バー「サンボア」の百年

著者 :
  • 白水社
3.20
  • (1)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 41
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095898

作品紹介・あらすじ

受け継がれる伝統のDNA
 1918年に創業した洋酒バー「サンボア(SAMBOA BAR)」。独自の暖簾分け制度により大阪、京都、東京に14店を展開する稀有なバーの100年史を辿る初の1冊。
 サンボアの前身は1918年、神戸・花隈の地に開業した「岡西ミルクホール」。オーナーの岡西繁一が北原白秋の編んだ文芸誌「ザムボア(朱欒)」から名前を拝借し、店名を「ザンボア」に改称、そこからサンボアの歴史が始まった。この命名には、関東大震災に遭い、神戸に居を移していた谷崎潤一郎が一役買ったという説もある。
 その後、岡西の下で修業を積み、店を受け継いだ者たちが大阪、京都にそれぞれのサンボアを出店、独立を果たす。戦時中、家屋疎開に遭ったり、出征時の休業を余儀なくされながらも店は奇跡的に守り抜かれた。
 現在、創業者・岡西繁一から直接暖簾を継いだ3つの家系の3代目と、それぞれのサンボアで修行した者たちの計12名のマスターが「サンボア」を名乗り、14店の「サンボア」を営んでいる。残された貴重な資料と関係者への取材に基づき、それぞれのサンボアの歴史、店を立ち上げ、店を背負ったマスターたちの思い、著者の半生を辿るなかで、京阪神の戦前・戦後史、日本のバー文化史が見えてくる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • せっかく近畿に住んでるんだから、という気持ちで手に取った。流して読んだが結構面白かった。100年の歴史は伊達ではない。
    大学生の頃、寺町通にある京都サンボアの前を通る度に「さすがにここはよう入らへんなー」と思っていた。堂島サンボアの名前は知っていたが場所も知らなかった。東京にもあること、発祥は神戸なことも全然知らなかった。
    大阪出張と同時に読み始めたので大阪にある8店を巡ってみた。毎回ハイボールを飲んでいると、途中でサンボアのハイボールが美味いことに気付いた。今までハイボールは居酒屋で糖質を気にしてビールの代わりに飲んでただけで、美味いとは思ってなかった(居酒屋で飲むビールも本当には美味しくないけれど)。
    友人との待ち合わせにまだ少し暇がある時に、近くにサンボアがあれば最高やな、と思う。

  • 「企業寿命は30年」と言われる。
    業界が凡そ30年単位で縮小や再編され、
    その余波を受け、事業が傾きやすいことに
    起因している。その説に従えば、大正7年に
    創業の洋酒バー「サンボア」は戦争という
    事業存亡の最大の危機をぐぐり抜け、
    戦後の混乱期も乗り越え、大阪・京都・東京
    に14店を展開する、今や日本を代表する
    稀有なオーセンティックバーに至っている。

    本書は、創業の地 神戸・花隈(現 北長狭通)に
    開業したサンボアの前身「岡西ミルクホール」
    のオーナー岡西繁一の足跡をたどるところから
    始まる。大正12年、店名をサンボアに改称。
    北原白秋編集の文芸誌「ザムボア(朱欒)」から
    拝借。この命名には関東大震災に被災し、
    神戸に転居した谷崎潤一郎が一役買ったとか。
    このあたり阪神モダニズムを色濃く感じる
    エピソードである。

    この岡西氏、商売人としては堪え性がないと
    いうか、大阪・京都・三宮…に次々出店するも
    長続きはせず後進に委ねる。
    彼から暖簾を継いだ3つの家系が承継。
    大阪・京都にそれぞれのサンボアを出店、
    以降それぞれの店で修行を積んだ者が
    独立を果たしていく。
    この「暖簾分け」には厳格なルールが存在し、
    サンボアで最低10年の修行の後、
    各サンボアのオーナーを承認を得てはじめて
    独立が許可される。

    著者も同様に、学生時代にバイトとして
    南サンボア洋酒店に入店。ヒルトンプラザ店を
    経て独立、94年北新地店を開業。
    03年には東京銀座店、11年には浅草店を出店、
    現在3店舗を営むオーナーのひとり。

    ドラマ「まっさん」では、竹鶴政孝が
    国産ウイスキー開発に心血注いだように、
    サンボアは、まだ馴染みの薄い洋酒を
    一杯一杯を市井の人々に作り提供をしてきた。
    それはまさしく著者が駆け出しの頃、
    昔を知る常連客から聞いた、
    「バーとゆうもんはやな、板が一枚あって、
    その向こうに酒を並べる棚があってな、
    その間に『人格』があったらええんや」
    の一言に収斂される。

    著者は、その板の向こうの名もなき
    バーテンダーの足跡の濃淡を、
    足かけ8年をかけて編む。

    四散した資料を収集、関係者への丹念な取材を
    通じ、出生年月日不詳の創業者の謎めく生涯、
    サンボア各店の歴史、晴れて満期を迎え独立、
    店を背負ったマスターたちの思い…
    を拾い集めていく。

    この100年史、一軒のバーの100年史に
    とどまらず、洋酒文化の揺籃期から成熟期まで
    の変遷、今や名物の氷なしハイボールの誕生秘話など
    日本のバー文化の成り立ち、
    阪神モダニズムを育んだその風土にまで筆は及ぶ。
    北新地店しか行ったことがない僕にとっては、
    「ハイボールをめぐる残りサンボア13の巡礼」
    が人生折り返し後の愉しいテーマのひとつとなった。

    芳醇なウイスキーがもたらす陶然とした
    読後感に浸れる一冊。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1961年大阪生まれ。関西大学在学中、83年「南サンボア洋酒店」にアルバイトとして入店。大学卒業後、高校の英語科の講師として教壇に立つ傍ら、86年「サンボア・ザ・ヒルトンプラザ」の開業と同時に入店。94年、独立を果たし、「北新地サンボア」を開業。2003年、東京に「銀座サンボア」を開業、2011年には「浅草サンボア」を開業し、現在に至る。

「2017年 『バー「サンボア」の百年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

新谷尚人の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊藤 亜紗
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×