫の『マンスフィールド短編集』には彼女の代表作『幸福』が入っていなかったので、こちらを借りてみました。2017年出版の新訳。2012年に発見された未発表原稿『ささやかな過去』も収録。
    
    マンスフィールドは編集者である夫と出会い、才能を開花させるも若くして亡くなったという印象でしたが、巻末の解説によると20代のときに一度結婚。しかし、別の男の子供を妊娠しており、結婚式の翌日に彼のもとへ走る。死産ののち、編集者マリと出会う。結核を患い転地療養をくりあえす間、夫はロンドンにとどまり複数の女性と情事を楽しんでいた。
    
    これらをふまえて読むと『幸福』や『燃え立つ炎』、『一杯のお茶』の夫婦関係の怖さときたら! 自伝的要素の強いといわれる『ささやかな過去』の残酷さ。『不機嫌な女たち』というテーマでセレクトされているだけあって、なかなか辛辣な話が多いです。
    
    新潮文庫の『マンスフィールド短編集』(安藤一郎訳 1957年版)では、「トケイソウの実の入ったアイスクリーム」と訳されている、「The Garden-Party」の「The passion-fruit ices」という言葉もここでは当然のことながら「パッションフルーツのアイスクリーム」となっていました。
    
    学生の頃、授業で使ったテキストをひっぱりだしてきて確認してみましたが、ここでも「トケイソウの実の入ったアイスクリーム」という注釈が。1990年代でもまだ「パッションフルーツ」という言葉は一般的ではなかったのかとちょっとびっくり。
    
    新潮文庫版とはいくつか同じ作品が入っていますが、マンスフィールドの文章はとても訳しにくいのでその違いも含めて楽しめました。
    
    以下、引用。

    あちこちにある、丸い木杭にーそれは巨大な黒い茸の茎のようだったー角燈(ランタン)が下がっていたが、角燈は、その臆病なふるえる光を一面の暗闇にひろげることを、恐れているようだった、まるで自分だけのためのように、静かに燃えていた。
    (新潮文庫 安藤一郎訳)

    あちこちに丸太の杭が並んでいて、なんだか大きな黒い茸の軸みたいなその杭から角燈(ランタン)がぶらさがっていた。角燈は周囲の闇を恐れ、ただ意気地なくおずおずと、光を震わせていた。そして、静かに燃えていた。なんの力も借りずに燃えているようだった。
    (芹澤恵訳)

    典型的な女の部屋だった。花と写真と絹のクッションだらけで、床は敷物で覆われ、ピアノのしたから巨大な虎の皮が、その頭のところだけがー獰猛なくせにどこか眠たげに見える顔だけが、飛び出している。

    子猫とクリームの原則において。あなたはおなかを空かせたかわいい子猫ちゃんで、ヴィクターは給餌係なんだ。あなたの望むものをなんでも与え、胸に抱えてどこへでも連れていく。そいつのちっちゃなピンクの爪が男の心というものを引き裂くことができるなんて、夢にも思っちゃいないんだ。

    わたしは人から褒めてもらいたいの。猫が撫でてもらいたいと思うのと同じことよ。わたしの持って生まれた性分なの。間違った時代に生まれてきちゃったのかもしれないわね。だとしても、あなたが言ったように、わたしは並みの女じゃない。男の人に熱烈に愛されて当然なのよ。ちやほやされて当然だし、本気で愛されて当然だと思うわ。

    些細な出来事が生じて、主人公の心を波立たせる。けれども、その心のさざ波が主人公の意識や人生に与える影響までは記されない。そのため、マンスフィールドの作品は「いかなる種類の完結性もない」と評される。だが、二十世紀前半のアメリカ文学界を代表するピュリツァー賞受賞作家ウィラ・キャザーが指摘したように、マンスフィールドは「些細な出来事によって人生の重大事に近づく」。

    マンスフィールドは作中で、情景を描写していたはずがふと気づくと登場人物の心の声を拾っていることがある。のちの「意識の流れ」と言われるようになる手法なのだとか。その切り替えが実に融通無碍で、読むほどにするすると登場人物の心のうちに入り込んでいく。登場人物の心にうつろうよしなしごとを、うつろうままに描くためか、ときおり脈絡のない事柄が連なる(そこがまたいかにも女の話っぽいのだけれど)。


  • 「幸福」の色彩の愉しみ。そしてチェーホフの人物の様な客達、と敢えて断った上で、もろにチェーホフ的な人物が完全にチェーホフ的タイミングでチェーホフ的セリフを云う、という楽しさ。
    あるいは「人形の家」の貧乏姉妹の絶妙なチェーホフ感。このあたり、好きだなあ。

    でも結構オチがあるのも多く、それらにはむしろ古臭ささえ覚えた。

    一番素晴らしかったのは「船の旅」。最初は誰が死んだのかさえ語られない。本人たちは死者について語らないし触れない。ただ、客室係が語りかける会話の中にそれがあらわれるだけ。にも関わらず2人は旅の間中、ずっと大切に思いを胸に抱きながら過ごす。ずっと死者と一緒に旅をしている。そして見守ってくれてさえいる。
    把手が白鳥の傘が何を象徴しているのか理解できれば、そのフラジャイルな感触の美しさに陶然となることであろう。語らない事でこんなにも語っているのだ!

    好きなのはやはり「ガーデン・パーティー」「人形の家」。
    「ささやかな過去」はこのまま『犬を連れた奥さん』へと突き進むのかと期待したが、しっかりオチがあって肩すかしだった。

  • ウルフのライバルと称された、キャサリン・マンスフィールドの作品を今回初めて手にした。
    こんな作家がいたとは、出会えて幸せだ。

    長編と違い、短編小説は、最後の一行で世界を反転させてみせる。そのぐるりと回る瞬間が短編小説という乗り物に乗る楽しさだ。そして、読者は最後の一刺しに動揺させられる。その動揺が短編小説の風景を一転させる。
    マンスフィールドの「人形の家」の最後は、まさしくその喜びを感じることができた。

    短編小説は、ジュンパ・ラヒリの作品が一番好きだ。
    それは今も変わらないが、夭折の作家のためそう作品は多くないマンスフィールドの作品は全て読み尽くしたいと思う。

  • ひとつひとつが緻密で、人との出会いで劇的に何かが変わるのではなく、少しずつ目覚め始めていくというところが好感を持った

    マンスフィールドの、ニュージーランドの富豪に生まれ、気ままに遊学したあとは、色々人間関係や婚姻関係に悩んだというバックボーンがあるかもしれない

    土地や自然の描写がやけに上手すぎるというか達筆なのも、ニュージーランドで生まれ育った影響か。

  • 4.05/129
    内容(「BOOK」データベースより)
    『初めて夫に欲望を感じた妻が夫の本心を知る「幸福」。不慣れな外国で出会った親切な老人との午後の行方は…「小さな家庭教師」。不穏なお迎えが老女を怯えさせる「まちがえられた家」。裕福な女が夫の一言で、貧しい女に嫉妬の炎を燃やす「一杯のお茶」。夫の友人の熱情を弄ぶ人妻を描く「燃え立つ炎」。小さな幸せを、思わぬ言葉で打ち砕かれる独身女性「ミス・ブリル」。大人社会そっくりの歪んだ人間関係にからめとられた少女たちの「人形の家」など、選りすぐりの十三篇。感情の揺れを繊細にすくいとり、日常に潜む皮肉を鋭く抉り出す、短篇の名手キャサリン・マンスフィールドの日本オリジナル短篇集。新たに発見された未発表原稿「ささやかな過去」収録。』

    目次
    幸福/ガーデン・パーティー/人形の家/ミス・ブリル/見知らぬ人/まちがえられた家/小さな家庭教師/船の旅/若い娘/燃え立つ炎/ささやかな過去/一杯のお茶/蠅

    著者:キャサリン・マンスフィールド (Katherine Mansfield)
    訳者:芹澤 恵
    出版社 ‏: ‎白水社
    単行本 ‏: ‎230ページ

  • 初読。


    それぞれ「宴の後」「満たされぬ思い」等章題が付けられて、
    3編の短編が収められている構成なのだけど、
    親切なような…蛇足のような。

    さて「宴の後」の「幸福」
    ざわざわと不穏で、色香のある予感が、こう来たか。
    この香りの複雑さを読み解けていないもどかしさに後ろ髪ひかれる一編。
    「ガーデン・パーティ」「人形の家」
    階級の幸不幸、人間同士のどうしようもなさ。

  • 文学

  • 良い翻訳。不機嫌な女たちという題はなくてもよかった。

  • キャサリン・マンスフィールドは岩波文庫か何かで読んだが、「不機嫌な女たち」とはいいタイトル。手に取りたくなる。「幸福」など久しぶりに再読したものもあり、たぶん初めて読むものもあるが、背景に鋭い観察眼、情熱、哀しみ、社会や人生のままならなさなどがあることを改めて感じた。これほど熱量が大きい作家と思っていなかったのだ。どちらかというと繊細でガーリーなイメージだった。
    本書の後書きで、作家が恋愛や裏切りなどに翻弄されたドラマチックな人生を送り結核により夭折したことを知る。小説という芸術にふつふつと野心を燃やした若い女性を見たように思う。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1888——1923年、ニュージーランドに生まれる。裕福な家に生まれ、15歳のときにロンドンのクイーンズ・カレッジに留学。一度、ニュージーランドに戻るが、19歳でふたたび渡英。2番目の夫である文芸評論家J・M・マリと出会ったころから作品を発表しはじめ、短篇集 The Garden Party は高く評価された。
1910年に肺結核を発症するが34歳で亡くなるまで少なくない数の短篇を発表した。ヴァージニア・ウルフとはライヴァルのような関係であった。エリザベス・ボウエンなどの文学史上有数の作家から短篇小説の革新者であると見なされ、作品は現在も世界中で読まれている。

「2022年 『郊外のフェアリーテール キャサリン・マンスフィールド短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

キャサリン・マンスフィールドの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×