娯楽番組を創った男:丸山鐵雄と〈サラリーマン表現者〉の誕生

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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095164

作品紹介・あらすじ

メディア論の新たな読み!
 戦後を代表する知識人である丸山眞男に兄がいたことはあまり知られていない。その兄鐵雄(てつお)は、長谷川如是閑とともに大正期を代表するジャーナリスト丸山幹治の長男として1910年に生まれ、その後京都帝大経済学部を卒業して日本放送協会に入り、ラジオの黄金時代とテレビの草創期を牽引した敏腕芸能ディレクターだった(1973年に『激動の昭和』で日本レコード大賞特別賞を受賞、1988年没)。
 日本のメディア史を考える上でとりわけ重要なのは、痛快な社会諷刺で占領下人気を博したラジオ番組『日曜娯楽版』と現在まで続く長寿番組『のど自慢』を鐵雄が企画したことである。
 本書は丸山鐵雄の人生とその時代を振り返ることによって、「マスメディアの真の主人公」である〈サラリーマン表現者〉について考える試みである。
 記者やプロデューサー、ディレクターや編集者に代表される〈サラリーマン表現者〉が、学者からタレントまであらゆる表現者を利用しながら、いかに自己の「匿名の思想」を実現してきたかを徹底的に検証する。「彼らの作ったパッケージこそが世の中に甚大な影響を与えている」(本書)のだ。著者渾身の書き下ろし!

感想・レビュー・書評

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  • ・丸山眞男の兄で、NHKの娯楽番組制作者であった丸山鐵雄の伝記。
    ・京都大学から日本放送協会に就職し、放送編成会に配属。全国中継番組を編成する部局。部外委員として内務省警保局図書課長、文部省社会教育局からも参加。組織内で消化しきれない表現欲を新劇と執筆活動に振り向ける。執筆活動は諷刺が多い。本格的に時局に逆らうようなものではなく、官僚や資本家をからかう程度。
    ・大衆の感覚に寄り添う、楽しく面白い番組作りを主張。それゆえ大衆の軍国主義化とともに思想もそちらに傾き、番組制作を通じた戦争協力へと繋がっていく。
    ・京都大学大学文書館がアーカイブとして参照されているのもポイント。

  • 向き合わなくてはならない、良く知らなくてはならないけれど、よくわからない相手。彼らに受け入れられたいくせに、受け入れられなくても「だからあの人たちはわかってない」と負け惜しむ。大衆もしくは消費者(私はユーザーってよく言うけど)とは、仕事をする上でそういう厄介な関係だ。書評が出たとき気にならなかったのに、この本をふと読む気になったのは、先日の「折々のことば」で取り上げられていたこの一節が引っかかったから。
    「大衆が見たがるものを提供しているのは、大衆自身である。」
    ラジオ時代のNHKで、番組制作に携わった丸山鐵雄という人物の評伝。ラジオ放送の黎明期、どんな番組を流すかについて、例えば高尚な芸術を与えることで大衆の芸術感覚の向上を導こうという周囲に対し、丸山は、大衆が好む大衆芸術の優れたものには、外面的な面白さと同時に内面的な面白さがあって、それが大衆の「芸術的感覚」を自然と向上させると考える。私、ここに「そうそう」と頷いてメモまで取ってしまった。そして丸山のその考えは戦後「のど自慢素人音楽会」に結実する。大衆による参加型の、大衆自らが作る、大衆自身が見たがる番組。そこに上から指導しようという要素は入らないが、一方で素直で健全な歌い手が評化される審査基準を設け、番組を聴く大衆はこうして「何が不健全な歌かを自然に学ぶ。」という。あれ?これでいいのか?私は「内面的な面白さ」ってエンタメ小説でありながら読後に深く考えさせる、たとえばそうですね、宮部みゆきの「火車」とか、まだまだもっとあるけれど、そういうものかと思ったんだけど、宮部さんは別にそこで何か我々を導こうとは思ってなかったと思うんだけど、のど自慢の審査基準って、大衆が自発的な風を装いつつ、正しい道に「指導」してないか?
    怖くなった。そうだ、メディアは大衆の参加を呼びかけながら、投稿を選別したり、「主旨を変えない程度に」直したりする。大衆はメディアの顔色をうかがいながら選ばれるよう工夫するようになる。お互いのこと利用してるみたいだ。
    サブタイトル「サラリーマン表現者の誕生」についてはあまりピンとくるところはなかったが、「サラリーマン」の集合体であるメディアが大衆に向き合うとき、ということならわかる気がする。いずれにせよ、私は優れたメディアと大衆との関係論として読んだ。
    あとラジオ黎明期のNHKの話も大変興味深く読んだ。戦争で家族が招集されてラジオの普及率があがったとか、加入もあったが解約も多かったとか、ラジオや聴取料の値段とか、コンテンツの話とか。知らない話だけに非常に興味深い。当時からやっぱり官僚組織なNHK!

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著者プロフィール

政治思想史研究者、立教大学非常勤講師、フリーランス・ライター。
1973年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。NHK勤務を経て、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。元首都大学東京都市教養学部法学系助教。
著書に、『大正大震災――忘却された断層』(白水社、2012年)がある。

「2013年 『軍事と公論 ― 明治元老院の政治思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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