三つの空白:太宰治の誕生

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  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560096284

作品紹介・あらすじ

ぐっと太宰が近づいてくる

 2018年6月13日は太宰治没後70年にあたり、2019年6月19日は生誕110年を迎え、東京・井の頭公園には新たな文学館が開設されるという。
 現在もなお多くの人々に読み継がれる太宰治だが、自分の人生を啄むようにして小説を書いてきたこの作家には、作品を執筆しない三回の空白期間があり、その空白はいずれも「死」や「別離」に彩られていた。本書は数ある先行書籍があまり指摘してこなかったこの「空白期」にスポットを当て、そこから新たな作家像を探ろうという意欲的な試みに満ちた1冊である。
 最初の空白は、昭和2年春、旧制弘前高等学校に進学してからの1年ほどで、翌年5月に「無間奈落」を発表するまで一つも創作を発表していない。
 二度目の空白は、昭和5年4月に東京帝国大学仏文科進学後、「学生群」を7月から11月まで連載した後、昭和8年2月に短編「列車」を発表するまでの2年以上の長い期間である。
 第三の空白は昭和10年鎮痛剤中毒に陥って苦闘生活が続き、井伏鱒二の紹介で石原美知子と結婚するまでの時期。この三つ目の空白を経て、結婚を機に生活を建て直し、「富嶽百景」に始まる明るい佳品が生まれる。
 読売新聞名物記者の筆さばきが、ぐっと太宰を読者に近づけていく。

感想・レビュー・書評

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  • 太宰の周辺をここまでよく調べたものだ。
    じつによく太宰をあぶり出している。太宰ファンがこれでまた増えるように思う。
    資料集めは、記者仕事からくるプラス面と忙しさのマイナス綯交ぜだったであろう。
    長年かけたと推測する関連資料がこの大作のキモだ。

  • 高校の教科書(だったはず)で読んだ「富嶽百景」の清々しさにやられて、新潮文庫を読み終わるとまたすぐ近所の本屋で買って読んだ太宰治。1人の作家の作品をこれだけほぼ全部読んだのは、未だに太宰治だけだけど、20歳を超えてとんと読まなくなり、再び読む気も起こらなくなっていた。たまたまブクログで見かけたこの本を、読んでみようと思ったのは、気まぐれだったけど、よかった。太宰治の作品は、キッカケになった「富嶽百景」はもちろん、「女生徒」や「駆け込み訴え」、くすりと笑える短編など、中期のいわゆる安定期の作品が好きだが、そこに至るまでのエピソードや事実関係が、新聞記者らしい緻密な取材で明らかにされて、なるほど、だからこうだったのかとか、これはそういう意味だったのかと、とても納得できて、気づきのある内容だった。奥様である美知子さんや、初代さんの言葉やエピソードなども読めたのも、なんというか少し安心したり、哀しくもなったりしてしまった。また、ゆるゆると短編でも読んでみようかなと思うが、もう老眼か始まって文庫本は無理なので、さて、どうしよう。

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著者プロフィール

1959年、名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。83年、読売新聞社に入社。91年から文化部記者として文芸を主に担当する。書評面デスクを経て、2013年から文化部編集委員。主な著書に、『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』(文春新書、2015年)、『三つの空白 太宰治の誕生』(白水社、2018年)がある。

「2021年 『芥川賞候補傑作選 平成編② 1995-2002』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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