翻訳 訳すことのストラテジー

  • 白水社
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本棚登録 : 201
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560096857

作品紹介・あらすじ

最新の翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)ではなにが論じられているのか? これ1冊でひととおりわかる! やさしい入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 発売された次の月くらいに買ったのだが、読んでは休み、休んでは読みの連続で結果的に読み終えるまでに約1年かかってしまった。

    文学が好きなかたの中には、翻訳文学が好きなかたが結構な割合で存在すると思う。外国語が好きで、上達のきっかけをつかめれば、という目的で翻訳文学を読まれるかたも多いし、仕事や趣味で外国語を日本語に、あるいはその逆に翻訳されるかたも一定の割合でいらっしゃるだろう。どちらも、自分の手元に異なる世界の文化を引き寄せたいとの思いが共通している。

    本書は、ヒット作を連発する文芸翻訳者や、分野で評価のきわめて高い産業翻訳者が書いた、翻訳技術の手引き書やエッセイのような、特定の技術者の持つノウハウや裏話を明かすものではなく、過去から現在まで行われている翻訳そのものについての研究としての「翻訳学」の内容をかいつまんで紹介する、という性格の概説書である。異なる言語の交わり、「翻訳」の定義、ことば、それを表すかたち、翻訳に潜ませることができる力関係など、あらゆる角度から翻訳という行為の像が語られる。なので、本書を手に取るかたは、本書を読んで「翻訳がどんどんわかる、上達する」ことに期待しないのが正解だろう(本書の内容を理解すれば、結果的に翻訳関連のスキルが上がる、という可能性は高いけど)。翻訳といえば、前述のように携わる人間の技術力アップに的を絞った書籍が多くを占める中、そことは別のスタンスで翻訳をのぞかせてもらうことができ、翻訳の質の良しあし、翻訳産業をめぐる優劣(とその周辺)で語られがちな翻訳ではなく、「翻訳のいま」を俯瞰して読めるのが個人的には愉しかった。井上健『文豪の翻訳力 近現代日本の作家翻訳 谷崎潤一郎から村上春樹まで』(今は亡き武田ランダムハウスジャパン、2011)などを読んだ時の感覚に近い。

    原著が英語なので、英語起点の話が多いものの、例も豊富でレイアウトも読みやすい。文体は高校生以上ならOKで、内容は大学入学以降向けだが、進学して翻訳方面の勉強を考えている高校生は知っておいたほうが面白いだろう。しかも本文レイアウトだけではなく、カバーデザインがとても洒落ているのも気に入っている。

    それに、訳者・秋草俊一郎さんによる巻末の「日本の読者むけの読書案内」と「訳者解説」が充実しているので、翻訳文学を愛好する各位、翻訳に実際に携わっている各位は、ここを読み飛ばしてはいけません。

  • 翻訳 translationという言葉の定義から、翻訳の過去と現在そして未来を見通すための入門書。


    鴻巣由季子さんの新書2冊は実際に訳している人目線の指南書だったが、こちらは翻訳の研究者視点の本。同じ言語を使うもの同士でも「翻訳」は日々行なわれているよ、という主旨は共通しているが、そこに翻訳研究の歴史的な裏付けがあり、社会的な役割にも目を向けているのが本書の特徴である。
    特に印象深いのは、ときに翻訳を挟んで対峙する者たちの力関係がことばを通じて浮き彫りになるという指摘。通訳が勝手に忖度したせいで政治的な大失態が起きたという例を筆頭に、後半では拘置された移民が金銭的な理由で適切な通訳者を選べないという問題などが取り上げられ、社会におけるマイノリティを守る翻訳が必要だという視点は大事にしなくてはいけないと思った。
    また、「母国語」や「国民文学」という概念が成立したのは近代であり、愛国主義と結びつきやすいという指摘も。翻訳という作業はそれぞれの言語の差異を強調することであり、「標準語」という概念の強化に加担することがある。「厳密に(言葉の意味を)定義された翻訳」という思想の裏には、"それぞれの言語の定義に曖昧なところがあるべきではない"という前提があるからだ。そこには標準語という人工的で後天的な概念が生まれることになる。
    もちろん、翻訳が世界を広げるというポジティブな面についてもたくさん語られている。翻訳は「オリジナル」を別の言語に移し替えたものではなく、訳者によって生じた新たなテクストであり、それは古典をさまざまに演出して新たに上演する劇場のようなものだ、という例えがわかりやすかった。置き換え不可能な単語をそのまま載せることで概念を輸入したり、こなれていない翻訳文体に詩情を感じたりといったことが、国境を超えて文学を発展させてきた。欧米では、日本での漢文訓読の研究が今ちょっとアツいらしい。マジか。
    訳者はナボコフ研究者で、本書にもナボコフは何度も出てくる。日本語版に追加された「日本の読者向けの読書案内」が大変参考になる!

  • 訳すのは「私」ブログ
    http://yakusunohawatashi.hatenablog.com/

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    「翻訳」という事象の広がりへ
    最新の翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)ではなにが論じられているのか? これ1冊でひととおりわかる! やさしい入門書。
    「バベルの呪い」は呪いなのか?
    最新の翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)ではなにが論じられているのか? 本書では、「グーグル翻訳は原文の等価物か?」「『直訳』『意訳』という二分法は正しいのか?」といった身近な問題から、文学作品が翻訳を通じて新たな力を獲得しうるという「翻訳の詩学」と著者が呼ぶものまで、「翻訳translation」という事象が含む論点の広がりが一望できるようになっている。
    わたしたちが他者とコミュニケーションするにあたって、言語が重要な媒体としてあらわれる以上、「翻訳」を避けて通ることは不可能だ。著者に言わせれば、翻訳とは、言語や文化が接触するところにかならず生じるものであるためだ(それは必ずしも「外国語」や「異文化」に限らない)。翻訳は、言語や文化がはらむ差異の存在をあばきながら、その差異を楽しませてくれる。著者がくりかえし強調する点はここにある。
    マンガの翻訳やアニメのファンサブ、特異な「翻訳」として近年注目を集めている「漢文訓読」など、日本の読者にとって親しみやすい例が挙げられているのも本書の魅力。さらに、訳者による、日本の読者むけの読書案内を巻末に付した。
    https://www.hakusuisha.co.jp/book/b432189.html

  • ●「翻訳」という事象をさまざまな観点から論じた本。「ことばとことばを置き換える」といった単純なものではないのかという印象だった。

  • とても面白かった。
    洋画好き、海外文学好き、演劇(翻訳もの)好きには是非読んでほしい一冊。
    ある言語から他の言語に翻訳するという事は、原文の意図や価値をそのまま変換することではなく、新たな要素を追加したり元々あった要素を削除して別の文章に変化させることである、という事がよくわかる。

    翻訳した事で宗教に殺された翻訳家、
    翻訳のズレで不平等に結ばれた条約が時を超えて修正された例、
    多くの翻訳によって繰り返し変化してきた名作など、
    翻訳という作業の面白さと難しさが様々な角度から語られている。

    つまらないと思っていたあの作品や、めちゃくちゃ面白かったこの作品は、もしかしたら字幕や吹き替えの翻訳の影響が大きかったのかもしれない。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1343794

  • 読んで2ヶ月経ってしまった。内容はほとんど覚えてないけどおもしろかったような記憶はある。日本のマンガは、たとえばUSのコミックとは違ってグラフィックノベルとして捉えられている、という論がおもしろかった(なので海外で翻訳されるときは、よくある左右反転プリントではなく原位置のままだったり、手描き文字は翻訳されずそのまま活かされたり、とオリジナルがより尊重されるようになってきてると)

  • 【書誌情報】
    原題:Translation: A Very Short Introduction
    著者:Matthew Reynolds
    訳者:秋草 俊一郎
    デザイン:三木俊一(文京図案室)
    出版社:白水社
    価格:2,300円+税
    出版年月日:2019/02/27
    ISBN:9784560096857
    版型:4-6変 200ページ
    https://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b432189.html

    【私的メモ】
    ・構成は次の通り。
     転載元はオックスフォード大出版局の(日本向け)サイト〈https://www.oupjapan.co.jp/en/products/detail/16574〉。
    1: The multiplicity of translation
    2: Word for word?
    3: Translation and paraphrase
    4: Translation and power
    5: Words of God
    6: Honest interpretation
    7: Translating performance
    8: Translation and literature
    9: Languages in the world
    Further Reading
    Index


    【目次】
    訳者まえがき

    i 交わる言語
    翻訳ってなんだろう/言語と言語のあいだの中立地帯(ノーマンズランド)/外交翻訳/クラウド翻訳/数えてみましょう

    ii 定義
    翻訳(トランスレーション)を翻訳する/別のことば/翻訳が言語をつくる/あらゆるコミュニケーションは翻訳か?

    iii ことば、コンテキスト、目的
    翻訳はことばの意味を訳すのか?/コンテキストのなかのことば/目的/字幕、戯曲、広告の目的

    iv かたち、アイデンティティ、解釈
    アイコン/コミックスと詩形/アイデンティティ/ひとつの解釈

    v 力、宗教、選択
    解釈の帝国/遅効性翻訳/神のことば/聖なる本/さいなむ検閲/翻訳の重責/有力な選択肢

    vi 世界のことば
    ブック・トレード/公式ルート/グローバル・ニュースのハイウェイ/機械、規則、統計/メモリ、ローカリゼーション、サイボーグ/クラウド翻訳、非正規流通(ブートレッグ・トレイル)、グローカル言語

    vii 翻訳的文学
    国民文学/多言語創作/トランスラテラチャー/翻訳の劇場/ふたつの未来


    2冊目以降はこちら
    日本の読者むけの読書案内
    訳者解説
    引用クレジット
    図版一覧
    索引

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著者プロフィール

オックスフォード大学教授。専門は英文学。著書にPoetry of Translation: From Chaucer & Petrarch to Homer & Logue (『翻訳の詩学――チョーサーとペトラルカからホメロスとローグまで』、2011年)がある。翻訳に関する仕事にDante in English(『英語におけるダンテ』、2005年、共著)、Oxford History of Literary Translation in English Volume 4(『オックスフォード版文芸翻訳の歴史』第4巻、2006年、共著)があるほか、オックスフォード―ワイデンフェルド翻訳賞の議長も務める。

「2019年 『翻訳 訳すことのストラテジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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