ピュリツァー賞作家が明かす ノンフィクションの技法

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560097496

作品紹介・あらすじ

執筆にあたっての技術的なノウハウや考え方から米国出版業界の舞台裏に至るまで、当代随一の書き手がノンフィクションの極意を伝授。

感想・レビュー・書評

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  • 第1稿を書き切るまでの苦しみ。えいやと削ったことで思いがけず文章が平明になったことの喜び。言葉を書く人なら、きっと勇気づけられる1冊。

  •  メモを何回も読み返し、手元にある資料についてあれこれ考え抜いても、書き出し(リード)が決まるまでは構成を組み立てられないことが多い。メモの洪水の中をさまよい、行き詰まってしまう。考えがまとまらない。どうしたらいいかわからない。そんなときはすべてにストップをかけることだ。目メモは見ない。心の中を探し回ってふさわしいリードを見つけ、そしてそれを書く。そう、リードを書くのだ。あまり長くない記事の場合、冒頭で一気に飛び込んだら向こう側に浮かび上がり、原稿はあっという間に書き上がっているかもしれない。だが、かなりの内容と複雑さと効果的に配置された構成をもつ記事を書きたいなら、まずは使える無難なリードを書き、いわばそれを手元に置いてゆっくり考え、これからどこに行くのか、どうやって行くかを考えるのも一つの手だ。つまり、リードを書くことで、構成面の問題が明らかになり、記事を全体として見るーー一つひとつの部分を概念的にとらえ、それぞれに資料を割り当てるーーことができるようになる。リードを見つけ、骨組みを見れば、あとは自由に書けばいい。
     リードに関する以上のような考察は、数年前『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の「言葉の技巧」欄で活字のかたちで紹介されたわたしの講義録に基づき、その一部を少し変更・加筆したものである。ここで、あえて提言しよう。生の資料の山を仕分けて骨組みを作る前に、常にリードを書く(そして、それを満足するまで書き直し、磨き上げる)べきである、と。
     それでは、リードとは何か。一つ言えるのは、リードは記事を書くうえでもっとも難しい部分だということである。非常にまずいリードを書くのも、不可能ではない。そのひどい例を、慢性不眠症についてのある記事から紹介しよう。「不眠とはマットレスに対する精神の勝利である」。このリードのどこがいけないのか。ドタバタコメディを書いていて。お粗末なユーモアを利かせたいのならこの一文も結構だ。だが、この題材をまじめに取り上げようとするなら、このリードはまずい。作者は内容に自信がなく、それを気の利いた言い回しで取り繕っているような感じを与えるからだ。
     リードが決まれば、作品はもう半分書き上がったようなものだ、と多くの作家は言う。たしかに、試行錯誤を繰り返しながら優れたリードを見つけるには、それほど多くの時間がかかるのである。どんなことから書き始めてもいい。いくつかの選択肢が浮かぶだろう。さて、そのなかからどれを選ぶか。選んではいけないのはどんなリードかを指摘するのは簡単だ。安っぽく、派手で、大げさで、まるで鳴り響くファンファーレに続いて、ネズミが一匹、目をぱちぱちさせながら穴から出てくるようなリードだ。

     細かな事実のどれを記事に入れ、どれを省くかは、書き手はそもそもの初めから考えなくてはならない。現場でメモを取る記者は、言うまでもなく、実際に目に入ったものの多くを省いている。文を書くことは選択であり、出発点ですでに選択は始まるのである。わたしはメモを取るとき、後で記事に使えるとは思えないことも含め、とにかくたくさん書きとめるが、それでも選択をしている。実際に稿を起こすと、選択の幅はさらに狭まる。これはまったく主観に頼って進める作業で、自分にとって面白いことは使い、そうでないことは省くのである。未熟なやり方からかもしれないが、他の方法をわたしは知らない。大きく言えば、こうした文脈で使われる「面白い」という語には、「訴える力」を意味するいくつかの下位区分がある。そのなかでも重要なのは、自分が選んだ細部が記事全体の背景設定に役立つか、記事が取り上げる人物や場所について、何か暗示できるかどうかであろう。また、細部を語る言葉そのものの響きも、きわめて重要である。言わずもがなだが、安物アクセサリーまがいの語句をやたらに選んだために、全体がぼやけてしまうことがある。また、ノンフィクションの定義からすれば、こうして選ばれて記事になった細部は、すべて書き手本人が観察したものでなければならない。

     ジェニーにはこんな悩みもあった。「わたしの文体っていつも、そのとき読んでいるものと同じか、さもなければ、自己意識の強い、ぎこちない文になってしまう」
    「そりゃ、困ったことだね。もしきみが五十四歳ということなら。だが、二十三歳ならそれが当たり前だし、重要なことでもあるんだ。成長過程にある作家は、いつでもどこでも、優れたものに出会ったら必ず反応するものだ。そしてそれは言うまでもなく、あこがれの作品の骨組みから自分自身のものを引き出す過程で、ある種の模倣をする(これは避けられない)。模倣の部分はすぐに消え去っていくよ。残るのはきみ自身の声による新しい要素だ。これはもう模倣じゃない。こうして、きみの作風ができ上がっていくのだ。一度に少しずつだ。きみは、ぎこちなさや自己意識とは無縁のスタイルをめざしているんだろう? さもなければ、こんな話を持ち出さなかったはずだから、きみが目指すところは正しいよ。だから、挑戦し続けることだ。生まれたときから、落ち着いた、きだらない文を書ける人なんかいない。作家というものはゼウスの耳から完全なかたちで飛び出てくるわけじゃないからね」

  •  古き良きアメリカの出版文化。読み物として非常に興味深い。とくに、カードを作るためのソフトウェアを開発してくれた会社の社長の話とか、ニューヨーカー誌のファクトチェッカー、文法チェッカーのお話とか。編集長のものごしとか。

     自分もノンフィクション書いてみたいけど、体力がないと無理かもしれないなあと思いました。

    『第四稿』(英文ではこれが本全体の題名になっている)の内容は、作品の推敲の仕方を知るうえでとても参考になりました。いま、私は推敲がとても辛くって。楽しくできるようにというか、なるべく苦痛を和らげられるように工夫をしているのですが、やっぱりつらいです。この方は、その作業が楽しいとおっしゃっているので、とてもうらやましく思いました。

  • ●期待していたものと違っていたが、取材や本の構成の話はおもしろいと感じるところがままあった。

  • そんなに参考にできる部分は無かったが、「時制に注意を払う」という手法は、ノンフィクションでも使えるのだなと新鮮に思った。真似できるかはさておき。

  • 技法というよりほぼ自伝、まずコレ自体に技法必要

  • 有用なところもあるが、まとまりがあるとは言い難い。著者のファンで作品をよく読んでいる人でなければ、「技法」を学ぶためにわざわざ読むほどではないと思う。

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著者プロフィール

文筆家。米国では現代ノンフィクションの草分け、名文家として広く知られる。1931年、ニュージャージー州生まれ。プリンストン大学卒業後、『タイム』記者を経て、『ニューヨーカー』のスタッフライターに。以来、長年にわたって同誌に寄稿している。ピュリツァー賞に4回ノミネートされ、1999年に受賞(一般ノンフィクション部門)。2017年には、長きにわたる出版文化への顕著な功績が認められ、イヴァン・サンドロフ賞(全米批評家協会)が授与された。現在も執筆のかたわら、プリンストン大学で教鞭を執る。著書多数。邦訳書:『原爆は誰でも作れる』(小隅黎訳、文化放送開発センター出版部、1975年)『アラスカ原野行』(越智道雄訳、平河出版社、1988年)『森からの使者』(竹内和世訳、東京書籍、1993年)『バークカヌーは生き残った』(中川美和子訳、白水社、1995年)『ボイドン校長物語』(藤倉皓一郎訳、ナカニシヤ出版、2014年)ほか。

「2020年 『ピュリツァー賞作家が明かす ノンフィクションの技法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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